クリスマスを前に、コンピューターゲーム機購入やゲームのストリーミングサービスへの加入を求める子どもが少なからずいるかもしれない。そんなとき、ぜひとも、そうした行為が環境にあたえる負荷について説明し、子どもにも環境問題について関心をもたせてほしい。なお、ゲーム業界については2020年8月に公表した「市場規模2000億ドル超へ ゲームビジネスの今:アップルの収益の根幹を揺さぶる事態も」を参考にしてもらいたい。ストリーミングに伴う温室効果ガス排出
この論考を書くきっかけは、2020年9月、ドイツの連邦環境機関が発表した、デジタルインフラのエネルギーと資源の効率化にかかわる研究プロジェクト「グリーン・クラウド・コンピューティング」の報告書である。ストリーミングのためのクラウドを運営するデータセンターと、それを消費者に届けるために使用される伝送技術によって生成される二酸化炭素の量を計算し、クラウドにあるビデオやゲームなどのストリーミングと呼ばれる配信サービスが温室効果ガスを排出する量について研究した成果だ。
それによると、データセンターを構成するさまざまなコンポーネント(サーバー、ストレージシステム、ネットワーク、インフラ)は配信動画1時間あたり温室効果ガスを排出するのだが、それをCO₂換算すると、1.45グラムになる。この値はストリーミングサービス供給者のデータセンターでの動画ストリーミングに起因するCO₂排出量となる。1時間あたり2ギガバイトで、HD(高精細)品質に対応したものだ。それに、通信ネットワークで生成される温室効果ガス換算のCO₂の総量を光ファイバー、銅線ケーブル、5G、UMTS、LTEの別ごとに示したのが下の図である。
図 通信ネットワークで生成される温室効果ガス換算のCO₂の総量(光ファイバー、銅線ケーブル、UMTS、LTE、5G別)
(出所)https://www.umweltbundesamt.de/sites/default/files/medien/376/publikationen/politische-handlungsempfehlungen-green-cloud-computing_2020_09_07.pdf, p. 5.
ドイツ語で書かれているために、わかりにくいかもしれないが、緑の部分はデータセンターでのCO₂換算排出量を示しており、前述したように1.45グラムだ。問題はネットワークにおける温室効果ガス排出量を示した青い部分ということになる。ネットワークの種類によって大きく異なっているのだ。図の最上位の光ファイバーネットワークはもっとも効率的で、1時間あたりの温室効果ガスの排出量の総計は2グラムにすぎない。
銅線ケーブルによる接続(VDSL)の場合、総計で約4グラムのCO₂が排出される。モバイルアクセスネットワークの伝送では、さらに高いCO₂排出量が出る。現代の5Gネットワークの合計は約5グラム、現在一般的な4Gモバイルネットワーク(LTE)は約13グラム、古い3Gネットワーク(UMTS)は、ビデオストリーミングの1時間あたり90グラムのCO₂換算排出総量になる。
この報告書を契機に、たとえゲーム機を使わずにストリーミングサービスというかたちでゲームを楽しむことに変更しても、通信ネットワークの環境次第では、環境に大きな負荷をかけることを筆者ははじめて知った。ゲームの環境負荷は大
実は、ゲームは環境に大きな負荷をかけてきた。ゲーム機は「コンソール」と呼ばれるチップ、回路基板、ファンなどを1カ所に集めた装置であり、すべてプラスチックに包まれている。ゲーム機内では、スズ、タングステン、タンタル、金などのいわゆる紛争鉱物が使用されている。こうした鉱物の採掘は、アフリカのコンゴ民主共和国のような国で人権侵害、土地の劣化、化学汚染、水質汚染、森林伐採を引き起こしてきたと指摘しなければならない。
こうしたコンソールから希少金属を回収するにはコストがかかるうえ、リサイクルに回すにしても古いゲーム機への需要は極端に減ってしまう。結局、埋められたり、焼却処分されたりすることになり、それが環境に負荷をかけることになる。
こんなゲーム機がどこでつくられてきたかというと、多くが中国で生産されてきた。たとえば任天堂の家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」をほぼ全量を中国の鴻海精密工業などが生産委託先となって生産してきたが、その生産委託先をベトナムに代える方針が2019年7月に示されたと日本経済新聞(2019年7月9日付)が伝えている。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のプレイステーション4(PS4)は、主に中国広東省の深圳や東莞などで大量生産されてきたが、千葉県の木更津工場でも少量が生産されている。2020年11月12日に発売されたPS5も主に中国で生産されるものとみられる。同じく11月10日発売のマイクロソフトの家庭用ゲーム機XboxシリーズS/Xも中国で生産される。つまり、化石燃料や石炭エネルギーを多用する中国の工場で生産されるため、それが地球環境の汚染につながっていることになる。
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ゲーム機の利用で増える電力消費
ゲーム機の利用は電力消費の増加をもたらす。「次世代ゲームは環境の悪夢」という記事(WIRED2020年10月15日付)によれば、PS4とXbox Oneは、ゲーム実行時の消費電力はそれぞれ137ワットと112ワットであった。ディスク版のPS5の最大出力は350ワット、XboxシリーズXの最大出力は315ワットとされる。性能が向上するにつれて、消費電力量も増加していることになる。メーカー側も消費電力を気にかけており、PS5には、新しいオプションとして「低消費電力モード」がつく。XboxシリーズSとXには、積極的に使用していないときには電力を逓減させる新しい低消費電力モード「コネクテッドスタンバイ」が搭載される。
やや古いが、2018年9月末に公表された「グリーン・ゲーミング」という論文では、ゲームがPC、コンソール、ストリーミングのいずれかによって楽しまれることに注目して消費電力量を研究している。厳選した26台のゲームシステムの電力要件を評価することができるグリーンゲームラボを設立して研究にあたった。将来のエネルギー需要予測の基準年である2016年ころの37種類の人気ゲームなどを評価した。
その結果、2018年当時のカリフォルニア州では、ゲームのために 4.1 TWh(10億キロワット時)/年の電力量が消費されており、これは消費者による年間7億ドルの支出に相当し、温室効果ガスの排出量は150万トンのCO₂に相当することがわかった。当時の傾向として、PCよりもゲーム機の方が急速に普及しており、インターネットにかかわる通信ネットワークの電力消費効率の向上がゲーム機の台数の拡大に伴うエネルギー需要の増加を相殺していた。
クラウドストリーミングサービスで環境負荷は減るのか
それでも、ゲームを利用する者が増えれば、必然的に消費電力量は増加する。つぎに問題になるのは、ゲーム機からストリーミングサービスに移行すれば、少しは環境負荷が減るのかという点である。ここでは、2020年10月に公表された「クラウドゲームが気候に大きな問題をもたらす可能性がある理由」と題された記事を参考にこの問題について考えたい。
マイクロソフトは2020年9月、米国を皮切りにProject xCloudというクラウドストリーミングサービスを開始した(日本では、2021年前半にスタート)。Xbox Game Pass Ultimateのサブスクリプションを持つすべてのAndroidユーザーがアクセスできるようにした(サブスクリプションについては、拙稿「「サブスク」が世界を変える:「所有=法律」から「利用=コード」へ」を参照)。グーグルのゲームプラットフォーム「ステイディア」(Stadia)は2019年、ソニーのクラウドゲーミングサービスPlayStation Nowは2014年から米国などから世界中に広がった。
このクラウドからのストリーミングサービスは、エネルギー消費の観点からみると、コンソールのある自宅から遠隔地にあるサーバーへとエネルギー消費を移行させる。その結果、こうしたゲームが、これらのサーバーに電力を供給し、コンテンツを画面に配信するために必要なエネルギーを、すなわち、ゲーム全体のエネルギー使用量を増加させる。つまり、クラウドゲーミングというストリーミングサービスが普及すれば、企業がデータセンターの環境保護に取り組まない限り、ゲームのCO₂排出量も増加する可能性があることになる。
ここで、クラウドサービスに注目すると興味深いことがわかる。クラウドコンピューティングには、データセンターの容量とネットワークの容量が必要になる。グーグル検索の場合、データセンターの容量は多く使用されるが、ネットワークの容量はそれほど多くなくてすむ。検索結果は主にテキストベースであるため、ユーザーに送信されるデータ量は比較的少なくてすむ。これに対して、ユーチューブでは、多くのネットワーク容量が必要で、データセンターの容量は少なくてすむ。それは、動画はすでに準備されており、ユーザーが再生を押すのを待っているだけだからだ。
クラウドストリーミングサービスの場合には、データセンターの容量とネットワークの容量の両方を大量に使用せざるをえない。これは、ゲームはデータを処理してリアルタイムでビデオをレンダリングする(コンピューターのプログラムを用いて画像・映像・音声などを生成する)必要がある上に、利用者がコントローラのボタンを押したときに入力に反応する必要があるためだ。プレイヤーの行動に即座に反応しなければならないゲームのストリーミングは、受動的な視聴者に映画や歌をストリーミングするよりもはるかに困難で、その分、多くのエネルギーがいるのである。利用者ごとにみると、このサービスでは同じような解像度のビデオを見るのと同じように、より多くのデータセンターのエネルギーと、ほぼ同じ量のネットワーク・エネルギーを使用する可能性があるのだ。
クラウドによるゲームサービスは、マイクロソフトだけでなく、前述したように、グーグルも2019年からステイディア/スタディア(Stadia)というクラウドゲームサービスを米国などではじめたし、フェイスブックもFacebook Gamingというかたちでクラウドゲームサービスに参入している。同じく、Amazonは9月に「Luna」サービスを発表した。
アマゾンはプライムサービスの加入者数が1億5000万人に達しており、すでにストリーミングビデオや音楽を提供している。グーグルはゲーム動画が人気のユーチューブを活用可能だ。フェイスブックは、月間20億人以上のユーザー数を誇る既存のプラットフォームをもち、これを利用してゲームを提供できる。つまり、今後、ゲームのストリーミングサービスを利用する人々が増加するのは確実だ。
ゲームをストリーミングサービスで楽しむ人が増えると、環境への負荷が急増することになりかねない。だからこそ、ゲームの愛好が地球の気候変動をより激化させ、子どもの将来に悪夢をもたらすかもしれないという「可能性」をしっかりと教えてほしい。何しろ自分たちの未来がかかっているのだから。
そして、最後にゲーム機だけでなく、コンピューターやスマートフォンなどの「デジタル製品」がもたらす環境への影響についても子どもと話をしてほしい。いわゆる「電子ごみ」については、近くこのサイトにアップロードする予定なので、それも参考にしていただきたい。
朝日新聞 WEBRONZA 2020年11月20日 記事引用