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白内障手術を受けた糖尿病の高齢女性 「目にいいから」とパイナップルを食べ続けていたら…金子至寿佳・日本赤十字社 和歌山医療センター 糖尿病・内分泌内科部長
2024年2月24日
診察室では、突然、健康状態を悪くした患者さんにたびたび遭遇し、びっくりすることがあります。ご本人は体に良かれと思って食べていた物が、実はまったく「逆効果」の時があるからです。最近、病院にやってきたAさんも、そんな患者さんの一人でした。血糖の状態をはかる検査値がいきなり倍近くに跳ね上がっていて……。今回は、患者さんが意外と誤解している「体にいい食べ物」の正しい見方、取り方についてお伝えします。
血糖値の突然の悪化
2型糖尿病の70代のAさんは今月に入り、診断指標の一つ、ヘモグロビンA1cの値が11.9%と、2カ月前の値(6.5%前後)と比べて倍近くに跳ね上がりました。ヘモグロビンA1cは、過去1、2カ月の平均的な血糖の状態を表しています。Aさんは心臓の大きな手術をしていて、傷口をきれいに治すには血糖値をコントロールする必要があったのですが、少しうみがたまっていました。
私:何か特別なことでもあったのではないですか?
Aさん:正月はおもちも食べませんでした。もちろん、甘い物は口にしていません。
理由もなく血糖値が上がる場合、内臓に隠れた病気がある可能性があります。
私:体重が急に減ったということはありませんか?
Aさん:それはないです。
おせちはどうしても煮物が多くなって、砂糖も多くなります。昨年12月の記事「おもちを食べて年明け入院? おせちやおすし…ついつい食べたくなる正月料理だが、気をつけたいその中身」を参考にしてください。
私:おせちやお雑煮を食べて、ずっとゴロ寝をしていませんでしたか?
Aさん:いえ。いつも通り、正月でも運動をしていました。
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パイナップルを食べ続ける女性、そのワケ
一体何が原因なのか、いろいろと考えを巡らせていると、Aさんはこんなことを言い出したのです。
Aさん:そういえば白内障の手術を受けました。「パイナップルは目に良い」とテレビでやっていたので、毎日食べ続けています。
私:パイナップルには果糖が含まれていて、甘いですよね。どうして食べたのですか?
Aさん:いや~、果糖が含まれているから血糖値が上がるなんて考えも及びませんでした。ただ、目に良いからと聞いたので……。
Aさんによると、パイナップルにはたんぱく質を分解する酵素が入っていて、パイナップルを食べると網膜にたまるたんぱく質を分解して視力が落ちるのを防いでくれると聞いたのだそうです。
まず、そもそも白内障は、レンズの役割をする水晶体の問題です。
Aさんのいうパイナップルの研究ですが、これは「飛蚊(ひぶん)症」の改善に効果があるかもしれないというものです。飛蚊症の原因は、硝子体の成分であるコラーゲンが変性して束になったものです。白内障とは同じ目の病気であっても、疾患の場所が違うのです。まずは、自分の病気がなんなのかきちんと理解しておくことが大切です。そして、飲んでいる薬が何かも知っておきましょう。
自分が「体に良いから」と摂取する成分以外に、体に影響を及ぼす成分がどのくらい含まれているのか、きちんと調べておくと良いです。糖尿病の患者さんなら、砂糖や果糖、ブドウ糖がどのくらい含まれているのか。例えば、Aさんが食べたパイナップルは不溶性の食物繊維が多く含まれていますが、血糖の上昇を緩やかにしてくれる働きのある水溶性の食物繊維はありません。さらに、果糖の割合は低いですが、血糖の上昇が早いショ糖の割合が高いという特徴があります。
納豆の取り過ぎも要注意
ダイエットに関しても、いろんな食べ物が数年おきに話題となります。
何年か前には、リンゴダイエットなるものがはやりました。テレビで報道されると、リンゴしか食べない、という女性が増えました。しかし、当然のことながら栄養が偏ると指摘され、そのうち流行も廃れ、今では細々とインターネットのサイトで取り上げられる程度です。
納豆ダイエットも同じです。以前、あるテレビ番組が、納豆を食べるとダイエット効果があると放送し、それを信用した視聴者が納豆を買いに走ったため、スーパーで納豆が品薄状態に陥ったことがありました。しかしその後、ダイエット効果を示したはずの実験データやアメリカの大学教授のコメントがテレビ局により捏造(ねつぞう)されていたことが判明し、番組そのものが休止に追い込まれました。一連の問題に関する記事について、科学誌「ネイチャー」が2007年に「日本のテレビ番組が科学捏造を認める」とのタイトルで報じたほどです。
しかし、少しでも健康リテラシーが備わっていたら、簡単にはだまされなかったのではないでしょうか。
まず、納豆の栄養成分表を確認してみてください。納豆100g当たりのエネルギーは184kcal、たんぱく質は16.5g、脂質は10g、炭水化物は12.1g――です。納豆1パックはだいたい50gなので、納豆100gは2パック分に相当します。おにぎり1個はおよそ100gでエネルギーは約180kcalなので、納豆2パックはおにぎり1個食べたくらいになります。よって、納豆でも食べ過ぎれば、摂取するエネルギーも増えるのです。
厚生労働省が推進している「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」によると、大豆を含む豆類は1日100g摂取することが目標とされています。納豆1パックは50gなので、せいぜい2パックまで。朝昼晩と毎食1パック、1日3パックはちょっと取り過ぎではないでしょうか。
マスコミの報道などで、「○○は健康にいい」「△△は効果がある」などとあると、すぐに飛びついてしまう人も少なくないでしょう。
以前、不整脈があるために血液をサラサラにする薬を飲んでいた患者さんがいました。私や薬剤師から「納豆は薬の効果が弱るので食べないでくださいね」と説明を受けていたはずなのですが、テレビで納豆が体に良いと報じられるや否や、主治医の説明よりも、テレビが報じていることの方が重要になってしまったのです。そして診察時に、自分は医師よりも知識を持っていると言わんばかりに、「先生! 先日、テレビで納豆が体にいいと取り上げていましたよ」などというので、本当に驚かせられました。
健康リテラシーを身につけよう
20年ほど前にも、テレビが紹介した調理法で白インゲン豆を食べたところ、158人が吐き気や下痢などの健康被害にあい、うち30人が入院するという騒動が起きました。加熱が不十分だったのが原因と考えられています。白インゲン豆にはでんぷんの分解を邪魔する成分が含まれ、腸からの吸収が抑えられるため、ダイエット効果が期待できる一方、「レクチン」という腸に炎症を起こす毒性のある物質も含まれていて、失活させるためには十分な加熱が必要だったのです。
いかがでしたでしょうか。健康リテラシーをきちんと身につけていたのなら、マスコミから流れる健康情報に振り回されることも減るのではないでしょうか。まずは、自分の病気を知ること。そして、良かれと思って食べようとしている食べ物の栄養素を調べ、本当に自分にとって体にいいものなのかどうか調べ、判断する力を身につけていただけたらと思います。
写真はゲッティ
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かねこ・しずか 三重県出身。医学博士。糖尿病医療に長く携わる。日本糖尿病学会がまとめた「第4次 対糖尿病5カ年計画」の作成委員も務めた。日本内科学会認定医及び内科専門医・指導医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医・指導医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・指導医、日本老年病学会認定老年病専門医・指導医。インスリンやインクレチン治療薬研究に関する論文を多数執筆。2010年ごろから、糖尿病診療のかたわら子どもへの健康教育の充実を目指す活動を始め、2015年からは小中学校で出前授業や大人向けの健康講座を展開している。