国連創設75周年で世界に実施が呼びかけられた対話集会
国際連合が創設75周年を迎えた今年、9月に開かれた国連総会の一般討論のテーマは、「私たちが望む未来、私たちが必要とする国連:マルチラテラリズムに対する私たちの集団的なコミットメントの再確認-実効的な多国間行動を通じてCOVID-19に立ち向かう」でした。マルチラテラリズムは多角的・多面的ということですから、新型コロナウイルスの状況下において、さまざまな側面から国際的に協力しながら問題解決しようという意志確認が目的であると理解できます。これは諸問題に統合的に対応していこうとするSDGs(持続可能な開発目標)の精神を表していると捉えられます。
一方、国連75周年の記念イベントとして、「対話集会(UN75 dialogues)」の実施が世界中に呼びかけられました。これは地域、学校、組織などが、それぞれの希望、そして不安をも共有して、現在と将来のリスクや打開策を話し合う場を、自ら企画・運営・実施し、その結果を国連に報告するというものです。筆者が代表理事を務める一般社団法人インクルーシブ・アクション・フォー・オール(IAFA)がこの対話集会を高校生対象にオンラインで開きました。参加人数は16人と限られていましたが、中身の濃い議論ができ、未来に希望を感じることができたのでご紹介したいと思います。
インクルーシブ・アクション・フォー・オール(IAFA)とは
IAFAは、2020年2月に設立され、アーティスト、研究者、会社員、主婦、弁護士、医師など多様な仲間が参加しています。母体は、英語の絵本を寄付して頂き世界のニーズある子ども達に送るプロジェクトですが、海外の社会問題に取り組んでいる若者を「IAFAフェロー」に任命して応援したり、日本の若い人たちに世界の問題を身近に感じて将来に役立ててもらう活動をしたりしています。
IAFA海外フェローは、現在4名います。ケニアのスラム地区キベラで障がいのある子もない子も共に学ぶ場を作り、障がい児の母親や女性のエンパワメントにも取り組むマリア、バングラデシュのコックスバザールのロヒンギャ難民キャンプで難民支援をしているタジン、パキスタンのカラチで障がい者の経済的自立のためにITの会社を起業したアディール、ニューヨークで黒人特有の遺伝病である鎌形赤血球症の子どもたちの学習支援をしているミドリです。
左から、マリア、タジン、アディール、ミドリ=インクルーシブ・アクション・フォー・オールのホームページから
「UN75グローバル・カンバセーション」は、IAFAの活動の一環として、8月にオンラインで開いた高校生を対象とした3回シリーズの日本語による対話イベントです。コロナ禍だからこそ、平和、平等、環境等について、話し合いのプラットフォームを創っていこうと思ったのです。
日本、アメリカ、イギリスから集まった16人の高校生
参加者を一般公募した結果、日本、アメリカ、イギリスの高校に通う16人の高校生が集まり、2020年8月1日に第1回を開催しました。当日は、ケニア、バングラデシュ、パキスタンでのフェローたちの活動を映像化して字幕を付けて高校生たちに見てもらい、問題解決のためにどのように取り組んでいけるかとクリティカルに考えてもらう場づくりをしました。
2回目は1週間後に設定し、前回の問題を発展させて「自身の身近にある問題について考える」ことをテーマに話し合いました。3人の海外フェローのビデオメッセージを念頭に、貧困、教育、ジェンダー、環境とそれぞれの興味ある分野をグループで話し合いました。特にコロナ禍では、もちろん日本人も苦しいのですが、海外での格差、貧困、難民問題はなかなか顧みられない状況になってしまいます。高校生たちは、普通に過ごしていたら光の当たらない世界の問題にもしっかり目を向けて、そこから自分なりの課題を抽出していきました。
翌週の3回目は、それぞれが高校生としてできるアクションプランを、キーワードと共に3分間でスピーチしました。言語に落とし込むことで、高校生たちにとって、アクションプランは現実のものとなっていきます。高校生が見つけたキーワードは
3回目のグローバル・カンバセーションを終えて見えてきたキーワードは、「知る」、「波紋」、「改善」でした。
中鶴裕菜さん
例えば「知る」と答えた中鶴裕菜さん(県立熊本高校2年生、熊本県)は、日本も含めて世界で貧困や虐待など生きることが非常に困難な状況が広がっている中で、「若い世代の一人一人が意欲を持って学ぶ、問題について知る、触れる機会を多く持つことがとても大切」といい、「当事者だけではなく、その事実を知らなかった人たちが初めて触れることで、得られる学びが多くあり、結果的に問題解決に一歩近づくことができると思います」としたうえで、「高校生として、積極的に、自らの進路の幅を広げて、社会に貢献できる人になれるよう、頑張ります」とスピーチを結んでくれました。
細田茜さん
また、「波紋」と答えた細田茜さん(渋谷教育学園渋谷高校2年生、東京都)は、この言葉を選んだ理由として「あらゆる社会問題についての知識の輪を波紋のように、少しずつ広める」と「身近にできる小さなところから行動を起こし、波紋のようにより大きなものにすること」を挙げました。例えばジェンダー問題だったらBLM(Black Lives Matter)などの活動を通して自分や周りの意識や偏見を振り返ってみたり、環境問題だったらより環境に優しい生活のための工夫を取り入れたりすることができるというのです。スピーチは、「問題解消への推進力になるように、こうした身近で小さなところから意識的に知識や行動の輪を広げていこうと思いました」とまとめられていました。
松岡かれんさん
そして「改善」と答えた松岡かれんさん(ニュートンノース高校、マサチューセッツ州)は、アメリカでは ” There is room for improvement ” という「改善の余地がある」という意味のことわざがあるといいます。この世界にはいつも改善しなければならない問題があるので、「私たちができる範囲で問題を解決していきたい。インターネットで調べれば情報があふれているので現状について多面的に掘り下げて、その問題意識を社会に広め、社会の一員として少しでも貢献していきたいです」と、力強く述べてくれました。
チャンス、コネクション、チャレンジの3Cが大事
3回にわたる高校生の対話の中では、将来の望ましい社会についても語られました。例えば、それぞれの人には個性があって得意なことや不得意なことがありますが、そうしたことをすべて認めて誰もが自分であることを尊重されることが挙げられました。また、住んでいる地域や教育や人種・民族によって格差がありますが、すべての人が平等な機会を与えられる仕組みを作る必要性にも言及されました。そして、どうしたら国内を含めた世界中の人が質の高い生活を送れるようになるかを考えた時、困っている人や問題を抱えている人の苦悩を知り共感することが大事だということも語られました。
これらは、多様性を認める社会、平等で格差のない社会、他者を思いやれるエンパシーのある社会とまとめられるかと思いますが、これは持続可能な社会のあるべき姿の青写真になるでしょう。
また、このようなコロナ禍でも、何かアクションを起こすために、3C(チャンス、コネクション、チャレンジ)が非常に大事だということも皆で共有しました。それは、知らない人や知らない情報と出会うチャンス、人と人とがつながること(コネクション)、そして、課題解決のためにチャレンジすることです。
このような対話の成果は、ウェブのフォームを通して国連事務総長に伝えられました。今回の経験は、かれらが進路を選択したり、次の行動につなげたりするための準備ともなるはずです。実際に高校生たちは、ロヒンギャの問題、スラムでの問題、障がい者への差別や偏見について、身近な人に伝えたり、SNSで発信したりして行動を起こしています。
高校生たちのまっすぐな視線の先には、SDGsのその先の、人類が挑戦し続ける課題が解決された世界が見えてくるような気がしました。
朝日新聞 WEBRONZA 2020年10月21日 記事引用