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第 1帙
左京の息長真人より起(はじま)り、摂津国の為奈真人に尽(をは)る。四十四氏なり。
〈左京皇別〉
息長真人(おきながのまひと)。
誉田天皇(ほむたのすめらみこと)[諡は応神]の皇子、稚渟毛二俣王(わかぬけふたまたのみこ)の後より出づ。
山道真人(やまぢのまひと)。
息長真人と同じき祖、稚渟毛二俣親王の後なり。日本紀に合へり。
坂田酒人真人(さかたのさかびとのまひと)。
息長真人と同じき祖。
八多真人(はたのまひと)。
諡は応神の皇子、稚野毛二俣王の後より出づ。日本紀に合へり。
三国真人(みくにのまひと)。
諡は継体の皇子、椀子王(まろこのみこ)の後なり。日本紀に依りて附く。
路真人(みちのまひと)。
諡は敏達の皇子、難波王(なにはのみこ)より出づ。日本紀に合へり。
守山真人(もりやまのまひと)。
路真人と同じき祖。難波親王(なにはのみこ)の後なり。日本紀に合へり。
甘奈備真人(かむなびのまひと)。
路真人と同じき祖。続日本紀に合へり。
飛多真人(ひたのまひと)。
路真人と同じき祖。
英多真人(あがたのまひと)。
路真人と同じき祖。
大宅真人(おほやけのまひと)。
路真人と同じき祖。続日本紀に依りて刊定す。
大原真人(おほはらのまひと)。
諡は敏達の孫、百済王(くだらのみこ)より出づ。続日本紀に合へり。
島根真人(しまねのまひと)。
大原真人と同じき祖。百済親王(くだらのみこ)の後なり。
豊国真人(とよくにのまひと)。
大原真人と同じき祖。続日本紀に合へり。
山於真人(やまのへのまひと)。
大原真人と同じき祖。
吉野真人(よしののまひと)。
大原真人と同じき祖。
桑田真人(くはたのまひと)。
大原真人と同じき祖。
池上真人(いけのへのまひと)。
大原真人と同じき祖。
海上真人(うなかみのまひと)。
大原真人と同じき祖。続日本紀に依りて附く。
清原真人(きよはらのまひと)。
桑田真人と同じき祖。百済親王の後なり。
香山真人(かぐやまのまひと)。
諡は敏達の皇子、春日王(かすがのみこ)より出づ。
登美真人(とみのまひと)。
諡は用明の皇子、来目王(くめのみこ)より出づ。続日本紀に合へり。
蜷淵真人(みなふちのまひと)。
諡は用明の皇子、殖栗王(ゑぐりのみこ)より出づ。
三島真人(みしまのまひと)。
諡は舒明の皇子、賀陽王(かやのみこ)より出づ。続日本紀に合へり。
淡海真人(あふみのまひと)。
諡は天智の皇子、大友王(おほとものみこ)より出づ。続日本紀に合へり。
三園真人(みそののまひと)。
諡は天武の皇子、浄広壱磯城親王(しきのみこ)の後より出づ。
笠原真人(かさはらのまひと)。
三園真人と同じき祖。磯城親王の後なり。
高階真人(たかしなのまひと)。
諡は天武の皇子、浄広壱太政大臣高市王(たけちのみこ)より出づ。続日本紀に合へり。
氷上真人(ひかみのまひと)。
諡は天武の皇子、一品大惣官新田部王(にひたべのみこ)より出づ。続日本紀に合へり。
岡真人(をかのまひと)。
諡は天武の皇子、一品贈太政大臣舎人王(とねりのみこ)より出づ。続日本紀に合へり。
〈右京皇別〉
山道真人(やまじのまひと)。
息長真人と同じき祖。稚渟毛二俣親王の後なり。
息長丹生真人(おきながのにふのまひと)。
息長真人と同じき祖。
三国真人(みくにのまひと)。
諡は継体の皇子、椀子王(まろこのみこ)の後なり。日本紀に合へり。
坂田真人(さかたのまひと)。
諡は継体の皇子、仲王(なかのみこ)の後より出づ。日本紀に合へり。
多治真人(たぢのまひと)。
宣化天皇の皇子、賀美恵波王(かみゑはのみこ)の後なり。
為名真人(ゐなのまひと)。
宣化天皇の皇子、火焔王(ほのほのみこ)の後なり。日本紀に合へり。
春日真人(かすがのまひと)。
敏達天皇の皇子、春日王の後なり。
高額真人(たかぬかのまひと)。
春日真人と同じき祖。春日親王の後なり。
当麻真人(たぎまのまひと)。
用明の皇子、麿古王(まろこのみこ)の後なり。日本紀に合へり。
文室真人(ふみやのまひと)。
天武の皇子、二品長王(ながのみこ)の後なり。日本紀に合へり。
文室真人(ふみやのまひと)。
天武の皇子、二品長王(ながのみこ)の後なり。続日本紀に合へり。
豊野真人(とよののまひと)。
天武天皇の皇子、浄広壱高市王の後なり。続日本紀に合へり。
〈山城国皇別〉
三国真人(みくにのまひと)。
継体の皇子、椀子王の後なり。日本紀に合へり。
〈大和国皇別〉
酒人真人(さかひとのまひと)。
継体の皇子、兎王(うさぎのみこ)の後なり。日本紀に合へり。
〈摂津国皇別〉
為奈真人(ゐなのまひと)。
宣化の皇子、火焔王の後なり。日本紀に合へり。
左京皇別上
源朝臣に起(はじま)り、新田部宿禰に尽(をは)る。四十二氏なり。
源朝臣(みなもとのあそみ)。
源朝臣信(まこと)。年は六。[腹は広井(ひろゐ)氏。]
弟源朝臣弘(ひろし)。年は四。[腹は上毛野(かみつけの)氏。]
弟源朝臣常(ときは)。年は四。弟源朝臣明(あきら)。年は二。[上の二人、腹は飯高(いひだか)氏。]
妹源朝臣貞姫(さだひめ)。年は六。[腹は布勢(ふせ)氏。]
妹源朝臣潔姫(きよひめ)。年は六。妹源朝臣全姫(またひめ)。年は四。[上の二人、腹は当麻(たぎま)氏。]
妹源朝臣善姫(よしひめ)。年は二。[腹は百済(くだら)氏]
信ら八人は、是れ今上の親王なり。
しかして弘仁五年五月八日の勅により姓を賜ひ、左京一条一坊に貫す。すなわち信(まこと)を以て戸主となす。
良岑朝臣(よしみねあそみ)。
従四位下良岑朝臣安世(やすよ)。是は、皇統弥照天皇(あまつひつぎいやてらすのすめらみこと)[諡は桓武]の御宇(みよ)のとき、従七位下百済宿禰之継(くだらのすくねながつぐ)、女嬬(めのわらは)となりて供へ奉りて生めるなり。
延暦二十一年十二月二十七日、特に姓(うじ)良岑朝臣を賜ひ、右京に貫せしむ。
長岡朝臣(ながをかのあそみ)。
正六位上長岡朝臣岡成(をかなり)。是は皇統弥照天皇[諡は桓武]の東宮におはししとき、多治比真人豊継(たぢひのまひととよつぐ)、女嬬となりて供へ奉りて生めるなり。
延暦六年、特に姓長岡朝臣を賜ひて、右京に貫せしむ。続日本紀に合へり。
広根朝臣(ひろねのあそみ)。
正六位上広根朝臣諸勝(もろかつ)。是は光仁天皇竜潜のとき、女嬬従五位下県犬養宿禰勇耳(あがたのいぬかひのすくねいさみみ)、侍へはべりて生めるなり。
桓武天皇の延暦六年、特に広根朝臣を賜ふ。続日本紀に合へり。
春原朝臣(はるはらのあそみ)。
天智天皇の皇子浄広壱河島王(かはしまのみこ)の後なり。
三原朝臣(みはらのあそみ)。
天武天皇の皇子一品新田部王(にひたべのみこ)の後なり。
永原朝臣(ながはらのあそみ)。
天武天皇の皇子浄広壱高市王(たけちのみこ)の後なり。続日本紀に合へり。
橘朝臣(たちばなのあそみ)。
甘南備真人(かむなびのまひと)と同じき祖。敏達天皇の皇子難波皇子(なにはのみこ)の男、贈従二位栗隈王(くるくまのみこ)の男、治部卿従四位下美努王(みののみこ)。美努王は従四位下県犬養宿禰東人(あがたのいぬかひのすくねあづまひと)の女、贈正一位県犬養橘宿禰三千代大夫人(あがたのいぬかひたちばなのすくねみちよおほとじ)に娶(みあ)ひて、左大臣諸兄(もろえ)、中宮大夫佐為宿禰(さゐのすくね)、贈従二位牟漏女王(むろのおほきみ)を生めり。女王は贈太政大臣藤原房前(ふぢはらのふささき)に適(ゆ)きて、太政大臣永手(ながて)、大納言真楯(またて)らを生めり。
和銅元年十一月己卯に大嘗会あり。二十五日癸未の曲宴に橘宿禰の姓を大夫人に賜ふ。天平八年十二月甲子、参議従三位行左大弁葛城王(かつらぎのみこ)に詔して、橘宿禰諸兄と賜ふ。
淡海朝臣(あふみのあそみ)。
春原朝臣と同じき祖。河島親王(かはしましんわう)の後なり。
阿倍朝臣(あへのあそみ)。
孝元天皇の皇子大彦命(おほひこのみこと)の後なり。日本紀、続日本紀に合へり。
布勢朝臣(ふせのあそみ)。
阿倍朝臣と同じき祖。日本紀に漏れたり。
完人朝臣(ししひとのあそみ)。
阿倍朝臣と同じき祖。大彦命の男、彦背立大稲腰命(ひこせたつおほいなこしのみこと)の後なり。日本紀に合へり。
高橋朝臣(たかはしのあそみ)。
阿倍朝臣と同じき祖。大稲輿命(おほいなこしのみこと)の後なり。景行天皇、東国に巡狩(かり)せしとき、大蛤(おほうむぎ)を供へ献る。時に天皇、その奇美(うまさ)を喜びたまひて、姓を膳臣(かしはでのおみ)と賜ふ。天渟中原瀛真人天皇(あまのぬなはらおきのまひとのすめらみこと)[諡は天武]十二年に、膳臣を改め高橋朝臣を賜ふ。
許曾倍朝臣(こそへのあそみ)。
阿倍朝臣と同じき祖。大彦命の後なり。日本紀に漏れたり。
阿閉臣(あへのおみ)。
阿倍朝臣と同じき祖。
竹田臣(たけたのおみ)。
阿倍朝臣と同じき祖。大彦命の男、武渟川別命(たけぬなかはわけのみこと)の後なり。
名張臣(なはりのおみ)。
阿倍朝臣と同じき祖。大彦命の後なり。
佐々貴山公(ささきのやまのきみ)。
阿倍朝臣と同じき祖。
膳大伴部(かしはでのおほともべ)。
阿倍朝臣と同じき祖。大彦命の孫、磐鹿六雁命(いはかむつかりのみこと)の後なり。景行天皇、東国に巡狩(かり)せしとき、上総国に至り、海路より淡水門(あはのみなと)を渡り、海中に出でまして白蛤(うむき)を得たまふ。ここに磐鹿六雁、膾(なます)につくりて進る。かれ、六雁をほめて、膳大伴部を賜ふ。
阿倍志斐連(あへのしひのむらじ)。
大彦命の八世孫、稚子臣(わくこのおみ)の後なり。孫自臣(ひこじのおみ)の八世孫、名代(なしろ)、諡は天武の御世に、楊(やなぎ)の花を献る。勅して何の花ぞと曰ふ。名代奏して、辛夷(こぶし)の花なりと曰す。群臣奏して、是は楊の花なりと曰すに、名代、なほ強ひて辛夷の花なりと奏す。よりて阿倍志斐連の姓を賜ふ。日本紀に漏れたり。
石川朝臣(いしかはあそみ)。
孝元天皇の皇子、彦太忍信命(ひこふつおしのまことのみこと)の後なり。日本紀に合へり。
田口朝臣(たぐちのあそみ)。
石川朝臣と同じき祖。武内宿禰(たけしうちのすくね)の後なり。蝙蝠臣(かはほりのおみ)。豊御食炊屋姫天皇(とよみけかしきやひめのすめらみこと)[諡は推古]の御世に、大和国高市郡田口村に家す。よりて田口臣と号く。日本紀に漏れたり。
桜井朝臣(さくらゐのあそみ)。
石川朝臣と同じき祖。蘇我石川宿禰(そがのいしかはのすくね)の四世孫、稲目宿禰大臣(いなめのすくねのおほおみ)の後なり。日本紀に合へり。
紀朝臣(きのあそみ)。
石川朝臣と同じき祖。建内宿禰(たけしうちのすくね)の男、紀角宿禰(きのつののすくね)の後なり。
角朝臣(つののあそみ)。
紀朝臣と同じき祖。紀角宿禰の後なり。日本紀に合へり。
坂本朝臣(さかもとのあそみ)。
紀朝臣と同じき祖。紀角宿禰の男、白城宿禰(しらきのすくね)の後なり。
林朝臣(はやしのあそみ)。
石川朝臣と同じき祖。武内宿禰の後なり。日本紀に合へり。
道守朝臣(ちもりのあそみ)。
波多朝臣(はたのあそみ)と同じき祖。波多矢代宿禰(はたのやしろのすくね)の後なり。日本紀に合へり。
雀部朝臣(ささきべのあそみ)。
巨勢朝臣(こせのあそみ)と同じき祖。建内宿禰の後なり。
星河建彦宿禰(ほしかはのたけひこのすくね)、諡は応神の御世、皇太子大鷦鷯尊(おほささきのみこと)に代りて、木綿襷(ゆふたすき)をかけて、御膳(みけ)を掌監(つかさど)りき。よりて名を賜ひて大雀臣(おほささきのおみ)と曰ふ。日本紀に合へり。
生江臣(いくえのおみ)。
石川朝臣と同じき祖。武内宿禰の後なり。日本紀に漏れたり。
布師首(ぬのしのおびと)。
生江臣と同じき祖。武内宿禰の後なり。
箭口朝臣(やくちのあそみ)。
宗我石川宿禰(そがのいしかはのすくね)の四世孫、稲目宿禰の後なり。
多朝臣(おほのあそみ)。
諡は神武の皇子、神八井耳命(かむやゐみみのみこと)の後より出づ。日本紀に合へり。
小子部宿禰(ちひさこべすくね)。
多朝臣と同じき祖。神八井耳命の後なり。大泊瀬幼武天皇(おほはつせのわかたけのすめらみこと)の御世、諸国に遣され、蚕児(かひこ)を取りおさむべきを、誤りて小児(ちひさこ)をあつめて貢る。天皇大きにわらひて、姓を小子部連と賜ふ。日本紀に合へり。
吉備朝臣(きびのあそみ)。
大日本根子彦太瓊天皇(おほやまとねこひこふとにのすめらみこと)の皇子、稚武彦命(わかたけひこのみこと)の後なり。
下道朝臣(しもつみちのあそみ)。
吉備朝臣と同じき祖。稚武彦命の孫、吉備武彦命(きびのたけひこのみこと)の後なり。
道守朝臣(ちもりのあそみ)。
開化天皇の皇子、武豊葉列別命(たけとよはづらわけのみこと)の後なり。
御使朝臣(みつかひのあそみ)。
諡は景行の皇子、気入彦命(けいりひこのみこと)の後より出づ。
誉田天皇(ほむたのすめらみこと)の御世に、御室の雑使(つかひびと)、大王生(おほみぶ)ら、のがれて仕へまつらず。天皇、使を遣わして尋ね求めしむるに、みな、復命(かへりごとまを)さず。ここに気入彦命、詔を奉りて、参河国にたづね追はしむるに、捕獲(とら)へて参来(まゐき)けり。天皇、使の旨に合ふを褒めたまひて、姓を御使連と賜ひき。続日本紀に合へり。
犬上朝臣(いぬかみのあそみ)。
諡は景行の皇子、日本武尊(やまとたけるのみこと)より出づ。
坂田宿禰(さかたのすくね)。
息長真人(おきながのまひと)と同じき祖。応神の皇子、稚渟毛二派王(わかぬけふたまたのみこ)の後なり。天渟中原瀛真人天皇(あまのぬなはらおきのまひとのすめらみこと)[諡は天武]の御世、出家入道して法名を信正(しんしゃう)といふもの、近江国の人、槻本公転戸(つきもとのきみくるべ)が女(むすめ)に娶て、生める男(こ)、石村(いはれ母の氏姓につきて槻本公をなのる。男、外従五位下老(おゆ)、男、従五位上奈弖麻呂(なでまろ)、次に従五位下豊成(とよなり)、次に豊人(とよひと)ら、皇統弥照天皇(あまつひつぎいやてらすのすめらみこと)[諡は桓武]の延暦二十二年に、宿禰の姓を賜ふ。ここに父の志をしたひ、祖父の生長(ひととなり)し地の名を取りて、槻本を改めて坂田宿禰を賜ふ。今上の弘仁四年に、同じき奈弖麻呂らに、改めて朝臣の姓を賜へり。
間人宿禰(はしひとのすくね)。
仲哀天皇の皇子、誉屋別命(ほむやわけのみこと)の後なり。
新田部宿禰(にひたべのすくね)。
安寧天皇の皇子、磯津彦命(しきつひこのみこと)の後なり。日本紀に合へり
左京皇別下
大春日朝臣に起り、鴨県主に尽る。三十二氏なり。
大春日朝臣(おほかすがのあそみ)。
孝昭天皇の皇子、天帯彦国押人命(あまたらしひこくにおしひとのみこと)より出づ。仲臣(なかのおみ)、家に千金を重ね、糟(かす)をつみて堵(かき)と為さしむ。時に大鷦鷯天皇(おほさざきのすめらみこと)[謚は仁徳]、その家に臨幸(いでま)して、詔して、糟垣臣(かすがきのおみ)と号(なづ)けたまひき。後に改めて春日臣(かすがのおみ)と為る。桓武天皇の延暦二十年に、大春日朝臣の姓を賜ふ。
小野朝臣(おののあそみ)。
大春日朝臣と同じき祖。彦姥津命(ひこおけつのみこと)の五世孫、米餅搗大使主命(たがねつきのおほおみのみこと)の後なり。大徳小野妹子(おののいもこ)、近江国滋賀郡小野村に家れり。よりて以て氏と為す。日本紀に合へり。
和安部朝臣(やまとのあへのあそみ)。
大春日朝臣と同じき祖。彦姥津命の三世孫、難波宿禰(なにはのすくね)の後なり。続日本紀に合へり。
和爾部宿禰(わにべのすくね)。
和安部朝臣と同じき祖。彦姥津命の四世孫、矢田宿禰(やたのすくね)の後なり。続日本紀に合へり。
櫟井臣(いちひゐのおみ)。
和安部と同じき祖。彦姥津命の五世孫、米餅舂大使主命(たがねつきのおほおみのみこと)の後なり。
和安部臣(やまとのあへのおみ)。
和安部朝臣と同じき祖。彦姥津命の五世孫、米餅舂大使主命の後なり。
葉栗臣(はくりのおみ)。
和安部朝臣と同じき祖。彦姥津命の三世孫、建穴命(たけあなのみこと)の後なり。
吉田連(きちたのむらじ)。
大春日朝臣と同じき祖。観松彦香殖稲天皇(みまつひこかゑしねのすめらみこと)[謚は孝昭]の皇子、天帯彦国押人命の四世孫、彦国葺命(ひこくにぶくのみこと)の後なり。
昔、磯城瑞籬宮御宇(しきのみづかきのみやにあまのしたしろしめしし)御間城入彦天皇(みまきいりひこのすめらみこと)の御代、任那国奏して曰さく、「臣が国の東北に三の己モン(こもん)という地有り[上己モン、中己モン、下己モンなり]。地の方(ひろさ)三百里あり。土地人民も富饒(とみにぎ)へり。新羅国と相争い、彼も此も摂治(をさむる)こと能(あたは)ず。兵戈(いくさ)相つづきて、民、生(くらし)をやすんじえず。臣、請ふらくは、軍を将(ひきゐ)て此の地を治令(をさめし)めたまはば、すなはち、貴国の部と為さむ」と。天皇大く悦びて、群卿に勅して、遣すべき人を奏さしめたまふ。卿等、奏して曰さく、「彦国葺命の孫、塩垂津彦命(しほたりつひこのみこと)、頭上(かしら)にふすべあり。三岐にして松樹に如(ひと)し[よりて松樹君(まつのきのきみ)と号(なづ)く]。その長(たけ)五尺、力は衆人(ひと)に過(すぐれ)て、性(ひととなり)も勇悍(いさを)し」と。天皇、塩垂津彦命を遣令(つかはし)めたまふ。勅を奉りて鎮め守りき。彼(かしこ)の俗(ひと)、宰(みこともち)を称へて吉(きち)と為せり。かれ、その苗裔の姓を謂て吉氏(きちうじ)と為す。
男、従五位下知須(げちす)ら、奈良京の田村里河(たむらのさとのかは)に家居(お)れり。よりて天璽国押開豊桜彦天皇(あましるしくにおしはるきとよさくらひこのすめらみこと)[謚は聖武]の神亀元年に、吉田連の姓を賜ふ[吉は本の姓、田は居へる地の名を取れり]。今上の弘仁二年に、改めて宿禰の姓を賜ひき。続日本紀に合へり。
丸部(わにべ)。
和安部と同じき祖。彦姥津命の男、伊冨都久命(いほつくのみこと)の後なり。
丈部(はせつかべ)。
天足彦国押人命(あまたらしくにおしひとのみこと)の孫、比古意祁豆命(ひこおけつのみこと)の後なり。
下毛野朝臣(しもつけののあそみ)。
崇神天皇の皇子、豊城入彦命(とよきいりひこのみこと)の後なり。日本紀に合へり。
上毛野朝臣(かみつけののあそみ)。
下毛野朝臣と同じき祖。豊城入彦命の五世孫、多奇波世君(たかはせのきみ)の後なり。
大泊瀬幼武天皇(おほはつせのわかたけのすめらみこと)[謚は雄略]の御世に、努賀君(ぬかのきみ)の男(こ)、百尊(はくそん)。阿女(むすめ)の産の為に聟(むこ)の家に向ひ、夜になりて帰る。応神天皇の御陵辺にて、馬に騎(の)れる人に逢ひ、相共に話語(かた)らひて、馬を換へて別(わか)る。明日に、換へたる所の馬を看れば、是は土馬なり。よりて姓を陵辺君(みささぎべのきみ)と負ひき。百尊の男、徳尊(とくそん)。孫、斯羅(しら)。謚は皇極の御世に、河内の山下の田を賜ひ、文書を解れるを以て、田辺史(たなべのふひと)と為れり。宝字称徳孝謙皇帝の天平勝宝二年、改めて上毛野公を賜ふ。今上の弘仁元年、改めて朝臣の姓を賜ふ。続日本紀に合へり。
池田朝臣(いけだのあそみ)。
上毛野朝臣と同じき祖。豊城入彦命の十世の孫、佐太公(さたのきみ)の後なり。日本紀に合へり。
住江朝臣(すみのえのあそみ)。
上毛野と同じき祖。豊城入彦命の五世孫、多奇波世君の後なり。日本紀の賜姓に合へり。続日本紀にも依れり。
池原朝臣(いけはらのあそみ)。
住江と同じき氏。多奇波世君の後なり。
上毛野坂本朝臣(かみつけののさかもとのあそみ)。
上毛野と同じき祖。豊城入彦命の十世の孫、佐太公の後なり。続日本紀に合へり。
車持公(くるまもちのきみ)。
上毛野朝臣と同じき祖。豊城入彦命の八世の孫、射狭君(いさのきみ)の後なり。雄略天皇の御世に、乗輿(いさのきみ)を供進(たてまつ)れり。よりて姓を車持公と賜ひき。
大網公(おほよさみのきみ)。
上毛野朝臣と同じき祖。豊城入彦命の六世の孫、下毛君奈良(しもつけのきみなら)の弟、真若君(まわかのきみ)の後なり。
桑原公(くわはらのきみ)。
上毛野と同じき祖。豊城入彦命の五世孫、多奇波世君の後なり。
川合公(かはいのきみ)。
上毛野と同じき氏。多奇波世君の後なり。
垂水史(たるみのふひと)。
上毛野と同じき氏。豊城入彦命の孫、彦狭島命(ひこさしまのみこと)の後なり。
商長首(あきをさのおびと)。
上毛野と同じき氏。多奇波世君の後なり。三世孫、久比(くひ)。泊瀬部天皇(はつせべのすめらみこと)[謚は崇峻]の御世に、呉国に遣はされ、雑々の宝物等を天皇に献れり。其の中に呉の権(はかり)有り。天皇、「この物は」と勅たまひき。久比、奏して曰く、「呉国は以て万物を懸け定めて、交易を為さ令む。其の名を波賀理(はかり)と云ふ」と。天皇、勅たまはく、「他人をして、同じからしむこと勿(なか)れ」と。久比の男、宗麿(むねまろ)。舒明天皇の御代に、商長の姓を負ひき。日本紀に漏れたり。
吉弥候部(きみこべ)。
上毛野朝臣と同じき祖。豊城入彦命の六世の孫、奈良君の後なり。
甲能(かふの)。
従五位下御方大野(みかたのおほの)の後なり。続日本紀に合へり。
葛城朝臣(かつらきのあそみ)。
葛城襲津彦命(かつらきのそつひこのみこと)の後なり。日本紀、続日本紀、官符の改姓に、並びに合へり。
稲城壬生公(いなきのみぶのきみ)。
垂仁天皇の皇子、鐸石別命(ぬてしわけのみこと)より出づ。
小槻臣(をつきのおみ)。
同じき天皇の皇子、於知別命(おちわけのみこと)の後なり。
牟義公(むげのきみ)。
景行天皇の皇子、大碓命(おほうすのみこと)の後なり。
守公(もりのきみ)。
牟義公と同じき氏。大碓命の後なり。
治田連(はりたのむらじ)。
開化天皇の皇子、彦坐命(ひこいますのみこと)の後なり。
四世孫、彦命(ひこのみこと)、北夷(きたのかたのえみし)を征て功効(いさを)有り。よりて近江国浅井郡の地を割きて賜ふ。墾田(はりた)の地と為り。大海(おほあま)、真持(まもち)ら、彼の地を墾開(はりひら)きて、以て居地と為(せ)り。大海の六世孫の後、熊田(くまた)、宮平(みやひら)ら、行事(おこなふわざ)によりて治田連の姓を賜ふ。
軽我孫(かるのあびこ)。
治田連と同じき氏。彦坐命の後なり。四世孫、白髪王(しらかのみこ)。初め彦坐、分けて来りて阿比古(あびこ)の姓を賜ふ。成務天皇の御代に、軽の地三十千代(みそちしろ)を賜ふ。是れ、軽我孫の姓を負ふの由なり。
鴨県主(かものあがたぬし)。
治田連と同じき祖。彦坐命の後なり。
右京皇別上
右京皇別上 八多朝臣に起(はじま)り、猪使宿禰に尽(をは)る。三十三氏なり。
八多朝臣(はたのあそみ)。
石川朝臣(いしかはのあそみ)と同じき祖。武内宿禰命(たけしうちのすくねのみこと)の後(すゑ)なり。日本紀に合へり。
巨勢朝臣(こせのあそみ)。
石川と同じき祖。巨勢雄柄宿禰(こせのをからのすくね)の後なり。日本紀に合へり。
巨勢ヒ田朝臣(こせのひたのあそみ)。
雄柄宿禰の四世孫、稲茂臣(いなもちのおみ)の後なり。男(こ)、荒人(あらひと)。天豊財重日足姫天皇(あまとよたからいかしひたらしひめのすめらみこと)[諡は皇極]の御世、葛城の長田を佃(たがや)さ遣(し)む。その地、野たかくして、水を漑ぐに至り難し。荒人、能く杭の術を鮮やかにし、始めて長ヒを造り、川の水を田に灌げり。天皇大く悦びたまひ、ヒ田臣の姓を賜ひき。日本紀に漏れたり。
巨勢斐太臣(こせのひたのおみ)。
巨勢ヒ田と同じき氏。巨勢雄柄の四世孫、稲茂の男、荒人の後なり。
紀朝臣(きのあそみ)。
石川朝臣と同じき氏。屋主忍雄建猪心命(やぬしおしをたけゐこころのみこと)の後なり。日本紀に合へり。
平群朝臣(へぐりのあそみ)。
石川朝臣と同じき氏。武内宿禰の男、平群都久宿禰(へぐりのつくのすくね)の後なり。日本紀に合へり。
平群文屋朝臣(へぐりのふみやのあそみ)。
同じき都久宿禰の後なり。日本紀に漏れたり。
都保朝臣(つほのあそみ)。
平群朝臣と同じき祖。都久足尼(つくのすくね)の後なり。
高向朝臣(たかむくのあそみ)。
石川と同じき氏。武内宿禰の六世孫、猪子臣(ゐこのおみ)の後なり。日本紀に合へり。
田中朝臣(たなかのあそみ)。
武内宿禰の五世孫、稲目宿禰(いなめのすくね)の後なり。日本紀に合へり。
小治田朝臣(おはりたのあそみ)。
上に同じ。日本紀に合へり。
川辺朝臣(かわべのあそみ)。
武内宿禰の四世孫、宗我宿禰(そがのすくね)の後なり。日本紀に合へり。
岸田朝臣(きしたのあそみ)。
武内宿禰の五世孫、稲目宿禰の後なり。男、小祚臣(をそのおみ)の孫、耳高(みみたか)。岸田村に家居れり。よりて岸田臣の号を負へり。日本紀に合へり。
久米朝臣(くめのあそみ)。
武内宿禰の五世孫、稲目宿禰の後なり。日本紀に合へり。
御炊朝臣(みかしきのあそみ)。
武内宿禰の六世孫、宗我馬背宿禰(そがのうませのすくね)の後なり。日本紀に漏れたり。
玉手朝臣(たまてのあそみ)。
同じき宿禰の男、葛木曾頭日古命(かつらきのそつひこのみこと)の後なり。日本紀に合へり。
掃守田首(かにもりたのおびと)。
武内宿禰の男、紀都奴宿禰(きのつぬのすくね)の後なり。
上毛野朝臣(かみつけののあそみ)
崇神天皇の皇子、豊城入彦命(とよきいりひこのみこと)の後なり。日本紀に合へり。
佐味朝臣(さみのあそみ)。
上毛野朝臣と同じき祖。豊城入彦命の後なり。日本紀に合へり。
大野朝臣(おおののあそみ)。
同じき豊城入彦命の四世孫、大荒田別命(おほあらたわけのみこと)の後なり。日本紀に合へり。
垂水公(たるみのきみ)。
豊城入彦命の四世孫、賀表乃真稚命(かほのまわかのみこと)の後なり。六世孫、阿利真公(ありまのきみ)。諡は孝徳天皇の御世、天下旱魃(ひてり)して、河井(かはみづ)涸絶(かれたへ)ぬ。時に阿利真公、高樋を造作(つく)りて、垂水の岡基(をかもと)の水を、宮内に通して、御膳に仕奉(つかへまつ)れり。天皇、其の巧(いさを)を美(ほめ)たまひて、垂水公の姓を賜ひ、垂水神社を掌ら使む。日本紀に漏れたり。
田辺史(たなべのふひと)。
豊城入彦命の四世孫、大荒田別命の後なり。
佐自努公(さじぬのきみ)。
上に同じ。日本紀に漏れたり。
若桜部朝臣(わかさくらべのあそみ)。
阿倍朝臣(あへのあそみ)と同じき氏。大彦命(おほひこのみこと)の孫、伊波我牟都加利命(いはがむつかりのみこと)の後なり。日本紀に合へり。
阿閉臣(あべのおみ)。
大彦命の男、彦背立大稲輿命(ひこせたつおほいなこしのみこと)の後なり。日本紀に合へり。
伊賀臣(いがのおみ)。
大稲輿命の男、彦屋主田心命(ひこやぬしたこころのみこと)の後なり。日本紀に合へり。
阿閉間人臣(あべのはしひとのおみ)。
同じき氏。
他田広瀬朝臣(をさたのひろせのあそみ)。
同じき氏。続日本紀、広瀬の二字を加へたるもの見えず。
道公(みちのきみ)。
同じき氏。大彦命の孫、彦屋主田心命の後なり。
音太部(おとほべ)。
高橋朝臣(たかはしのあそみ)と同じき祖。彦屋主田心命の後なり。
会加臣(えがのおみ)。
孝元天皇の皇子、大彦命の後なり。
杖部造(はせつかべのみやつこ)。
同じき氏。
猪使宿禰(いつかひのすくね)。
安寧天皇の皇子、志紀都比古命(しきつひこのみこと)の後なり。日本紀に合へり。
右京皇別下
右京皇別下 粟田朝臣に起り、新良貴に尽る。三十四氏なり。
粟田朝臣(あわたのあそみ)。
大春日朝臣と同じき祖。天足彦国忍人命(あまたらしひこくにおしひとのみこと)の後なり。日本紀に合へり。
山上朝臣(やまのへのあそみ)。
同じき氏。日本紀に合へり。
真野臣(まののおみ)。
天足彦国忍人命の三世孫、彦国葺命(ひこくにぶくのみこと)の後なり。男(こ)、大口納命(おほくたみのみこと)の男、難波宿禰(なにはのすくね)の男、大矢田宿禰(おほやたのすくね)、気長足姫皇尊(おきながたらしひめのすめらみこと)[謚は神功]に従ひて新羅を征伐(うち)て、凱旋(かへらむ)としたまふ日、すなはち留めて鎮守将軍と為たまふ。時に彼の国王(こきし)、猶榻(いうたふ)の女(むすめ)を娶(めと)りて、二男を生めり。二男、兄は佐久命(さくのみこと)、次は武義命(むげのみこと)なり。佐久命の九世孫、和珥部臣鳥(わにべのおみとり)、務大肆忍勝(おしかつ)ら、近江国志賀郡真野村に居住れり。庚寅の年に真野臣の姓を負ふ。
和邇部(わにべ)。
天足彦国忍人命の三世孫、彦国葺命の後なり。
安那公(あなのきみ)。
上に同じ。
野中(のなか)。
同じき彦国忍人命の後なり。
和気朝臣(わけのあそみ)。
垂仁天皇の皇子、鐸石別命(ぬでしわけのみこと)の後なり。神功皇后、新羅を征伐て凱帰(かへ)りたまひ、明年、車駕(みゆき)都(みやこ)に還りまさむとする時に、忍熊別皇子(おしくまわけのみこ)ら、窃かに逆謀を構へて、明石の済(わたり)に、兵を備へて待てり。皇后鑑識(みわ)けたまひて、弟彦王(おとひこのみこ)を針間吉備の堺に遣はして、関を造りて防しめき。所謂和気の関是れなり。太平(よをさまり)ての後、駕(みとも)に従へる勲を録して、酬るに封地を以てせり。よりて吉備の磐梨県を被り、始て家(いへを)りき。光仁天皇の宝亀五年、改めて和気朝臣の姓を賜ふ。続日本紀に合へり。
山辺公(やまのへのきみ)。
和気朝臣とおなじき祖。
阿保朝臣(あほのあそみ)。
垂仁天皇の皇子、息速別命(いこはやわけのみこと)の後なり。息速別命、幼弱(いとけなくまし)し時、天皇、皇子の為に、宮屋を伊賀国阿保村に築りたまひ、以て封邑と為せり。子孫よりて家りき。允恭天皇の御代、居地の名を以て、阿保君の姓を賜ふ。廃帝の天平宝字八年、公を改め朝臣の姓を賜ふ。続日本紀に合へり。
羽咋公(はくひのきみ)。
同じき天皇の皇子、磐衝別命(いはつくわけのみこと)の後なり。
讃岐公(さぬきのきみ)。
大足彦忍代別天皇(おほたらしひこおしろわけのすめらみこと)の皇子、五十香彦命(いかひこのみこと)[またの名は神櫛別命(かむくしわけのみこと)]の後なり。続日本紀に合へり。
酒部公(さかべのきみ)。
同じき皇子の三世孫、足彦大兄王(たらしひこおほえのみこ)の後なり。大鷦鷯天皇(おほさざきのすめらみこと)の御代、韓国より参り来たれる人、兄曾々保利(えそそほり)、弟曾々保利(おとそそほり)の二人あり。天皇、何の才有ると勅りたまふに、皆、酒を造るの才有りといふ。御酒を造ら令めたまひき。是に麻呂(まろ)に号(な)を酒看都子(さかみづこ)と賜ひ、山鹿比咩(やまかひめ)に号を酒看都女(さかみづめ)と賜ふ。よりて酒看都を以て氏と為せり。
建部公(たけるべのきみ)。
犬上朝臣(いぬかみのあそみ)と同じき祖。日本武尊(やまとたけるのみこと)の後なり。続日本紀に合へり。
別公(わけのきみ)。
建部と同じき氏。
御立史(みたちのふひと)。
御使(みつかひ)と同じき氏。気入彦命(けいりひこのみこと)の後なり。持統天皇の御代、参河国青海郡御立の地に居るに依りて、御立史の姓を賜ふ。日本紀に漏れたり。
高篠連(たかしののむらじ)。
景行天皇の皇子、五百木入彦命(いほきのいりひこのみこと)の後なり。続日本紀に合へり。
佐伯直(さえきのあたへ)。
景行天皇の皇子、稲背入彦命(いなせいりひこのみこと)の後なり。男、御諸別命(みもろわけのみこと)、稚足彦天皇(わかたらしひこのすめらみこと)[謚は成務]の御代、針間国を中分(なかばわけ)て給はれり。よりて針間別(はりまのわけ)と号く。男、阿良都命(あらつのみこと)[一の名は伊許自別(いこじわけ)]、誉田天皇、国堺を定むる為に、車駕巡幸(いでまし)て、針間国神崎郡瓦村の東崗の上に到りたまふ。時に青菜葉、崗の辺の川より流れ下りければ、天皇、「川上に人あるべし」と詔りたまひて、すなはち伊許自別命を差して往て問しむ。すなはち答へて曰さく、「己らは是れ日本武尊の東の夷を平けたまひし時に、俘(とりこ)に所(せ)られし蝦夷の後なり。針間、阿芸、阿波、讃岐、伊予等の国に散け遣され、よりて此に居る氏なり[後に改めて佐伯と為き]」といふ。伊許自別命、状(ありつるかたち)を以て復奏(かえりことまう)す。天皇詔して曰はく、「汝、君と為て治むべし」とのたまふ。すなはち氏を針間別佐伯直と賜ふ[佐伯は謂ゆる氏姓なり。直は君を謂うなり]。その後、庚午の年に至りて、針間別の三字を脱落て、ひとへに佐伯直と為き。
笠朝臣(かさのあそみ)。
孝霊天皇の皇子、稚武彦命(わかたけひこのみこと)の後なり。応神天皇、吉備国に巡幸(いでまし)て、加佐米山(かさめやま)に登りたまひし時、飄風、御笠を吹き放ちて、天皇あやしとおぼしき。鴨別命(かもわけのみこと)言さく、「神祇、天皇に奉(つかへまつ)らむとす。かれ、其の状(かたち)ならむ」といふ。天皇其の真偽を知らまく欲して、其の山を猟令(かりし)めけるに、得たまふ所、甚だ多し。天皇大く悦びたまひ、名を賀佐(かさ)と賜ふ。
笠臣(かさのおみ)。
笠朝臣と同じき祖。稚武彦命の孫、鴨別命の後なり。
吉備臣(きびのおみ)。
稚武彦命の孫、御友別命(みともわけのみこと)の後なり。
真髪部(まかみべ)。
同じき命の男、吉備武彦命(きびのたけひこのみこと)の後なり。
廬原公(いほはらのきみ)。
笠朝臣と同じき祖。稚武彦命の後なり。孫、吉備建彦命(きびのたけひこのみこと)、景行天皇の御世、東方に遣被(つかはされ)て、毛人(えみし)及凶鬼神(あらぶるかみ)を伐(う)ちて、阿倍廬原国(あへのいほはらのくに)に到り、復命(かへりことまを)せし日、廬原国を給ひき。
宇自可臣(うじかのおみ)。
孝霊天皇の皇子、彦狭島命(ひこさしまのみこと)の後なり。
道守臣(ちもりのおみ)。
道守朝臣(ちもりのあそみ)と同じき祖。豊葉頬別命(とよはつらわけのみこと)の後なり。
島田臣(しまたのおみ)。
多朝臣(おほのあそみ)と同じき祖。神八井耳命(かむやゐみみのみこと)の後なり。五世孫、武恵賀前命(たけゑがさきのみこと)の孫、仲臣子上(なかのおみのこかみ)、稚足彦天皇[謚は成務]の御代に、尾張国の島田上下の二県に悪神有り。子上を遣して、平服(ことむ)けて、復命まおす日、号(な)を島田臣と賜ひき。
茨田連(まむたのむらじ)。
多朝臣と同じき祖。神八井耳命の男、彦八井耳命(ひこやゐみみのみこと)の後なり。日本紀に漏れたり。
志紀首(しきのおびと)。
多朝臣と同じき祖。神八井耳命の後なり。
薗部(そのべ)。
同じき氏。
火(ひ)。
同じき氏。
高円朝臣(たかまどのあそみ)。
正六位上高円朝臣広世(たかまどのあそみひろよ)より出づ[元(はじめ)、母氏に就きて、石川朝臣為りき]。続日本紀に合へり。
日置朝臣(へおきのあそみ)。
応神天皇の皇子、大山守王(おほやまもりのみこ)の後なり。続日本紀に合へり。
息長連(おきながむらじ)。
同じき天皇の皇子、(ひこくにぶくのみこと)の後なり。
大私部(おほきさきべ)。
開化天皇の皇子、彦坐命(ひこいますのみこと)の後なり。日本紀に漏れたり。
新良貴(しらき)。
彦波瀲武ウ草葺不合尊(ひこなぎさたけうがやふきあへずのみこと)の男、稲飯命(いなひのみこと)の後なり。是は新良国(しらきのくに)に出まして国主と為りたまふ。稲飯命は新羅国(しらきのくに)に出まして王が祖に合ひたまふ。日本紀に見えず。
山城国皇別
小野朝臣に起(はじま)り、息長竹原公に尽(をは)る。二十四氏なり。
小野朝臣(をののあそみ)。
孝昭天皇の皇子、天足彦国押人命(あまたらしひこくにおしひとのみこと)の後(すゑ)なり。
粟田朝臣(あはたのあそみ)。
天足彦国押人命の三世孫、彦国葺命(ひこくにぶくのみこと)の後なり。
小野臣(をののおみ)。
同じき命の七世孫、人花命(ひとはなのみこと)の後なり。
和邇部(わにべ)。
小野朝臣と同じき祖。天足彦国押人命の六世孫、米餅搗大使主命(たがねつきのおほおみのみこと)の後なり。ある本に、彦姥津命(ひこおけつのみこと)の三世孫、難波宿禰(なにはのすくね)の後なり。日本紀に漏れたり。
大宅(おほやけ)。
小野朝臣と同じき祖。
葉栗(はくり)。
小野と同じき祖。彦国葺命の後なり。
村公(むらのきみ)。
天足彦国押人命の後なり。
度守首(わたりもりのおびと)。
村公と同じき祖。
阿閇臣(あへのおみ)。
阿倍朝臣(あへのあそみ)と同じき祖。大彦命(おほひこのみこと)の後なり。
的臣(いくはのおみ)。
石川朝臣(いしかはのあそみ)と同じき祖。彦太忍信命(ひこふとおしのまことのみこと)の三世孫、葛城襲津彦命(かつらきのそつひこのみこと)の後なり。
与等連(よどのむらじ)。
塩屋連(しほやのむらじ)と同じき祖。彦太忍信命の後なり。
曰佐(をさ)。
紀朝臣(きのあそみ)と同じき祖。武内宿禰(たけしうちのすくね)の後なり。欽明天皇の御世、同じき族四人、国民三十五人を率て帰化(まうけ)り。天皇、その遠より来つるを矜(あはれ)みたまひて、珍勲臣(めづらのおみ)に勅して、三十九人の訳(をさ)と為たまふ。時の人、号(なづ)けて訳氏(をさうぢ)と曰へり。男(こ)、諸石臣(もろしのおみ)、次に麻奈臣(まなのおみ)。是は近江国野洲(やす)郡の曰佐、山代国相楽(さがらき)郡の山村(やまむら)の曰佐、大和国添上(そふのかみ)郡の曰佐等の祖なり。
出庭臣(いではのおみ)。
孝元天皇の皇子、彦太忍信命の後なり。
日下部宿禰(くさかべのすくね)。
開化天皇の皇子、彦坐命(ひこいますのみこと)の後なり。日本紀に合へり。
軽我孫公(かるのあびこのきみ)。
治田連(はりたのむらじ)と同じき祖。彦今簀命(ひこいますのみこと)の後なり。
堅井公(かたゐのきみ)。
彦坐命の後なり。日本紀に合へり。
別公(わけのきみ)。
上に同じ。
道守臣(ちもりのおみ)。
道守朝臣(ちもりのあそみ)と同じき祖。武波都良和気命(たけはつらわけのみこと)の後なり。
今木(いまき)。
道守と同じき祖。建豊羽頬別命(たけとよはつらわけのみこと)の後なり。
間人造(はしひとのみやつこ)。
間人宿禰(はしひとのすくね)と同じき祖。誉屋別命(ほむやわけのみこと)の後なり。
布施公(ふせのきみ)。
仲哀天皇の皇子、忍稚命(おしわかのみこと)の後なり。続日本紀に見えず。
茨田連(まむたのむらじ)。
茨田宿禰(まむたのすくね)と同じき祖。彦八井耳命(ひこやゐみみのみこと)の後なり。
茨田勝(まむたのすぐり)。
景行天皇の皇子、息長彦人大兄瑞城命(おきながのひこひとおほえのみづきのみこと)の後なり。
息長竹原公(おきながたけはらのきみ)。
応神天皇の三世孫、阿居乃王(あけののみこ)の後なり。
大和国皇別
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星川朝臣に起(はじま)り、川俣公に尽(をは)る。十八氏なり。
星川朝臣(ほしかはのあそみ)。
石川朝臣(いしかはのあそみ)と同じき祖。武内宿禰(たけしうちのすくね)の後(すゑ)なり。敏達天皇の御世、居(をるところ)に依り改めて姓(うぢ)を星川臣と賜ひき。日本紀に合へり
江沼臣(えぬのおみ)。
石川と同じき氏。建内宿禰(たけしうちのすくね)の男(こ)、若子宿禰(わくこのすくね)の後なり。日本紀に漏れたり。
内臣(うちのおみ)。
孝元天皇の皇子、彦太忍信命(ひこふつおしのまことのみこと)の後なり。
山公(やまのきみ)。
内臣と同じき祖。味内宿禰(うましうちのすくね)の後なり。
阿祇奈君(あぎなのきみ)。
玉手朝臣(たまてのあそみ)と同じき祖。彦太忍信命の孫、武内宿禰の後なり。
馬工連(うまみくひのむらじ)。
平群朝臣と同じき祖。平群木兎宿禰(へぐりのつくのすくね)の後なり。
曰佐(をさ)。
紀朝臣(きのあそみ)と同じき祖。武内宿禰の後なり。
池後臣(いけしりのおみ)。
建内宿禰の後なり。日本紀に見えず。
巨勢ヒ田臣(こせのひたのおみ)。
巨勢ヒ田朝臣と同じき祖。武内宿禰の後なり。
音太部(おとふとべ)。
高橋朝臣(たかはしのあそみ)と同じき祖。大日子命(おほひこのみこと)の後なり。
坂合部首(さかひべのおびと)。
阿倍朝臣(あへのあそみ)と同じき祖。大彦命(おほひこのみこと)の後なり。
柿下朝臣(かきのもとのあそみ)。
大春日朝臣(おほかすがのあそみ)と同じき祖。天足彦国押人命(あまたらしひこくにおしひとのみこと)の後なり。敏達天皇の御世、家の門に柿の樹有るに依りて、柿本臣といふ氏と為れり。
布留宿禰(ふるのすくね)。
柿本朝臣と同じき祖。天足彦国押人命の七世孫、米餅搗大使主命(たがねつきのおほおみのみこと)の後なり。男(こ)、木ゴト命(こごとのみこと)の男、市川臣(いちかはのおみ)、大鷦鷯天皇(おおさざきのすめらみこと)の御世、倭(やまと)に達(い)でまして、布都努斯(ふつぬし)神社を石上(いそのかみ)の御布瑠村(みふるのむら)の高庭の地に賀(いは)ひまつりて、市川臣を以て神主と為たまふ。四世孫、額田臣(ぬかたのおみ)、武蔵臣(むさしのおみ)なり。斉明天皇の御世、宗我蝦夷大臣(そがのえみしのおほおみ)、武蔵臣を物部首(もののべのおびと)、ならびに神主首(かむぬしのおびと)と号(な)づけり。これによりて臣の姓を失ひて、物部首と為れり。男、正五位上日向(ひむか)、天武天皇の御世、社の地の名に依りて、布瑠宿禰の姓に改む。日向の三世孫は、邑智(おほち)らなり。
久米臣(くめのおみ)。
柿本と同じき祖。天足彦国押人命の五世孫、大難波命(おほなにはのみこと)の後なり。
肥直(ひのあたへ)。
多朝臣(おほのあそみ)と同じき祖。神八井耳命(かむやゐみみのみこと)の後なり。
下養公(しもかひのきみ)。
上毛野朝臣(かみつけののあそみ)と同じき祖。豊城入彦命(とよきいりひこのみこと)の後なり。
広来津公(ひろきつのきみ)。
下養公と同じき祖。豊城入彦命の四世孫、大荒田別命(おほあらたわけのみこと)の後なり。
川俣公(かはまたのきみ)。
日下部宿禰(くさかべのすくね)と同じき祖。彦坐命(ひこいますのみこと)の後なり。
摂津国皇別
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川原公に起(はじま)り、車持公に尽(をは)る。二十九氏なり。
川原公(かわはらのきみ)。
為奈真人(ゐなのまひと)と同じき祖。火焔親王(ほのほのみこ)の後(すゑ)なり。天智天皇の御世、居(をるところ)に依りて、川原公と云ふ姓(かばね)を賜ひき。日本紀に漏れたり。
榛原公(はりはらのきみ)。
息長真人(おきながのまひと)と同じき祖。大山守命(おほやまもりのみこと)の後なり。
高橋朝臣(たかはしのあそみ)。
阿倍朝臣(あへのあそみ)と同じき祖。大彦命(おほひこのみこと)の後なり。日本紀に見えず。
佐々貴山君(ささきやまのきみ)。
上に同じ。
久久智(くくち)。
上に同じ。
坂合部(さかひべ)。
同じき大彦命の後なり。允恭天皇の御世に、国境の標(しるし)を造立(た)つ。よりて姓を坂合部連と賜ふ。
伊我水取(いがのもひとり)。
阿倍朝臣と同じき祖。大彦命の後なり。
吉志(きし)。
難波忌寸(なにはのいみき)と同じき祖。大彦命の後なり。
三宅人(みやけひと)。
大彦命の男(こ)、波多武日子命(はたたけひこ)の後なり。
雀部朝臣(ささきべのあそみ)。
巨勢朝臣(こせのあそみ)と同じき祖。建内宿禰命(たけしうちのすくねのみこと)の後なり。
坂本臣(さかもとのおみ)。
紀朝臣(きのあそみ)と同じき祖。彦太忍信命(ひこふつおしのまことのみこと)の孫、武内宿禰命(たけしうちすくねのみこと)の後なり。
阿支奈臣(あぎなのおみ)。
玉手朝臣(たまてのあそみ)と同じき祖。武内宿禰の男、葛城曾豆比古命(かつらきのそつひこのみこと)の後なり。
布敷首(ぬのしのおびと)。
玉手と同じき祖。葛木襲津彦命(かつらきのそつひこのみこと)の後なり。
井代臣(ゐてのおみ)。
大春日朝臣(おほかすがのあそみ)と同じき祖。米餅搗大使主命(たがねつきのおほおみのみこと)の後なり。大和国添上郡(そふのかみのこほり)井手村(ゐてのむら)に居る。よりて姓を井出臣と負ひき。
津門首(つとのおびと)。
櫟井臣(いちひゐのおみ)と同じき祖。米餅搗大使主命の後なり。
物部首(もののべのおびと)。
大春日朝臣と同じき祖。
和邇部(わにべ)。
大春日朝臣と同じき祖。天足彦国忍人命(あまたらしひこくにおしひとのみこと)の後なり。
物部(もののべ)。
物部首と同じき祖。米餅搗大使主命の後なり。
羽束首(はつかしのおびと)。
天足彦国押人命の男、彦姥津命(ひこおけつのみこと)の後なり。
日下部宿禰(くさかべのすくね)。
開化天皇の皇子、彦坐命(ひこいますのみこと)より出づ。日本紀に合へり。
依羅宿禰(よさみのすくね)。
日下部宿禰と同じき祖。彦坐命の後なり。続日本紀に合へり。
鴨君(かものきみ)。
前の氏に同じ。
山辺公(やまべのきみ)。
和気朝臣(わけのあそみ)と同じき祖。大鐸石和居命(おほぬでしわけのみこと)の後なり。
山守(やまもり)。
垂仁天皇の皇子、五十日足彦命(いかたらしひこのみこと)の後なり。
豊島連(てしまのむらじ)。
多朝臣(おほのあそみ)と同じき祖。彦八井耳命(ひこやゐみみのみこと)の後なり。日本紀に漏れたり。
松津首(まつつのおびと)。
豊島連と同じき祖。
道守臣(ちもりのおみ)。
道守朝臣と同じき祖。武葉頬別命(たけはつらわけのみこと)の後なり。
韓矢田部造(からやたべのみやつこ)。
上毛野朝臣(かみつけののあそみ)と同じき祖。豊城入彦命(とよきいりひこのみこと)の後なり。三世孫、弥母里別命(みもりわけのみこと)の孫、現古君(うつしこのきみ)、気長足比売(おきながのたらしひめ)[諡は神功]筑紫の橿冰宮(かしひのみや)に御宇(あまのしたしろしめ)しし時に、海中に物有り。現古君をつかはして、見しめたまひしに、復奏(かへりごとまを)す日(とき)に、韓蘇使主(からそのおみ)らを率て参来(まゐき)けり。これによりて、韓矢田部造といふ姓を賜ひき。日本紀に漏れたり。
車持公(くるまもちのきみ)。
同じき豊城入彦命の後なり。
河内国皇別
--------------------------------------------------------------------------------
阿閇朝臣に起(はじま)り、蓁原に尽(をは)る。三十六氏なり。
阿閇朝臣(あへのあそみ)。
阿倍朝臣と同じき祖。孝元天皇の皇子、大彦命(おほひこのみこと)の後(すゑ)なり。
阿閇臣(あへのおみ)。
阿閇朝臣と同じき祖。大彦命の男(こ)、彦瀬立大稲起命(ひこせたつおほいなこしのみこと)の後なり。
日下連(くさかのむらじ)。
阿閇朝臣と同じき祖。大彦命の男、紐結命(ひもゆひのみこと)の後なり。日本紀に漏れたり。
大戸首(おほへのおびと)。
阿閇朝臣と同じき祖。大彦命の男、比毛由比命(ひもゆひのみこと)の後なり。諡は安閑の御世に、河内国の日下大戸村(くさかのおほへのむら)に御宅(みやけ)を造立(た)てて、首(おびと)として仕えまつりき。よりて大戸首といふ姓を賜ふ。日本紀に漏れたり。
難波忌寸(なにはのいみき)。
大彦命の後なり。阿倍氏の遠祖、大彦命、磯城瑞籬宮御宇天皇(しきのみづがきのみやにあまのしたしろしめししすめらみこと)の御世に、蝦夷を治めに遣(つかは)されし時に、兎田(うだ)の墨坂(すみさか)に至りて、たちまちに嬰児(わくご)の啼泣(なくこえ)を聞きて、すなはち認(とめ)まぐに、棄てたる嬰児を獲(ひろひえ)き。大彦命、見て大く歓(よろこ)びて、すなはち乳母を訪求(もと)むるに、兎田弟原媛(うだのおとはらひめ)といふを得き。すなわち嬰児に付けて、「よく養(ひた)して長安(ひととな)さば、功にムクいむ」と曰へり。ここに人と成して奉送(おく)りければ、大彦命、子として愛育(いつくしみやしな)ひて、号(なづ)けて得彦宿禰(えひこのすくね)と曰へり。異説も並(また)あり。
難波(なには)。
難波忌寸と同じき祖。大彦命の孫、波多武彦命(はたのたけひこのみこと)の後なり。
道守朝臣(ちもりのあそみ。)
波多朝臣(はたのあそみ)と同じき祖。武内宿禰(たけしうちのすくね)の男、八多八代宿禰(はたのやしろのすくね)の後なり。日本紀に合へり。
山口朝臣(やまぐちのあそみ)。
道守朝臣と同じき祖。武内宿禰の後なり。続日本紀に合へり。
林朝臣(はやしのあそみ)。
上に同じ。
道守臣(ちもりのおみ)。
道守朝臣と同じき祖。武内宿禰の男、波多八代宿禰(はたのやしろのすくね)の後なり。
的臣(いくはのおみ)。
道守朝臣と同じき祖。武内宿禰の男、葛木曾都比古命(かつらきのそつひこのみこと)の後なり。
塩屋連(しほやのむらじ)。
上に同じ。日本紀に漏れたり。
小家連(をやけのむらじ)。
塩屋連と同じき祖。武内宿禰の男、葛木襲津彦命(かつらきのそつひこのみこと)の後なり。
原井連(はらゐのむらじ)。
上に同じ。続日本紀に漏れたり。
早良臣(さわらのおみ)。
平群朝臣(へぐりのあそみ)と同じき祖。武内宿禰の男、平群都久宿禰(へぐりのつくのすくね)の後なり。
布忍首(ぬのしのおびと)。
的臣(いくはのおみ)と同じき祖。武内宿禰の後なり。日本紀に漏れたり。
額田首(ぬかたのおびと)。
早良臣(さわらのおみ)と同じき祖。平群木兎宿禰(へぐりのつくのすくね)の後なり。父の氏を尋(つ)がずして、母の氏の額田首を負へり。
紀祝(きのはふり)。
建内宿禰(たけしうちのすくね)の男、紀角宿禰(きのつののすくね)の後なり。
紀部(きべ)。
建内宿禰の男、都野宿禰命(つののすくね)の後なり。
蘇何(そが)。
彦太忍信命(ひこふつおしのまことのみこと)の後なり。
大宅臣(おおやけのおみ)。
大春日(おほかすが)と同じき祖。天足彦国押人命(あまたらしひこくにおしひとのみこと)の後なり。
壬生臣(みぶのおみ)。
大宅と同じき祖。
物部(もののべ)。
天足彦国押人命の七世孫、米餅搗大使主命(たがねつきのおほおみのみこと)の後なり。
日下部連(くさかべのむらじ)。
彦坐命(ひこいますのみこと)の子、狭穂彦命(さほひこのみこと)の後なり。
川俣公(かわまたのきみ)。
日下部連と同じき祖。彦坐命の後なり。
豊階公(とよしなのきみ)。
河俣公(かはまたのきみ)と同じき祖。彦坐命の男、澤道彦命(さはぢひこのみこと)の後なり。
酒人造(さかひとのみやつこ)。
日下部と同じき祖。日本紀に見えず。
日下部(くさかべ)。
日下部連と同じき祖。
忍海部(おしのみべ)。
開化天皇の皇子、比古由牟須美命(ひこゆむすみのみこと)の後なり。
茨田宿禰(まむたのすくね)。
多朝臣(おほのあそみ)と同じき祖。彦八井耳命(ひこやゐみみのみこと)の後なり。男、野現宿禰(のみのすくね)、仁徳天皇の御代に、茨田堤を造れり。日本紀に合へり。
志紀県主(しきのあがたぬし)。
多と同じき祖。神八耳命(かむやゐみみのみこと)の後なり。
紺口県主(こむくのあがたぬし)。
志紀県主と同じき祖。神八耳命の後なり。
志紀首(しきのおびと)。
志紀県主と同じき祖。神八井耳命の後なり。
下家連(しもやけのむらじ)。
彦八井耳命の後なり。
江首(えのおびと)。
江人は彦八井耳命の七世孫、来目津彦命(くめつひこのみこと)の後に附けり。
大田宿禰(おほたのすくね)。
大碓命(おほうすのみこと)の後なり。
尾張部(おわりべ)。
彦八井耳命の後なり。
守公(もりのきみ)。
牟義公(むげのきみ)と同じき祖。大碓命の後なり。日本紀に漏れたり。
阿礼首(あれのおびと)。
守公と同じき祖。大碓命の後なり。
広来津公(ひろきつのきみ)。
上毛野朝臣(かみつけののあそみ)と同じき祖。豊城入彦命(とよきいりひこのみこと)の後なり。三世孫、赤麻里(あかまろ)、家地の名に依りて、尋来津君(ひろきつのきみ)と負ひき。
止美連(とみのむらじ)。
尋来津公と同じき祖。豊城入彦命の後なり。四世孫、荒田別命(あらたわけのみこと)の男、田道公(たぢのきみ)、百済国に遣わされて、止美邑(とみのむら)の呉女(くれのおみな)を娶(めと)りて生める男、持君(もちのきみ)。三世孫、熊(くま)。次に新羅(しらき)ら、欽明天皇の御世に参来(まゐれ)り。新羅の男、吉雄(よしを)、居(をる)ところに依りて、姓(うぢ)を止美連と賜ひきといふ。日本紀に漏れたり。
村挙首(むらげのおびと)。
豊城入彦命の後なり。
佐伯直(さへきのあたひ)。
大足彦忍代別天皇(おほたらしひこおしろわけのすめらみこと)の皇子、稲背入彦命(いなせいりひこのみこと)の後なり。日本紀に見えず。
蘇宜部首(そがべのおびと)。
仲哀天皇の皇子、誉屋別命(ほむやわけのみこと)の後なり。日本紀に漏れたり。
磯部臣(いそべのおみ)。
上に同じ。
蓁原(はりはら)。
誉田天皇の皇子、大山守命(おほやまもりのみこと)の後なり。
和泉国皇別
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道守朝臣に起(はじま)り、山公に尽(をは)る。三十三氏なり。
道守朝臣(ちもりのあそみ)。
波多朝臣(はたのあそみ)と同じき祖。八多八代宿禰(はたのやしろのすくね)の後(すゑ)なり。日本紀に合へり。
坂本朝臣(さかもとのあそみ)。
紀朝臣(きのあそみ)と同じき祖。建内宿禰(たけしうちのすくね)の男(こ)、紀角宿禰(きのつののすくね)の後なり。男、白城宿禰(しらぎのすくね)の三世孫、建日臣(たけひのおみ)、居(をるところ)に依りて姓(うぢ)を坂本臣と賜ひき。日本紀に合へり。
的臣(いくはのおみ)。
坂本朝臣と同じき祖。建内宿禰の男、葛城襲津彦命(かつらぎのそつひこのみこと)の後なり。
布師臣(ぬのしのおみ)。
上に同じ。
紀辛梶臣(きのからかぢのおみ)。
建内宿禰の男、紀角宿禰の後なり。
大家臣(おほやけのおみ)。
建内宿禰の男、紀角宿禰の後なり。諡は天智の庚午の年に、大家に居るに依りて、大宅臣(おほやけのおみ)の姓を負ひき。
掃守田首(かにもりたのおびと)。
武内宿禰(たけしうちのすくね)の男、紀角宿禰の後なり。
丈部首(はせつかべのおびと)。
上に同じ。
雀部臣(ささきべのおみ)。
多朝臣(おほのあそみ)と同じき祖。神八井耳命(かむやゐみみのみこと)の後なり。
小子部連(ちひさこべのむらじ)。
同じき神八井耳命の後なり。
志紀県主(しきのあがたぬし)。
雀部臣と同じき祖。
膳臣(かしはてのおみ)。
宇太臣(うだのおみ)。松原臣(まつばらのおみ)。阿倍朝臣(あへのあそみ)と同じき祖。大鳥膳臣(おほとりのかしはてのおみ)ら、大彦命(おほひこのみこと)の後に付けり。
他田(をさた)。
膳臣と同じき祖。
葦占臣(あしうらのおみ)。
大春日(おほかすが)と同じき祖。天足彦国押人命(あまたらしひこくにおしひとのみこと)の後なり。
物部(もののべ)。
布留宿禰(ふるのすくね)と同じき祖。天足彦国押人命の後なり。
網部物部(よさみべのもののべ)。
上に同じ。日本紀に漏れたり。
根連(ねのむらじ)。
上に同じ。
櫛代造(くしろのみやつこ)。
上に同じ。
日下部首(くさかべのおびと)。
日下部宿禰と同じき祖。彦坐命(ひこいますのみこと)の後なり。
日下部(くさかべ)。
日下部首と同じき祖。
佐代公(さてのきみ)。
上毛野朝臣(かみつけののあそみ)と同じき祖。豊城入彦命(とよきいりひこのみこと)の後なり。敏達天皇、吉野の川瀬に行幸(いでま)せる時に、勇(いさを)しきこと有るに依りて、佐代公を負はせ賜ひき。
珍県主(ちぬのあがたぬし)。
佐代公と同じき祖。豊城入彦命の三世孫、御諸別命(みもろわけのみこと)の後なり。日本紀に漏れたり。
登美首(とみのおびと)。
佐代公と同じき祖。豊城入彦命の男、倭日向建日向八綱田命(やまとひむかたけひむかやつなたのみこと)の後なり。日本紀に漏れたり。
葛原部(くずはらべ)。
佐代公と同じき祖。豊城入彦命の三世孫、大御諸別命(おほみもろわけのみこと)の後なり。日本紀に漏れたり。
茨木造(うまらきのみやつこ)。
豊城入彦命の後なり。
丹比部(たちひべ)。
上に同じ。日本紀に漏れたり。
軽部(かるべ)。
倭日向建日向八綱田命の後なり。雄略天皇の御世、加里(かる)の郷を献る。よりて姓を軽部君と賜ひき。
和気公(わけのきみ)。
犬上朝臣(いぬかみのあそみ)と同じき祖。倭建尊(やまとたけるのみこと)の後なり。
県主(あがたぬし)。
和気公と同じき祖。日本武尊(やまとたけるのみこと)の後なり。
酒部公(さかべのきみ)。
讃岐公(さぬきのきみ)と同じき祖。神櫛別命(かむくしわけのみこと)の後なり。
池田首(いけだのおびと)。
景行天皇の皇子、大碓命(おほうすのみこと)の後なり。日本紀に漏れたり。
聟本(むこもと)。
倭建尊の三世孫、大荒田命(おほあらたのみこと)の後なり。
山公(やまのきみ)。
垂仁天皇の皇子、五十日足彦別命(いかたらしひこわけのみこと)の後なり。
第 2帙
左京神別上
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藤原朝臣に起(はじま)り、猪名部造に尽(おは)る。三十八氏なり。
〈天神〉
藤原朝臣(ふぢはらのあそみ)。
津速魂命(つはやむすびのみこと)の三世孫、天児屋命(あまのこやねのみこと)より出づ。二十三世孫、内大臣大織冠中臣連鎌子(なかとみのむらじかまこ)[古記に鎌足と云ふ]、天命開別天皇(あめみことひらかすわけのすめらみこと)[諡は天智]八年に、藤原氏を賜ふ。男(こ)、正一位贈太政大臣不比等(ふひと)、天渟中原瀛真人天皇(あまのぬなはらおきのまひとのすめらみこと)[諡は天武]十三年に、朝臣の姓を賜ひき。
大中臣朝臣(おほなかとみのあそみ)。
藤原朝臣と同じき祖。
中臣酒人宿禰(なかとみのさかひとのすくね)。
大中臣朝臣と同じき祖。天児屋根命の十世孫、臣狭山命(おみさやまのみこと)の後(すゑ)なり。
伊香連(いかごのむらじ)。
大中臣と同じき祖。天児屋命の七世孫、臣知人命(おみしるひとのみこと)の後なり。
中臣宮処連(なかとみのみやところのむらじ)。
大中臣と同じき祖。
中臣方岳連(なかとみのかたをかのむらじ)。
大中臣と同じき祖。
中臣志斐連(なかおみのしひのむらじ)。
天児屋命の十一世孫、雷大臣命(いかつおほおみのみこと)の男、弟子(おとこ)の後なり。六世孫、意富乃古連(おほのこのむらじ)、雄略の御世に、東夷(あづまのえみし)にまつろはぬ民あり。人毎に力強くして、朝軍を押防げり。ここに意富乃古連、甲冑を五重(いつへ)きて、敵の庭に跨進(すす)みて、官軍を労すこと無くして、一朝(たちまち)に夷滅しき。天皇、その功積を悦(め)でたまひて、名字(な)を更加(あらた)めて、暴代連(あらてのむらじ)と号(い)ひき。
殖栗連(ゑぐりのむらじ)。
大中臣と同じき祖。
中臣大家連(なかとみのおおやけのむらじ)。
大中臣と同じき氏。
中村連(なかむらのむらじ)。
己々都生須比命(こことむすびのみこと)の子、天乃古矢根命(あまのこやねのみこと)の後なり。
石上朝臣(いそのかみのあそみ)。
神饒速日命(にぎはやひのみこと)の後なり。
穂積朝臣(ほつみのあそみ)。
石上と同じき祖。神饒速日命の五世孫、伊香色雄命(いかがしこをのみこと)の後なり。
阿刀宿禰(あとのすくね)。
石上と同じき祖。
若湯坐宿禰(わかゆゑのすくね)。
石上と同じき祖。
舂米宿禰(つきしねのすくね)。
石上と同じき祖。
小治田宿禰(をはりたのすくね)。
石上と同じき祖。欽明天皇の御代に、小治田の鮎田を墾開けるに依りて、小治田大連を賜ふ。
弓削宿禰(ゆげのすくね)。
石上と同じき祖。
氷宿禰(ひのすくね)。
石上と同じき祖。
穂積臣(ほつみのおみ)。
伊香賀色雄(いかがしこを)の男、大水口宿禰(おほみなくちのすくね)の後なり。
矢田部連(やたべのむらじ)。
伊香我色乎命(いかがしこをのみこと)の後なり。
矢集連(やつめのむらじ)。
上に同じ。
物部肩野連(もののべのかたののむらじ)。
上に同じ。
柏原連(かしははらのむらじ)。
上に同じ。
依羅連(よさみのむらじ)。
饒速日命の十二世孫、懐大連(ふつくるおほむらじ)の後なり。
柴垣連(しばかきのむらじ)。
上に同じ。
佐為連(さゐのむらじ)。
速日命の六世孫、伊香我色乎命の後なり。
葛野連(かづぬのむらじ)。
上に同じ。
登美連(とみのむらじ)。
上に同じ。
水取連(もひとりのむらじ)。
上に同じ。
大貞連(おほさだのむらじ)。
速日命(はやひのみこと)の十五世孫、弥加利大連(みかりのおほむらじ)の後なり。上宮太子(かみつみやのひつぎのみこ)、摂政之年に、大椋官(おほくらのつかさ)に任けられぬ。時に家の辺に大俣(おほまた)の楊(やなぎ)の樹あり。太子、巻向宮(まきむくのみや)に巡行(いでま)せる時に、親ら樹を指して問ひたまひて、すなわち阿比太連(あひたのむらじ)に詔して、大俣連を賜ひき。四世孫、正六位上千継(ちつぎ)等に、天平神護元年に、字を改めて大貞連と賜ひき。
曾禰連(そねのむらじ)。
石上と同じき祖。
越智直(をちのあたひ)。
石上と同じき祖。
衣縫造(きぬぬひのみやつこ)。
石上と同じき祖。
軽部造(かるべのみやつこ)。
石上と同じき祖。
物部(もののべ)。
石上と同じき祖。
真神田曾禰連(まかみたのそねのむらじ)。
神饒速日命の六世孫、伊香我色乎命の男、気津別命(けつわけのみこと)の後なり。
大宅首(おほやけのおびと)。
大閇蘇杵命(おほへそきのみこと)の孫、建新川命(たけにひかはのみこと)の後なり。
猪名部造(ゐなべのみやつこ)。
伊香我色男命の後なり。
左京神別中
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大伴宿禰に起り、佐伯連に尽る。二十三氏なり。
〈天神〉
大伴宿禰(おほとものすくね)。
高皇産霊尊(たかみむすびのみこと)の五世孫、天押日命(あまのおしひのみこと)の後(すゑ)なり。
はじめ、天孫彦火瓊々杵尊(あまつひこひこほのににぎのみこと)、神駕之降(あまくだり)まししときに、天押日命、大来目部(おほくめら)、御前に立ちて日向の高千穂峯に降りましき。その後、大来目部を以て、天靫部(あまのゆげひのとものを)と為しき。靫負の号(な)これより起れり。
雄略天皇の御世に、入部靫負(いりべのゆげひ)を以て大連公に賜ひしに、奏曰(まを)さく、「門(みかど)を衛りて開き闔(と)づる務は、職としてすでに重し。もし一身(ひとりみ)なりせば堪へ難からむ。望むらくは、愚児(あがこ)、語(かたり)と、相伴(とも)に左右を衛り奉らむ」と。勅して奏すがままにせしめたまひき。これ大伴、佐伯の二氏が、左右の開き闔づることを掌る縁(もと)なり。
佐伯宿禰(さへきのすくね)。
大伴宿禰と同じき祖。道臣命(みちのおみのみこと)の七世孫、室屋大連公(むろやのおほむらじのきみ)の後なり。
大伴連(おほとものむらじ)。
道臣命の十世孫、佐弖彦(さてひこ)の後なり。
榎本連(えのもとのむらじ)。
上に同じ。
神松造(かみまつのみやつこ)。
道臣の八世孫、金村大連公(かなむらのおおむらじのきみ)の後なり。
日奉連(ひまつりのむらじ)。
高魂命(たかみむすびのみこと)の後なり。
県犬養宿禰(あがたのいぬかひのすくね)。
神魂命(かみむすびのみこと)の八世孫、阿居太都命(あけたつのみこと)の後なり。
大椋置始連(おほくらのおきそめのむらじ)。
県犬甘(あがたのいぬかひ)と同じき祖。
雄儀連(をぎのむらじ)。
角凝命(つぬこりのみこと)の十五世孫、乎伏連(をふせのむらじ)の後なり。
竹田連(たけたのむらじ)。
神魂命の十三世孫、八束脛命(やつかはぎのみこと)の後なり。
掃守連(かにもりのむらじ)。
振魂命(ふるむすびのみこと)の四世孫、天忍人命(あまのおしひとのみこと)の後なり。
小山連(をやまのむらじ)。
高御魂命(たかみむすびのみこと)の子、櫛玉命(くしたまのみこと)の後なり。
畝尾連(うねをのむらじ)。
天辞代命(あまのことしろのみこと)の子、国辞代命(くにのことしろのみこと)の後なり。
久米直(くめのあたひ)。
高御魂命の八世孫、味耳命(うましみみのみこと)の後なり。
浮穴直(うきあなのあたひ)。
移受牟受比命(やすむすびのみこと)の五世孫、弟意孫連(おとおびこのむらじ)の後なり。
宮部造(みやべのみやつこ)。
天壁立命(あまのかべたちのみこと)の子、天背男命(あまのせをのみこと)の後なり。
間人宿禰(はしひとのむらじ)。
神魂命の五世孫、玉櫛比古命(たまくしひこのみこと)の後なり。
爪工連(はたくみのむらじ)。
神魂命の子、多久都玉命(たくつたまのみこと)の三世孫、天仁木命命(あまのにきのみこと)の後なり。
多米連(ためのむらじ)。
多米宿禰と同じき祖。神魂命の五世孫、天日和志命(あまのひわしのみこと)の後なり。成務天皇の御世に、炊職(みかしきのつかさ)に仕へ奉りて、多米連を賜ひき。
〈天孫〉
出雲宿禰(いづものすくね)。
天穂日命(あまのほひのみこと)の子、天夷鳥命(あまのひなとりのみこと)の後なり。
出雲(いづも)。
天穂日命の五世孫、久志和都命(くしわつのみこと)の後なり。
入間宿禰(いるまのすくね)。
同じき神の十七世孫、天日古曾乃己呂命(あまのひこそのころのみこと)の後なり。
佐伯連(さへきのむらじ)。
木根乃命(きねのみこと)の男(こ)、丹波真太玉(たにはのまふとたま)の後なり。
左京神別下
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伊勢朝臣に起り、石辺公に尽る。二十一氏なり。
〈天神〉
伊勢朝臣(いせのあそみ)。
天底立命(あまのそこたちのみこと)の孫、天日別命(あまのひわけのみこと)の後(すゑ)なり。
弓削宿禰(ゆげのすくね)。
高魂命(たかみむすびのみこと)の孫、天日鷲翔矢命(あまのひわしかけるやのみこと)の後なり。
若倭部(わかやまとべ)。
神饒速日命(にぎはやひのみこと)の十八世孫、子田知(こたち)の後なり。
〈天孫〉
尾張宿禰(をはりのすくね)。
火明命(ほあかりのみこと)の二十世孫、阿曾禰連(あそねのむらじ)の後なり。
尾張連(おわりのむらじ)。
尾張宿禰と同じき祖。火明命の男、天賀吾山命(あまのかごやまのみこと)の後なり。
伊福部宿禰(いほきげすくね)。
尾張連と同じき祖。火明命の後なり。
湯母竹田連(ゆおものたけだのむらじ)。
火明命の五世孫、建刀米命(たけとめのみこと)の後なり。男(こ)、武田折命(たけだをりのみこと)、景行天皇の御世に、殖(うゑ)むことを疑(はかり)て田を賜ひしが、夜宿(ひとよ)の間に、菌(たけ)、その田に生ひぬ。天皇、聞食(きこしめ)して、姓(かばね)を菌田連(たけだのむらじ)と賜ひき。後に改めて湯母竹田連と為す。
竹田川辺連(たけだのかはのべのむらじ)。
同じき命の五世の後なり。仁徳天皇の御世に、大和国十市郡の刑坂川(おさかがは)の辺に竹田神社あり。因(よ)りて氏神として、同居(そこ)に住めり。緑竹大きく美しかりければ、御箸の竹に供りき、これに因りて竹田川辺連を賜ひき。
石作連(いしづくりのむらじ)。
火明命の六世孫、建真利根命(たけまりねのみこと)の後なり。垂仁天皇の御世に、皇后日葉酢媛命(ひはすひめのみこと)の奉為(みため)に、石棺を作りて献りき。よりて姓を石作大連公と賜ふなり。
檜前舎人連(ひのくまのとねりのむらじ)。
火明命の十四世孫、波利那乃連公(はりなのむらじのきみ)の後なり。
榎室連(えむろのむらじ)。
火明命の十七世孫、呉足尼(くれのすくね)の後なり。山猪子連(やまゐこのむらじ)等、上宮豊聡耳皇太子(かみつみやのとよとみみのひつぎのみこ)の御杖代に仕へ奉(まつ)りき。その時に、太子、山代国に巡行(いでま)せり。時に、古麻呂(こまろ)が家、山城国久世郡水主村(くぜのこほりみぬしのむら)にあり。その門に大榎樹(おほえのき)ありければ、太子曰はく、「この樹は室なせり。大雨も漏らじ。」とのたまふ。よりて榎室連を賜ひき。
丹比須布(たぢひのすふ)。
火明命の三世孫、天忍男命(あまのおしをのみこと)の後なり。
但馬海直(たぢまのあまのあたへ)。
火明命の後なり。
大炊刑部造(おほひのおさかべのみやつこ)。
火明命の四世孫、阿麻刀禰命(あまとねのみこと)の後なり。
坂合部宿禰(さかひべのすくね)。
火明命の八世孫、邇倍足尼(にへのすくね)の後なり。
額田部湯坐連(ぬかたべのゆゑのむらじ)。
天津彦根命(あまつひこねのみこと)の子、明立天御影命(あけたつあまのみかげのみこと)の後なり。允恭天皇の御世に、薩摩国に遣されて、隼人を平(ことむ)けて、復奏しし日に、御馬ひとつを献りけるに、額に町形の廻毛(つむじ)あり。天皇嘉ばせたまひて、姓を額田部と賜ふなり。
三枝部連(さきくさべむらじ)。
額田部湯坐連と同じき祖、顕宗天皇の御世に、諸氏の人どもを喚集(めしつど)へて、饗アヘ(みあへ)を賜へり。時に、三茎の草、宮庭に生ひたるを採りて奉献れり。よりて姓を三枝部造と負ひき。
奄智造(あむちのみやつこ)。
額田部湯坐連と同じき祖。
額田部(ぬかたべ)。
同じき命の孫、意富伊我都命(おほいがつのみこと)の後なり。
〈地祇〉
弓削宿禰(ゆげのすくね)。
天押穂根命(あまのおしほねのみこと)、御手を洗(すま)したまふときに、水中より化生(なりま)せる神、爾伎都麻(にきつま)より出づ。
石辺公(いそべのきみ)。
大国主(おほくにぬし)[古記一(ある)にいわく、大物主]命の男、久斯比賀多命(くしひかたのみこと)の後なり。
右京神別上
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采女朝臣に起(はじま)り、神門臣に尽(をは)る。三十六氏なり。
〈天神〉
采女朝臣(うねめのあそみ)。
石上朝臣(いそのかみのあそみ)と同じき祖。神饒速日命(にぎはやひのみこと)の六世孫、大水口宿禰(おほみなくちのすくね)の後なり。
中臣習宜朝臣(なかとみのすげのあそみ)。
同じき神の孫、味瓊杵田命(うましにぎたのみこと)の後なり。
中臣熊凝朝臣(なかとみのくまこりのあそみ)。
上に同じ。
巫部宿禰(かむなぎべのすくね)。
同じき神の六世孫、伊香我色雄命(いかがしこをのみこと)の後(すゑ)なり。
箭集宿禰(やつめのすくね)。
上に同じ。
内田臣(うちたのおみ)。
上に同じ。
長谷置始連(はつせのおきそめのむらじ)。
同じき神の七世彦、大新河命(おほにひかはのみこと)の後なり。
高橋連(たかはしのむらじ)。
上に同じ。
水取連(もひとりのむらじ)。
同じき神の六世孫、伊香我色雄命の後なり。
小治田連(をはりたのむらじ)。
上に同じ。
依羅連(よさみのむらじ)。
同じき神の十世孫、伊己布都大連(いこふつのおほむらじ)の後なり。
曾禰連(そねのむらじ)。
同じき神の六世の後なり。
肩野連(かたののむらじ)。
上に同じ。
若桜部造(わかさくらべのみやつこ)。
同じき神の三世孫、出雲色男命(いづもしこをのみこと)の後なり。四世孫、物部長真胆連(もののべのながまいのむらじ)、はじめ、去来穂別天皇(いざほわけのすめらみこと)[諡は履中]両枝船(ふたまたぶね)を磐余の市磯池(いちしのいけ)にうかべて、皇妃と分かち駕(の)りて遊宴(あそ)びたまふ。この時に、膳臣余磯(かしはでのおみあれし)、酒を献りけるに、桜の花飛び来て、御盞(おほみさかづき)に浮かべり。天皇、異(あやし)びたまひて、物部長真胆連を遣して、尋ね求めしめたまひしに、すなはち掖上(わきがみ)の室山に俘(と)り得て献る。天皇歓びて、余磯に姓を稚桜部臣(わかさくらべのおみ)と賜ひ、長真胆連に姓を稚桜部造と賜ふ。
大宅首(おほやけのおびと)。
大閇蘇杵命(おほへそきのみこと)の孫、建新川命(たけにひかはのみこと)の後なり。
神麻積連(かむをみのむらじ)。
天物知命(あまのものしりのみこと)の後なり。
鳥取連(ととりのむらじ)。
角凝魂命(つぬこりむすびのみこと)の三世孫、天湯河桁命(あまのゆかはたなのみこと)の後なり。垂仁天皇の皇子、誉津別命(ほむつわけのみこと)、年三十になるまで、言(まこと)語(と)はさず。時に飛べる鵠(くぐひ)を見て、問曰(と)ひたまはく、「此は何物ぞ」とのたまふ。ここに天皇、悦びたまひて、天湯河桁を遣して尋ね求めしめたまふ。出雲国の宇夜江(うやのえ)にいたりて、捕りて貢りき。天皇大く嘉でたまひ、すなはち姓を鳥取連と賜ひき。
三島宿禰(みしまのすくね)。
神魂命(かみむすびのみこと)の十六世孫、建日穂命(たけひほのみこと)の後なり。
天語連(あまかたりのむらじ)。
県犬養宿禰(あがたのいぬかひのすくね)と同じき祖。神魂命の七世孫、天日鷲命(あまのひわしのみこと)の後なり。
佐伯造(さへきのみやつこ)。
天雷神(あまいかづちのかみ)の孫、天押人命(あまのおしひとのみこと)の後なり。
大伴大田宿禰(おほとものおほたのすくね)。
高魂命(たかみむすびのみこと)の六世孫、天押日命(あまのおしひのみこと)の後なり。
佐伯日奉造(さへきのひまつりのみやつこ)。
天押日命の十一世孫、談連(かたりのむらじ)の後なり。
高志連(こしのむらじ)。
高魂命の九世孫、日臣命(ひのおみのみこと)の後なり。
高志壬生連(こしのみぶのむらじ)。
日臣命の七世孫、室屋大連(むろやのおほむらじ)の後なり。
額田部宿禰(ぬかたべのすくね)。
明日名門命(あすなどのみこと)の三世孫、天村雲命(あまのむらくものみこと)の後なり。
額田部ミカ玉(ぬかたべのみかたま)。
額田部宿禰と同じき祖。明日名門命の十一世孫、御支宿禰(みきのすくね)の後なり。
久米直(くめのあたひ)。
神魂命の八世孫、味日命(うましひのみこと)の後なり。
屋連(やのむらじ)。
神御魂命(かみむすびのみこと)の十世孫、天御行命()の後なり。
多米宿禰(ためのすくね)。
同じき神の五世孫、天日鷲命(あまのひわしのみこと)の後なり。成務天皇の御世に、大炊寮(おほひのつかさ)に仕へ奉れるに、御飯の香美しかりかれば、特に嘉き名を賜ひき。
斎部宿禰(いみべのすくね)。
高皇産霊尊(たかみむすびのみこと)の子、天太玉命(あまのふとたまのみこと)の後なり。
玉祖宿禰(たまのやのすくね)。
高御牟須比乃命(たかみむすびのみこと)の十三世孫、大荒木命(おほあらきのみこと)の後なり。
忌玉作(いみたまつくり)。
高魂命の孫、天明玉命(あまのあかるたまのみこと)の後なり。天津彦火瓊々杵命(あまつひこほのににぎのみこと)、葦原の中国(なかつくに)に降幸(あも)りましし時に、五氏(いつとものを)の神部(かみたち)と、皇孫に陪従(したが)ひて降り来ましき。この時に、玉璧を造作(つく)りて、以て神幣と為たまひき。かれ、玉祖連(たまのやのむらじ)と号(い)ひ、また玉作連とも号ふ。
波多門部造(はたのかどへのみやつこ)。
神魂命の十三世孫、意富支閇連公(おほきへのむらじのきみ)の後なり。
壱岐直(いきのあたへ)。
天児屋命(あまのこやねのみこと)の九世孫、雷大臣(いかつのおほおみ)の後なり。
〈天孫〉
出雲臣(いづものおみ)。
天穂日命の十二世孫、鵜濡渟命(うかつくぬのみこと)の後なり。
神門臣(かむとのおみ)。
上に同じ。
右京神別下
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若倭部連に起り、倭太に尽る。二十九氏なり。
〈天神〉
若倭部連(わかやまとべのむらじ)。
神魂命(かみむすびのみこと)の七世孫、天筒草命(あまつつくさのみこと)の後(すゑ)なり。
伊与部(いよべ)。
高媚牟須比命(たかみむすびのみこと)の三世孫、天辞代主命(あまことしろぬしのみこと)の後なり。
〈天孫〉
土師宿禰(はじのすくね)。
天穂日命(あまのほひのみこと)の十二世孫、可美乾飯根命(うましからひのみこと)の後なり。光仁天皇の天応元年に、土師を改めて菅原(すがはら)の氏を賜ふ。勅ありて改めて大枝朝臣(おほえのあそみ)の姓を賜ひき。
菅原朝臣(すがはらのあそみ)。
土師宿禰と同じき祖。乾飯根命(からひねのみこと)の七世孫、大保度連(おほほのむらじ)の後なり。
秋篠朝臣(あきしののあそみ)。
上に同じ。
大枝朝臣(おほえのあそみ)。
上に同じ。
丹比宿禰(たぢひのすくね)。
火明命(ほあかりのみこと)の三世孫、天忍男命(あまのおしをのみこと)の後なり。
男(こ)、武額赤命(たけぬかかのみこと)の七世孫、御殿宿禰(みとののすくね)の男、色鳴(しこめ)、大鷦鷯天皇(おほさざきのすめらみこと)の御世に、皇子瑞歯別尊(みづはわけのみこと)、淡路宮に誕生(あ)れましし時に、淡路の瑞井(みづゐ)の水を御湯に灌(そそ)ぎ奉りき。時に虎杖(いたどり)の花飛(ち)りて、御湯の盆の中に入りき。
色鳴宿禰、天神寿詞をたたへ、号(な)を奉りて多治比瑞歯別命(たぢひのみづはわけのみこと)と曰(まを)す。
すなわち丹治部を諸国に定めて、皇子の湯沐邑(ゆのむら)としたまふ。すなわち色鳴をもつて宰(みこともち)として、丹比部の戸を領らしめたまひき。よりて丹比連と号けて、遂に氏姓となれり。
その後、庚午の年、新家を作るに因りて、新家の二字を加へて、丹比新家連と為き。
尾張連(をはりのむらじ)。
火明命の五世孫、武礪目命(たけとめのみこと)の後なり。
伊与部(いよべ)。
上に同じ。
六人部(むとりべ)。
上に同じ。
子部(こべ)。
火明命の五世孫、建刀米命(たけとめのみこと)の後なり。
大炊刑部造(おほひのおさかべのみやつこ)。
同じき神の三世孫、天礪目命(あまとめのみこと)の後なり。
朝来直(あさこのあたへ)。
上に同じ。
若倭部(わかやまとべ)。
同じき神の四世孫、建額明命(たけぬかかのみこと)の後なり。
川上首(かはかみのおびと)。
火明命の後なり。
坂合部宿禰(さかあひべのすくね)。
火闌降命(ほのすそりのみこと)の八世孫、邇倍足尼(にへのすくね)の後なり。
阿多御手犬養(あたのみてのいぬかひ)。
同じき神の六世孫、薩摩若相楽(さつまのわかさがら)の後なり。
滋野宿禰(しげののすくね)。
紀直(きのあたひ)と同じき祖。神魂命の五世孫、天道根命(あまのみちねのみこと)の後なり。
大村直(おほむらのあたひ)。
天道根命の六世孫、君積命(きみつみのみこと)の後なり。
大家首(おほやけのおびと)。
天道尼乃命(あまのみちねのみこと)の孫、比古摩夜真止乃命(ひこまやまとのみこと)の後なり。
高市連(たけちのむらじ)。
額田部(ぬかたべ)と同じき祖。天津彦根命(あまつひこねのみこと)の三世孫、彦伊賀都命(ひこいがつのみこと)の後なり。
桑名首(くはなのおびと)。
天津彦根命の男、天久之行比之命(あまのくしゆくひのみこと)の後なり。
〈地祇〉
宗形朝臣(むなかたのあそみ)。
大神朝臣(おほみわのあそみ)と同じき祖。吾田片隅命(あたかたすみのみこと)の後なり。
安曇宿禰(あづみのすくね)。
海神綿積豊玉彦神(わたつみとよたまひこのかみ)の子、穂高見命(ほたかみのみこと)の後なり。
海犬養(あまのいぬかひ)。
海神綿積命の後なり。
凡海連(おほしあまのむらじ)。
同じき神の男、穂高見命の後なり。
青海首(あをみのおびと)。
椎根津彦命(しひねつひこのみこと)の後なり。
八木造(やぎのみやつこ)。
和多羅豊命(わたらとよのみこと)の児、布留多摩乃命(ふるたまのみこと)の後なり。
倭太(わた)。
神知津彦命(しりつひこのみこと)の後なり。
山城国神別
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阿刀宿禰に起り、狛人野に尽る。四十五氏なり。
〈天神〉
阿刀宿禰(あとのすくね)。
石上朝臣と同じき祖。饒速日命(にぎはやひのみこと)の孫、味饒田命(うましにぎたのみこと)の後なり。
阿刀連(あとのむらじ)。
上に同じ。
熊野連(くまののむらじ)。
上に同じ。
宇治宿禰(うぢのすくね)。
饒速日命の六世孫、伊香我色雄命(いかがしこをのみこと)の後なり。
佐為宿禰(さゐのすくね)。
上に同じ。
佐為連(さゐのむらじ)。
同じき神の八世孫、物部牟伎利足尼(もののべのむきりのすくね)の後なり。
中臣葛野連(なかとみのかどののむらじ)。
同じき神の九世孫、伊久比足尼(いくひのすくね)の後なり。
巫部連(かむなびべのむらじ)。
同じき神の十世孫、伊己布都乃連公(いこふつのむらじのきみ)の後なり。
高橋連(たかはしのむらじ)。
同じき神の十二世孫、小前宿禰(をまへのすくね)の後なり。
宇治山守連(うぢのやまもりのむらじ)。
同じき神の六世孫、伊香我色雄命の後なり。
奈癸私造(なきのきさいちべのみやつこ)。
上に同じ。
真髪部造(まかみべのみやつこ)。
神饒速日命の七世孫、大売大布乃命(おほめおほふのみこと)の後なり。
今木連(いまきのむらじ)。
上に同じ。
奈癸勝(なきのすぐり)。
佐為宿禰と同じき祖。
額田臣(ぬかたのおみ)。
伊香我色雄命の後なり。
筑紫連(つくしのむらじ)。
饒速日命の男(こ)、味真治命(うましまぢのみこと)の後なり。
秦忌寸(はたのいみき)。
神饒速日命の後なり。
錦部首(にしこりのおびと)。
同じき神の十二世孫、物部目大連(もののべのめのおほむらじ)の後なり。
鳥取連(ととりのむらじ)。
天角己利命(あまのつぬこりのみこと)の三世孫、天湯河板挙命(あまのゆかはたなのみこと)の後なり。
今木連(いまきのむらじ)。
神魂命(かみむすびのみこと)の五世孫、阿麻乃西乎乃命(あまのせをのみこと)の後なり。
巨椋連(おほくらのむらじ)。
今木連と同じき祖。止与波知命(とよはちのみこと)の後なり。
額田部宿禰(ぬかたべのすくね)。
明日名門命(あすなとのみこと)の六世孫、天由久富命(あまのゆくとみのみこと)の後なり。
賀茂県主(かものあがたぬし)。
神魂命の孫、武津之身命(たけつのみのみこと)の後なり。
鴨県主(かもあがたぬし)。
賀茂県主と同じき祖。神日本磐余彦天皇(かむやまといはれひこのすめらみこと)[諡は神武]中洲(うちつくに)に向(いでま)さんとする時に、山の中、嶮絶(さが)しくして、跋(ふ)みゆかむに路を失ふ。ここに、神魂命の孫、鴨建津之身命、大きなる烏(からす)となりて、翔(と)び飛(かけ)り導き奉りて、遂に中洲に達(とほりいた)る。天皇その功あるを嘉したまひて、特に厚く褒め賞(たま)ふ。天八咫烏(あまのやたからす)の号(な)は、これより始りき。
矢田部(やたべ)。
鴨県主と同じき祖。鴨建津身命(かものたけつのみのみこと)の後なり。
丈部(はせつかべ)。
上に同じ。
西泥士部(かはちのはづかしべ)。
鴨県主と同じき祖。鴨建玉依彦命(かものたけたまよりひこのみこと)の後なり。
祝部(はふりべ)。
同じき祖。建角身命(たけつのみのみこと)の後なり。
税部(ちからべ)。
神魂命の子、角凝魂命(つぬこりのみこと)の後なり。
呉公(くれのきみ)。
天相命(あまあひのみこと)の十三世孫、雷大臣命(いかつおほおみのみこと)の後なり。
神宮部造(かむみやべのみやつこ)。
葛木猪石岡(かつらぎのゐのいしをか)に天下りませる神、天破命(あまひらくのみこと)の後なり。六世孫、吉足日命(えたらしひのみこと)、磯城瑞籬宮御宇(しきのみづがきのみやにあまのしたしろしめしし)[諡は崇神]天皇の御世に、天下にマガゴトおこりき。かれ、吉足日命を遣して、大物主神を斎き祭らしめたまひしかば、マガ異(まがごと)すなはち止みき。天皇詔して曰はく、天下のマガゴト消(や)み、百姓(おほみたから)福を得つ。いまより以後、宮能売神(みやのめのかみ)となるべしとのたまふ。よりて姓を宮能売公(みやのめのきみ)と賜ひき。そののち、庚午年籍に、神宮部造と注せり。
管田首(すがたのおびと)。
天久斯麻比止都命(あまくしまひとつのみこと)の後なり。
〈天孫〉
土師宿禰(はじのすくね)。
天穂日命(あまのほひのみこと)の十四世孫、野見宿禰(のみのすくね)の後なり。
出雲臣(いずものおみ)。
同じき神の子、天日名鳥命(あまのひなとりのみこと)の後なり。
出雲臣(いずものおみ)。
同じき天穂日命の後なり。
尾張連(をはりのむらじ)。
火明命(ほあかりのみこと)の子、天香山命(あまのかごやまのみこと)の後なり。
六人部連(むとべのむらじ)。
火明命の後なり。
伊福部(いほきべ)。
上に同じ。
石作(いしつくり)。
上に同じ。
水主直(みぬしのあたへ)。
上に同じ。
三富部(みとべ)。
上に同じ。
山背忌寸(やましろのいみき)。
天都比古禰命(あまつひこねのみこと)の子、天麻比止都禰命(あまのまひとつねのみこと)の後なり。
阿多隼人(あたのはやと)。
富乃須佐利乃命(ほのすさりのみこと)の後なり。
〈地祇〉
石辺公(いそべのきみ)。
大物主命の子、久斯比賀多命(くしひかたのみこと)の後なり。
狛人野(こまひとの)。
同じき命の児、櫛日方命(くしひかたのみこと)の後なり。
大和国神別