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新型コロナの複数回感染、「ただの風邪」か「リスク増」なのか谷口恭・太融寺町谷口医院院長

2023年5月22日

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伊勢神宮の門前町「おはらい町」では、多くの人がマスクなしで観光を楽しんでいた＝三重県伊勢市で2023年5月8日午後0時29分、大竹禎之撮影

　再び感染者数が上昇傾向にあるとはいえ、新型コロナウイルス感染症（以下、単に「コロナ」）に対する警戒感は大きく低下し、マスクをしない人が次第に増えてきています。飲食店は息を吹き返し、リモートワークが縮小し、既に世界は「コロナ前」にほぼ戻ったと言っていいでしょう。コロナの脅威度に対する考え方も大きく変わってきており、多くの人はコロナなんて「ただの風邪」と考えるようになってきています。もちろん一方では、免疫抑制剤を使っている、人工透析を受けている、などで重症化リスクのある人たちもいますから、誰にとっても「ただの風邪」ではありません。では、コロナに何度も感染することにはどのようなリスクがあるのでしょうか。何度感染しても「ただの風邪」で済ませていいのでしょうか。今回はコロナに複数回感染したときのリスクについて、世界の研究を紹介し、さらに私見を述べたいと思います。

「再感染時には軽症」という研究結果

　まずは初回感染時と再感染時の経過を比較した研究を紹介しましょう。医療サイト「medRxiv」に2023年3月6日に掲載された論文「コロナ連続感染のウイルス動態（Viral kinetics of sequential SARS-CoV-2 infections）」です。なお、「medRxiv」は、医学誌に掲載される前の査読（専門家によるチェック）を経ていない論文を集めたサイトです。

　研究の対象者はNBA（米プロバスケットボール協会）の選手や関係者などで、調査期間は2020年3月11日から2022年7月28日まで。42万4401の検体を検査して、3021人、3346検体が陽性と診断されました。初感染の場合、ウイルス量が大きく減少するのに平均で7.2日かかったのに対し、再感染の場合は平均4.9日と短縮されていました。また、初感染と2回目の感染の間にワクチンを接種していた人はより早くウイルスが消えていました。

　次に紹介するのは医学誌「The New England Journal of Medicine」2021年11月24日号に掲載された「初感染と比較したコロナ再感染時の重症度（Severity of SARS-CoV-2 Reinfections as Compared with Primary Infections）」です。

　この研究はカタール人のデータベースが解析されたものです。初感染者6095人のうち重症化または死亡した例が193件なのに対し、再感染者1300人で重症化または死亡した例は4件です。再感染時の重症化/死亡化率は1割まで低下していることになります。

　英国の研究も紹介しましょう。医学誌「Journal of Infection」2022年1月24日号に掲載された論文「新型コロナ再感染時の重症度:全国調査（Disease severity during SARS-COV-2 reinfection: a nationwide study）」です。

　イングランドでは2020年1月27日から2021年5月2日までに、コロナの初感染者が386万54人、再感染者が1万3960人でした。コロナ陽性反応が出てから28日以内に報告された死亡率は、コロナの再感染時には初感染時に比べて61％低下していました。ワクチン接種を受けていないグループでの再感染は、重症化リスクがない50～65歳の入院率が49％低下していました。重症化リスクのある人でみれば34％低下していました。初感染と比較して、再感染時の集中治療室（ICU）への入室率は76%減少していました。

重症者の治療に使われる人工心肺装置「ECMO（エクモ）」が稼働する病室で患者のケアにあたる看護師ら＝福岡市城南区の福岡大病院で2020年12月24日、矢頭智剛撮影対象によっては重症リスクが増すとの結果も

　米国、カタール、英国（イングランド）のこれら三つの研究では、再感染時には軽症で済むことを示唆しています。一方、再感染時にリスクが上昇するという研究もあります。

　医学誌「nature medicine」2022年11月10日号に掲載された論文「コロナの再感染に伴う急性およびその後の後遺症（Acute and postacute sequelae associated with SARS-CoV-2 reinfection）」を紹介します。この研究では米国退役軍人省（US Department of Veterans Affairs）の電子カルテが解析されています。コロナに1度のみ感染した感染者が約44万人、2回以上の感染が約4万1000人です。1度だけ感染した人と2回以上感染した人の結果が比較されています。繰り返し感染した人は、1回だけの人に比べて、死亡するリスクが2.17倍、入院するリスクが3.32倍上昇していました。

　先に紹介した三つの研究とは異なり、この調査では感染を繰り返すことで重症化リスク及び死亡リスクが上昇するとしています。では、なぜこのような差が出るのでしょうか。おそらくその原因は「対象者」にあると思われます。米国退役軍人省の保険を有する人は、大半が高齢男性です。そもそも高齢者はそれだけでコロナの重症化リスクが高くなります。つまり、「重症化リスクのある人がコロナに繰り返し感染すると重症化しやすく死亡率も高い」と解釈するのが妥当だと思います。

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　それを支持する研究もあります。先にも紹介した医療サイト「medRxiv」に2023年1月5日「コロナ再感染時には特有のバイオマーカーが先行、初感染の時期と重症度に関連:N3C RECOVER EHRベースのコホート研究（SARS-CoV-2 Reinfection is Preceded by Unique Biomarkers and Related to Initial Infection Timing and Severity: an N3C RECOVER EHR-Based Cohort Study）」という論文が掲載されました。

　この研究は159万7490人の成人（平均年齢48.85歳）が対象とされています。再感染した人を調査すると、大多数（77.6％）は初感染が軽度で、再感染時も軽度でした。しかし、初感染時に重症化した人でみると、7.4％が再感染時にも重症化しており、5.7％は死亡していたことがわかりました。つまり、初回感染時に入院が必要だった人（重症化した人）は、再感染時にも入院が必要となるリスクが高いといえるわけです。

　再感染と後遺症のリスクについてもみてみましょう。

　英国の国家統計局（Office for National Statistics)によると、成人の初回感染者が後遺症を発症するのが4％なのに対し、再感染時には2.4％に低下しています。

　ただし、後遺症を発症している人が再感染した場合には症状が悪化するようです。英国ソールズベリーを拠点とする慈善団体「Long Covid Kids」が実施した、後遺症を有する約600人を対象とした調査では、80％が再感染によって少なくとも症状の一部が悪化しています。

休日の上野から浅草に向かう銀座線内で見られた無人の車両　銀座線　地下鉄　電車　交通機関　乗客　新型コロナ　乗客　自粛　移動＝東京都台東区で2020年4月19日、武市公孝撮影「ただの風邪」でもあり「恐怖の病」でもある

　ここからは太融寺町谷口医院（以下、谷口医院）の患者さんを診てきた私の「印象」を紹介します。幸いなことに、谷口医院では入院が必要など重症化した患者さんが再感染した事例はほとんどありません。ただし、上述の英国の慈善団体が示したような「後遺症を発症している人が再感染して悪化した」という事例は数例あります。他方、初回感染時に軽症だった人が再感染時に悪化した例はほぼ皆無です。谷口医院にはすでに3回感染したという患者さんも少なくありませんが、「感染すればするほど軽症化していく」が私の印象です。こういう人たちからみれば、コロナはすでに完全に「ただの風邪」です。

　しかしながら、その一方で、重症化リスクのある人にとっては過去の感染の有無に関わらず依然「恐怖の病」ですし、後遺症が長引いている人にとっても同様です。後遺症がなかなか改善しない人が再感染し、入院までは要しなかったものの高熱と倦怠（けんたい）感が長期間続き、その後の後遺症が初回感染時よりも悪化した事例もあります。

　つまり、コロナとは人によってその脅威度がまったく異なる感染症であり、自分の尺度で他人を判断することができません。インターネットやSNS（ネット交流サービス）上では依然、コロナを軽視する派と慎重派で論争がおこなわれているようですが、大切なのはコロナの脅威度は人によって異なることを理解し、自分の意見を他人に押し付けるのではなく、相手の考えを尊重することです。これが現在のコロナ対策における最重要事項ではないか、と私は考えています。

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谷口恭

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太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし　1968年三重県上野市（現・伊賀市）生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医（プライマリ・ケア医）に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA（ジーナ）代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」（文芸社）、「偏差値40からの医学部再受験」（エール出版社）、「医学部六年間の真実」（エール出版社）など。太融寺町谷口医院ウェブサイト　無料メルマガ＜谷口恭の「その質問にホンネで答えます」＞を配信中。