4月22日付・読売社説(1)
[米中首脳会談]「疑念を持たれた『利害関係者』」
前向きではあるが、複雑な関係だ――。
初めて米国を公式訪問した中国の胡錦濤国家主席との米中首脳会談は、ブッシュ米大統領の言葉通りの展開となった。
超大国・米国のいらだちに、急速に台頭する中国がどう対応するのか。これが今回の首脳会談の核心テーマだった。
両首脳は会談で、「戦略的利益」の共有を確認し、「前向き」の関係構築を強調した。だが、個別の重要案件で双方の主張はかみ合わず、米中の「複雑な関係」が際立った。
米国の対中貿易赤字は昨年2000億ドルを突破した。大統領は貿易不均衡を是正するため、人民元の一段の切り上げを求めた。胡主席は「改革を引き続き進める」とし、具体策は示さなかった。
核問題では、大統領は6か国協議再開に向け、中国が北朝鮮に対する影響力を行使するよう強く要請した。イランへの対応でも連携強化を求めた。だが、胡主席は「協力の継続」「外交交渉による平和解決」という原則論に終始した。
対米関係を外交の主軸にすえる中国にとり、胡主席の訪米は、米国のいらだちを鎮める狙いもあった。
米国では11月に中間選挙を控え、議会を中心に経済、軍事面などで「中国脅威論」が高まっている。米国にとって、具体的な成果に欠けた今回の首脳会談が、中国脅威論を勢いづかせる可能性もないといえない。
米政府は昨年後半から、「責任あるステークホルダー(利害関係者)」論を対中政策の柱としている。大統領も戦略的利益の共有の前提として、「ステークホルダーたれ」と求めた。
中国は国際社会から多大な恩恵を受けている。責任に見合う行動をとる中国となら協調関係を深める、との戦略だ。
中国が「建設的で協調的な米中関係の推進」を目指すのなら、米国の新政策と正面から向き合うべきではないのか。
中国は主席訪米に先立ち、航空機から大豆などの食料にいたる、総額162億ドルの米製品の購入を決めた。
「13億人の市場」を背景に、緊密な経済関係を誇示し、対中批判をかわすのが狙いだろう。だが、米国が求めているのは、「大国の責任」を果たすことだ。
中国は経済成長を支えるため、資源の確保に力を注いでいる。時には国際秩序を無視する中国の動向は、国際政治や経済情勢にも大きな影響を与えている。
国際社会では、中国に「大国としての責任」を求める声が高まっている。「ステークホルダー」論は、米国一国の声ではないことを、中国は認識すべきだ。
(2006年4月22日1時42分 読売新聞)
4月22日付・読売社説(2)
[チェルノブイリ]「事故の教訓を希望につなげたい」
原子力発電所では史上最大と言われるチェルノブイリ事故から、26日で20年になる。
原発の安全性に対する信頼を大きく傷つける事故だった。
7トン近い放射性物質が原子炉から放出され、広い範囲に飛び散った。原子炉があったウクライナ西部とベラルーシなどでは、当局に認定された被災者が700万人にのぼる。
原因は、安全確保上の規則を無視した無謀運転とされている。日本などの原発と違って、万が一の時に放射性物質の放出を防ぐ格納容器がないなど、旧ソ連型の原子炉に特有の欠陥があった。
当初、事故を隠したため、住民の避難が決定的に遅れた。旧ソ連体制の秘密主義が被害を大きくした。
専門家は、旧ソ連圏外では起きない事故としたが、安全性への不信は膨らみ、脱原発の動きが欧州などで広がった。
事故の最大の教訓は、「安全文化」の重要性だ。日本の原子力発電に、この文化は定着しただろうか。関係者は自問すべきだ。
首をひねる例は多い。1999年には核燃料加工工場で臨界事故が起きた。一昨年には、関西電力の原発で配管が壊れた。どちらも、死者が出た。
このところ、原発の価値が再認識されている。安定したエネルギー供給源であると同時に、地球温暖化防止にも貢献できるからだ。しかし、安全文化が風化すれば、順風はすぐ逆風に変わる。
事故直後、犠牲者は数十万人との推計もあった。しかし、世界保健機関(WHO)や国際原子力機関(IAEA)などは昨年、事故が原因で死亡したのは約60人で、がんによる死者は今後、4000人とする報告書を公表した。
これに対し、もっと被害は大きいとの批判が相次ぎ、今月、推計の対象地域を拡大して、今後の死者を9000人に修正した。いずれにせよ、人的被害は当初予測を大きく下回りそうだ。
それでも、被災地の現状は深刻だ。
放射性物質による健康被害の不安が強い。日本はWHOなどを通じて、健康影響調査などに協力してきた。不安軽減のためには、継続的に調査し、適切な措置を講じる体制が欠かせない。
ウクライナは、ソ連崩壊後の経済苦境から脱却できていない。事故の起きた原子炉を覆う「石棺」の補修と、新たな覆いの建設は国際支援が頼りだ。
国際社会は、疎開した被災者たちが生活基盤を再構築し、自立を促すための支援もしていく必要がある。
原発の役割は今後も増すだろう。事故を乗り越える努力を後押ししたい。
(2006年4月22日1時42分 読売新聞)