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行動経済学に「コンコルドの誤り」という言葉がある。超音速旅客機コンコルドの開発は、途中で採算割れが見通せた。しかし、それまでの投資が大きかったために事業を続けて赤字を拡大させ、ついには墜落事故という大きな犠牲まで出した▲つまり、投じた費用が無駄になるのを惜しんで撤退できず、損失を膨らませる不合理な行動をいう。失ったお金は返らない。無駄と分かったら、すぐやめるのが合理的なのだ。ところが、やめるとそこで損失が確定するから、投下したお金や時間が大きいほど引き際の決断は難しくなる▲そのうちに事態が好転するという根拠のない希望にすがって先送りするのは、弱い人間の性(さが)かもしれない。パチンコや競馬などでは思い当たる向きもあろう。日本原子力研究開発機構が運営する高速増殖原型炉「もんじゅ」の場合はどうか▲高速増殖炉は消費した以上のプルトニウム燃料を作り出す「夢の原子炉」と言われる。しかし「もんじゅ」はトラブル続きでほとんど稼働していない。原子力規制委員会からは運営組織の交代まで求められる有り様だ。もうやめるべきだとの声が出るのも当然だろう▲この事業につぎ込まれた国費は1兆円を超える。そして先日、廃炉には3000億円以上かかるという原子力機構の試算が明らかになった。「やめた」と言うのをためらわせる材料になりそうだ。だが、事態の好転を夢想して決断を先送りしては傷口が広がりかねない▲「もんじゅ」の名前は「文殊菩薩(もんじゅぼさつ)」に由来する。行動経済学で「もんじゅの誤り」と呼ばれるようになっては、知恵をつかさどる仏の名に恥じよう。