ゆるやかな糖質制限のススメ ~健康の常識・非常識~フォロー
肉と魚と豆腐 たんぱく質を摂取するなら、どれが体にいい? どれだけ食べてもいい?山田悟・北里大学北里研究所病院副院長、糖尿病センター長
2024年2月25日
たんぱく質は、体を作る上で欠かせない要素です。ただ、十把一からげに「たんぱく質」といっても、肉や魚、大豆製品……と幅広い食品に含まれています。
たんぱく質をとるのなら、動物性と植物性のどちらが人間の体に適しているの? たんぱく質のとりすぎは腎臓に悪いの? といったたんぱく質にまつわる疑問と効果的に摂取するヒントを、糖尿病専門医の山田悟医師に伺いました。緩やかな糖質制限「ロカボ」を提唱する山田医師による「たんぱく質論」はこれまでの「常識」を打ち破る興味深いものでした。
【聞き手=編集部・倉岡一樹】
区別する必要なし
一口にたんぱく質といっても種類は多様です。牛や豚の肉をはじめ、鶏肉に魚、そして大豆製品もありますね。その見方も、「動物性たんぱくの方がよい」「植物性たんぱくの方がよい」と二つに割れています。
まず、動物性たんぱく質から摂取した方がいいとの考え方について解説しましょう。
私たち人間が属する哺乳類はそもそも4本足動物でしたので、たんぱく質を構成しているアミノ酸の構成要素も、4本足の哺乳類と似ています。その次が2本足の鳥類、その次が魚類で、植物である大豆製品が最も違っているという説です。
摂取する際に注目されているのが、私たちの体を作る上で欠かせない「必須アミノ酸」の含有量です。アミノ酸はたんぱく質の構成要素で、アミノ酸が少数結合したものを「ペプチド」、多数結合したものをたんぱく質と呼びます。一部の特殊なものを除くと、たんぱく質は20種類のアミノ酸が結合して作られています。
各食品の必須アミノ酸含有量は、「(必須)アミノ酸スコア」という数値で表されます。窒素1g当たりに占める必須アミノ酸が、基準値と比較してどれだけ含まれているのかを示したものです。その必須アミノ酸は、理論的に、牛肉や豚肉により多く含まれており、次が鶏肉、そして魚肉、一番少ないのが豆腐などの大豆製品となります。ただ、このアミノ酸スコアは考え方自体が揺れ動いている側面もあります。
私たち日本人が必要な最小限の摂取たんぱく質量は0・92g/kg(体重1kg当たり0・92g)で(注1)、国際的な基準は0・83g/kgほどです(注2)。この差異は、肉中心でたんぱく質を摂取する欧米人と、相応に大豆でたんぱく質を摂取する日本人との差異です。
第68回日本男子ボディビル選手権大会、第40回日本女子フィジーク選手権大会に出場する選手たち=大阪市淀川区で2022年10月9日、滝川大貴撮影
とはいえ、「たんぱく質をギリギリで必要な量を最低限とりましょう」と言っているわけではありません。できる限りしっかり食べ、2g/kgを目指してほしいと考えています。とはいえ、2g/kgはボディービルダーが筋肉を維持、向上するために最低限必要な摂取量で、普通の生活をしている人には摂取が困難な量です。
関連記事
<脂質制限は糖尿病患者とダイエットの「敵」? それとも「味方」?>
<痩せていても危険 日本人が糖尿病になりやすい訳とは>
<その食べ方、危ないかも…… ロカボ発案医師が伝授 血糖値上昇を防ぐ「賢い食べ方」>
<たゆまぬ努力重ねる42歳の現役左腕・和田毅投手דロカボ”発明の山田悟医師 対談 更なる進化を支えた「理想的な食事法」とは>
<ビールは血糖値が上がらない!? ロカボ発案医師が勧めるお酒の飲み方“新常識”>
そういう意味では、肉「だけ」からたんぱく質を摂取するよりも、魚や豆腐、湯葉などの大豆製品と多様なものを食べた方が、摂取しやすいですね。
その一方で、植物性たんぱく質を摂取した方がいいとの考え方も存在します。
米国のハーバード大学が長年取り組んでいる「ナースズ・ヘルス・スタディー」というコホート研究(一定規模の集団を追跡調査する研究)に、「糖質を控えると死ぬ確率が高くなっている」との著名なデータがあります(注3)。そんな糖尿病患者に限ってみても、糖質摂取が少ない代わりにたんぱく質や脂質を摂取しており、トータルのエネルギー量はほぼ同じです。
正反対の実験結果から見えてくることとは……
そして、この増やしたたんぱく質や脂質が動物に由来している場合と植物に由来している場合とで比較すると、死亡率との関係性が変わってきます。
糖質摂取を控えた上で植物性のたんぱく質と脂質を摂取すると、死亡率がより低いのです。一方、動物性のたんぱく質を摂取すると、糖質を制限した効果はなくなったり(糖尿病を発症した人の場合)=注4=、死亡率が上昇したり(全体で検討した場合)していました(注5)。それゆえ「植物性たんぱく質の方がいい」というのです。また、最近では「プラントベース」というベジタリアンダイエットが健康にいいとの概念も提唱されていますね。
ところが、香港の人たちを対象に同様の研究をしたところ、糖質を控え、動物性のたんぱく質を摂取した方が死亡率も低くなったのです(注6)。このデータは糖尿病を発症した人に限定した解析ではなく、全体での解析結果です。しかも、糖質の代わりに植物性のたんぱく質を摂取した場合には、死亡率の低減は認められなくなりました。欧米人とは逆の結果となったのです。
豆腐ハンバーグ=東京都世田谷区で2023年11月7日、尾籠章裕撮影
こうした、一見、矛盾に満ちた観察研究の結果からは、欧米人で認められた動物性たんぱく質の摂取が寿命を短縮させるというデータが、少なくとも人類共通のデータではないことがお分かりいただけると思います。
欧米でのデータをもとに、アジアを含めて世の中が「たんぱく質や脂質を、動物性から植物性に切り替えた方がいい」との流れになっているのは分かりますが、私はそれが普遍的な真実であるとは到底思えません。
それゆえ、私は動物の肉であれ、魚であれ、大豆製品であれ、区別する必要はないと考えています。少なくとも、動物性脂肪(飽和脂肪酸)の摂取量が多い人ほど脳卒中の発症率が低いという日本人の観察研究が複数存在することを考えると(注7)、「肉は体に悪い」などという迷信に振り回されずにしっかり摂取した方がいいです。
そうしなければ、筋肉量の維持、向上の観点からは損をする可能性があります。緩やかな糖質制限「ロカボ」の実践中は、たんぱく質源となる多様な食品を、好き嫌いなく、量を気にすることなく満足いくまで食べることをオススメしています。
ちなみに、皆さんは「肥育ホルモン剤」をご存じでしょうか。
食用牛を促成飼育するために使われていたのですが、1980年代終盤に、国際的に使用制限がかかるようになりました(ECの肥育ホルモン禁止1988年、CODEXの肥育ホルモン上限設定1987~1999年)。
ただ近年、使用制限下で「問題ない」とされている残存量でも、動脈硬化を増やしたとの動物実験結果が出てきました(ここでは、読者の理解が容易になるよう同じ目的で使用されるラクトパミンも肥育ホルモンに入れることとする)=注8。
薬物で強引に大きくした動物を食べていると、私たちもその影響を受ける可能性を否定できないのです。肥育ホルモンの使用が完全に禁止されているヨーロッパと比較して、使用制限が緩やかな米国では、肉を食べている人の方が不健康だとの結果が出ているのもうなずけることなのかもしれません。
また、家畜の病気を防ぐための抗生剤も使われますが、この抗生剤は腸内細菌も殺してしまいます。腸内細菌が死ぬと成長が早いのです。抗生剤が肉の中に残存していた場合、食べた私たちも何らかの影響を受けている可能性があるとの仮説があります。
家畜の成長の効率性を重視しすぎるあまりに無理が生じ、その結果、ひずみが出てきているのかもしれません。
若いうちからしっかり摂取 年を取るほど積極的に
日本では、肥育ホルモンの使用が少ないとされています(注9)。そして、たんぱく質をしっかりと摂取する必要があるのは万人共通で、年齢や民族は問いません。
若い人は1食10gのたんぱく質摂取で筋肉合成のスイッチが入ります。高齢になるとそれが20g必要となります(注10)。
たんぱく質20gというのは肉であれば100gに当たります。若者の方が筋肉をつけやすいです。一方で年齢を重ねると若者以上に食べなければ、筋肉がどんどん衰えていってしまいます。若い頃もしっかりとたんぱく質をとり、年を取ったらよりしっかりと。これが一番です。
逆にたんぱく質の摂取を控えるとどういうことが起きるでしょうか。
筋肉量が減って基礎代謝の低下を招くこととなります。すると、筋力や身体機能が低下する「サルコペニア」や、認知機能まで含めて脆弱(ぜいじゃく)になる「フレイル」を誘発します。それらを避けるためにも、筋肉と骨を衰えないようにせねばなりません。
繰り返しとなりますが、いつまでも元気でいたいのであれば、若い頃からたんぱく質をしっかりとり、年を重ねるにつれてより積極的に摂取した方がいいのです。
また、「たんぱく質の摂取量が多いと腎機能が傷む」との説を信じている人も少なくありませんね。腎機能に問題がある方は、たんぱく質制限を指導されている場合が多いと思います。
2023年に改訂された日本腎臓学会の「CKD(慢性腎臓病)診療ガイドライン」でも、たんぱく質制限は推奨されていますし、日本糖尿病学会も「たんぱく制限食は有効である可能性もある」という表現をしています。
しかし、WHOが2007年に発表したテクニカルレポートでは、たんぱく質摂取量で「これ以上をとると腎機能に支障を来す」とする上限量の数字は定められない、としています。
また、腎機能が落ちてきた人にたんぱく質摂取量の上限量を設定できたとする論文もありません。
「たんぱく質は腎臓に悪い」との概念が提唱されたのは1950年ごろでした(注11)。75年以上かけて証明できない仮説を立証できるかというと、無理だと思います。そもそも、「たんぱく質をとると腎臓を傷める」との説を理論的に説明できる人をみたことがありません。
かつてハーバード大学にいたブレナー先生が、たんぱく質をとると、腎臓に100万個近くあるろ過装置の「糸球体」に圧がかかるとしました。そのため、多量の摂取で糸球体が早く壊れていくため、たんぱくを制限した方が長く腎機能が持つのだとしたのです(注12)。
根拠になっている実験があります。
ブレナー先生が飼育した、腎臓を6分の1にしたラットたちが、腎臓をそのまま残したラットよりも、たんぱくを多く摂取させた時に早く死んでしまったというものです。しかし、この実験ではもともと食べさせていた乳たんぱく質の「カゼイン」が、げっ歯類に炎症反応や動脈硬化を起こさせるなどの問題をはらんでいます(注13)。
同じたんぱく質量であっても、カゼインを投与した場合と大豆たんぱく、米たんぱくを投与した場合では、ラットの動脈硬化や炎症反応の進行の度合いが違うのですね(注14)。ネズミに対するカゼインの投与だから悪いのであって、そうでなかったら別の結果が出たのではないかと思っています(注15)。
「たんぱく制限は腎機能保護によい」との根拠なし
「たんぱく制限が必要」とされている人たちがたんぱく質を制限することで、糸球体ろ過圧をコントロールできるかは分かりません。「たんぱく質をとると糸球体ろ過圧が上がって腎臓が早く壊れる」という話も理解できません(注16)。たんぱく質摂取量の多い人たちの方が腎不全になりにくかったという論文が複数あるからです(注17)。
そもそも、たんぱく質制限食を推奨する人たち自身が「どんな効果を発揮する食事なのか」ということをよく考えていない可能性があります。「たんぱく制限食はこういう理由で腎機能を保護できる」と証明している臨床研究はないのです(注18)。理論的根拠も臨床的エビデンスも、全くない状態だと考えています。
昔は腎機能を保護する治療法などありませんでした。その時に行われていたのがたんぱく質制限食と、血小板の機能を抑制する「ペルサンチン」の服用程度でした。それもはるか昔のわずかな論文を根拠にしていたに過ぎません。ある意味、祈りにも似た医療だったのです。
一方、現在では「レニン・アンジオテンシン系阻害薬」と呼ばれる降圧剤、「SGLT2阻害薬および一部のGLP-1受容体作動薬」と呼ばれる糖尿病治療薬、一部の「ミネラルコルチコイド受容体拮抗(きっこう)薬」と呼ばれる内分泌薬による腎臓保護効果が多くの研究から知られています。そうした薬剤を投与している際に、昔ながらのたんぱく質制限食をさらに付け加えることに価値があるのか、たんぱく質制限食を推奨する人たちは、きちんと立証する必要があるでしょう。
たんぱく摂取量は腎機能に影響を与えません。最低限必要なたんぱく質摂取量(推奨量と呼びます)は、腎機能が落ちてくるとともに減るのかというと、そのような証明もどこにもありません。
しかも、制限しすぎると筋肉が落ちて寝たきりとなる可能性があるのです。1日当たり0・6~0・8gの摂取を推奨している先生が多いですが、その安全性をまずは立証すべきだと思います。
私はたんぱく制限食に反対しています。ただ、先ほどご紹介した、1日当たりに必要最低限のたんぱく質摂取量ですが、その3~4倍を摂取すると「腎機能をモニタリングする必要がある」とされています。国際的な基準は0・83g/kgほどですから、2・5g/kg程ですね(注19)。
目指すは1日当たり「1・6g/kg」
また、最近1食で100gのたんぱく質を摂取すると筋肉合成速度が上がる、との論文が出てきました(注20)。1日300gですから、体重50kgなら6g/kg摂取することとなります。それほどの量を食べられる人はそうそういませんから、量は気にせず食べて差し支えないと考えます。
そもそも1食でたんぱく質を100gも摂取できてしまうと、満腹感を誘発する「ペプチドYY」という物質が小腸からかなり出てきますので、「おなかいっぱいで次の食事は不要」となることさえ考えられます。胃から分泌され、空腹をもたらす「グレリン」も長く抑制します。
私は、1日当たり1・6g/kgほどの摂取を目指すのが現実的かと思います。
例えば、肉や魚を250g程度にして、そこに豆腐、卵を加えるなどすると、効率よく多様なたんぱく質を摂取できます。緩やかな糖質制限を意識して、カロリーやたんぱく質や脂質については、量の計算をせず、おなかいっぱい食べるようにすると、ちょうど1・6g/kgほどのたんぱく質摂取量となり(注21)、このくらいの量が一番効率よく筋肉を合成することができる量だという研究結果があるのです(注22)。
ちなみに、91歳の冒険家、三浦雄一郎さんを病院での講演にお招きしたことがあるのですが、1日当たり肉を1kg食べるとおっしゃっていました。やはりすごいですね(笑い)
昨年、90歳で富士山に登頂するなど、なおも活躍を続ける三浦雄一郎さん=東京・羽田空港で2013年5月29日午前6時55分、梅村直承撮影
たんぱく質をたくさん摂取しても、エネルギーをとっていなければ、アミノ酸を分解して脂質や糖質の代わりに燃やしてしまうので、たんぱく質それだけをとるのもよくありません。脂質もたっぷりとることが大切です。血糖値に差し支えがない場合は、糖質でも構いません。
たんぱく質の摂取に慎重になる必要は一切ありません。たっぷりとって元気になりましょう。
【参考文献】
注1 日本人の食事摂取基準2020年版:①推奨量=推定平均必要量×推奨量算定係数[p109]および②推定平均必要量=維持必要量+新生組織蓄積量[p109]および③維持必要量=良質な動物性たんぱく質における維持必要量/日常食混合たんぱく質の利用効率[p110]を意識しつつ、③維持必要量=0.66/0.9=0.733、②推定平均必要量(成人)=0.733+0=0.733、③推奨量=0.733 ×1.25=0.9125と計算した
注2 WHO Technical Report Series 935. WHO 2007
注3 (Ann Intern Med 2010; 153: 289-298)。ただ、糖尿病を発症した人に限ると、糖質を控えた方が死亡率も低いですから解釈には注意が必要です(Diabetes Care 2023; 46: 874-884
注4 Diabetes Care 2023; 46: 874-884
注5 Ann Intern Med 2010; 153: 289-298
注6 Nutrients 2022; 14: 1406
注7 Eur Heart J 2013; 34: 1225-1232
注8 Environ Pollut 2022; 313: 120080
注9 肥育ホルモンについて:農林水産省 (maff.go.jp) https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/siryo/hiiku.html
注10 Exerc Sport Sci Rev 2013; 41: 169-173
注11 Addis T. Macmillan 1948. N Engl J Med 1982; 307: 652-659
注12 N Engl J Med 1982; 307: 652-659
注13 Kidney Int 1986, 30, 509-517
注14 J Nutr 1998; 128: 1884-1889. Int J Mol Sci 2019; 20: 6164. J Am Nutr Assoc 2022; 41: 668-678
注15 Br J Nutr 1983; 49: 313-319
注16 Tohoku J Exp Med 1989; 159: 153-162
注17 Nephrol Dial Transplant 2021; 36: 1640-1647. Diabetes Care 2022; 45: 35-41. Am J Kidney Dis 2023; 82: 687-697
注18 Nutr Hosp 2008; 23: 141-147
注19 前出のWHO technical report 2007
注20 Cell Rep Med 2023; 4: 101324
注21 Intern Med 2014; 53: 13-19
注22 Med Sci Sports Exerc 2019; 51: 798-804
特記のない写真はゲッティ
<医療プレミア・トップページはこちら>
関連記事
1970年生まれ。94年慶応義塾大医学部卒業。同大内科学教室腎臓内分泌代謝研究室などを経て2002年に北里研究所病院へ転じ、07年から糖尿病センター長、21年から同院副院長を務める。我慢ばかりを強いるカロリー制限中心の食事療法で、向き合う糖尿病患者の生活の質が低下している現実と直面した。そんな中、食事をおいしく、おなかいっぱい楽しみながら血糖値を穏やかに保ち、肥満者の減量効果にも優れる、緩やかな糖質制限食と出合う。治療に積極的に取り入れるとともに、「ロカボ」と名付けて普及に努め、2013年に「食・楽・健康協会」を設立した。日本糖尿病学会糖尿病専門医。日本糖尿病学会指導医など。主な著書に「カロリー制限の大罪」「糖質制限の真実」「奇跡の美食レストラン」など。慶応義塾大医学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、星薬科大学非常勤講師。