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天の川銀河中心のブラックホールを撮影し、その存在を証明することに、日本を含む研究グループが成功。
きょうのテーマは光をも飲み込むという天体・ブラックホール。
水野倫之解説委員の解説。
天の川銀河は、太陽を含む星が2千億個ほど集まり、渦を巻いたような構造をしていると考えられ、直径は10万光年と巨大。私たちの地球から2万6000光年の中心部分にあるブラックホールが撮影された。
ブラックホールは極めて重力が強く周りのガスや塵をものすごい勢いで飲み込んでいて、その時放たれる電波を今回捉え、その輪郭が鮮明に浮かび上がった。
電波の強い場所は白く、弱い場所がオレンジ色に、そして電波を出さない部分は黒く表されていて、オレンジと白のドーナツ状のリングの内側・電波も飲み込まれてしまう黒い部分、この中にブラックホールがある。
今回の撮影、まず一つ目の意義は、私たちが住む天の川銀河の中心にもブラックホールがある決定的な証拠を示した点。
天の川銀河中心に強い電波を放つ天体があることは別の観測で知られ、理論的にブラックホールとみられていたが撮影まではできておらず、確証はなかった。
そこで日本や欧米など13機関が協力し、電波望遠鏡で観測。
ただ1台だけではとても解像度が足りなかった。
そこで世界各地の電波望遠鏡が協力。
今回ハワイ、南北アメリカ、ヨーロッパなど世界8か所の電波望遠鏡をつなぎ、直径1万キロの仮想的な地球規模の超巨大望遠鏡を構築。
ヒトの視力の300万倍、月面のゴルフボールを地上から見分けられる高解像度を実現し、画像化に成功。
観測や解析は300人態勢で行われ、日本からも20人以上が参加、チリにある日本も運用するアルマ望遠鏡の観測や 画像解析で重要な役割を担った。
実は研究グループは天の川銀河観測と同じ時期に、地球から5500万光年の別の銀河・M87も観測し、その中心にあるブラックホールも撮影して3年前に発表。
その画像が右側。
2つのブラックホール、質量は天の川銀河の方が太陽の400万個分なのに対してM87 の方は65億個分で超巨大とかなり違うが、ガスや塵がリング状に輝くブラックホールの構造はほぼ同じであることがわかる。
M87の方が画像処理がしやすく先に発表されたのに対し、今回の天の川銀河の方はリング部分の動きが激しく画像化に時間がかかり、今月の発表となった。
ブラックホールが連続で直接撮影されたことで、もう一つ、天才物理学者アインシュタインの予言が正しかったことも完全に証明されたという意義。
アインシュタインは、100年あまり前に発表した一般相対性理論でブラックホールの存在を予言していた。
この理論は、重さ・つまり質量を持つ物体があると空間がゆがむという。
発表後この理論に基づいた計算で、大質量の星を一点に限りなく収縮させると、きわめて強い重力で空間が無限にゆがみ、光さえ逃れられなくなるブラックホールができることがわかった。その後、太陽の30倍以上の重い星が死ぬと、一気につぶれてブラックホールができると判明。
そしてこれとは別に理論的にもっと巨大なブラックホールもあると考えられるようになりました。
それが銀河。銀河の中心には星の密集地帯がありますので、星を引き寄せる重力源、つまりブラックホールがあるに違いないという。
20世紀終わりに大型望遠鏡が相次いで観測し、様々な銀河の中心にブラックホールの存在を示すデータが得られるように。
ブラックホールは本当に存在するのか。
この100年来の問題に決着つけるには直接撮影するしかないと企画されたのが今回のプロジェクトで成功したわけ。
天の川銀河中心にブラックホールあったら、私たちもやがて吸い込まれたりしないか心配になるかもしれないがブラックホールが吸い込むのはすぐ近くのもので、地球は2万光年以上離れていますのでその心配はないということ。
そして相対性理論によれば、重力が強いと時間の流れも遅くなるので、仮に私が宇宙服を着てブラックホールに近づいていくとどうなるのか、CGにした。
動きがスローになり止まる。
ブラックホールに近づくほど重力が強くなって時間の流れもゆっくりになり、遠くから見ている人からは、動きがほとんど止まって見えるはず。
そしてブラックホールに入ればその様子がわかるが、そのかわり二度と出られないのでほかの人に伝えることは残念ながらできないと考えられている。
今回ブラックホールの存在が証明されたからといっても、すぐに私たちの暮らしに何か役に立つというわけではないが、宇宙はどう進化してきたのかといった究極的な問題に手がかりを与えてくれるかも。
というのも最近、ブラックホールは、銀河や宇宙の成り立ちに深くかかわっていると考えられるようになってきているから。
宇宙は138億年前にビッグバンで誕生し、その後ガスや塵が集まって太陽のような星が誕生。その星が数千億個集まって無数の銀河が構成され宇宙は進化、そしてほとんどの銀河の中心には、ブラックホールが存在すると考えられており、その中には先ほどのM87のように粒子を噴きだしているものも。
ブラックホールは時にはエネルギーを吐き出して、銀河の進化、つまり宇宙の進化に大きな影響を与えているのではないかと考えられている。
今回人類は超高解像度の観測方法を手にしたとも言えるわけで、さらに多くのブラックホールを観測していけば、銀河そして宇宙の進化の謎を解く手がかりが得られる可能性あり。
ぜひ今後もそうした研究に日本が貢献をしていくことを期待したい。
(水野 倫之 解説委員)