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◆最近のインフルエンザの流行状況
ここ数年、インフルエンザはあまり流行していない印象があるという方も多いのではないでしょうか?新型コロナウイルスの流行前、例えば、2018年‐2019年のシーズンは、およそ1200万人の感染者がいたのですが、流行後は少なくなり、2020年‐2021年シーズンはわずか1万4000人でした。
しかし、今年の冬のシーズンは状況が違うかもしれません。
感染症の専門家たちに話を聞いたところ、「インフルエンザも流行する可能性はあるので備えをするべきだ」「今シーズンは新型コロナとの同時流行が起こるかもしれない」と話していました。そして、今シーズン、インフルエンザワクチンの供給量は、成人の量で換算して、最大でおよそ7042万人分。これは過去最多で、インフルエンザの流行に備えて、多くのワクチンが用意される予定になっています。
◆日本のインフルエンザの流行の指標・オーストラリアの流行状況は?
どうして、今年は日本でインフルエンザが流行する可能性があると考えられているのでしょうか?
参考になるのは、南半球のオーストラリアです。この国は、北半球の日本と季節が逆で、日本でのインフルエンザの流行を予測する重要な指標になっています。
例えば、2019年のインフルエンザの患者数を見てみると、日本が夏の時期が、ピークになっています。新型コロナが流行した2020年、2021年は、流行がありませんでした。ところが、今年2022年は、4月末から増え、5月には1週間あたり2万5000人をこえ、6月がピークに。かなり多くの人が感染しました。また実は、この時期、新型コロナも同時流行し、同時感染した人もいたようです。これは、過去2年間、インフルエンザが流行しなかったので、インフルエンザウイルスに対する免疫が低下した人が増えたこと、また公共交通機関や病院などを除くとマスクをしないなど、新型コロナ対策の緩和などが要因と考えられています。
日本ではマスクをつけている人がいまだに多いので、インフルエンザの流行はないのではと考える方もいるかもしれません。マスクをすることは感染予防のためにも大切ですが、マスクをするだけで流行を防げるとは限りません。日本でも、オーストラリアと同じように、この2年、インフルエンザが流行していなかったので、インフルエンザに対する免疫が低下した人が増えた可能性があります。また2歳以下の流行を経験したことのない子どもたちもいます。水際対策が緩和されたので、インフルエンザウイルスが海外から持ち込まれ、いったん流行すると、それが大きな流行になり、高齢者に限らず、子どもも含めて重症者・死亡者が増える可能性もあり、油断できません。
◆高齢者だけでなく、子どもも感染に注意!
新型コロナの感染拡大が始まる前の2019年の1歳~4歳、そして5歳~9歳の子どもの死因をみると、第5位がインフルエンザ感染です。また、肺炎・脳症などを起こし、重い後遺症を残す子どももいるので、子どももインフルエンザに注意すべきです。ただインフルエンザの診断・治療は確立していて、ワクチン接種が生後6か月から可能です。
ただ注意したいのは、インフルエンザワクチンを接種しても、100%感染・発症予防はできないことです。ワクチンは、毎年、そのシーズンに流行するかもしれないインフルエンザのタイプを予想して作られるので、流行したタイプが予想通りかどうかでも、効果はかわりますが、発症予防、さらに重症化・死亡を予防する一定の効果はあると言われています。例えば、6歳未満の子どもを対象とした研究では、ワクチンの発症予防の効果は41〜63%。また、65歳以上の高齢者でも、34〜55%の発症予防効果や82%の死亡を防ぐ効果があるという国内の研究データがあります。
◆特にワクチン接種を検討してほしい人
では、どんな人は、ワクチン接種を検討した方がよいのでしょうか?
特に検討してほしいのが、65歳以上の高齢者、60~64歳で心臓・腎臓・呼吸器の機能に障害がある人、さらに、インフルエンザの合併症のリスクが高い、生後6ヵ月以上5歳未満の子どもや妊婦などです。医療従事者、長期療養施設のスタッフなどエッセンシャルワーカーにも接種がすすめられます。
接種回数は、13歳以上の人は、原則、1回接種。生後6か月以上13歳未満の子どもは2〜4週の間隔で2回接種が基本です。
◆同時接種の副反応と効果は?
ワクチンの接種方法については、最近、日本では、インフルエンザワクチンと新型コロナのワクチンの同時接種が可能になりました。例えば左腕に2つのワクチンを接種しても、左右それぞれに接種してもいいそうです。
同時接種して大丈夫だろうかと思う方もいるかもしれません。
同時接種について調べた研究があります。同時接種したグループ、新型コロナワクチンだけ接種したグループ、そしてインフルエンザワクチンだけを接種したグループで、効果と副反応の程度を比較したものです。副反応として、同時接種でも、接種部位の痛み、けん怠感・頭痛などの副反応はありましたが、他のグループより副反応が特に多くなるわけではなく、また特に重篤なものもなく、安全性の懸念はなかったとのことです。では、同時接種の場合の効果の方はどうだったのでしょうか?ワクチンを接種すると体の中で抗体が作られ、実際、ウイルスに感染したときに抗体が攻撃してくれます。この研究では、同時接種でも、新型コロナやインフルエンザへの抗体がきちんとでき、効果があることがわかったということです。
病院に何度も行く時間がない場合、同時接種をするという選択もあるかもしれません。
◆インフルエンザの感染に備えて私たちができること。
インフルエンザワクチンの接種は、これから本格的にはじまります。インフルエンザの感染にも備えるためにも、特にリスクのある人は、ワクチン接種を積極的に検討することが大切かもしれません。そして、他にも、手洗い、人混み・屋内でのマスク着用 、換気と、私たちにできることがあります。地域でのインフルエンザの流行をチェックし、人と会うときはソーシャルディスタンスもとる。マスクをし、距離をとることで、感染がより防げる可能性はあります。そして、発熱など風邪のような症状がある時は、登園・登校などしない、つまり、外出をしないことも感染を広めないためにも大切です。このように、新型コロナの感染予防で日ごろ、気をつけていることが、インフルエンザの感染に備えることにもなるのです。
今年は、新型コロナ以外にRSウイルスなども流行し、医療機関がひっ迫しています。もしインフルエンザと新型コロナが同時流行した場合は、発熱などの症状だけで見分けるのは難しく、また医療機関が、ひっ迫するかもしれません。今からインフルエンザの流行に備え、ワクチンの供給だけでなく、医療体制の整備、検査キット・治療薬の確保など、改めて国や自治体にお願いしたいと思います。
(矢島 ゆき子 解説委員)