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地方の百貨店の閉店が止まりません。
ことし1月にも北海道の老舗が営業を終えました。郊外の大型店との競争や人口減少の加速など逆風が続いています。
一方で、地域の活性化のためには、百貨店の力をうまく利用すべきだという指摘もあります。それはどうすれば可能なのでしょうか。
【ことしも北海道の老舗が】
ことし1月末、北海道・帯広の百貨店「藤丸」が閉店しました。
シャッターを下ろす直前、当時の藤本長章社長は声を震わせながら、「本当に、本当に、長い間お世話になりました。そしてありがとうございました」と感謝の言葉を述べ、創業から120年余りの歴史に幕を下ろしました。
ことし1月31日 最後の営業を終えた北海道・帯広の百貨店「藤丸」
【「地方百貨店」は20数年でほぼ半減】
地方百貨店の閉店は全国的に続いています。
店舗数がピークだった今から24年前、1999年には「地方百貨店」は全国で213に上りました。
日本百貨店協会に加盟する店舗の数で、「地方」というのは東京や大阪など、10の大都市を除く地域にある百貨店を意味しています。その数は、ことし3月の時点で110と、20数年で半分近くにまで減りました。
とくに減り方が激しいのは北海道、東北、それに四国です。
札幌を除いて11あった北海道は、函館に1つを残すのみです。東北は仙台を除けば、28が10に減りました。山形県からは店舗がなくなりました。四国も9が4となり、徳島県からも店がなくなりました。
このほかの地域でも閉店は相次いでいます。全国の主なマチには必ず百貨店があったと言えるような状況は、もはや過去のものとなっています。
【“業界”と“地方” 逆風が加速】
減少が続いている理由は、複合的です。まず、流通業界全体の変化に関わる点です。
1つ目に郊外型大型店との競争です。
車の利用拡大が大型店の利用を促しました。地方都市圏での休日の移動手段のうち、「自動車」の割合は、1987年の52.3%から2021年は75.7%にまで増加しました。
かつて地方都市では、多くの住民は移動するときには一度、駅やバスターミナルがある中心市街地に集まっていました。しかし、車の普及で目的地に直行することが増え、広大な駐車場のある郊外のショッピングセンターが発展することになりました。
さらに近年は、インターネット通販が浸透しました。
2000年ごろから利用者が増え始めたネット通販は、スマートフォンの普及も相まって右肩上がりに増加し続け、なお増えることが予想されています。
こうした業界全体を取り巻く状況の変化に加えて、地方の百貨店にはさらに重荷がのしかかっています。1つが人口減少に伴う、地域経済の衰退です。
地元の顧客を相手に商売をする地方百貨店にとって、消費のパイそのものが減る状況に歯止めがかかっていません。
そのうえ、店舗の老朽化も頭の痛い問題です。
地方の百貨店は、1970年代以前に建てられたものが多く残っています。長く使うためには耐震改修工事が必要なところもあり、閉店の理由に挙げているところも目立ちます。
【地方の百貨店は必要なのか】
「地方で百貨店を残すのは、もう無理ではないか」という意見もあるでしょう。ただ、地方だからこそ、必要な存在感があります。
まず、中心市街地の「核」としての機能です。
歴史がある百貨店は、多くは中心部に位置し、商店街に人を集めるのに欠かせない存在となっています。車を運転できなくなった高齢者が、いわゆる「買い物難民」になるのを避けることにもつながります。
もう1つが、雇用を含めた地域への経済効果です。また、会社が地元資本の場合は、税収も地域で循環するメリットがあります。
そして、地域の「文化」を発信する役割です。催事や展示会などには、地元の芸術家や愛好家など、地域にゆかりのある関係者が参加します。百貨店であれば、店舗で作品の販売を行うことも容易です。買い物ついでに訪れることもでき、公共の美術館や博物館に比べても身近な存在です。
しかし、百貨店はあくまで民間企業です。経営が立ち行かなくなっている原因を放置したまま、無理に残そうとすれば損失がかさむだけです。実際、無理に営業を続けて、傷口を広げた例も少なくありません。
【改めて地域を見直すしかない】
経営を持続させるために、地方の百貨店には何が必要なのでしょうか。
1つ目が、地域の産品を掘り起こし、販売する力を強めることです。
たとえば高知の高知大丸は、「地域共生型店舗」に変わることを掲げ、去年、大規模な改装に踏み切りました。
高知県産の食材を使ったメニューを出すフードコートのほか、地元の事業所が出店できるコーナーも設けました。
改装した高知大丸の店舗
また、埼玉県で展開する「丸広百貨店」は、去年とことし、仙台の「藤崎」とお互いの店舗でフェアを開催しました。
川越の店舗で宮城の産品を、仙台の店舗で埼玉の産品を販売しました。地域に根を下ろした百貨店でなければ取り扱いが難しい商品をそろえたということです。
従来、地方の百貨店は大手並みの品ぞろえを目指してきました。しかし、同じものを買うだけなら、消費者は東京など大都市に行ってしまいます。
目利き能力を生かして、「この店でしか買えない」という品ぞろえができれば、地元だけでなく観光客へのアピールにもなりえます。
2つめが、地元顧客のいわば「御用聞き」になり、さまざまな相談に乗るサービスを提供することです。
地方百貨店は伝統的に店舗での販売に加え、店の外で顧客に商品を販売する「外商」が活躍してきました。
その関係を活かし、例えば家屋や家電の修理や医療機関の紹介、葬儀といった相談に乗ることで、最終的にサービスや商品の販売につなげようというねらいです。
全国の地方百貨店について詳しい、デパート新聞社社主の田中潤さんは「これまで地方百貨店は売り上げばかりにこだわって地元の顧客から信頼を失ってきた。存続するには、回り道かもしれないが『御用聞き』になることで信頼を回復させ、地域で必要とされる存在だと思ってもらわなくてはならない」と指摘します。
【欠かせぬ“人流”の回復】
もし、こうした力を失っているとすれば、地方の百貨店が生き残ることは難しいと言わざるを得ません。
その一方で、百貨店だけでできることに限界があるのも事実です。中でも、公共交通機関が重要なポイントです。
野村総合研究所がおととし行った調査によりますと、政令市以外に住んでいて、百貨店に買い物に行かない人に理由を尋ねたところ、「アクセスが悪い」が42.6%と、「価格が高い」に次いで多数を占めました。駐車場が狭く、車で行きにくい百貨店は、地方では敬遠されている実情がうかがえます。
それではどうすれば、中心市街地に人を集められるのか。そのヒントが、去年、岡山市が行った試みにあります。
岡山市では、のべ8日間にわたって路線バスと路面電車を無料にするという事業を行いました。その結果、利用者が増えただけでなく、中心市街地を訪れる人が増え、地元の百貨店の入店客数、商店などの売り上げ、いずれも増えたことが分かりました。
市によりますと、無料化事業に要した予算は1日あたり、およそ1400万円。その一方で、消費を促す効果は少なくとも2000万円を超えたということで、今年度も引き続き実施する予定です。
流通アナリストの中井彰人さんは「中心市街地や百貨店が衰退したのは、目的地に直接クルマで行くようになって『人流』が途絶えたことがもっとも大きい理由だ。ふたたび活性化させるには、公費を使ってでもバス網を整備し、人が集まる『ハブ』、核を作り出すことが必要だ」と話しています。
【本気になれば活用は可能】
「ショッピングセンターやネット通販があれば困らない。地元の百貨店がなくなっても特に問題ない」、そうした声もあると思います。
また、中井さんは「地方百貨店の衰退は、原因でなく結果だ」とも指摘しています。マチの魅力が落ち、人通りの少なくなった中心市街地で、百貨店だけが繁栄することは考えられません。
地域の人たちが、活性化のために百貨店の力を生かそうというならば、百貨店みずからの努力を大前提に、交通網の整備などと一体で構想を描くことが欠かせない条件になります。
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