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富士山は江戸時代を最後に噴火していませんが、次の噴火を想定した新しい避難計画がまとまりました。「逃げ遅れゼロを目指す」とするこの計画について松本解説委員に聞きます。
【避難計画見直しの背景】
▼避難計画がいま、作り直されたのはなぜ
最近の富士山はとても静穏な状態が続いています。
ただ前回の噴火から300年以上たっていて、20年ほど前には深いところで特殊な地震が多発したこともあるため、専門家はいつ火山活動が活発になってもおかしくないと考えています。
そこで、おととし噴火のハザードマップが17年ぶりに大幅に見直されて、それに基づいて今回、静岡、山梨、神奈川の3県と有識者などが作る協議会が新しい避難計画をまとめたのです。
富士山噴火CG
前提になったハザードマップは過去5600年までさかのぼって噴火を詳しく調べ直した。
その結果、想定される火口の数はそれまでの5倍の252か所に増え、噴出する溶岩の量は2倍近く、溶岩が流れ下って到達する距離も大幅に延びました。
一方、精緻なシミュレーションによって溶岩流のリスクの高い地域と低い地域がはっきりと示されました。
▼新しい避難計画のポイントは
命を守ることを最優先して避難完了までの時間を最短にする一方、噴火が長期化する可能性があることから可能なかぎり通常の生活を維持できるように配慮したと協議会は説明しています。
【見直しのポイント① 段階的避難】
想定されるあらゆる噴火を重ね合わせて作成した避難対象エリアです。
一度の噴火で全域で避難が必要になるわけではありませんが80万人が住むエリアです。
これを噴火の状況に応じて避難を呼びかける6つのエリアに分けました。
第1次避難対象エリアは想定火口範囲です。252か所の想定火口のあるエリア。
5段階の噴火警戒レベルのうち下から3番目、レベル3で噴火前に避難をします。
第2次避難対象エリアは主に火砕流や火砕サージ(熱風)、大きな噴石が到達する可能性がある範囲です。一段上の警戒レベル4が発表され大きな噴火が予測された段階で避難をします。ここまでは「事前避難」です。
第3次は溶岩流が3時間以内に到達する可能性のある範囲です。噴火が起きたら直ちに避難を始める必要があるエリアで、およそ11万人が生活しています。
第4次は溶岩流が24時間以内に、
第5次は7日以内に到達する可能性のある範囲
第6次は溶岩流が最終的に到達する可能性がある範囲で、最大57日間かかるとされています。溶岩流が到達するまで時間があることから、いずれも噴火した場所や、溶岩流が流れ下る方向など状況がわかってから避難をするとしています。
【見直しのポイント② 自主避難、徒歩避難】
▼避難者の集中による渋滞などの対策
そのため噴火の予兆が現れた、噴火警戒レベル3までの早い段階で自主的な避難も促すことになりました。親族の家や宿泊施設などに早めに「分散避難」することで、避難が同じ場所や時間帯に集中することを避けるためです。
また噴火後の溶岩流からの避難は、一般の住民は徒歩による避難が原則とされています。
溶岩流の速度が遅いことや、深刻な車の渋滞によって逃げ遅れる恐れがあるためです。
高齢者や体が不自由な人など避難行動要支援者は車で避難することになっています。
さらに観光客や登山者については、噴火の予兆が観測された段階、噴火警戒レベル3までの段階で下山と帰宅を呼びかけることにしました。
観光客の避難のタイミングが重なって渋滞がさらに激しくなるなど住民の避難が後手にまわることを避けるためです。
【見直しのポイント③ 避難の考え方】
▼避難先は確保できるのか
そのために避難の考え方を大きく変えました。以前の避難計画は避難対象エリアである火山災害警戒地域の外に広域避難をすることになっていました。
しかしハザードマップが精緻化して警戒地域内の安全な場所がわかったことから市町村内や隣接市町村などへの避難も検討することにしたのです。
できるだけ通常の生活を維持する狙いもあります。
富士山の南東に位置する静岡県裾野市は広い範囲が避難対象エリアになっていて人口の9割近くの4万4000人がその地域に住んでいます。
ただ溶岩流が到達するまで8日以上ある第6次避難のエリアも広くリスクには幅があります。
市は精緻化したハザードマップをもとに溶岩流の範囲をあらためて詳しく検討し、安全な場所、リスクの低い場所など市内の安全性を確認しました。
そのうえで、これまでは原則、市外に避難する計画でしたが、火口に近い地域の住民をまず、市内でも溶岩流の範囲から外れた、安全な場所にある中学校に噴火前に避難してもらうことにしました。
市は安全性の高い場所にある市内の施設を洗い出して当面の避難場所を多く確保し、状況に応じてさらに市外に避難する計画を作成することにしています。
【見直しのポイント④ 火山灰】
▼火山灰については?
静岡、山梨、神奈川の3県で30センチ以上の降灰が想定されていますが、噴火の規模や風向きによって影響するエリアが大きく変わります。そこで計画では、頑丈な建物での「屋内避難を原則」としたうえで物流が滞った場合に備えて1週間分の水や食料を備蓄しておくことを求めています。
【今後の課題】
▼今後の課題は
今回まとまった全体の避難計画をもとに、今後、自治体ごとに具体的な避難計画を作ることになります。
・市町村は当面の避難と噴火が拡大した場合の広域の避難場所の確保など、地域の特性をふまえて策定する必要があります。
・広域避難については県の調整が重要になります。
・登山者・観光客の早期下山・帰宅や住民の溶岩流からの徒歩避難などを理解してもらい、訓練などを通じてできるだけ実践されるようにすること
・避難行動要支援者や学校などの避難をしっかり準備しておく必要があることは言うまでもありません。
【まとめ】
火山の噴火はさまざまな現象を伴うため避難計画も複雑になりますが、その想定通りに事態が進むとは限りません。自治体は計画を基礎に柔軟に対応することが求められます。
また住民もリスクを知り避難を考えておくことが身を守ることにつながります。
これらは富士山だけでなく全国の活火山とともに暮らす地域に共通の課題と言えます。
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