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患者の数が極めて少ない病気を「希少疾患」と呼びます。
命に関わる病気もありますが、患者が少ないため、理解が十分に広がっていないという課題があります。
稀な病気ということで、自分には関係ないと思われがちなのですが、実は「誰もが関わる可能性」があります。
牛田正史解説委員がお伝えします。
希少疾患は、主に患者数が5万人未満の病気を指します。
「免疫力が極端に低下する」
「血が止まりにくい」
「手足が強く痛む」など症状は様々です。
命に関わる病気もあります。
ここで重要なのは種類の多さです。
世界で6000から7000ほどあると考えられています。
すべて合わせると、人口の5%、日本では患者数が600万人に上るという推定もあります。
ですから自分は病気でなくても、家族や職場や学校などで、希少疾患の人がいるかもしれない、そう考えるべきなんです。
しかし現実は、「希少疾患」への理解がまだ十分に広がっていません。
病気が知られていない故に患者が周りの人から理解されない、あるいは「仮病ではないか」といった、差別や偏見を受けてしまうケースが起きています。
また、診断が付かず症状に苦しみ続ける人も大勢います。
10年以上かかる人も少なくありません。
ですので、少しでも希少疾患について、知ってもらいたいと思っています。
ただ病気の種類が多いため、すべてをご紹介することは出来ません。
今回は2つの疾患を例に、希少疾患とは何かをお伝えしていきます。
「ファブリー病」と「PID=原発性免疫不全症」です。
どちらも4月に、啓発月間、あるいは啓発週間を迎えた疾患です。
患者数は、ファブリー病が1000人以上、PIDは2500人以上と推計され、希少疾患の中では決して少なくありません。
基本的に遺伝性の疾患とされ、どちらも医療費が助成される「難病」に指定されています。
そして診断までに長い年月を要する人が、多くいます。
まだ広くは知られていない病気です。
まずファブリー病から詳しく見ていきます。
ファブリーとは、病気を初めて報告したドイツ人医師の名前です。
症状は、激しい手足の痛みや、汗をかけない、それに腎障害や心障害などがあります。
細胞の中には、物質を分解する「酵素」と呼ばれるものがありますが、その働きが低下して、不要な物質が体にたまってしまい、痛みや臓器障害などを引き起こします。
このファブリー病と診断された男性のケースをご紹介します。
小学校の低学年の頃から手足の痛みを訴え、ひどい時には立っているだけでも足が痛くなり、靴も履けませんでした。
当時の状況について男性の母親は「もともとは外に出て遊ぶ子だったのですが、本当に外に出なくなりまして、泣き叫ぶぐらいの痛みをくり返していました」と話しています。
最初はかかりつけの病院に行っても、「成長痛ではないか」と言われたそうなんですが、親族にファブリー病の方がいて、その紹介で、専門病院に辿り着き、診断を受けることが出来ました。
診断によって、酵素を補充するなどの治療も始まりましたし、何より周りが病気を理解して、サポートしてくれたことが大きかったといいます。
(男性の母親の話)
「痛くなって学校を早退することが度々あったのですが、先生が息子をおんぶして、校舎から出てきてくれたこともありました。
また、修学旅行に一緒に参加できたんですけれども、班行動などがあると、待っていてくれる友達がいて、「痛い時は休んでいて良いよ」と言ってくれて。
本当に良い友達や先生に恵まれて、ありがたかったです」
病名が分かれば、それだけ周りの人も理解しやすくなる面はあります。
それだけ診断が重要になるのですが、一般の診療所では、医師がこの病気に気づかず、治療に辿り着かないケースも少なくありません。
多くの人は診断まで数年、長い人は10年以上かかっています。
重要なのは、専門の病院に行けば、血液検査などで診断が可能だという点です。
まずは、医師が病気に気づくべきですが、患者も、どんな時に病気を疑えば良いか、知っておくと良いと思います。
主なポイントは次の通りです。
「手足が激しく痛む」
「汗をかけない・かきにくい」
「熱いお風呂が苦手で手足を付けられない」
「皮膚に赤いぶつぶつがある」
「腹痛や下痢をくり返す」
1つでも当てはまると、ファブリー病の可能性があります。
そしてもう1つの希少疾患「PID=原発性免疫不全症」についてもご紹介します。
こちらは免疫力が低下する病気です。
ウイルスや細菌に感染しやすく、発熱や肺炎などをくり返したり、がんの発症リスクも高まったりします。
成人になってから発症するケースも稀ではありません。
専門医で、東京医科歯科大学大学院の金兼教授は、多くの患者は、抗菌薬の予防投与や、抗体を含む成分を補充することによって(免疫グロブリン補充療法)、通常の社会生活を送ることが期待できる。それだけに早期診断と治療が重要だ」と話しています。
こちらも検査で診断が付きますので、まず病気を疑えるかが大きなポイントです。
ではどんな点に注意すべきなのか、主な点がこちらです。
「1年に2回以上肺炎にかかる」
「1年に4回以上中耳炎にかかる」
「重症の副鼻腔炎をくり返す」
「気管支拡張症を発症する」
「抗菌薬を服用しても2か月感染症が治らない」
1つでも当てはまる場合は、病気を疑うべきとされています。
また、先ほどの「ファブリー病」もそうなんですが、基本的には遺伝性の疾患なので、家族や親族に同じような症状のある人がいる場合、特に注意が必要です。
とにかく、この病気じゃないか?とまず気づくことが重要です。
では、ほかの希少疾患でも、情報を入手するには、どうしたら良いのか。
希少疾患のうち、診断基準が確立されているなどの基準を満たすと「指定難病」となります。
それを紹介しているのが、難病情報センターのホームページです。
300余りの指定難病について、症状や治療法などの基本的な情報を掲載しています。
またキーワード検索も出来まして、例えば「腹痛」や「けいれん」などと打ち込むと、関係する病名が出てきます。
このほか、学会や患者会なども情報発信に取り組んでいます。
先ほどご紹介したPIDでは、WEB上で、病気を疑う10の徴候がイラスト付きで紹介されています。
ただ、ここまで詳しく紹介されている疾患は、まだ一部です。
症状を基に、疑うべき疾患名が分かるような情報発信を、国や医療界はさらに広げていってもらいたいと思います。
新年度に入って、新しい出会いもたくさんありますが、もしかしたら、希少疾患の人もいるかもしれません。
根本的な治療が難しい疾患もありますが、理解が進めば、それだけ診断も早まりますし、患者のサポートにも繋がっていきます。
世の中には、まだまだ知らない病気がたくさんあり、苦しんでいる患者も大勢います。
すこしでも希少疾患について、関心を持ってもらえたらと思います。
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