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今回の研究成果が、カドミウムによる腎症の予防法や治療法開発につながり、中国など海外で現在も懸念される健康被害の防止に役立つ可能性がある。
調査を手がけたのは、井村穣二・同大教授(病理診断学)ら。同大が保管するイ病患者38人分と、比較対象として、イ病以外の原因で亡くなった70歳以上の女性26人分の解剖資料を分析し、腎臓のどの部位が壊れているかを比較した。
その結果、イ病患者の腎臓は、そうでない人に比べ平均で約6割小さくなっていた。詳しく見ると、血液中の老廃物をろ過する「糸球体」という両腎に多数ある組織が、腎臓の表面近くほど大きく傷つく一方、腎臓の深部ではあまり影響を受けていなかった。また糸球体でこされ、尿の元となる液体から水分や体に必要な成分を再吸収する「尿細管」では、糸球体とつながる位置にある近位尿細管の損傷が目立った一方、その先にある遠位尿細管は、ほぼ保たれていた。赤血球を作る機能のある造血ホルモンを蓄える部位も減っていた。
イ病やその前段階であるカドミウム腎症の患者は、貧血や、水分調節が難しくなり多尿症を起こすことが多い半面、人工透析を必要とする患者が少ないことが知られていた。これまで近位尿細管のみが障害を受けると考えられてきたが、今回の分析結果は、こうした複雑な症状を病理学の面から裏付けた。
イ病は、カドミウムによる腎臓機能の低下が長期間続くことで、骨の主成分であるカルシウムなどが欠乏して骨がもろくなって発症する。【渡辺諒】