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糖尿病治療で用いられる薬剤。悪化を止めるため、インスリン注射を毎日打たなければならなくなる場合も=2023年5月、倉岡一樹撮影
食事療法や薬物治療などに取り組んだ2型糖尿病患者が年100人に1人の割合で、血糖値が正常近くまで改善して薬が要らない寛解になったとする研究結果を、新潟大などのチームがまとめた。2型糖尿病は従来、発症すると治らないとされてきたが、チーム代表の曽根博仁教授(血液・内分泌・代謝内科学)は「糖尿病は決して治らない病気ではない。患者に対する偏見や不利益を解消できるよう、社会の既成概念を変えたい」と話す。【倉岡一樹】
「寛解」しやすい人の傾向とは
糖尿病は、体内で血糖を下げるインスリンが作用せず、血中のブドウ糖が増えて高血糖が続く病気。日本人を含む東アジア系の人種はインスリンの分泌能力が欧米系の人種と比べて弱いため発症しやすいとされる。厚生労働省によると、国内では可能性が否定できない人まで含め約2000万人と推計されている。
研究したのは、新潟大の曽根教授と藤原和哉特任准教授、糖尿病専門医で組織する「糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)」などのチーム。1989~2022年に全国の糖尿病専門施設に通っていた18歳以上の2型糖尿病患者4万8320人の患者データを分析すると、追跡から5.3年(中央値)で3677人(年換算で約1%の患者に相当)が寛解していた。糖尿病の寛解は国際的な定義で、直近1~2カ月の平均血糖値を示す「ヘモグロビンエーワンシー(HbA1c)」が薬物治療を受けずに6.5未満の状態を3カ月以上継続する状態を指す。
新潟大の曽根博仁教授=本人提供
寛解した患者には、男性▽40歳未満▽糖尿病と診断されて1年未満▽血糖値がさほど高くない(HbA1c7.0未満)▽体格指数(BMI)が大きい(肥満)▽1年間の減量幅が大きい▽薬物療法を受けていない――といった特徴があった。中でも減量幅が5~9.9%の人は、5%未満の人より寛解の割合が2.2倍、10%以上の人は4.7倍上がった。
一方、寛解を1年間維持できたのは3677人のうち1187人。残りの2490人は血糖値が上昇して再発したが、その特徴として、糖尿病と診断されてからの期間が長い▽BMIが小さい(肥満の度合いが低い)▽体重増加――などの傾向があった。BMIが小さい人は元々インスリン分泌量が少ない可能性があるため、再発しやすくなるという。
「糖尿病患者への差別や偏見を取り除きたい」
藤原特任准教授は「日本人は軽度の肥満で糖尿病を発症しやすい。寛解しやすい条件が重なった場合、早期発見と早期治療で減量すればするほど寛解の程度を高め、寛解後の体重管理と定期診察で再発のリスクを低く抑えられる。健康診断を積極的に受けるなどして放置せず、早めに対処することが大切だ」と訴える。
新潟大の藤原和哉特任准教授=本人提供
糖尿病を巡っては、「治らない」という社会の認識によって、患者が偏見や差別にさらされ、就職や昇進、結婚などで不利益を被っている。曽根教授は「糖尿病へのスティグマ(負のレッテル)が、患者に『知られたくない』と恐怖心を抱かせて治療から遠ざけ、悪化させる一因にもなっている。社会が『糖尿病は治る』と見方を変えれば、患者も堂々と治療に取り組める。糖尿病を実態に合わせることで、差別や偏見を取り除きたい」と訴えた。
この研究成果は、国際専門誌「Diabetes, Obesity and Metabolism(DOM)」に5月8日、掲載された。
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倉岡 一樹
毎日新聞医療プレミア編集部
1977年生まれ。2003年に早稲田大を卒業し、毎日新聞社に入社。佐世保支局を振り出しに、福岡報道部、同運動グループ、川崎支局、東京運動部、同地方部などを経て23年4月からくらし科学環境部医療プレミア編集グループ。17年に慢性腎不全が発覚し、19年に実母からの生体腎移植手術を受けた経験から臓器移植取材をライフワークとしている。スポーツの取材歴(特にアマチュア野球)が長い。高校生となった一人娘が生まれた時、初めての上司(佐世保支局長)からかけてもらった言葉「子どもは生きているだけでいいんだよ」を心の支えにしている。