令和5年9月11日
衆議院議長 細田博之殿
東京電力福島第一の「汚染水」問題の国会審議並びに放出中止を求める陳情書
陳情者 鍬野保雄 他4名
李元栄, 水戸喜世子, 木原壯林, 木村雅英
(住所は省略)
東京電力福島第一の「汚染水」問題の国会審議並びに放出中止を求める陳情書
一 陳情要旨
岸田内閣は8月22日東京電力福島第一原発の「汚染水」(政府発表の「処理水」のこと)放出を決定し24日から放出を開始しました。しかし、これは国内外の大きな反発や不安を呼んでおり、このまま流し続ければ取り返しのつかない事態も想定される由々しき大問題となっています。
岸田内閣は漁業者を代表する全国漁連との「関係者の理解なしには処分しない」との約束を反故にしました。これは政府が主権者国民との信頼関係を一方的に破棄するものであります。
放出される「汚染水」のトリチウムによる海洋の自然生態系への影響に国内外の不安と反発が起きています。またメルトダウンした放射能汚染水は62種類だけでなく200種以上にもなるともいわれており、極めて危険な核種も含まれており、放射能汚染物は封じ込めて管理するという原則にも反しており今後自然生態系へ与えるダメージと人類の未来への深刻な影響が科学的に問題視されています。
また近隣国の同意が得られていません。もしも立場を変えるならば近隣国の原発がメルトダウン事故を起こし、福島と同様にタンクに入れた放射能汚染水を東シナ海や日本海に放流した場合、日本はそれを容認することはできません。陸上保管処理を求めるはずであり、近隣国の人々の反発は当然です。
本年7月26日、米国のマサチューセッツ州はピルグリム原発解体工事からの放射能汚染水の海洋放出の申請を拒否しました。また同8月18日、ニューヨーク州のホークル知事は閉鎖された原発からの放射性物質をハドソン川に流すことを禁ずる法案に署名、同法案は成立しました。
1979年のスリーマイル原発事故でも86年のチェルノブイリ事故でもメルトダウンしたデブリに触れた放射性汚染水を海や川に流さず陸上保管、処理をしています。日本の「処理水」は人類初の海洋放流であります。
韓国国民の80%以上が放流反対の意思を示しており、その一人である李元栄氏(国土未来研究所所長、水原大学元教授〈都市工学〉)は日本の国民と共に中止を求め、本年6月18日にソウルを出発し9月11日東京の国会議事堂到着を目指し徒歩行進を進めてまいりました。
その道々で中止を求める両国民の訴えを1000年は持つ韓紙に日本の墨で書いた書簡集にまとめて来られました。全国各地で李氏に協力する模様は氏のブログに連日記載されています。
こうして1600㎞、86日間の徒歩行進を通していかに両国民がこの放出に反対をしているかも知ることが出来ます。
政府はIAEAの理解があったといいますが、当該のIAEA包括報告書の18-19ページにあるように「排出にともなう利益が被害を上回ること」という「正当化」の基本原則にこの放出が合致するという「廃炉の正当化」は立証されていません。先に上げた米国の最近の二州の決定は放射能汚染水を海に流してはならないという人類存続のための倫理的要請でもあります。
また私たち日本国民は広島、長崎の人々は核戦争の被害を受け、黒い雨に含まれる放射性物質による核被害の洗礼を受けました。また水俣病患者さんはチッソ株式会社による有機水銀の海洋汚染が引き起こす食物連鎖、生物濃縮の被害者であり、その原因と機序は明らかにされています。
今回の放射性物質によるすべての生物の被曝がいかなる遺伝的影響を及ぼし人類に還ってくるのか、これについて昨年12月12日には、100の海洋学研究所が集う全米海洋研究所協会(NAML)が「日本による放射能汚染水放出に対する科学的反対」と題する声明を発表しています。本年5月14日には、ノーベル平和賞(1985年)受賞経験のある団体「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」が理事会で採択した声明で、太平洋を放射性廃棄物の処理場として使用しようという計画を中止し、海と人間の健康を保護するオルタナティブな方法を追求するよう求めました。
こうして倫理的にも科学的にも歴史的にも私たち日本国民は放射能汚染と環境に与える影響について人類としてどうあるべきか方向付けられています。
こういう大問題を8月22日の閣議決定だけで決定しても良いものでしょうか。これは民主主義国家における主権者国民にその内容、及ぼす影響についての情報を提供し、国民的議論を行って本来国民投票で決すべきことです。今その制度がないとすればせめて国会議論を公開して決定すべきことです。欧米諸国も台湾でもそのようにして遠い未来にまで影響を及ぼすような人類的に重要な問題について国民投票で決定しています。国会議論もなく閣議決定だけで決めるというやり方は民主主義ではなく独裁政治に他なりません。
民主国家の主権者国民として次のことを国会衆議院議長に求めます。
二 陳情事項
1.「汚染水」放出に関して国会で徹底した審査を行うこと。
2.「汚染水」放出は遠い人類にまで影響を及ぼす生命体への不可逆的悪影響が科学的にも懸念されており、政府・東電が行う人類初のデブリからの放射性汚染物質の海洋放流は中止すべきこと。
なお李元栄氏が日韓市民徒歩行進の道々で両国の市民が書いた放流中止を記した書簡集を陳情書と共に提出します。