|
◆アウトドアに出る人も多い季節、ダニから感染する病気に注意が必要
原因になるのは、ダニと言っても家の中にいるダニとは違い「マダニ」と呼ばれる野山や草むらなどにいる大きめのダニで、体長数ミリから1センチほどになります。
マダニはハサミ状の口で人間や動物をかんで血を吸いますが、その際ウイルスなどが感染して病気になることがあります。主なものでは、「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」や「日本紅斑熱」「ライム病」「ダニ媒介脳炎」などがあり、他にも様々な感染症につながることが知られています。
◆どんな症状が出る?
これらの病気に概ね共通するのは主に発熱や頭痛・筋肉痛などです。他におう吐やせきなど風邪やインフルエンザに似た症状を示す場合もありますし、SFTSでは血液中の血小板が減ったり、日本紅斑熱では赤い発疹ができたりしますが、専門的な検査を受けないと見分けるのは困難です。
この中でSFTSは致死率が3割に達するとの報告もありますし、日本紅斑熱は重症化すると手足の指が壊死に至ることもあるなど、深刻な病気です。とは言え、すべてのマダニが病気を持っているわけではなく、かまれても病気になるのは一部のケースなので過度に怖がることはありませんが、SFTSは例年夏場を中心に患者の報告が多く、日本紅斑熱はこれから秋にかけて増加するとも言われ、注意が必要な時期です。
◆マダニが媒介するこうした感染症が増えている
これらの4つの感染症を合わせた、8月中旬までの患者数を例年の同時期と比べたものです。数字は速報値なので少し変わる可能性がありますが、近年増加傾向にあるのが明らかで、中でも今年は過去最多のペースになっています。
これら4つ以外にもマダニなどが媒介する病気はあり、今年6月には厚生労働省が、マダニが媒介する「オズウイルス」に感染した茨城県の女性が死亡していたと発表しました。オズウイルスが感染して発症したり死亡したケースが確認されたのは世界でも初めてとされます。
◆なぜマダニが媒介する感染症が増えている?
国立感染症研究所の安藤秀二主任研究官は、こうしたマダニが媒介する感染症について医療関係者などの間でよく知られるようになったことに加えて、病原体を持つマダニの生息域が拡大したり、マダニが人と接触する機会も増えているためではないかと指摘します。
こちらの地図は、SFTSの患者が発生すると医師は法律に基づき届出をすることになっており、これまでにその届出があった地域を示しています。SFTSは日本では2013年に初めて確認され、当初は西日本に限られていましたが徐々に中部・関東にも広がりつつあり、この届け出には入っていませんが千葉県でも患者が出ています。
このように広がって来た背景には、マダニの運び手となるシカやイノシシなどの野生動物が、狩猟人口の減少や里山の荒廃によって生息域が広がり数も増えていることがあるのではないかと考えられています。
◆山歩きなどをしなくても要注意!
こうしたマダニが媒介する感染症は、ハイキングや山菜採りなどで山に入る人が注意すべき病気だと思われがちですが、実際は近年、山に行った覚えの無い人が感染したケースもしばしば報告されています。
最近はシカやイノシシが街中や住宅地にも出没するなど、野生動物が人間に近い場所にも出てくるようになっていることに伴い、マダニも住宅地の草むらなどでも見つかっています。
◆ペットを飼っている人も要注意!
こちらの地図は、SFTSを発症した猫や犬が報告されている地域をまとめたものです。犬の散歩や放し飼いにしている猫が外でマダニにかまれて感染したと見られるケースが近年増えており、人間と同様に西日本中心に広がっているのがわかります。
動物のSFTSは人間と違い法律で届出が義務づけられてはいないことや、野外で死んだ野良猫などは把握されていないので、実際は人間より猫の方がずっと多い可能性もあると、この研究に携わった国立感染症研究所の前田健部長は指摘します。SFTSの致死率は特に猫では6割以上とも報告されており極めて高リスクです。
◆ペットから人間への感染リスクも
こうした猫や犬の感染症は人間への感染リスクも問題になります。
わかりやすいケースとしては、外に出た犬や猫にマダニがついて家に持ち込み、そのマダニが人をかむことですが、それだけではありません。
SFTSの場合、人は直接マダニにかまれていなくても、感染したペットと接触した飼い主やペットクリニックのスタッフが感染するケースも知られています。感染した猫にかまれたりペットに顔をなめられるなど、血液や体液の接触を通じてSFTSのウイルスが猫・犬から人へ感染するリスクもあるのではと考えられています。
そういう意味で、感染対策の面でも猫を飼うときは屋内飼育が勧められますし、ペットとの過度なスキンシップは日頃から避けた方がよいとされます。また、犬を散歩に連れて行った後はブラッシングしてマダニがいないかなどをチェックすることも重要です。猫や犬もSFTSになると発熱やおう吐などの症状が出ることがあるので、そうした症状に気付いたら早めに獣医師に相談して下さい。
◆私たちがマダニによる感染症から身を守るために
山歩きに限らず庭仕事などでも草木がしげった場所に入る時は、なるべく長そで長ズボンにしましょう。ただし、まだ暑い時期は熱中症にならない範囲で心がけて欲しいと思います。首にタオルを巻くのもダニよけとしてもよいでしょう。虫除け剤にもイカリジンやディートといったマダニに効果のある成分のものがありますので、注意書きなどをよく読んで使ってして下さい。外出後はシャワーなどを浴びてマダニがついていないかチェックすることも大事です。
もしマダニにかまれてしまい簡単に取れないときは、無理に取ろうとすると口の部分が体内に残ってしまうこともあるので、医療機関へ行って下さい。
そしてマダニが媒介する感染症になってしまった場合、SFTSには今のところ効果的な治療薬がなく対症療法になりますが、日本紅斑熱などには効果的な抗菌薬(抗生物質)もあります。いずれにしても、マダニにかまれた可能性があることを医師に伝えることが大切です。これから秋にかけて草木がしげる場所に行く時はマダニにも注意しましょう。
この委員の記事一覧はこちら