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皮膚に、かゆみを伴う湿疹が繰り返し起きる「アトピー性皮膚炎」。
その治療は、ステロイドなどの塗り薬が中心となっていますが、ここ数年、症状が比較的重い人向けの注射薬など、新しいタイプの薬が次々と開発されています。
今回は、選択肢が広がっているアトピー性皮膚炎の治療についてお伝えします。
【アトピー性皮膚炎とは】
アトピー性皮膚炎は、皮膚にかゆみを伴う湿疹ができ、それが良くなったり悪くなったりをくり返す病気です。つまり「反復性」があります。
国の調査では、患者数が約125万人と、皮膚の病気の中で、最も多くなっています。
年代別に見ますと、10歳未満の子どもが約29万人と最も多いのですが、その後も40代までは、それぞれ20万人近くいて、大人も決して少なくはありません。
【新たな治療薬】
このアトピー性皮膚炎で、ここ数年で新たな治療薬が次々に出てきています。
アトピー性皮膚炎の代表的な薬として、長年使われているのがステロイドの塗り薬です。
皮膚の表面に塗って、炎症を抑え、かゆみを止めるものです。
ただ、長期的に使用すると、皮膚が薄くなるといった副作用も懸念されています。
また、十分な効果が得られないという患者も一部でいました。
そうした中、新たに登場したのが「分子標的薬」と呼ばれる薬です。
これは、文字通り、炎症を引き起こす分子を標的にした薬です。
5年前に国内で初めて登場して以降、次々に新しい薬が開発されてきます。
この分子標的薬の特徴の1つは、塗り薬だけでなく「注射薬」や「飲み薬」など、さまざまなタイプの薬があるという点です。
【注射薬と飲み薬の仕組み】
ここからは、注射薬や飲み薬の分子標的薬について、ご説明していきます。
まずその仕組みです。
従来のステロイドの塗り薬は、皮膚の表面から成分が浸透して広く炎症を抑えるものですが、分子標的薬の注射薬や飲み薬は、体内から炎症を起こす原因分子を狙い撃ちします。
これによって、皮膚のより深くにある炎症への効果が期待されるなど、従来の薬では症状が十分に改善しなかった人の、新たな治療薬として注目されています。
40年近くアトピー性皮膚炎の治療に当たってきた江藤隆史医師は、
「多くの患者はステロイドなどの塗り薬を正しく用いることで改善できるが、症状が比較的重い人などは、塗り薬だけでは十分な効果が得られないケースもある。そうした患者の選択肢が増え、アトピー性皮膚炎の治療がさらに進歩した」と話しています。
【対象や価格は】
分子標的薬の注射薬や飲み薬は、主に症状が比較的重い「中等症」や「重症」の患者が対象になります。
中等症以上の患者は、40代までのアトピー性皮膚炎の患者では、全体の2割から3割ほどに上ります。
学会などが定めた診療ガイドラインでは、こうした患者のうち、ステロイドなどの塗り薬で治療を行っても、十分な効果が得られなかった場合に、塗り薬と併用する形で、使用を検討するとしています。
分子標的薬には塗り薬もありますが、そちらはその限りではなく、初期から使用が可能な場合もあります。
次に対象年齢です。
小さな子どもには使用できない薬もありますが、徐々に対象が拡大しています。
例えば、アトピー性皮膚炎の分子標的薬として初めて登場した、「デュピルマブ」という注射薬は、これまで15歳以上しか使用できませんでしたが、今年9月に、生後6か月以上の子どもにも認められました。
ただ、この分子標的薬には、知っておくべき点、また注意すべき点もあります。
まずは価格です。
比較的、高いとも言われていまして、例えば注射薬ですと1回で数万円以上するなど、治療費が高額になる場合もあります。
一方で、公的な医療保険が適用されますので、自己負担は最大でも3割となりますし、高額療養費制度を使って、さらに負担を軽減できる場合もあります。
そして副作用です。
ステロイドなどより軽減が期待されていますが、まったく無いわけではありません。
薬によっては、例えば結膜炎や感染症などが起きうり、ステロイドとは別の副作用が起きる可能性もありますので、その点は注意しなければなりません。
どの薬を使用するかは、あくまで専門の医師の判断が必要になります。
【日常生活で気を付けるべき点】
ここまで、アトピー性皮膚炎の治療の進歩についてお伝えしてきましたが、実は薬の治療以外にも、日常生活で実践すべき重要な対策があります。
というのも薬の治療はあくまで対症療法で、病気そのものを完全に治すわけではないとされているので、症状の悪化を防ぐためには、日常の生活でも気を付けるべき点があります。
これは、アトピー性皮膚炎と診断されている人だけでなく、湿疹が出来やすいなど、多くの人が、皮膚を守る上で有効ですので、是非、知っておいてください。
まず、その1つは「皮膚のバリア機能」を維持するという点です。
皮膚には、アレルギーの原因物質の侵入を防ぐ「バリア機能」がありますが、それが低下しますと、原因物質が侵入してかゆみが増してしまいます。
まずは、かゆみを感じても、皮膚を掻かないことです。
皮膚を掻くと、表面の細胞が壊れて、バリア機能が低下してしまいます。
専門の医師によると、かゆい時は冷たいタオルなどで冷やすと良いそうです。
また、「保湿」つまり皮膚のうるおいを保つことも重要とされています。
実はお風呂などで、肌をごしごしこすると保湿が低下するおそれがあります。
石鹸などを良く泡立ててから、やさしく洗うのが良いです。
さらに、皮膚の乾燥がひどい場合などは、保湿剤を使うことも有効とされています。
【悪化因子を減らす】
そして、もう1つ重要な対策は、症状を悪化させる因子を出来るだけ減らすことです。
ハウスダストやダニなどが、要因になることもありますので、部屋をこまめに掃除する。
あとは、ストレスも悪化の要因になりうるので、気をつけて下さい。
また、皮膚を出来るだけ刺激しないことも大切です。
髪が出来るだけ皮膚に当たらないよう、ヘアスタイルに気を付ける。
あるいは、刺激の多い、ちくちくするような衣類を避けることも勧められています。
さらには、アルコールや香辛料などの摂取を控えめにすることも大切とされています。
【治療を自己判断で中断しないで!】
そして、アトピー性皮膚炎は、症状が一度良くなっても、再び悪化する可能性があります。
なので、自分の判断で治療を決して中断しないこと、そして日常での対策を続けていくことが極めて大切です。
治療の選択肢が増えていることにあわせて、そうした注意点も是非、多くの人に知っておいてもらいたいと思います。
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