※ '라즈 파이'란?
カードサイズでありながら、高い可能性を秘めたコンピューター「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」。プログラミングを行い、電子部品を本体に接続することによってさまざまな機能を実装できるラズベリーパイは、IoT開発を手軽に体験できるツールとして注目を浴びています。
「戦場で浮き彫りとなった弱点から学びながら、ロシアは無人機を進化させている」
ウクライナにある研究所の軍事研究部門トップの言葉だ。
弱点克服のため、ロシアが、子ども向けのプログラミング教室にも使われるような民生品の小型コンピューターまで利用している実態も見えてきた。
戦場で使われる無人機はいったいどこまで進化するのか。その最前線を追った。
進化する無人機戦
ことし1月、北欧やバルト三国でGPS障害が多発し、民間航空機の運航が大きく乱れた。
その原因として指摘されているのが、ロシア軍による「電子戦」。
相手の通信機器やレーダーに対しより強力な電波を発射することなどにより、通信機器などが発する電波を妨害する戦いだ。
電波を発射することで無人機の飛行を妨げるロシア軍の兵器
無人機の多くはGPS信号などの電波を受信し、位置情報を把握しながら目標に向かって飛行する。
これに対し、電子戦は、GPSなどの受信を妨害し、位置情報などを狂わせ、無人機の飛行を妨げる。
イギリスの研究機関によると、ロシア軍の電子戦によって、ウクライナは、1か月に最大で1万機の無人機を失ったとみられている。
電波を発射するライフル形の兵器改良続けるロシア軍の無人機
取材班はことし5月、キーウにある犯罪科学研究所を訪れた。
この研究所は、戦場などでロシア軍の無人機やミサイルの残がいを回収し、分析を進めている。
なかには、2年前に回収した、ほぼ原形をとどめた「シャヘド136」もあった。
回収された「シャヘド136」
「シャヘド136」はもともとイランの無人機だが、研究所の軍事研究部門のトップ、クルチツキーさんは、ロシア軍が使う「シャヘド136」には3つのタイプがあると説明する。
最近はロシアが組み立てたものが増えているという。
1、イランから輸入
2、イランから主要な部品を輸入・ロシアで組み立て
3、ロシアが部品を調達・組み立て
また、ロシアが調達した部品の中には「JAPAN」と記されたものもあった。
調べたところ、日本が関係する会社が中国で製造した民生品であることを突き止めたという。
クルチツキーさんは「ロシアが、運用中に確認された欠点をふまえて応用面で改良を進めている」と指摘する。
キーウ犯罪科学研究所 アンドリー・クルチツキーさん
クルチツキーさん
「機体にこれまでとは異なる素材が使われ、強度が増している。また、無人機のナビゲーションシステムでは、アンテナ装置を変えたほか、ウクライナの携帯電話のSIMカードを用いるようになっている。
ウクライナの電波を利用して、誘導システムの精度を高めているのだ」
ロシア軍の無人機に使用されていた ウクライナの携帯電話のSIMカード
別の専門家は、ロシアによる、電子戦への対抗策ではないかという見方を示す。
ヨーロッパ政策分析センター フェデリコ・ボルサリ研究員
「ウクライナ側の電子戦に対抗する方策を探るため、ロシア側の小規模な部隊のイニシアチブで、現地の携帯電話ネットワークを使うことが妨害(ジャミング)に対する解決策になり得るか試し始めた」
ロシア軍は“ラズパイ”も利用!
ウクライナが回収したロシア製の無人機からはさらに興味深いものも見つかった。
「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」、通称「ラズパイ」と呼ばれる、手のひらにのるほどの小型のコンピューターだ。
小型のコンピューター「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」
なぜ興味深いのか。
これが子ども向けのプログラミング教室から産業界まで広く普及している民生品だからだ。東京・秋葉原の電気街でも購入できる。
秋葉原で「ラズパイ」を扱う店主の1人は「まさか軍事用にも使われているとは」と驚きを隠さなかった。
2012年に登場した「ラズパイ」。イギリスの財団の主導でプログラミングを学ぶための「教育用」として開発されたのが始まりとされる。
手ごろな価格と使いやすさから、過去10年間で世界で6000万台以上が販売された。複雑な処理は一般的なコンピューターに劣る一方で1つの処理に集中することを得意としている。
ほかのセンサーと組み合わせることで農業用ハウスで温度や湿度を計測できる。工場ではカメラと接続して画像認証による品質管理を行うなど用途は多岐にわたる。
6月中旬、NHKのニュース7で放送したリポート。
2024年6月15日放送「ニュース7」より
回収された無人機に搭載されていた「ラズパイ」の映像がわずか1秒ほど放送されると、SNSでは驚きの反応が広がった。
慶應義塾大学SFC研究所 平田知義さん
「『ラズパイで何かできる』とは思っていたものの、『まさか本当に実戦で使われていたとは』という驚きや、もともとは『教育用』であるはずのものが戦場で人をあやめているという驚きが多くの人にあったのではないか」
では、「ラズパイ」はどのように無人機に使われていたのか。
ヒントは一緒に見つかったSIMカードにあると平田さんは分析する。SIMカードと組み合わせることで通信機能を持たせることができる。
映像の送信や飛行ルートの地図表示、目的地までの座標指定といった用途が考えられるという。
慶應義塾大学SFC研究所 平田知義さん
平田さん
「もともと民生技術の軍事利用はウクライナが先行していた。今回の『ラズパイ』に関してもロシアが“後追い”したのではないか。
『ラズパイ』のような民生品が無人機に限らずさまざまな兵器や装備品に使われる状況はスタンダードになりつつある。軍事技術そのものが“民主化”されてきている」
一方、ラズパイが無人機に使われていたことを受け、ロシアへの“輸出規制”が十分に効果を発揮していないと、警鐘を鳴らす専門家もいる。
慶應義塾大学SFC研究所 部谷直亮さん
部谷さん
「軍事・産業の両方でマルチユースされている技術が出てきており、戦争のあり方は劇的に変わっている。
一律に規制する、放置するではなく、民間の技術が何に使え、使われる可能性があるのか、議論をやり直す必要がある。経済安全保障とは何なんだということを再検討する時期にきている」
ラズパイを開発する会社も手をこまねいているわけではない。ロシアへの輸出に関与する業者をリスト化し、取り引きを停止するなどの措置を講じているという。
会社は取材に対し「適用されているすべての輸出規制を順守する」とコメントした。
無人機輸出に意欲見せるイラン
いま、専門家が注目するのが、無人機をめぐるロシアとイランの協力だ。
ウクライナの研究所のクルチツキーさんは「イランの技術者はロシアでの『シャヘド』の製造にも立ち会っている。技術者レベルでは、情報を共有しているだろう」と述べ、一定の情報が共有されているとの見方を示す。
イランは、ウクライナの戦場で得た知見を生かして、無人機の技術改良を進めているのではないか。
取材班はことし4月、「シャヘド136」など国産の無人機を展示している、イランの軍事精鋭部隊・革命防衛隊の施設を訪ねた。
イランの兵器を展示する施設
そもそもイラン政府は、ロシアに「シャヘド136」を供与しているという欧米などからの指摘を否定している。
この疑惑について施設のトップ、バラリ准将に改めてぶつけると「私からは購入していない」と答え、にやりとした。では「私以外からは?」と思ったが、笑いながらも鋭い目つきは「それ以上、聞くなよ」と言っているように感じた。
イラン革命防衛隊 バラリ准将
ただ「シャヘド136」の技術改良については、じょう舌に説明した。
複数の系統で位置情報を得るシステムを搭載することで、そのどれかが機能しない事態に遭遇しても飛行が続けられるよう、リスク分散に取り組んでいるという。
ウクライナの戦場で「シャヘド136」が世界中に知れ渡るようになったいま、イランは各国への無人機の輸出に意欲を見せる。
「シャヘド136」
バラリ准将
「シャヘド136の飛行ルートは事前に設定され、GPSやINS※1、GG※2、それに、グローバル※3を使ってそのルートを修正しながら標的に到達することができる。どれか1つのシステムに頼り切ることはない」
※1「INS」
慣性航法装置。GPSのような外部からの信号に頼らなくても、機体に搭載したセンサーによって速度や移動方向、位置などを算出する。
※2 GG
「GPS・グロナス」を指すとみられる。アメリカが運用するGPSに加え、ロシアの衛星測位システム「グロナス」を併用して位置情報の精度を上げる。
※3「グローバル」
「グローバル・ナビゲーション・サテライト・システム」=「全球測位衛星システム」を指すとみられる。GPSやグロナス以外の衛星も利用し位置情報を得る。
年内100万機 ウクライナ軍は
ロシアによる侵攻を受けるウクライナ軍も無人機の改良を重ね、ゼレンスキー大統領は、年内に無人機100万機を国内で製造する計画を掲げる。
6月には、ことし発足させた無人機や無人艇に特化した部隊を公開した。
そのウクライナへの軍事支援として供与されてきたのが、欧米を拠点とする軍事企業が開発した小型の偵察型無人機「ブラック・ホーネット」だ。
小型の無人偵察機「ブラック・ホーネット」
去年発表した最新型は、カメラや熱センサーの性能が向上。
従来機の5倍の距離、300メートル先の物体まで見分けることができるとされている。
そして、GPSだけでなく、地形情報を収集し、AIで解析することで、位置情報を得ることができ、正確に飛行できるという。
企業の幹部は、こうした技術改良は、ウクライナ側と協力しながら行われたと明かした。
「テレダイン・フリアー・ディフェンス」 オレグ・アギュレ副社長
アギュレ副社長
「電子戦が展開される戦場においては、妨害されずに飛行させることは非常に重要だ。
ウクライナ軍の操縦士への訓練や無人機の配備を通じて、システムを強化し、変化する作戦環境に適応するためのフィードバックを継続的に得ることができた」
無人機戦 その先は?
無人機を使った戦いはどこへ向かうのか。
専門家は「無人機の改良と電子戦はいたちごっこだ」と述べ、無人機の技術開発は止まらないと指摘する。
その上で、ウクライナ側、ロシア側の双方ともに戦場で得た知見をもとに、さらに性能を向上させ、より広い範囲が危険にさらされることになると警鐘を鳴らす。
ヨーロッパ政策分析センター フェデリコ・ボルサリ研究員
ボルサリ研究員
「ウクライナでは、無人機は、作戦の進め方に多大な影響を与え、戦い方を変化させた。
無人機によって戦場は一段と可視化され、戦場は前線だけでなく、離れた後方までもがより危険にさらされるようになった」
(2024年6月15日 ニュース7で放送)