AI向け半導体の世界大手・エヌビディアの創業者、ジェンスン・フアンCEOが来日し、ソフトバンクグループの孫正義社長との対談が実現した。
ともにAI事業の拡大を狙う2人。AIの将来をどう見据えているのか、そして両社の関係はどうなるのか。
世界のIT業界をリードする2人の対談から見えてきたものとは。
(経済部記者 三好朋花 西潟茜子)
テーマは“AIの未来”
11月13日、エヌビディアが都内のホテルでイベントを開いた。
AI向けの高性能な半導体を開発するエヌビディア。
その世界シェアは8割近くを占め(2023年、オムディア調べ)、グーグルやアマゾンなど「GAFAM」と呼ばれるアメリカの巨大IT企業も一目を置く存在だ。
11月5日に時価総額で再び世界トップになり、2日後には終値でも世界の上場企業で初めて3兆6000億ドルを突破。
市場での存在感もひときわ高い企業だ。
このイベントで、日本を訪れていたジェンスン・フアンCEOが登壇した。
語ったのは、AIの未来だ。
エヌビディア ジェンスン・フアンCEO
「AI革命、新しい産業、驚異的な技術の変化という新しい時代の始まりに立っている。私たちは日本の企業と連携してAIを日本に導入し、活用できるようにするためにここに来た」
講演では、ある大物がゲストとして招かれた。
ソフトバンクグループの孫正義社長だ。
ともにAI事業の拡大を目指す2人。
話題に上ったのは、日本のデジタル化をめぐる過去の教訓と、その巻き返しのチャンスが今訪れているということだった。
フアンCEO
「日本はかつて技術で世界をリードしていた。しかし過去30年間、西洋と中国でソフトウエア産業が形成された時、日本はもっと積極的になれたのではないか」
ソフトバンクグループ 孫正義社長
「日本の大企業は『ものづくり』といって物理的なものを作ることに本当の価値があり、ソフトウエアはバーチャルだと過小評価してきた。少なくともAI革命には日本政府は抑止しようとしていないようで、ハンディキャップがないのは幸運だ。新しい革命にキャッチアップできるのは今だ。逃すわけにはいかない」
AIで日本は?
AIが進化することで、日本の未来がどう変わると2人は見ているのか。
フアンCEOは、AIの活用が生産現場でいっそう進むという見方を披露した。
ロボットの技術に強みのある日本でAIを活用することで、ロボットが自律的に生産を行う工場が実現すると訴えた。
フアンCEO
「ロボットAI革命をリードするのに、日本ほど適した国は想像できない。日本がAIの最新のブレークスルーを利用して、機械の専門知識と組み合わせることを願っている」
一方、孫社長は、AIが利用者の行動や思いを推測して業務を進める「エージェント」機能が将来実現するという見方を示した。
孫社長
「ビル・ゲイツが『すべてのデスクにパソコンを』、スティーブ・ジョブズが『すべての手にスマートフォン』と言ったように、すべての人に『AIエージェント』を届けたい。1人ひとりに専属のエージェントが必要だ。旅行を計画してくれるようになる」
共通するのは、AIがみずから学び、自律的に答えを出すという進化を遂げ、社会を一変させる姿だ。
日本にはその潜在能力があると語り合った。
さらに両者は、技術革新には研究者や学生、スタートアップへの支援が必要だと訴えた。
フアンCEO
「私たちは若い起業家やイノベーターたちがAIに取り組み、活用することを支援しなければならない」
孫社長
「建設中の日本最大のAIデータセンターで、研究者、学生、そしてスタートアップを支援していく」
明らかになる2人の関係
対談で、互いを「ジェンスン」、「マサ」と呼び合った2人。
これまでの浅からぬ2人の関係が背景にある。
かつてソフトバンクグループは、傘下のファンドを通じて、エヌビディアの株式を保有していた(2019年に売却)。
さらに孫社長は、エヌビディアの買収を検討していたという。
2016年に買収したイギリスの半導体開発会社「Arm」と、AI向けの技術で強みを持つエヌビディアを組み合わせることで、AI関連の事業の強化につなげようという狙いがあったとみられる。
対談では、Armの買収直後、アメリカのカリフォルニアで、フアン氏と2人で会談した話が披露された。
孫社長
「私の家の庭で2人でプライベートな話をした」
フアンCEO
「(孫社長から)『私がお金を出す。エヌビディアを買う』と。受けなかったのをいま少し後悔している。すばらしいアイデアだった」
結局、買収には至らなかったが、4年後の2020年、今度はソフトバンクグループが、Armをエヌビディアに売却することで合意。
両社は「規制上の大きな課題があったため」として、この合意は解消したが、両社の関わりあいを示した形だ。
対談の中で、孫社長はエヌビディアへの買収などのアプローチはこれまで3回に上ったことを明らかにした。
両社の接近は
孫社長は、「ASI」と呼ばれる人間の能力を大幅に超えるAIが今後10年以内に実現するという見方を示し、AIを次の成長に向けた事業の柱の1つに位置づけている。
今回の対談では2人は両社の関係をさらに深めていくことに意欲を示した。
フアンCEO
「ともにすばらしい価値を創造していこう。われわれはパートナーだ。日本ですばらしいことを一緒にできるのが本当にうれしい」
孫社長
「まだ始まりにすぎない。私たちは一緒にたくさんのことを成し遂げるつもりだ。いろいろなところでコラボレーションできるだろう」
この日、エヌビディアとソフトバンクは、AIインフラの構築に向けて協業を加速すると発表した。
自動運転支援の実証実験の様子
携帯電話の基地局で、AIの情報処理を行う技術を共同で研究。
自動運転の支援やロボットへの活用を目指し、実証実験を重ねている。
AI事業拡大狙う
対談後、フアンCEOは記者団に対し、日本での事業拡大に意欲を示した。
フアンCEO
「日本の企業と連携してAI革命のアドバンテージを取っていきたい。日本で開発拠点を開設することは喜んでもらえると思っている。日本の企業をサポートしていきたい」
かたやソフトバンクグループは、対談前日の決算会見で、生成AI「ChatGPT」を手がけるアメリカのオープンAIに、5億ドル投資したことを明らかにした。
市場では、AI向け半導体の生産も行うのではといった話もささやかれている。
ソフトバンクグループ決算で発表する後藤芳光CFO
急成長が予想されるAIビジネス。
次のビジネスチャンスを夢みて交錯してきた2者の関係がどう変化していくのか。
世界のIT業界も注目する次の一手に注目したい。
(11月14日「おはBiz」などで放送)