岡山県の山あいの町に走った衝撃。
海外の研究で有害性が指摘される有機フッ素化合物「PFAS」が水道水から高い濃度で検出されたためでした。
国は11月29日、全国の水道水の検出状況を調査した結果を初めて公表。
最新の調査では国の暫定的な目標値をすべての地域で下回っていましたが、昨年度までに14か所で目標値を上回っていました。
国の調査結果をもとにNHKが作成した「水道水PFAS検出状況マップ」であなたが住む地域の水道水の現状を確認してみてはいかがでしょうか?
目次 ※クリックするとその項目に飛びます
▽「突然、飲むなと言われた」
▽PFASがもたらす 時を超える懸念と不安
▽「水道水のPFAS検出状況マップ」あなたのまちは?
▽排出源は「ほとんどわかっていない」
▽気になるあなたに…身近な対策は?
「突然、飲むなと言われた」
自然豊かな山あいにある岡山県吉備中央町。
去年10月、水道水から1リットルあたり1400ナノグラムのPFASが検出されていたことが明らかになりました。これは、国が定めた暫定目標値の28倍にのぼります。
2020年から4年続けて、目標値を超える濃度が検出されましたが、水源を切り替えるなどの対策によって現在は目標値を下回っています。
ただ、目標値を超える水を飲み続けてきた住民からは、不安や怒りの声があがっています。
住民 小倉博司さん
「水はやっぱり命の源だっていうのをよく言われていて、当たり前のように飲んできました。それを突然、飲むなと言われて。切ないですね、本当に…。地域の皆さんの健康被害の状況を調べる必要があると思っています」
住民の声を受けて、町は11月25日から、全国で初めて公費による血液検査を行いました。
住民の女性
「もし影響があれば心配なので検査を希望しました。影響がありそうな場合、町には早めに対応してほしいです」
PFASがもたらす 時を超える懸念と不安
「PFAS」は人工的に作られた有機フッ素化合物で、1万以上の種類があるとされています。
水や油をはじき熱にも強い特徴などから、防水服、半導体、航空機火災に使用する泡消火剤、フライパンのコーティングなど幅広く使われてきました。
長く環境に残り、体に蓄積されやすいことから“永遠の化学物質”とも呼ばれています。
海外の研究ではPFASの一部の物質に発がん性や子どもへの成長の影響など有害性が指摘されていて、「PFOS」と「PFOA」など3つの物質は、国際条約で製造・使用が禁止されています。
暫定目標値50ナノグラム/Lとは?
このうち「PFOA」と「PFOS」について国は「健康に悪影響が生じないと考えられる水準」として、合計で水道水1リットルあたり50ナノグラムという暫定目標値を設定しています。
体重50キロの人が生涯にわたって毎日2リットルの水を飲んでも健康に悪影響がない水準だということです。
「水道水のPFAS検出状況マップ」あなたのまちは?
水道水でPFASがどれくらい検出されるのかを把握するため、環境省と国土交通省は、全国の自治体や水道事業者に対して2024年度(~9月)までの4年半の▽PFASの水質検査の実施の有無や、▽検出された場合の最大値などについて調査を実施。
そして今回、初めて公表しました。
NHKは、この調査結果をもとに「水道水のPFAS検出状況マップ(最大値)」として可視化しました。
こちらに表示されたマップで自治体をクリックすると、各年度のPFASの検出状況を確認することができます。
国が公表したデータをもとに、マップでは以下のように自治体を色分けしました。
自治体色分け
▽赤色:暫定目標値(50ナノグラム/L)を超えた自治体
▽黄色:暫定目標値(50ナノグラム/L)以下の自治体
▽水色:「定量下限値」もしくは「検出下限値」未満
▽灰色:検査を実施していない自治体
※暫定目標値を超えた地点は水源を切り替えるなどの対策を行い、いずれも最新の検査で目標値を下回っています。
※色分けは、各年度ごとの検出値のうち最大値を反映しています。
※複数の水道事業者から給水される自治体では、最も高い値が出た事業者の検出結果が色分けに反映されています。
※「定量下限値」とは測定において信頼性のおける一番低い数値を指し、「検出下限値」とは測定で検出できる最も低い値を指します。
地図は自治体ごとにクリックできるようになっていて、その自治体に給水する水道事業者の検査結果が表示されます。
また、検査した水の種類の詳細は以下のとおりです。
▽給水栓水 住宅などの蛇口の水
▽浄水場出口水 浄水場で処理された水
▽原水 浄水場で処理される前の、水源から取水した水
※複数の自治体に給水する事業者の検査結果は、給水区域のすべての自治体に反映しています。給水区域については、2024年11月までに事業者のホームページの表記や電話取材などでNHKが確認したものです。
※複数の水道事業者から給水される自治体では、最大値が高かった事業者から順に表示されます。
※国は、検査を行った具体的な場所の名前については公表していません。
過去4年で…目標値超えは14か所に
上水道と規模の小さい簡易水道などを運営する自治体や水道事業者3755か所のうち、2023年度までの4年間に、14か所で暫定目標値を超える濃度が検出されました。
いずれも水源を切り替えるなどの対策を行い、最新の検査では目標値を下回っています。
例えば東京都。
マップをクリックすると赤色は2020年度のみで、2021年度以降は黄色が続いていることがわかります。
環境省はこれまでの検査で給水人口に換算すると全体の95%で目標値を下回っているとしています。
◎2020年度
検査実施:466か所
暫定目標値(1リットルあたり50ナノグラム)を超過:11か所
▽東京都水道局 64ナノグラム
▽神奈川県座間市 63ナノグラム
▽長野市 58ナノグラム
▽岐阜県各務原市 99ナノグラム
▽愛知県北名古屋水道企業団 175ナノグラム
▽三重県桑名市 290ナノグラム
▽京都府精華町 63ナノグラム
▽大阪府の大阪広域水道企業団四條畷水道事業 73ナノグラム
▽兵庫県宝塚市 54ナノグラム
▽岡山県吉備中央町 800ナノグラム
▽沖縄県金武町 70ナノグラム
◎2021年度
検査実施:801か所
暫定目標値超:5か所
▽岐阜県各務原市 550ナノグラム
▽三重県桑名市 170ナノグラム
▽兵庫県西脇市 100ナノグラム
▽岡山県吉備中央町 1200ナノグラム
▽沖縄県金武町 59ナノグラム
◎2022年度
検査実施:869か所
暫定目標値超:4か所
▽群馬県渋川市 64ナノグラム
▽岐阜県各務原市 130ナノグラム
▽三重県桑名市 230ナノグラム
▽岡山県吉備中央町 1400ナノグラム
◎2023年度
検査実施:1325か所
暫定目標値超:3か所
▽岐阜県各務原市 65ナノグラム
▽京都府福知山市 75ナノグラム
▽岡山県吉備中央町 1100ナノグラム
◎2024年度9月末まで
検査実施:1745か所
暫定目標値を超えた場所はなし
「私のまちが黄色や水色!?」どうしたら…
マップで黄色は「目標値を超えていないが一定程度検出された」ところで、水色は「ほとんど検出されなかった」などと報告があったところです。
マップを見て、自分のまちが黄色や水色に色分けされていた…。
「その結果ってどうなの」と感じた人もいると思います。
そこで水道の水質管理に詳しく、国の検討会の委員も務める北海道大学の松井佳彦名誉教授に話を聞きました。
松井佳彦 名誉教授
松井名誉教授
◎「黄色でも安心していいと考えられる」
「一定程度検出された地域(マップで黄色)に住んでいても、びっくりする必要はありません。あくまで目標値以下なので、安心していい数字だと考えています。一方、一般的に水質は変動するものなので、45ナノグラム以上など目標値に非常に近い場合、次の検査を含めて濃度が下がるかどうかウォッチしていく必要があります。
定量下限値もしくは検出下限値未満(マップで水色)は極めて低い値です。水の中の物質をすべて取り除くということは難しく、一般に目標値の10分の1以下と考えられるため心配の必要はありません」
◎「正しく知ることが大事」
「まずは、PFASという物質について正しく勉強していくことが重要です。検査結果については水道事業者のホームページに載っているところもあるので、自分のところの濃度が、過去から最近にわたってどうなっているかを見ることが大事です。環境省のホームページにもPFASの対応について掲載されています。
またPFASは慢性毒性といって、この水を飲んだらすぐ影響が出るというものではなく、一定の濃度以上の水を長い間摂取すると影響が出るかもしれないとされているものです。PFASのリスクはわからないところがあるので、目標値の50に近い数値の場合はウォッチして、事業体もなるべく数値を下げるようにしたほうがいいです」
浮かび上がった課題は…「検査未実施」
今回の国の調査で浮かび上がった課題…それは検査の徹底です。
規模の小さな簡易水道を中心に、水道事業者や自治体による検査が行われていなかった事例が相次いで確認されました。
NHKは11月までに、水道水のPFASについて一度も検査を行っていない80あまりの自治体に電話によるアンケート取材を実施しました。
未実施の理由について聞いたところ…
最も多かったのが「法的な義務がないから」という回答で4割を占めました。
このほか「PFASの対策を重要視していなかったから」、「検査費用が高いから」などの声も聞かれました。
排出源は「ほとんどわかっていない」
PFASは、化学工場などで製造・使用されたほか、基地や空港などで使われていました。
環境省は、PFASの排出源についてはほとんどわかっていないとしています。
吉備中央町に置かれていた活性炭
高い濃度が検出された岡山県吉備中央町では、水源のダムの上流に置かれていた使用済みの活性炭が原因とみられていますが、どこから来たのかは現時点で明らかになっていません。
吉備中央町に住む小倉さん
「放っておくと、吉備中央町のような状況が全国にもっと点在していくのではないかと。取り残されるのは、汚染の被害者である住民たちなんです」
気になるあなたに…身近な対策は?
家庭での水道水対策はどうすればよいのでしょうか。
一般的には浄水器を使う方法があります。
活性炭による除去が一般的で、メーカーによってはPFAS除去をうたう製品も販売されています。価格は数千円~数万円です。
京都大学の原田浩二准教授は性能にはばらつきがあると指摘したうえで、行政による浄水器の性能試験方式の統一が求められると話しています。
ペットボトル飲料、アルコール飲料は?
また、ミネラルウォーターや清涼飲料水などの検査状況はどうなっているのでしょうか。
飲料メーカー各社の取り組みです。
ミネラルウォーターを製造している以下のメーカーは原料水の検査を実施して国が定めた水道水の暫定目標値を下回っていることを確認していると回答しました。
キリンホールディングス、日本コカ・コーラ、アサヒグループホールディングス、サントリーホールディングス、ポッカサッポロフード&ビバレッジ
また、清涼飲料水についてポッカサッポロ、アルコール飲料についてサッポロビールはそれぞれ「定期的に法令に準じた水質検査を行い、PFASについても順次情報収集や調査を進めている」と回答しました。
調理器具は大丈夫?
フッ素樹脂加工の調理器具としてテフロン加工のフライパンが知られています。
テフロンはアメリカでPFASを製造していたデュポン社の商品名です。
デュポン社は工場の従業員やその周辺に暮らす住民から、PFOA(PFASの一種)による健康被害を訴えられ、多額の賠償金を支払った経緯があります。
フッ素樹脂加工の調理器具はそのほかのメーカーも数多く販売してきました。
基本的にフッ素樹脂そのものは安全性の高い物質とされていますが、過去にはPFOAが製造過程で使われていました。
それでは、調理器具についてはどう考えればよいのでしょうか?
PFASの研究を長年続けてきた京都大学の原田准教授は次のように指摘しています。
▽調理器具の製造過程で高温での熱処理をするため、表面にはPFASがほとんど残っていないとされている。
▽原田准教授の研究チームが2020年に行ったフライパンの調査では、ほとんどPFASは検出されなかった。
▽海外では検出されている事例も報告されている。
▽今は製造・使用が禁止されているPFASが使用されていた可能性がある古い製品については気をつけたい。
広がる不安 国は検査の義務づけ検討
水道水に含まれるPFASについては、検査や報告は法律で義務づけられていません。
国は今回の調査結果も踏まえ、暫定目標値から、法律で検査や改善が義務づけられる「水質基準」に引き上げるかどうか検討することにしています。
住民の不安が広がり続ける中で、国には現状とその対処法などを丁寧に説明していくことも求められます。
(11月29日おはよう日本で放送、12月1日NHKスペシャルで放送予定)