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富士山 大規模噴火したら何が起こる?
富士山で大規模な噴火が発生した場合、風向きや風速によっては周辺の自治体だけでなく東京の都心を含む首都圏の広い範囲に火山灰が降って影響が出るおそれがあり、5年前、国のワーキンググループが報告書をまとめています。
富士山では、江戸時代の1707年に「宝永噴火」と呼ばれる大規模な噴火が発生し、16日間にわたって噴火が続きましたが、この「宝永噴火」に相当するような大規模な噴火が起きると東京都や神奈川県などの広い範囲で、火山灰が数センチから10センチ以上積もるおそれがあるとしています。
検討会では次のように想定しています。
道路
火山灰が1ミリ以上積もると車が出せる速度は30キロ程度、5センチ以上積もると10キロ程度まで落ち、10センチ以上積もると、通行ができなくなるとしています。
鉄道
レールに0.5ミリの火山灰が積もるだけで運行が停止され、運行システムに障害が出るおそれがあります。
鹿児島市などでは桜島の火山灰の影響で、鉄道の運行がたびたび止まっています。
航空機
ジェット機のエンジンが火山灰を吸い込むと最悪の場合、停止するおそれがあるほか、空港の滑走路も火山灰が積もると閉鎖される可能性があります。
物流の停滞で生活に支障も
暮らしの影響も深刻です。
道路が使えなくなると物流が滞り、食料や飲み水のほか医療物資などが入手できなくなり、営業できなくなる店もあるとみられています。
さらに、雨が降っている場合には電気設備に火山灰が付着して停電が起きたり、断水や通信設備に影響が出たりするおそれもあります。
また、火山灰は雨などを含んで湿ると重くなる特徴があり、30センチ以上積もっていると木造住宅が押しつぶされるおそれがあるとしています。
さらに、目やのどに痛みを与え、呼吸器などの疾患を悪化させるおそれがあるとしています。
富士山噴火 本当に起きるの?
宝永噴火では大量の火山灰が噴き出て、ふもとの村は3メートル以上の火山灰が降り積もった影響などで甚大な被害が出たほか、江戸でも大量の降灰があったと記録されています。
東京大学 藤井敏嗣 名誉教授
「私たち日本人は大規模噴火を長いあいだ経験していない。広い範囲で火山灰を降らせるような爆発的な噴火は富士山だけでなくどの火山で起きるかわからない。対策を考える必要がある」
インフラ施設では対策も
富士山の大規模噴火による火山灰は首都圏の生活に必要なインフラ施設にも影響を及ぼすおそれがあり、対策が進められています。
東京都内に水を供給している都水道局が管轄する浄水場のうち、富士山から東に直線距離でおよそ80キロ離れた神奈川県川崎市多摩区の施設には砂で水をろ過する「急速ろ過池」や不純物を水中に沈めて取り除く「沈殿池」があります。
「急速ろ過池」にはふたの代わりに太陽光パネルを設置しましたが「沈殿池」は清掃の都合で常時覆うことが困難だといいます。
屋外プールのような状態になっていて火山灰が大量に降った場合、飲料水として使えなくなるおそれがあるため、沈殿池全体をシートで覆えるようにするための工事が進められています。
現在ワイヤーが設置されていて、3月には、シートあわせて120枚が設置される見通しです。シートは大規模噴火が起きて火山灰が降るおそれがある場合に手動で広げることになっています。
東京都水道局施設計画課 和田正豊 担当課長
「火山灰がこちらに降ってくるのか、見通しが分かれば、迅速に体制も整えられるので、大事な情報の1つかと思う。365日・24時間、安全で高品質な水を供給するのが第1の使命として取り組みを進める」
住民の安全確保 ライフライン 対応の指針は
富士山などで大規模な噴火が起きた場合の対応については内閣府が検討を進めています。
火山灰の対応については去年から専門家による検討会を設けて議論していて、この中では積もった火山灰の厚さに応じて、住民の安全確保や、交通手段、電気、水道といったライフラインの維持などの考え方を対応指針として示すことにしています。
現在の案では積もった火山灰が30センチ以上の地域では雨が降った際、灰の重みで木造家屋が倒壊するおそれがあるため、住民の避難の必要性が出てくるとしているほか、30センチ未満の地域では介護が必要な人などを除いて自宅にとどまって過ごすことを基本としています。
また、自宅にとどまることが想定される地域でも、火山灰が3センチ以上積もった場合は道路を車が通行できなくなったり電力や水道などのライフラインに影響が出たりするおそれがあるため、復旧や維持などを最優先にするよう求めています。
このように、自治体にとっては、火山灰の積もる厚さがどの程度になるかによってどういった対応が必要かが決まります。
このため、指針案では大規模噴火時には火山灰の予測や実測についての情報を住民に周知する体制を構築することが重要だと指摘しています。
火山灰の予測情報 気象庁で初の検討会
14日、気象庁で火山や防災情報の専門家などによる検討会が開かれました。
富士山などで大規模噴火が起き、積もった火山灰が3センチ以上や30センチ以上などに達し、何らかの対応が必要とされる場合に、気象庁は「警報」として発表することも含めて検討するとしています。
出席した専門家からは、次のような指摘が出されていました。
▽社会の対策を考えるためにはたくさんの火山灰が降るのか、積もるのかを伝える警報のようなシンプルな情報が必要
▽火山灰の範囲や量を的確に予想することは難しく検討が必要
▽火山に関するほかの情報とあわせて整理すべき
検討会では、情報のあり方について年度内に結論を出したいとしています。
座長を務める東京大学 藤井敏嗣 名誉教授
「数十センチ積もっても命を失うおそれはないが、富士山が噴火した江戸時代と比べると、現代は、車や飛行機を使う社会のため生活の質は極めて悪くなる。生活を続けるためにどのような情報を提供できるか検討していきたい」
課題は“予測の難しさ”
気象庁の「降灰予報」は、現在も鹿児島市の桜島などで発表されていて、一定の降灰量が予想された場合「多量」「やや多量」「少量」に分けて、対象の市町村を図形式などで発表しています。
多量とする基準は1ミリ以上の火山灰が積もると予想される状況で、道路で通行規制などの影響が出るおそれがあるとしていますが、今回検討するのは、この「多量」よりさらに多く、3センチ以上や30センチ以上積もると予測された場合です。
気象庁は「警報」として広く伝達することも検討するとしていますが、課題は予測の難しさです。予測が先になればなるほど、積もる量の誤差や方向は大きくなるといいます。
専門家「『限界ある情報』を前提に議論すべき」
検討会の委員を務める東京大学大学院 関谷直也教授は「現状の降灰予報は生活情報として活用されている面が大きい。火山灰は積もり始めると交通機関への影響が出るので、少しでも早めに対応するためのきっかけにはなり得る情報だと思う」とした上で火山の噴出物の量や規模、時間は現状の技術で厳密に予測できないとして「限界のある情報」であることを前提として議論すべきだと指摘しました。
また、大規模な噴火が起きたあとは、噴火そのものへの混乱が生まれ、火山灰についての情報がうまく伝わらない可能性があるとして、情報の活用方法も含めて今後議論が必要だとしています。