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クローズアップ現代 2月25日放送
NHKプラス 配信期限 :3/4(火) 午後7:57 まで
充電中…あわや自宅が
大阪に住む田中進さんと妻の由希さんです。
去年6月、外出する直前に自宅のリビングで充電していたモバイルバッテリーが突然、発火しました。
シューシューという音のあとに炎が上がり、白い煙が部屋に充満したと言います。
田中由希さん
「外出するために子どもたちの準備を待ちながら、ゆっくりしていたんです。最初どこかからか音がしているなと思って振り返ったら、パチパチといっていてかなり炎が出ました」
妻の悲鳴に気付き、駆けつけた進さん。煙をあげるモバイルバッテリーを鍋に入れて玄関の外に運び出し、水をかけて消火しました。
家族にけがはありませんでしたが、もし外出中に発火していたら自宅が焼けていたかもしれないと恐怖を感じたと言います。
田中進さん
「これまでもバッテリーが膨れて充電できなくなった経験はあったんですけど、まさか自宅で発火するとは思いませんでした。外出中だったら、帰ってきて家がなかったかもしれない。出かけた後や、子どもたちだけの時だったらと思うと、怖かったです」
イヤホンやスピーカーも
リチウムイオン電池の問題について今回、NHKでは体験談を募集。
田中さんと同様に充電中に発火したという経験が複数、寄せられました。
「Bluetoothスピーカーが、充電中に突然煙を出して、内部が融解した」(宮城県 30代女性)
「ワイヤレスイヤホンを充電して外出したところ、帰ってきたら焦げ臭かった。本体周辺が溶けていて、畳にも焦げ跡があった」(神奈川県 30代男性)
「都内のホテルで宿泊していたときに、充電中の友人のスマホから発火し、部屋に煙が充満してテーブルが一部焦げた。修理費用などで37万円を支払った」(埼玉県 60代男性)
修理費用を支払った60代 男性
「金額はもちろん痛かったのですが、それ以上に一歩間違えれば大やけどをしていたか、あるいは部屋がまるごと燃えて、命までなくなりかねない怖さがありました。知らないうちにそうした爆弾のようなものを持って歩いているんだということを改めて思い知らされました」
そもそもなぜ発火する?
NITE=製品評価技術基盤機構や複数の専門家によると、リチウムイオン電池は、使用を続けると劣化し、内部に可燃性のガスがたまることがあります。
長年使っているバッテリーが膨らんだ経験をした人もいるかもしれませんが、このガスが原因です。
こうした状態の電池に▽強い衝撃や圧力が加わってショートしたり、▽過充電で電池に負荷かがかかって異常な熱が発生したりするなどして、電池内部にたまっていたガスが発火するのです。
NITEに報告された事故件数は増えていて、2023年は397件と過去最も多くなりました。
モバイルバッテリー、スマホ、パソコン、電動アシスト自転車やコードレス掃除機の充電器、ワイヤレスイヤホン、携帯型扇風機など、身の回りにある充電式のさまざまな製品で起きています。
さらに過去10年間の事故を分析すると、燃えてしまって原因不明なものも多い一方で、製品そのものに起因する事故や起因する可能性がある事故が50%余りありました。中には、過充電を防ぐための電圧を監視する装置がついていない製品もあったということです。
今回、取材班では価格が極端に安いモバイルバッテリーやワイヤレスイヤホンなどおよそ30個の製品をインターネット通販で購入。NITEに依頼して、X線を使って製品にリスクがないかを簡易的に調べました。
その結果、ショートを引き起こす原因となるプラス極とマイナス極の巻き方がズレている可能性があるなど、リスクのある製品が5つ見つかりました。さらに、2つの製品では法律で義務付けられているPSEマークがついていませんでした。
NITE製品安全広報課 宮川七重 課長
「低価格の製品はお手ごろで手に取りやすいですが、やはり安い製品には安いなりの理由があるというふうに考えていただければと思います。リチウムイオン電池はとてもデリケートな製品だという自覚を持って、事業者も市場に流通させることが必要だと思います」
“捨て方が分からない”
視聴者から寄せられた体験談では、リチウムイオン電池を搭載した製品の「捨て方が分からない」という声も目立ちました。
「膨らんで使えなくなったモバイルバッテリーとゲーム機の処分に困り、実家の納戸にしまったままになっている」(静岡県 20代男性)
「回収先が見つからず、量販店や業者などに問い合わせたがいずれも断られ、たらい回しになった」(神奈川県 50代女性)
このうち宮城県に住む50代の女性は、7年ほど前に購入したモバイルバッテリーがふくらみ、今年に入って破裂していたことに気付きました。
変形したバッテリーは家電量販店などの回収ボックスでは受け付けてもらえず、自治体のホームページを調べても、捨て方が分からなかったといいます。このため、自宅の外のバケツに入れて保管していました。
50代 女性
「処分方法に悩んだので、自治体にはこのように処分してくださいという記載をもっと分かりやすくしてほしいです。リチウムイオン電池が膨張すると、危険になって捨てづらくなることを知らなかったので、商品を購入するときにも、危険性や処分方法についてもっと周知してもらえると助かるなと思います」
異なる捨て方のルール
不要になったリチウムイオン電池を回収していない自治体も多くあります。
環境省が令和5年度に全国の自治体に行った調査では35%が回収を実施していないと回答しました。
捨て方が自治体によって異なる中で、ルールの周知が進まず、ほかのごみと混ぜるなどの誤った処分をしてしまう人も多くいます。
東京・町田市では去年から有害ごみとして、リチウムイオン電池を搭載した充電式小型家電の回収を始めています。
しかし本来、電池が捨てられない不燃ごみの回収日に、作業員がごみ袋を確認すると、モバイルバッテリーなどが次々に見つかりました。多い日には100個以上、見つかることもあるといいます。
収集時に取り除ききれない製品があるため、ごみ処理施設に集められた後も、10人以上で不燃ごみを選別。
私たちが取材に訪れた日には、ベルトコンベアなどに流れてきたリチウムイオン電池はあわせて93個にのぼりました。中には、煙をあげているものもありました。
町田市循環型施設管理課 平川浩二 課長
「可能な限り手を尽くして火災が起きないように施設でも一生懸命、手で取り除くなどいろいろやっているんですけれども、全部取り切れないのが実情です。市民の皆様にごみを出す段階から分別に協力していただきたい」
火災が起きた施設では
各地のごみ処理施設では、混入したリチウムイオン電池が原因とみられる火災が相次いでいます。
このうち茨城県守谷市の施設では、去年12月に不燃ごみを運搬する設備で火災が発生し、いまも処理設備は停止したままです。
火災後もごみの収集は継続していますが、仮置きしてある不燃ごみの重さは300トン余りになっています。
いまは民間業者に不燃ごみの処理を委託していますが、3月末までにかかる追加費用は1億4500万円余りにのぼるといいます。
常総環境センター資源化施設 伊藤竜次所長
「月1回ぐらいボヤなどがあって、いつかきっとこうなってしまうのかなというのは少なからず思ったところはありますが、実際起きるとここまでひどいことになってしまうのかと驚きました。まだ復旧のめどは立っていません」
捨て方のポイント
では相次ぐ事故を防ぐために、私たち利用者はどういった点に注意すればいいのでしょうか。NITEや専門家などへの取材をもとにまとめました。
まず捨て方のポイントです。
▽住んでいる自治体のルールを確認
自治体ごとに処分方法が異なるため、まずはホームページなどで確認しましょう。ほとんどの自治体は、不燃ごみと混ぜて捨てないように呼びかけています。電池一体型の製品は無理に取り外そうとせず、取り外し可能な製品は端子部分にテープを貼って、絶縁処理をしましょう。
回収していない自治体も4割近くあるので、注意が必要です。
▽回収ボックスを活用
リチウムイオン電池リサイクル団体「JBRC」の黄色の回収ボックスが、家電量販店などの協力店に設置されています。ただし、回収していないメーカーの電池などもあるため、事前にJBRCのホームページで回収の対象かどうか確認する必要があります。
▽処分に困ったら
膨張や破損している製品は回収してもらえない場合があります。自治体や製造メーカーに直接、問い合わせて処分方法を確認してください。
それでも住んでいる地域によってはどこにも受け付けてもらえず、専門業者に有料で引き取ってもらわないと捨てられない可能性もあります。国もこうした問題を把握していて、環境省はリチウムイオン電池の回収方法の指針を全国の自治体に対して、来年度中に出すことも検討しています。
使い方のポイント
次に使い方のポイントです。
▽充電は目の届く範囲で
外出中・就寝中は、発火した場合に気づかないおそれも。とくに長年使っていなかった製品を充電する場合などには、注意が必要です。
▽強い衝撃に注意
学校で使用するタブレット端末など、子どもの使用も増加。かばんに入れたまま投げたり、床に投げつけたりしないよう、取り扱いには注意しましょう。強い衝撃や圧力が繰り返し加わると事故のリスクが高まります。
▽熱が加わると危険
暖房器具の近くや夏の車内に置きっぱなしにしない。布団の中など熱のこもる環境で充電すると、電池がさらにあたためられる上、燃え移るおそれがあり危険です。
▽電池に寿命 定期的に買い替え検討を
製品によっては「××回充電可能」など、使用回数の目安が表記されているため、その回数を基準にしましょう。例えばモバイルバッテリーでは、一般的に充電回数は300回から500回程度といわれています。
また長期間放置されているものも、過放電によって電池が劣化するおそれがあるので注意しましょう。
<異常を感じたら>
電池の発熱や、異臭、変形、充電できないなど異変に気づいた時は、ただちに使用を中止し、鍋や空き缶など頑丈な容器に入れ、蓋を閉めてください。万が一、発煙や発火した場合は、安全を確保した上で、大量の水や消火器などで消火してください。
買い方のポイント
最後に買い方です。
▽非純正品・極端に安い製品に注意
過充電を防ぐための安全装置が付いていないなど、安全性に関わるコストがおさえられている製品が確認されています。購入する前に同じ性能の製品の価格帯を調べて、極端に安くなっていないか確認しましょう。
▽PSEマークを確認
「PSEマーク」は安全基準を満たした製品に表示でき、モバイルバッテリーなどの対象製品では、購入時の目安になります。
ただし、丸形のPSEマークは国や研究機関などの第三者が認証するものではなく、事業者自らが確認して表示するものです。過去に安全基準を満たさずに、表示していたケースも確認されているため、NITEはマークの近くに事業者名が記載されているかも確認するよう呼びかけています。
このほか消費者庁のリコール情報サイトやNITE SAFE-Liteなどでは、リコールされた製品の情報や過去に起きた発火事故の情報などが掲載されています。参考にしてみてください。
※NHKサイトを離れます
取材後記~事故を防ぐために
製造メーカーや研究者は日々、事故が起きないように安全対策と向き合っています。国内の大手モバイルバッテリーメーカーでは、すべての製品に電圧や温度を監視するなどの安全装置を複数取り付け、安全性の検証を繰り返しているということです。
ごみ処理施設での火災を防ぐために、AIによる画像認識システムを活用した分別技術の研究も進められています。
一方で、どれだけ安全につくられた製品でも、誤った使い方や捨て方をすれば事故のリスクを高めてしまいます。
メーカーや国、自治体が一体となり、安全な利用方法とリサイクルの仕組みを作って啓発していくとともに、私たち利用者1人1人も電池の特性を理解し、適切な買い方、使い方、捨て方をより強く意識していくことが欠かせないと感じました。
NHKプラス 配信期限 :3/4(火) 午後7:57 まで
(取材:おはよう日本ディレクター 水谷健吾 村吉大阿 / 経済番組部ディレクター 橋本亮 / 社会番組部ディレクター 太田緑 / 科学文化部記者 佐々木萌 絹川千晴)