日本人宇宙飛行士の大西卓哉さんらが搭乗する民間の宇宙船「クルードラゴン」が、日本時間の15日午前8時すぎにアメリカ フロリダ州から打ち上げられ、国際宇宙ステーションに向けた予定の軌道に投入され、打ち上げは成功しました。
大西卓哉さんは日本時間の15日午前5時すぎ、アメリカ フロリダ州のケネディ宇宙センターで、アメリカとロシアの3人の宇宙飛行士とともに、宇宙船「クルードラゴン」に乗り込みました。
そして、宇宙船を搭載した「ファルコン9」ロケットのエンジンが点火され、午前8時3分に国際宇宙ステーションに向けて打ち上げられました。
宇宙船はおよそ10分後に予定された軌道でロケットから分離され、打ち上げは成功しました。
大西卓哉さん「9年ぶりの無重力の感覚かみしめる」【動画 11秒】再生すると音声が流れます
宇宙船が分離されたあと、大西卓哉さんは地上と交信し、日本語で「日本の皆さん、たくさんの応援ありがとうございます。9年ぶりの無重力の感覚をかみしめています。これから先も国際宇宙ステーションへの宇宙の旅を楽しんでいきたいと思います」と話していました。
大西さんは2016年以来となる2度目の宇宙飛行で、打ち上げから28時間余りかけて国際宇宙ステーションに到着し、およそ半年間の長期滞在を始めることになっています。
長期滞在の期間中、大西さんは、JAXA=宇宙航空研究開発機構が新たに開発した二酸化炭素除去システムを実験棟「きぼう」に取り付け、将来の有人宇宙探査を見据えた実証実験などを行う計画です。
また、日本人宇宙飛行士としては若田光一さんと星出彰彦さんに続いて3人目の国際宇宙ステーションの船長に就任することになっています。
大西卓哉さんとは
大西卓哉さんは東京出身の49歳。
神奈川県にある中高一貫校を卒業したあと、東京大学工学部の航空宇宙工学科に進み、学生時代は人力の飛行機で空を飛ぶことを目指す「鳥人間コンテスト」に参加しました。
大学を卒業後の1998年に全日空に入社してボーイング767型機の副操縦士として活躍しましたが、宇宙飛行士になりたいという夢をかなえるため、2008年に募集が始まった宇宙飛行士選抜試験に挑戦。
およそ1000人の応募者の中から選ばれ、2年にわたる訓練を経て、2011年に宇宙飛行士に認定されました。
2016年には初めての宇宙飛行に臨み、国際宇宙ステーションに110日余り滞在して科学実験などを行ったほか、2020年からは宇宙飛行士を地上側で支えるJAXAのフライトディレクタとして、日本の実験棟「きぼう」の運用なども行ってきました。
宇宙船「クルードラゴン」とは
クルードラゴンはアメリカの民間企業「スペースX」の宇宙船です。
全長8メートル余り、直径4メートルで、飛行士が乗り込む「カプセル」と機器や貨物が搭載されている「トランク」で構成されています。
カプセルには最大で7人乗ることができますが、通常は4人の飛行士が搭乗します。
打ち上げやドッキングは基本的に自動で行われ、搭乗者は3つのタッチパネルで状況をモニターします。
「エンデュランス」と名付けられている今回のカプセルは、過去に若田光一さんや古川聡さんも搭乗した機体で、その後、再使用するための整備が行われ、今回が4回目の打ち上げになります。
クルードラゴンを打ち上げる「ファルコン9」ロケットとは
クルードラゴンを打ち上げたのは、アメリカの民間企業「スペースX」が開発したファルコン9ロケットです。
全長70メートル、直径3.7メートルの2段式のロケットで、燃料には灯油の一種であるケロシンを使い、液体酸素とともに燃焼させます。
打ち上げ後に切り離した1段目を着地点に誘導して回収し再使用できるのが特徴で、繰り返し使用することで打ち上げ1回当たりの費用を削減しています。
ファルコン9は2010年以降これまでに400回以上打ち上げられていて、このうち宇宙飛行士や民間人を乗せた有人宇宙船の打ち上げにはすべて成功しています。
無人の輸送船や人工衛星を載せたロケットの失敗は過去に3回あり、去年7月には、ロケットの2段目から液体酸素が漏れる異常が起きて、およそ8年ぶりに失敗しています。
ほかに3人の宇宙飛行士が搭乗
今回打ち上げられた「クルードラゴン」には、大西卓哉さんのほかに、2人のアメリカ人宇宙飛行士と、1人のロシア人宇宙飛行士が搭乗します。
アメリカ人の1人はアン・マクレイン飛行士。2013年に宇宙飛行士に選抜され、2018年から2019年にかけて国際宇宙ステーションに滞在し、船外活動も経験しています。
もう1人はニコル・エアーズ飛行士。2021年に宇宙飛行士に選抜され、今回が初めての宇宙飛行となります。
ロシア人のキリル・ペスコフ飛行士は、2018年に宇宙飛行士に選抜され、今回が初めての宇宙飛行となります。
大西さん 宇宙でJAXA開発のCO2除去システムの実証実験も
大西さんは、宇宙での長期滞在の期間中、将来の月面探査を見据えた実証実験などを行います。
JAXA=宇宙航空研究開発機構が開発した二酸化炭素除去システムの実証実験では、ことしの6月ごろ国際宇宙ステーションに届く実験装置を大西さんが組み立て、日本の実験棟「きぼう」に取り付ける予定です。
この装置は国際宇宙ステーション内の空気を取り込み、二酸化炭素だけを特殊な吸収剤に吸着させて、再びステーション内に戻す仕組みで、一日稼働させることで宇宙飛行士1人分の二酸化炭素を除去できます。
特殊な吸収剤は、JAXAと京都府木津川市に本部がある地球環境産業技術研究機構が共同開発したもので、ことし1月には、大西さんが研究施設を訪れ、吸収剤の特徴などについて担当者から説明を受けました。
この吸収剤は複数の小さな穴をあけた「多孔質」と呼ばれる素材でできていて、素材にしみ込ませた化合物が二酸化炭素を吸着します。
さらに、吸収剤をおよそ50度に加熱することで、二酸化炭素を取り出して宇宙空間に排出することができます。
国際宇宙ステーションでは現在、アメリカやロシアが開発した二酸化炭素除去システムが使われていますが、吸収剤をおよそ250度まで加熱する必要があることから、より低い温度で使える日本の吸収剤は安全で省電力化にもつながる技術として注目されています。
今回の実証実験では、装置をおよそ3か月間稼働させて宇宙での動作を確認するほか、最も効率よく二酸化炭素を除去する条件を調べる予定です。
また、将来的には、月を周回する新たな宇宙ステーション「ゲートウェイ」や、JAXAがトヨタ自動車などと開発する有人月面探査車にも利用される計画だということです。
装置の開発を担当したJAXAの伊妻ディラン駿 研究開発員は「今後、宇宙探査活動がどんどん活発になり、日本が独自の月面基地を持つとなった時に、自分の国で生命維持技術を持っておく必要があり、今回の実証はそこに向けた第一歩だ。開発チームが地上で見守っているので、大西さんは自信を持って装置を取り付けてほしい」と話していました。
宇宙船の不具合でステーション滞在のNASA宇宙飛行士が帰還へ
今回の打ち上げをめぐっては、去年6月にアメリカのボーイングが開発中の宇宙船で国際宇宙ステーションに到着したあと宇宙船に不具合が見つかったため地球に帰還できずにいる、NASA=アメリカ航空宇宙局の2人の宇宙飛行士が、大西さんらと入れ代わりで地球に帰還することになっています。
帰還する2人は、当初1週間程度で乗ってきた宇宙船で地球に戻る予定でしたが、この宇宙船に不具合が発生したため帰還できず、国際宇宙ステーションにとどまっていました。
NASAは去年8月、2人を宇宙ステーションに残って実験などを行う正式なクルーとして任命し、ボーイングではなく、イーロン・マスク氏が率いるスペースXの宇宙船で帰還することを決めていました。
この宇宙船はバイデン政権時代の去年9月、すでに国際宇宙ステーションに到着していますが、トランプ大統領はことし1月、SNSで「バイデン政権によって事実上、宇宙に見捨てられた2人の勇敢な宇宙飛行士を『連れ戻す』よう、マスク氏とスペースXに依頼した」と書き込むなど、バイデン政権への非難の一環としてたびたび言及しています。
一方、2人の宇宙飛行士のうちの1人、バリー・ウィルモアさんはことし2月、CNNのインタビューに対し「見捨てられたとも取り残されたとも感じていない」と話していました。
NASAによりますと、2人は、大西さんらが国際宇宙ステーションに到着したあと、入れ代わりで地球に帰還することになっていて、早ければ3月19日以降に国際宇宙ステーションを出発するということです。