役に立たない人生相談 11~20 (佐藤愛子2021年発刊)

役に立たない人生相談 11~20 (佐藤愛子2021年発刊)   ● 11  娘の服の趣味がおかしい。将来が心配です。(五十七歳女性・主婦) 二十五歳になる私の娘のことでご相談します。娘の服の趣味がおかしいのです。先日は友達と飲みに行くのに大きなお化けの絵のついたポンチョのようなカットソーを着て行きました。ふんわりと大きなそれはまるでシーツをかぶったようで、下はショートパンツを穿いていたのですが、何も穿いていないように見えました。 「どう?」と出かける時に聞いてきたので、内心てるてる坊主みたいだな、と思いましたが「寒いから上着を着て行ったら」とだけ言いました。私には娘が年頃になったらしてほしい格好がありました。丈の長いふんわりとした甘い色のスカートにつばのついた小さな帽子、小花のついたカーディガンなどです。 聞くところによると「ゆるふわ(ゆるくてふわりとした服)」と「森ガール(森にいそうなメルヘンな感じのファッション)」というそうです。そんな格好の娘と軽井沢や那須高原に行く、それが私の夢だったのです (その時、娘には籐でできたカゴを持ってもらいたいと思います)。 ところが彼女はなぜかお化けに凝り始め、西洋のオバケが「ブー」といっているTシャツに悪魔の羽のついたキャップをかぶってとくとくとしています。 当然、彼氏はいません。 この先、彼女はどうなるのかと思います。男の人だって色気がない上に変わり者のオバケおたくなんか嫌がるに決まっています。口数の少ない夫もお化けが飛び交ってるTシャツに網タイツを穿いた娘がお墓参りに行こうとした時は「もう、たいがいにしてくれ」と泣き顔になっていました。 私は娘の将来を心配しています。どうしたらいいでしょう。 @ そんなもの、心配したって無駄! 七十数年前、日本は戦争に負け、その結果としてアメリカ文化がどっと流入し、日本古来の伝統ばかりか感性、価値観すべて脇道へ押しやられ、時を経るに従ってこの国は男も女も異人種の寄せ集めになり果てました。 もはや何でもありの時代です。そのうち男がスカートを穿いて頭に花をつけ、女はふんどしを締め化粧廻しを垂らして歩くようになるでしょう。何があってももう誰も驚かない。娘の将来? そんなもの心配したって無駄です。 彼氏がいないことを心配しておられるようだけど、心配無用。変化したのは女だけじゃないんですから。結婚相手がいないことを心配するより、むしろ私は娘さんに彼氏が出来たとき、現れた彼を見て、ナイーブなあなたがどんなショックを受けるか、そこから立ち直ることが出来るかどうかを心配します。 娘さんと彼氏が二人揃って「毎日がハロウィーン・パーティ」みたいな日々 になることは覚悟しておいた方がいい。何が来ても驚かない覚悟が大切です。心配するよりも覚悟を固めて将来に備えることです。 ● 12 消費欲が止まらない! (二十八歳男性・会社員) 自他共に認める趣味の多い人間です。ついつい好きな本、お酒や洋服などにお金を費やしてしまい、まったく貯金が出来ません。友人たちと居酒屋で飲むのも大好きですが、一人でゆっくり楽しみたいのはスコッチウィスキーで、分不相応にシングルモルトをコレクションしています。 洋服にも自分なりのこだわりがあり、多少高くても上質のものを身につけたいので、ユニクロなどの安価なファストファッションにはまったく興味が湧きません。また、大好きな本や映画、音楽にはお金を惜しみたくないですし、最近は芝居や古典芸能にも興味が湧いています。 とはいえ、決して高給取りではないので、使えるお金には限りがあり、毎月、給料日前になると後悔しています。この止まらない消費欲と、どうつき合ったらいいのでしょうか。 @ 欲望を止められないのは、ただのアカンタレ。 こりゃ一種の中毒ですね。どうつき合ったらいいのか、って。つき合うもヘチマも、そんなこと、他人に訊いたってしょうがない。早い話が、欲望を制御すればいいだけのことなのだけれど、それが不可能というアカンタレであれば、仕方なし。 とことん買いまくり飲みまくり、贅沢 三味して金がなくなればサラキンに借金するなり、請求書を踏み倒して逃げまくるなり、泥棒するなりして、やがてはどん底に落ちるでしょう。 そして死ぬ時は、オレはオレなりにしたいことすべてやった、思い残すことは何もない、と深い満足感をもって死ぬ、それが大事です。思い残すことのな人生は、誰でも持てるというものではないのですからね。 ゆめ、後悔なんかしてはイカンですよ。もしかして後悔するかもしれない ･・････なんて思うのなら、やめなさい。 ● 13 ネガティブな性格の母に、前向きになってほしい! (四十五歳女性・会社員) 私の悩みは、七十代半ばの実家の母のことです。母は四人きょうだいの長女で、面倒見のよさがやや度を越してしまっている、いわゆる「仕切り屋」タイプです。子供は私と姉の二人ですが、私たちが子供の頃は常に家族を取り仕切って、活発に動き回っていました。 ただ常に人との比較をしてしまうところがあって、自分より幸せそうな人、 楽しそうな人を見ては羨んだり、自分はダメだと思ってしまうようなネガティブな性格なのです。 その連れ合いである父はとにかくポジティブで前向き、社交的で明るい性格です。脱サラして骨董屋を営んでおり、店のお客さんや趣味の仲間など、いつもたくさんの友人に囲まれています。 まったく真逆の性格のため、父と母の意見は常にぶつかり合っています。子供たちが独立して、今は父しか仕切れる相手がいないのに、父が自分の言うことを聞かず自由に行動しているのが不満なのだと思います。 まわりの友人は元気な孫たちに囲まれて楽しそうなのに、何で私だけ････とか、あそこのご主人はいつも奥さんと一緒なのに、うちのお父さんは人で好き勝手してばかり････など、たまに実家に帰って母と話をすると、そんなネガティブ発言が止まらず、しまいには「私なんて生きていてもしょうがない」と泣き出して、手がつけられなくなってしまいます。 私は早くから親元を離れ、仕事に明け暮れていたら四十代半ばで独身という状況なのですが、性格が父に似て楽天的なせいか、まあそれもいいかなとのんきに暮らしています。 若い頃は、何かと干渉したがる母が苦手でしたが、大人になった今では、愛情をかけて育ててもらったことを身にしみて感じ、心から感謝しています。母には、元気で生き甲斐をもって暮らしていってほしいのです。九十代になられてなお、お元気で精力的に執筆活動をされている愛子先生に、ぜひ母に向けてのアドバイスをお願いいたします。 @ 今となってはもう遅い。 親のお説教先生のお説教 坊さんのお説教 説教好きの町内会 長のお説教。お説教をする人はみなそのお説教が相手の役に立つものと信じてお説教をするのだけれど、そのお説教が役に立ったという話はあまり聞いたことがない。 聞き流してしまうのは、その時その人はお説教を必要としていない心の状態にあるからで、その後、何かに失敗するとか、災難に巻き込まれる、不測の事態が起きた、なんてことになった時に、以前聞いたお説教の端々が思い出され、「なるほど。あの時いわれたことはこういうことだったのだ!」と膝を打つ。そこで初めてかつてのお説教が実を結ぶ、ということです。 それが人間というものなんですねえ。人間が成長するのは、苦労に直面した時です。いくら人の道を説いても、常識とはどういうことを教えても、必要がないうちは右の耳から左に抜けて行くというあんばいになるだけです。 自分から自分は変わらなければならないと思わないうちは、人は変わらない。変われない｡それも年を取れば取るほど、長年生きてくる上で身についた価値観、習慣、癖などに苔が生えて自信になり、動きがとれなくなる。 七十代になった母上に、元気で生き甲斐をもって暮らしてほしい、といわれるけれど、それは無理であり、いうだけ無駄というものではないかしらん。おそらく母上にとって何が楽しいかといえば、他人と自分を引き較べ、愚痴をグチグチいうことなんですよ。 はりきってすべてを思うままに仕切って来た人が年をとって、仕切る力も立場もなくなってきた。それが愚痴や他人の批評になって行く可能性はありますね。 孝行娘のあなた。母上にいつまでも元気で生き甲斐をもって暮らしてほしいと願うのなら、母上の愚痴や他人の批評悪口をマトモに受け止めてあげるしかんじゃないか。愚痴不満をいうことは母上の元気の源なのです。生き甲斐というものは人それぞれ違うのね。 そう考えると今更母上に常識的なアドバイスをする必要はないことに気がつくでしょう。今となってはもう遅いのよ。人間は自分がしたいことをするのが一番幸せなのだから。あなたが幸せと思うことと、母上が幸せを感じることは違うのだから。 心配してもしかたがない。ふんふん、と聞いて同調するたまには反対してみたりする。すると反対に対する反論が始まり、そこでまた新しい元気が湧いてくる。それが健康のしるし。めでたいことだと思うわけにはいかないかしら? ● 14 人生に「夢」は必要なんですか。 (二十歳男性・大学生) オリンピックで金メダルをとったアスリートや、何かで賞をもらった人とかが、「夢をあきらめずにやってきたからここまでこられた」「あきらめなければ夢は必ず叶う」というようなことをよくいいますが、そんなの嘘だろうっていつも思います。 どんなに一生懸命やったって、みんながイチローみたいになれるわけじゃないでしょう。歌手や俳優、作家だって一緒ですよね。才能はもちろん運も必要だし、夢を本当に叶えられるのは特別な人だけだって、みんなわかってると思うんですよ。 それなのに、子供には「夢を持つことが大切」「夢を持とう」っていいますよね。僕は子供の頃も今も、特別な夢とかないから、自分はダメなんだって落ち込んだこともありました。でも、今は、普通の人生を送るのに夢なんて必要ないと思っています。 大人だって夢を叶えてない人が大半なのに、なぜ「夢を持て」なんていうんですか。それとも、人生には夢が必要なんですか。 @ そんな屁理屈より考えることがあるでしょ。 戦争中、食糧が何もなく、いつもお腹を空かせていた子供の夢は、タラフク食べることだった。意地悪姑に虐められていた若嫁にとっては、いつか姑が死ぬことが夢だった。そのうちにあのバアサンも死ぬ。そうしたら私の天下だ･･････その夢は可哀そうな若嫁の辛い日常を励ます灯になっていた。 イチローのようになることは多くの子供の夢だ。いいじゃないですか。なれっこなくてもその壮大な夢はその子を力づけるんだから。「あなたの夢は何?」「美人になって、男性の目を惹くこと」と自他共に許すブスが答えた。美容整形の技術などなかった時代(私の娘時代)の話です。 「それは彼女には切実な夢だろうねえ....」と彼女の友人の一人がしみじみいったのは、それはつまり、ツリ目、ハナペチャ、出っ歯はたとえ万金を積んでもどうすることも出来ない「厳然として動かすことの出来ない事実」だからだった。 今なら、ハナペチャもツリ目も出っ歯も、時と金があればすぐにでも解決出 来ることだから、美人になる夢はもう夢ではなくなった。そのためか、巷には美人が溢れ、今ではブスを探すのに苦労しなければならない。 溢れる美人がなんだかみな姉妹のように似ていて、パッチリ眼に絵に描いたようなカッコいい、すぼまった顎、この人はこの前、紹介された人か、初対 面の人か、いつか会ったことあるような……..? 老茎の兆のある私などは、区 別がつかなくて途方に暮れるけれど、とにかく同じような美人が氾濫していて、飽き飽きする。 この分でいくと今にブスはいないか、ブス恋し、という風潮が生まれるのではないか。夢はないよりはあった方がいいけれど、夢は叶えるものではなく、胸底に抱えてあたためているものだ。 「普通の人生を送るのに夢なんて必要ない」と思っている二十歳の大学生さんよ。夢を叶えてない人が大半なのに、なぜ「夢を持て」なんていうか、と開き直っているあんたさん。人生は思い通りには行かないということを十分わかっている学生さんよ。 夢を持っても持たなくてもその人の人生にたいして変化はないと私も思う。イチローは夢を持ったから世界のイチローになったのではなく、要するに才能と努力が実ったということだろう。 根本に野球が好きだったから、ということがある。それだけのことです。好きだったから辛い努力が出来た。好きでもないのに夢だけ膨らませてもそりゃどうにもならんわね。 人生に夢は必要かどうかなんて、そんな屈のツッパリにもならん理屈を考えるくらいなら、自分が好きなこと、どうしてもやりたいことは何か、あるのか、ないのか、考えた方がよろしい。 ● 15 すぐに謝る後輩、どう接したらいいですか? (三十歳女性会社員) 私が指導を担当している、二十四歳の後輩女子社員のことでご相談です。彼女は、私がミスを指摘したり、電話のかけ方などを注意したりすると、すぐに「ああっ、すみません!」「ごめんなさいっ!」とものすごい勢いでるのです。 ほんのちょっと注意しただけでも、「本当に申し訳ありません!」と土下座でもしそうな謝り方をするので、なんだかこちらが悪いことをしてるみたいで、つい「いいのよ、これから気をつけて」とやさしい口調になってしまいます。 でも、そんな態度とはうらはらに、彼女は同じ間違いを何度もくり返すんです。実は、私が注意したことを全く聞いていないんじゃないかと、内心疑ってます。 謝ってくれなくていいからちゃんと仕事を覚えて! そう言ってやりたいのですが、そんなことを口にしようものなら、号泣して本当に土下座しかねません。 彼女がペコペコ謝っている様子を見かけた同僚たちは、「ちょっと指導が厳 しすぎるんじゃない?」「あんまり若い子をいじめちゃダメよ」と、私にパワハラ疑惑をかけてくるし、もうどうしたらいいかわかりません! この後輩への対処法を、どうか教えてください! @ 号泣、土下座、どんどんさせればいいじゃない。 後輩女子社員を指導している三十歳の女性会社員さんよ。何を指導してるのか内容がわからないのですが、何にしても二十四歳の女子社員を指導するにはあなたは力不足のようですね。 ことは簡単。本当のことをハッキリいえないあなたの性質を直せばいいんです。ミスを指摘して、すみません、ごめんなさい、と相手からペコペコ謝られると「なんだかこっちが悪いことをしているみたいでやさしい口調になってしまう」ような、そんなヘナヘナには未熟な新入りを指導する資格がないです。 ひたすら謝るくせに、一向に改まらない新入り。するとあなたはこう思う。「彼女は私のいうことを全く聞いていないんじゃないか?」と。「内心疑ってます」とあなたは書いている。 内心でこっそりそう疑うだけでなく、面と向かっで尋ねればいいじゃないですか。「あなた、どうしてしょっちゅう同じ間違いをするの? 私のいうことを聞いてないの? 聞いても覚えられないの? それとも、私にいやがらせをしてるの?」と。 しかしあなたはいう。「謝ってくれなくていいからちゃんと仕事を覚えて! といってやりたいのですが、そんなことを口にしようものなら号泣して本当に土下座しかねません」ですと!? いいじゃないの、号泣させれば。土下座させれば。怒鳴りつければいいんです。猿芝居はやめろ!ってね。けれどあなたはそこで同僚たちの思惑が気にかかる。「パワハラ疑惑をかけてくるし、もうどうしていいかわかりません」と悲歎に暮れるばかり。 実際にそう思っているのか、それはあなたの推察ではないんですか?「この後輩への対処法を教えて下さい」といわれても、そんなあなたへの対処法に私は悩みますよ! ● 16  実家の母が落ち込んでいます......。 (三十七歳女性・会社員) 弟と私の二人きょうだい。私は東京で働いていますが、弟は大学 卒業後、郷里で就職し、三年ほど前に地元の女性と結婚しました。 弟夫婦は子供が生まれるのをきっかけに実家の両親と同居する予定で、それにあわせて家もリフォームしたのですが、直前になって、やはり同居は出来ないと言い出してマンションを買ってしまいました。 それ以来母に元気がありません。母は五十九歳、家族の世話をするのが生きがいで、私の結婚のときも、何度も上京して準備を手伝ってくれましたし、弟は跡継ぎの男の子ということもあり、就職も結婚も張り切って面倒を見ていたようです。  同居も本当に楽しみにしていただに、がっくり落ち込んでしまいました。父は無口で真面目、母を励ますような気の利いたことがいえるタイプではなく、夫婦間の会話もあまりありません。 母は気持ちを紛らわすため、愛犬に今まで以上に愛情を注ぎ、電話をしても話題は犬のことばかり。最近では寝るときまで一緒のようなのですが、かなり老犬なので今からペットロスが心配です。母に元気になってもらうには､どうしたらよいでしょうか。 @ 愛情と善意が迷惑になることもあるのよ。 弟さん夫婦は両親と同居する予定で家をリフォームしたのに、直前になって同居は出来ないといい出したそうだけど、それはどういう理由からですか? まさか理由もいわずに「やーめた」といってすませることが出来るような問題じゃないでしょう? その理由を究明すれば、解決の途も開けるかもしれないのに! この相談にはそこが説明されていないので、考えようがないじゃないですか! 私が想像するのに、母上はエネルギッシュで気がいいお方なので、人の面倒を見るのが大好き。好きというよりも「せずにはいられない」「相手が迷惑かどうかも考えられない」ほどの活力の持主なのでしょう。 私の家に昔そういう人が家事手伝いとして来てくれ、不精者の私には何よりの人、と初めのうちは喜んでいたのですが、そのうち余りに干渉がひどいの (例えば勝手に押入を片づけるので、あるべき場所にある筈の物が見当たらず、探し回らねばならなくなったとか、あまり上手じゃない料理を作っては、無理に食べよ食べよと押しつけるとか、頼みもしないものを買ってくるとか)、その干渉を防ぐために私はヘトヘトになりました。 たいていの第三者はこういう人を「善意でしているのだから」といって許します。しかし善意というものには人に迷惑を与えて困らせる要素が多々あって、それはホントは「エゴイズム」じゃないのか、と思いたくなることがしばしばあるのです。 しかし当人は自分の親切心に陶酔しているから、それが余計に困るのだ。弟さんはお金と時間をかけたリフォームを無駄にするなんて、よくよくの決心だと思います。 その決心の際には、弟さんの奥さんの切実なる悩みがあるのでは?と思うのですが、いかがでしょう? 嫁の立場として、そういいたいことはいえないでしょうからね。 愛犬に今はあり余る愛情と善意のエネルギーを注入しておられる、それが一番いいんじゃないですかねえ。愛犬のキモチはわからないけれど。 ● 17 兄に前向きな人生を歩んでもらいたい。(四十歳女性・パート) 四十五歳の兄のことで、ご相談させていただきます。 実家はかつて自営業をしており、兄は女きょうだいばかりのただ一人の男の子だったので、子供の頃から跡取りとして期待されて育てられてきました。 でも、兄が大学生の頃、経営状態が急速に悪化し、ついに店をたたむことになってしまったのです。家業を継ぐつもりだった兄は、すっかりやる気をなくして、大学も途中でやめてしまいました。 それから二十年以上経った今もやる気は戻らず、ずっと職を転々としています。もちろん結婚もしていなくて実家暮らしです。端から見ると親に寄生している状態なのに、自分は親に抑圧されて育ったという被害者意識が強く、現在も父との仲がとても悪いのです。 大学を中退した当初、ずっと家に引きこもっていたので、心配した両親がカウンセリングに行かせたこともあるのですが、カウンセラーに、父と兄の関係は「親離れ子離れができていない相互依存」といわれたそうです。   父は頑固で人のいうことを聞かない人ですが、もうだいぶ年なのですから、も少しは譲歩してくれればいいのにと思います。でも、兄は自分にとって都合のいいことをいってくれる人の話しか聞きません。悪いことはすべて周りの人のせいなのです。 姉二人は結婚して遠方にいるので、比較的近くに住む私がときどき実家の様 子を見に行っていますが、母が父と兄の板挟みになっておろおろしているのが、かわいそうでなりません。 兄には、ちゃんと自分の人生をどうしたいのかよく考え、今からでも定職について前向きに生きて行ってもらいたいと思うのですが、どうしたらよいのでしょうか? @ こりゃあかん! もはや手オクレです。 四十五歳まで定職にもつかず、結婚もせず、女も蕩さず、失恋もせず、親に寄生してきた男を、「ちゃんと自分の人生をどうしたいのかよく考え、定職について前向きに生きて行く」ようにさせるにはどうしたらいいか、って。あんた、こりゃもう遅いわ。 重症になってから病院へ担ぎ込んだ病人、どうしてこんなになるまでほっといたんですか!とお医者さんは激怒する。私は激怒はしないけれど、「こりゃあかん」 一言で終ります。もはや手オクレです。カウンセラーは彼と父との関係は「親離れ子離れできていない相互依存である」といったそうだけど、だから何やというね? といいたくなる。 その分折は正しいのかもしれないけれど、よしんばその通りだとしても、ここまで来てしまってからそんなことをいわれても､「昔を今になすよしもがな」と嗟嘆しているしかないじゃないか。 カウンセラーなんてのは気らくな商売だなァと、改めて感心する思い。と、カウンセラーにイヤミでもいって、ごまかすしかない。 それほど困難を極める相談です。問題は兄さんだけでなく、どうやら親父さんにもあるようなので、こんがらがった糸のほどきようがない。 これはもう、大地震と大津波とか、あるいは火事で家屋が丸焼け、両親焼死などというような天災、大事故が起こって、何としても自分一人で生きなければならない事態に落ち込むことしか､奮起させる道はない。 なんですか? そうなっても兄は何もしないでしょう? 妹の私が面倒を見ることになるだろうって? 何をいってる。そんなやさしい(弱い)気持だから怠け者をいやが上にも甘やかしてしまうのだ。 優しさは美徳とは限らないのですぞ。この兄は、自分のぐうたらすべてを自分以外の人のせいにして、そこで思考停止してしまっている。 一人ポッチになったら(人のせいにするにもせいに出来る人がいなくなったら) 人間としての生存本能がある限り、彼は動き出すのではないかしらね。 それでも動かなかったら?  生きる本能が摩滅しているのだから、なりゆきにまかせるしかないわね。とすると野たれ死に?  そうだねえ。しかし野たれ死にするにも、そう一朝一夕で死ねるわけじゃない｡ それなりの心身の苦痛、忍耐、努力、苦労の果てにやっと死が迎えに来てくれるのだろうから(神のご意志)、人のせいにしている余裕などないに決まってる。 そうした苦労の末にめでたく死ねたとしても、それであとはラクになれると思ったら大間違い。この世での怠惰のによって煉獄まそんなもん、地獄なんてない。 人間死んだら無になってしまうのだから、死んだ後は気らくなものだ、と思ってるんでしょう?  お兄さん。 ところが違う。あるんですよ、死後の世界は肉体は灰になっても、「魂」は消えずに四次元の火に焼かれることにな世界へ行くのです。この世での生き方によって天国へ行く魂もあれば地獄へ行かされる魂もある。地獄の火は熱いよ。 親父の悪口をいってノラクラしていられる地獄というのはないと心得て下さい。嘘をいうなって? 嘘かどうか、死んだらわかる。この頃はノラクラ兄貴に音読して聞かせるべし。 ● 18 定年後もずっと働かなくちゃいけないんでしょうか? (五十八歳男性・会社員) 六十歳の定年まであと二年! 退職したら趣味三昧でのんびり暮らすのが、私の長年の夢でした。でも、いつの間にか世間では、定年後も働き続けるのが当たり前になっているようなのです。 法律で決められているとかで、私の会社でも六十五歳までは働ける「定年再雇用」の制度が設けられています 三十年以上、宮仕えをしてやっとゴールが見えてきたというらに先になってしまうなんて! 私にはとても耐えられません。 でも、妻にその話をしたところ、「六十五まで雇ってもらえるなんてありがたいじゃない。もちろんずっと働くわよね?」と念を押されてしまいました。 そこで「いや、俺は定年で辞める!」と宣言したかったのですが、さらに「老後の蓄えは多いほどいいし、足腰立つうちは働いてもらわないと」と追い討ちをかけられて、何も言えなくなってしまいました。 妻は気が強く弁も立つので、軟弱ものの私は、これまで彼女に支えられてやってこられたようなものです。それには感謝していますが、そんなに長いこと、妻の意のままに働き続けねばならないのかと思うと、暗澹たる気分になってまいます。 六十歳で退職しても、年金と貯金で人並みの生活はしていけるのに、どうしてずっと働かなくちゃいけないんでしょう? 「生涯現役」なんてまっぴらごめん!と思う私は、どこかおかしいのでしょうか? 九十代の今も現役の佐藤先生にお尋ねするのも変かもしれませんが、よきご助言をいただければありがたいです! @「やーめた!」と叫べばいいんです。 べつに「ずっと働かなくちゃいけない」ってことはない。 働きたくなければ働かなければいいと私は思いますよ。しかし問題は「定年後も夫は働くもの」と思い定めている奥さんにあるということですね? あなたは働きたくない。年金と貯金を勘定しては、これで人並みの生活をしていけるのに、なんで働かなくちゃならんのだ、と思っている。 そのあなたと、気が強く弁も立つ奥さんとの対決。どっちが勝つか、なかな興味ある勝負ですな。たいていの女性は奥さんに賭けるでしょう。「軟弱ものの私」と自らいっているあなたは、それだけですでに敗色濃く、穴を狙うならあなたに賭けるところだけど、それが出来るのはよくよく賭け事にスリルあるいは夢を求めるその道の玄人くらいかも。 あなたは定年近い今の年齢まで、気に染まないことにもひたすら我慢し、仕方なく会社勤めをして来た。三十年以上も奥さんのいいなりになって来た。口には出せず胸の中で愚痴をこぼしながら働き蜂になっていた。定年退職の日を唯一の希望として。 だから定年の日が来ているのに、それ以上働くのは「まっぴらごめん」という強い気持ちになっている。 いいじゃないですか。「やーめた!」と一言、断固として叫べばいいんです。 奥さんが何をいっても「やーめた」です。余計なことをしゃべってはいけない。軟弱と自分で認めているあなたが下手にしゃべるときっと奥さんにやり込められて敗北しますぞ。 男として生まれて一度は自分の意志を通した方がいい。したことのないことをやってのける! やりなさい。やりなさい。たった一度の人生だ。一回くらいやりたいことをやってみなされ。 後悔するかしないか、それは何ともいえないけれど、とにかく新しい出発のご祝儀とし私はあなたに賭けることにする。ナンボ賭けるかって? そうですねえ。五千円･･････いや、三千円二千円･･･いや、千円にしておきます。 ● 19  やりたいことが何もないんです。 (十三歳女子ᆞ中学生) いわゆる進学校といわれる中高一貫の学校に通っています。私の 悩みは、やりたいことが何もないことです。 小学生のときは、みんなと同じようにパティシエに憧れたり、アイドルを夢見たりしていたんですが、中学受験のために一年くらいずーっと勉強漬けの日々をおくっていたら、そういうことをまったく考えなくなってしまいました。 「合格すれば好きなことができるんだから!」と親にいわれて、私もそう思ってがんばってきましたが、入学して、部活とか何をやろうかなあと考えてみたら、やりたいことなんて全然ないことに気づいたんです。 受験勉強でパワーを全部出し切っちゃったみたいで、大学のことや将来のこなんだかぼんやりして何も浮かんできません。 とりあえず、授業についていけなくなると困るので、学校の勉強だけはしていますが、何のためにやってるのかなあと時々むなしくなります。 愛子さんはもう何十年も小説を書いてきたんですよね。どうやったら、そういうふうにずっとやりたいことが見つかるのか、教えてもらえませんか?  @ 大丈夫、私も何もなかったから。 やりたいことがないのなら、なにもムリして何かをやろうとする必要はないと思いますよ。 私の中学時代を思いますと、やっぱりやりたいことなど何もなかったことに気がつきました。しかし私はやりたいことが何もない自分に気がついて悩むなんてこともありませんでした。 勉強も適当、遊ぶのも適当、何をしたい、何が欲しいという情熱がそもそもないので、気楽にのらくらしていました。あなたには「こいつはアホか」と思われることでしょう。 私だけじゃない。友達を見回しても皆、似たりよったりでした。たまには真面目なガリ勉もいたでしょうけど、必然的にそういう人とは友達にならない(なれない)ですからね。 私は決して無理をせず、「自分にとっての自然体」で生きて来ました。 学校の成績がいいか悪いか、将来どうなりたいか、など、考えてもしょうがないから考えなかった。 私が生きて来た時代はそういう時代です。 戦争、しかも敗色濃い戦争の時代ですから、先のことなんか考えても、どうなるかわからない、という無力感のようなものに支配されていたのかもしれません。 苦労も安楽も自然体で受け止めて来ました。先のことなどあまり考えないという性癖(というか習慣というか)によって、頑張らねばならない時は頑張ったし、頑張らなくてもいい時は頑張りませんでした。 小説を書くようになったのは、ほかに出来ることが何もなかったからです。あれも出来ない、これも出来ないという厄介な人間だったので、とどのつまり、出来ることは「書くこと」だけだったので、やって来た、やれて来たのです。 どうしたらそれが見つかるのか、と訊かれても、そんなことわからんです。見つけようとか見つけなければならない、と覚醒したわけではないのです。結婚に失敗して一人で生きていかなければならなくなった時、つまりせっぱ詰まった時に、「何も出来ないけど、書く仕事なら出来そうだ」 と思った。それで始めた。それだけです。十三や四で、先のこと、人生のレールを敷くことを考える今の若い人はエライもんだと感心するのですが、「自分にとっての自然、ありのまま」に生きるという生き方もそう捨てたもんじゃないですよ。苦労は多いけれど。 ● 20  サプリメントにハマっている父親にアドバイスを! (三十五歳男性・会社員) 正月に田舎に帰省して、一年ぶりに両親に会ったのですが、七十歳になる父親がサプリメントを大量に飲んでいるのに驚きました。 ずっと病気知らずが自慢の父でしたが、昨年、ぎっくり腰になってしばらく寝込んでしまったのがきっかけで、健康に不安を覚えるようになったようです。 サプリにどれだけ効果があるかわからないけれど、それで父の不安が少しでも解消されるならいいのかなと思いましたが、一度に飲む量が普通じゃない多さなんです。  腰痛防止のサプリだけならともかく、血圧、糖尿病、肝臓、大腸など、特に何か心配があるわけではない病気予防のサプリまで飲んでいて、こんなにいろんな種類のものを飲んでは、かえって体に悪いんじゃないかという気がします。 母も心配して時々注意しているそうですが、父はもともと自分のやり方にこだわるたちなので、まったく耳を貸そうとしません。まして、仕事が忙しくて年に一度くらいしか帰省できない息子の言うことなど、「ああ、わかった、わかった」と聞き流されてしまいます。 父はわりと読書好きで、最近は自分より年長で活躍されている方の本を読んで、健康法などを参考にしているようなので、ぜひ佐藤先生から、父のサプリメント大量摂取にご意見をいただければと思います。なにとぞよろしくお願いいたします。 @「サプリメント」を知らない私に聞かれても......。 サプリメントって、よく耳にするけれど、どんな物か私は知らない知る必要を感じないので、関心を持ったことがないのです。 そもそも私は薬というものに拒絶反応がある。栄養剤といわれるものの試供品を貰ったりしても、飲んだことは一度もないのです。 薬と栄養剤 とは違うといくらいわれてもダメです。 飲んで「うまい」と感じないものはみなダメ。 薬や栄養剤を飲んで、「あーおいしい」と満足することなんてないでしょ。だからダメ。 そんな私を友達はみな「ヤバン人」だといいます。ヤバン人の私に「サプリメントにハマっている父親」のことを相談されてもねェ......。 丁度、顔見知りのお医者さんとバスの中で出くわしたので、訊ねてみました。「サプリメントを大量に飲む老人がいて、家族の人が心配しているのですけど....」 そこでお医者さんはサプリメントについての説明を延々として下さった。わかったことはサプリメントは薬ではない、という当たり前のこと(私にとっては初耳)で、だから大量に飲んでも害はない代わり、たいして効果というものもない、ということでした。あまりに専門的説明が長くめんどくさいなあーと思いながら(しかし、はあ、なるほど、などと相槌だけはマトモにうちながら)、最後に「要するに毎日大量に飲んでも害はないということですね? 本人が飲みつづけたいのなら、飲ませておいても大丈夫ということですね?」 念を押してバスを降りた。それだけ聞けばそれでよい。お医者さんは「そういうことです」とはっきりいわれたので、いくら飲んでも心配はないのでしょう｡ 私が愚考するに、父上はサプリメント依存症のように思います。依存症といえば芸能界の誰彼の薬物中毒がすぐ頭に浮かぶのですが、そんな本格的(?) むしば中毒ではなく、禁断症状や分量が増えることや心身が蝕まれて行くといった怖症状のない依存症 (しかしどうしてもやめられずに深みに入って行く点ではやはり中毒に近い)がこの頃、大量発生しているような気がします。 例えばパチンコ依存症とか、整形依存症とか、病院依存症とか、霊能者依存症とか、ソレがなくては日ももたないといったふうにのめり込む人たちです。もっというならテレビ依存症もあるだろうし、酒場のおねえちゃん依存症ってのもあるかもしれない。 情報が過多で氾濫している今は、自分の頭で考え判断する能力が衰えてしまうのでしょうかね。考え判断するよりも、情報に頼る方が手っとり早い。何でも手っとり早いのがよいとされる現代では、自分の舌で確かめるよりも、テレビでラーメン屋の行列を見て食べに行く方が手っとり早い。しまいにはテレビでうまいといっていたので、「うまいな?」と思ってしまうというようになるかもしれない。  いや、余計な講釈をしてしまいました。そんなわけで、父上は現代病である依存症に罹患しておられるように思われます。サプリメントの依存症であれば、まあ、無難ではないですか。七十歳のお方に今更、「自分の頭でよく考え判断せよ」なんていっても始まらないし。そのうち飽きるでしょう。