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糖尿病はないが心血管疾患の既往がある過体重または肥満の患者に対し、肥満症治療薬のウゴービ(一般名セマグルチド)を投与することで、心筋梗塞や脳卒中、心血管疾患による死亡のリスクが20%低下することが、新たな臨床試験で示された。この結果は、心血管疾患の治療のあり方を変える可能性があると見られている。研究の詳細は、米国心臓協会学術集会(AHA 2023、11月11~13日、米フィラデルフィア)で発表され、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」にも11月11日掲載された。
この大規模国際共同臨床試験の結果は、研究者や医師の間で待ち望まれていたものだった。論文の筆頭著者で米クリーブランドクリニック循環器内科学のMichael Lincoff氏は、「これは、減量の治療法が心血管イベントを減らす治療法としても有効なことを示した結果だ」とAP通信に語った。
ウゴービは、同じ成分(セマグルチド)の糖尿病治療薬として承認されているオゼンピックの高用量版ともいえる。オゼンピックはすでに、糖尿病患者の心血管疾患リスクを低下させることが示されているが、ウゴービも糖尿病のない心血管疾患患者に対して同様の効果をもたらすようだ。同試験には関与していない米メイヨー・クリニックの心臓病専門医であるFrancisco Lopez-Jimenez氏は、この結果は心血管疾患の治療ガイドラインを変え得るものであり、今後、数年にわたって「議論を独占することになるだろう」とAP通信の取材に対してコメント。「このような治療薬を最も必要としているのは、同試験の対象となったような患者群だ」とも話している。
ウゴービとオゼンピックを製造するNovo Nordisk社はすでに米食品医薬品局(FDA)に、オゼンピックと同様にウゴービについても添付文書の表示に心血管へのベネフィットに関する記載の追加を申請している。
今回報告された臨床試験は、同社の資金提供により実施された。対象は41カ国で登録された、45歳以上でBMIが27以上の糖尿病の既往歴がない1万7,604人。平均追跡期間は39.8カ月だった。試験期間中、対象者は標準的な心血管疾患の治療薬を使用したが、それに加えて、週に1回ウゴービ(2.4mg)を皮下注射する群(8,803人)とプラセボを皮下注射する群(8,801人)のいずれかにランダムに割り付けられた。
心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患……死亡リスク2割減
その結果、非致死的な心筋梗塞、非致死的な脳卒中、心血管疾患による死亡のいずれかが発生した患者の割合は、プラセボ群の8.0%に対してウゴービ群では6.5%で、プラセボ群と比べてウゴービ群では同リスクが20%低下することが示された(ハザード比0.80、95%信頼区間0.72〜0.90、P<0.001)。また、ランダム化から104週目時点での体重の減少に関しては、プラセボ群では0.88%の減少にとどまっていたのに対しウゴービ群では9.39%減少した。
このほかAP通信は、同試験には関与していない米シダーズ・サイナイ医療センターの心臓病専門医Martha Gulati氏が、本試験の興味深い結果として、ウゴービ群では炎症や脂質、血糖、血圧、ウエスト周囲径などの心疾患の重要なマーカーが、体重が大きく減少する前に改善していたことに言及し、「この結果は、同薬の作用機序が体重の減少にとどまらないことを意味するものだと私はみている」と語ったことを報じている。
ただし、論文の付随論評では、今回の臨床試験の結果がウゴービの減量効果によるものなのか、あるいは別の機序によるものなのかに関しては、「依然明らかになっていない」と指摘されている。また、今回の試験では心血管疾患に対する保護作用が認められたが、約3分の1の患者(ウゴービ群33.4%、プラセボ群36.4%)で重度の副作用が報告され、副作用を理由にした試験中止率はウゴービ群で16.6%、プラセボ群で8.2%に上った。試験中止となった理由のほとんどは吐き気や嘔吐、下痢などの消化器症状だった。
ウゴービのような肥満症に対する新しいクラスの注射薬の一つとして、FDAは11月8日に、糖尿病治療薬のマンジャロ(一般名チルゼパチド)の肥満症治療薬バージョンとなるZepboundを承認した。ウゴービやZepboundは安価な薬ではないため、保険会社やメディケアでは通常、減量のみを目的としたこれらの薬はカバーされない。しかし元FDAコミッショナーのMark McClellan氏は、今回の臨床試験や他の研究では、肥満症治療薬が高額な費用を要する健康問題に直接対抗できる可能性が示されており、それらに基づき保険のカバー範囲の基準が変わる可能性はあるとAP通信に話している。
(HealthDay News 2023年11月13日)