「国際協力」疑問視する声も⇨岸田文雄・元首相がそれでも「途絶えさせてはならない」と強く語る理由
都内で開かれた国際保健や国際協力についてのイベントで岸田文雄・元首相は「各国が『自国民第一主義』といった考え方に走る中でも、世界各国が協力して行わなければならない保健課題は必ずある」と強調した。
冨田すみれ子 Sumireko Tomita
2026年08月28日 11時32分 JST
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物価高騰や円安の影響で生活の厳しさが増す中、日本政府による発展途上国への支援について疑問視し、批判する声が強まっている。
世界ではトランプ政権下での米国際開発局(USAID)の解体などにより、発展途上国の支援現場では援助が縮小・停止し混乱が広がっている。そんな今、日本が国際協力を継続する意義とは。国民の理解を得ながら続けていける「支援の形」とは。
朝日新聞のニュースサイト「with Planet」は都内で8月26日、国際保健をテーマにしたトークイベントを開催し、登壇者が国際協力のあり方や日本ができることについて語り合った。
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登壇した元首相の岸田文雄氏は「世界各国が協力して行わなければならない保健課題は必ずある」「取り組みは途絶えさせてはならない」と強調した。
「各国が『自国民第一主義』の考え方に走る中で」…
イベントで話す岸田文雄・元首相
Sumireko Tomita/ HuffPost Japan
基調講演で岸田氏は、「国際保健は外交政策であると同時に、人の命を守る政策。支援は単なる海外への援助ではなく、人や社会、経済など将来への投資」と、その重要性について語った。
その一方で、「最近では、国際協力に対して厳しい声が出てきている。同じお金を使うなら他国のために使うのではなく、日本のために使えという声もある」とし、自らの経験を振り返り、こう話した。
「私も総理として、限られた財源をどのように振り分けるのか考えなければならない立場でした。しかし国際保健分野における様々な取り組みは、1人ひとりの命や健康に直接関わるだけでなく、日本の経済・社会・安全保障のリスクに関わるもの。こういった取り組みは途絶えさせてはならないと私は考えています。
各国が『自国民優先主義』『自国民第一主義』といった考え方に走る中でも、世界各国が協力して行わなければならない保健課題は必ずあります」
資金や人材は有限だからこそ、何に優先順位をつけるかという議論は必要だと強調した上で、「日本がこれまで国際社会において長年にわたり議論や取り組みを主導してきた国際保健の取り組みを、継続していくことを強く願っています」と話した。
支援きっかけに、「一緒に歩んでいくパートナー」へ
基調講演の後、岸田氏は、スーダンで長年にわたり医療支援に取り組む医師の川原尚行氏とパネルディスカッションに登壇。
日本が国際保健に貢献する意義や、日本らしい国際協力のあり方について語り合った。
岸田氏は「世界の人々の命や暮らしを守ることは、巡り巡って日本の国民の命や暮らしを安定させることにつながる」と強調。
新型コロナウイルスのパンデミックを例にあげ、以下のように語った。
「国境を超えて広がっていく感染症でもわかるように、予防や対策などを世界の国々が協力してこそ解決できる問題がある。国民の皆さんにそのような情報発信をし、丁寧な議論を行なっていく大切さを感じています」
パネルディスカッションで話す、岸田文雄・元首相(左)と、医師の川原尚行氏(右)
Sumireko Tomita/ HuffPost Japan
川原氏は、アフリカで医療支援をする認定NPO法人「ロシナンテス」の理事長。イベント登壇の3日前にスーダンから帰国したという川原氏は、アフリカ各国で肌で感じてきた、日本の支援の影響や意義について話した。
「スーダンの内戦では、今まで支援した病院や機材は壊されました。でも、日本が援助した『技術』は残りますし、人々の気持ちにも日本の国への『信頼』は残ります。
そしてアフリカで支援をする中では、これまで現地で(日本の)先人たちが素晴らしい活動をしてきたため、日本人への尊敬の眼差しがありました」
また、USAIDが活動を停止したことについて「現場は今、混乱している。でも日本がこれから支援を引き継いでいくこともできる」と指摘。
日本の高い医療技術などをもって、官民連携で援助をおこない「相手国への支援の後、日本と手をとって一緒に歩んでいく」ような関係性を築いていくべきだとした。
岸田氏も「決して上から目線ではなく、対等なパートナーとして付き合っていくことが重要」と語った。
増える疑問視。「顔の見える支援」と、国民への説明の重要性
国際協力について疑問視する声は、特にSNS上などで大きくなっている。
では、実際の世論調査ではどう変化しているのだろうか。
外務省が毎年実施する「外交に関する世論調査」では、「これからの日本の国際協力」について問う設問がある。
最新の調査結果である2025年9月調査では、計75%が国際協力について前向きな姿勢を示し、大半が国際協力について支持していることが分かる。一方で、前年や2019年の調査結果と比べると「少なくするべき」「やめるべき」と答える人の数は毎年少しずつ増えている。
2025年9月調査では、国際協力について22.7%が「積極的にやるべき」と答え、53.5%が「現在程度でよい」、19.1%が「なるべく少なくすべき」、3.7%が「やめるべき」と回答していた。
前年の2024年10月調査では、25.1%が「積極的にやるべき」、52.9%が「現在程度でよい」、15.3%が「なるべく少なくすべき」、3.1%が「やめるべき」と答えており、翌年調査では積極派は2.4ポイント減り、「なるべく少なくすべき」や「やめるべき」と答えた消極派は計4.4ポイント増えていた。
2025年と2019年を比較してみると、さらに大きな変化がみえてくる。
2019年10月調査では、33.0%が「積極的にやるべき」、49.5%が「現在程度でよい」、10.3%が「なるべく少なくすべき」、2.1%が「やめるべき」と回答。
2025年調査では2019年に比べ、積極派は10.3ポイント減り、消極派は10.4ポイント増えた。
日本が提供した地雷除去機の引き渡し式に参加したウクライナと日本の関係者(2024年7月、ウクライナ・キーウ市郊外)。日本政府は世界各地で、紛争や災害の影響を受けた国々を支援している。
時事通信社
パネルディスカッションの中で岸田氏は、「国民の理解と共に取り組みを進めていくことが大事。今後は特に、注意していくべき部分」とし、以下のように述べた。
「これからも世界の変化の中で日本が役割を果たしていくためには、世界の評価だけではなく、日本の国民の皆さんの理解・協力がなくては、限られた予算の使い道という観点からは、継続できないということになりかねません。
日本が行っている国際協力の意味を理解してもらうためにも、日本が『顔の見える』日本らしい支援を行い、発信していくことが大事なのではないか」
政府やJICAの説明は。「世界に依存する日本」や戦後の海外からの援助にも言及
外務省やJICA(国際協力機構)は、日本の国際協力についてどのように説明しているのだろうか。
JICAのウェブサイトの国際協力について解説するページでは、「開発途上国の問題は世界の問題」とし、世界規模での環境破壊や感染症の蔓延、紛争問題などの「国境を越える地球全体の問題は、世界各国が力を合わせて取り組む必要がある」と説明している。
「世界中のすべての人々がより良く生きられる未来を目指し、人類共通の課題に取り組むことが今、求められています」と強調した。
また、「世界に依存する日本」の項目では、日本がエネルギーの約80%を海外からの輸入に頼り、食料自給率も40%を切っているという現状を指摘。
「日本は世界各国に資源や食料の多くを依存しており、日本はもはや一国だけでは成り立たない」とし、互いに助け合っていく必要性があると綴った。
外務省がウェブサイトで、子ども向けに日本の国際協力について解説するページでは、国際協力をする理由の1番に「日本の平和と豊かさは、世界の平和の豊かさがあって初めて可能」を挙げている。
また、「かつては日本も援助される側」だったとし、「東海道新幹線や東名・名神高速道路などのインフラは、第二次世界大戦後に世界銀行から資金を借りて整備されたもの」と説明。
その上で「戦後の日本の貧しさから立ち直り、経済発展を遂げたのは、実はこうした多くの支援があったからだということを決して忘れてはいけないね」と語りかけている。
with Planetは、感染症や貧困、母子保健などについて報じるメディア。イベント後半では、西アフリカのシエラレオネに取材に行った記者が、現地の状況を報告し、専門家と共に「アフリカにおける母子保健」について話し合った。
その様子については後日、別の記事で詳報する。
(文・写真=冨田すみれ子/ ハフポスト日本版)