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世界では多くの女性が服用している経口避妊薬・ピルだが、日本での普及率は、月経のある女性の1~3%程度といわれている。「生理(月経)を薬でコントロールするなんて不自然」「体に悪いのでは」「副作用が怖い」と、抵抗感が強い女性も多いが、実際はどうなのだろうか。ピルのメリットと副作用、使う場合の選び方について紹介する。
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成分は2種類の「女性ホルモン」
ピルはホルモン薬の一種だ。女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)に似た成分と、プロゲステロン(黄体ホルモン)に似た成分の両方を含んでいる。含む卵胞ホルモンの量によって、超低用量(0.03mg未満)▽低用量(0.05mg未満)▽中用量(0.05mg)▽高用量(0.05mg以上)の4種類があり、現在は副作用の少ない「超低用量」か「低用量」が主流になっている。月経困難症の薬として使われるものは「超低用量」と「低用量」で、これには健康保険が適用される。主に避妊や月経コントロールのために使われるものは「低用量」で、こちらは自費診療になる。成分はほぼ同じだが、月経困難症の薬はLEP(Low dose estrogen-progestin)、自費のピルはOC(Oral contraceptive)と呼ばれる。
避妊ができ、月経がつらくない
「OCのメリットは99%以上の確率で避妊ができること。LEP、OCとも、出血量が減って月経痛などのつらい症状や月経前後のイライラがなくなります」そう語るのは、よしの女性診療所(東京都中野区)院長の吉野一枝さん。「婦人科医が教える 生理のお悩み解決法」(彩図社)などの著書がある産婦人科専門医だ。
低用量ピルを飲むと、体内の女性ホルモンが一定に保たれる。すると子宮と卵巣は休眠状態になる。詳しくいうと、卵胞の成熟が抑えられて排卵が起こらなくなり、子宮内膜は厚くならない。そこで、近年増えている子宮内膜症や貧血などを発症する率が下がるのも利点だという。
月経の日を意図的にずらせる
「排卵・月経によって卵巣や子宮が疲弊しないので、不妊症になるリスクも軽減します。排卵後に黄体ホルモンが増えるとニキビができたり肌荒れがひどくなったりしやすいのですが、ピルを服用するとそういうトラブルがなくなり肌がきれいになる女性も少なくありません」と吉野さんは話す。
もう一つメリットがある。月経日をコントロールできる点だ。低用量ピルを使っていても、一般的に「消退出血」と呼ばれる少量の出血が2~3日間あるが、その日をずらせるのだ。ただし、こうした目的で使えるのは自費診療のOCのみ。受験日や修学旅行の日に月経が当たらないように、2~3カ月前から低用量ピルを服用する女子中高生もいるという。
飲み始めは、不正出血、吐き気などの副作用も
気になるのは副作用だが、主なものは飲み始めに出る吐き気、胸の張り、頭痛、下腹部痛などだ。一方、頻度は低いが重い副作用に血栓症がある。いわゆるエコノミークラス症候群(肺塞栓<そくせん>症)で、重篤になれば死亡することもある。低用量ピルを服用している女性の年間血栓症発症率は1万人当たり3~9人と、一般の女性(同1~5人)より高い。また、この数字は一般論で、日本産科婦人科学会が過去の研究を調べた結果、飲む人の年齢につれてさらに高くなることが分かっている。
吉野さんは、多くの患者にLEPやOCを処方している経験上、こう話す。「体が慣れるまでは副作用が出る人もいますが、大部分の症状は服用開始から3カ月以内にほとんど出なくなります。血栓症が起きるリスクは喫煙、妊娠、産褥(さんじょく)に比べれば低いですし、片方のふくらはぎの痛みやむくみ、視野欠損などの自覚症状があったときにすぐに医療機関を受診すれば重篤化は防げます。ただし、血栓が血流に乗って脳や肺などに飛んでしまうと、激しい頭痛、腹痛、胸痛、ろれつが回らないなどの症状が出ます。こうなった時には救急外来の受診が必要になります」
服用希望者は産婦人科受診を
なお、持病や体質で、血栓症などのリスクが特に高い人がいる。低用量ピルを使うには一般に、産婦人科を受診して医師の処方を受ける必要があるが、そうした人はLEPもOCも処方してはならないことになっている。具体的には、35歳以上で1日15本以上たばこを吸う人▽肺塞栓症や脳血管疾患などを起こしたことのある人▽前兆のある片頭痛がある人▽妊娠中・授乳中・出産直後の人――だ。また、乳がん、子宮体がんの「経験者」や「疑いがある人」も服用できない。
「OCはインターネット通販での購入もできますが、ピルを服用して大丈夫な状態か体の状態をチェックしてから服用するか決めたほうがよいですし、副作用の出方を見ながら安全に使うためにも産婦人科医の診察を受けましょう。費用は月経困難症の治療で処方される保険診療薬のLEPの場合、薬代が約1500~3000円です。自費診療のOCは医療機関によって異なりますが薬代だけで2000~4000円前後のところが多いです」(吉野さん)。
1日1錠、28日周期で飲む薬
ピルは毎日1錠ずつ飲むものだ。28日を1周期として、最初の21日は普通の薬を飲み、後の7日は飲み忘れを防ぐために「偽薬」、つまりホルモンを含まない錠剤を飲む「28錠タイプ」と、偽薬を含まない「21錠タイプ」がある。なお、「28錠タイプ」には、実薬24薬と偽薬4薬のものもある。
28錠タイプの場合は偽薬を服用している間、21錠タイプなら休薬期間に消退出血がある。また、「連続服用型」といって、出血してもいいと思うところで休薬し、年間の出血期間を減らせるタイプの薬も出ている。
一般的に、低用量ピルは月経初日から服用し始める。旅行や受験に備えて月経の時期をずらしたい場合には、遅くても、ずらしたい月経の前の月経前か月経中までには産婦人科の受診が必要だ。その場合には、すぐに飲み始めて予定月経を早めたり遅らせたりできる。ただ、最初は副作用が出るかもしれないので、受験などの2カ月前には飲み始めたほうがよさそうだ。すでに2カ月以上低用量ピルを服用している人なら、早めたり遅くしたりずらすのは簡単という。
◇徐々に慣れやすい「3相性」、月経ずらしやすい「1相性」
一口にピルといっても種類はいろいろだ。まず、どの錠剤も同じ量の卵胞ホルモンと黄体ホルモンを含む「1相性」のピルと、最初はホルモンが少ない錠剤を飲み、体が慣れるにつれて段階的にホルモン量を増やした錠剤を飲む「3相性」のピルがある。また3相性には例外があり、8~16日目の黄体ホルモン量を多くして、その前後は少なくするタイプの薬もある。月経が始まった次の日曜日から服用し始め、消退出血が週末に当たらないようにするタイプだ。
さらに、ピルが含む黄体ホルモンには、開発された順に第1世代から第4世代までの種類がある。だいぶ複雑だが、どうやって選んだらよいのだろうか。
「基本的にはそう大きな差異はありません。ピル開発の歴史は低用量化でしたから、よりホルモン量が少ないほうが副作用が少ないと言えます。徐々に体を慣らしたい人には3相性、月経日をずらすのが目的の場合には女性ホルモンの量が一定の1相性がお勧めです。薬の価格で選ぶ人もいますし、何を優先したいか医師に伝えてください。体との相性もあるので、いくつか試して自分に合う低用量ピルを選ぶようにするとよいでしょう」。「月経に振り回されずに社会で活躍するためにも、今妊娠を考えていない女性には、ピルの服用をお勧めします」。吉野さんはそうアドバイスしている。
福島安紀
医療ライター
ふくしま・あき 1967年生まれ。90年立教大学法学部卒。医療系出版社、サンデー毎日専属記者を経てフリーランスに。医療・介護問題を中心に取材・執筆活動を行う。著書に「病院がまるごとやさしくわかる本」(秀和システム)、「病気でムダなお金を使わない本」(WAVE出版)など。興味のあるテーマは、がん医療、当事者活動、医療費、認知症、心臓病、脳疾患。