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重症化すると親指が脱臼する? 痛い外反母趾を治すとっておきの対処法福島安紀・医療ライター
2024年4月30日
デパートで働く涼子さん(50歳、仮名)は、約3カ月前、右足の親指の付け根の辺りが腫れて痛み、ヒールのある靴が履けなくなった。ヒールの低い革靴を履いても親指の付け根が外側に突き出したところが当たって痛いので、仕事中、立っているのがつらい。近所の整形外科を受診したところ、外反母趾(がいはんぼし)と診断された。
生まれつきの足の形と靴や加齢が影響
「外反母趾は、長い年月をかけて親指(母趾)の付け根が『くの字』に変形する病態で、男性や若い人でもなりますが、圧倒的に40歳以上の女性に多いのが特徴です。涼子さんのようにバニオン(下図参照)と呼ばれる突出部が靴に当たって炎症を起こすと、強い痛みが生じます。重症になると、足の親指が脱臼し、人さし指や中指の付け根の裏側にタコができ、靴に当たって痛みが出ることがあります」
そう説明するのは、日本足の外科学会理事長で聖マリアンナ医科大学整形外科学講座主任教授の仁木久照さんだ。
外反母趾になるかどうかは、生まれつきの足や骨の形と、靴や加齢が影響している。「足の親指が他の指に比べて長い人がなりやすいですし、つま先が細い靴やハイヒールが原因で発症します。中高年の女性に外反母趾が多いのは、若いときからタイトな靴を履く機会が多いからです。足の親指がくの字に変形し炎症や痛みがあるときには、整形外科を受診しましょう」と仁木さんは話す。
整形外科では、一般的にX線(レントゲン)撮影をし、親指の基節骨と中足骨とがなす外反母趾角が20度以上開くほど指の変形があるときに、外反母趾と診断される。
適切な靴と運動療法、装具療法で改善
「外反母趾の治療には、保存療法と手術があります。保存療法は、靴の指導、運動療法、治療用の中敷きであるインソール(足底挿板)を作製する装具療法が中心です。靴に関しては、先が細くなっていなくてつま先に1~1.5㎝くらい余裕があり、かかとが低く、甲の部分が固定されるものが理想です。肥満の人は、足への負担を軽減するために減量することも大切になります」(仁木さん)
涼子さんの場合、非ステロイド性抗炎症薬を処方され、運動療法を毎日続けるように指導された。外反母趾に対して改善効果が認められている運動療法には、「足指を広げる運動」と「ホーマン(Hohmann)体操」の二つがある。
足指を広げる運動やホーマン体操は、軽度から中等度の外反母趾の改善や予防にも役立つ可能性がある。外反母趾になりかけている人は、悪化を防ぐセルフケアとして試してみよう。足指を広げる運動で5本の足指がうまく広がらない場合でも、続けていれば2週間くらいで開くようになるという。
さらに、涼子さんは、足の土踏まずの部分が高くなるようなインソールを装具として作製してもらい、仕事のときに履く靴に入れるようにした。なお、外反母趾の治療用の装具として医療機関でインソールを作るときには、約2万3000円程度かかるが、医師の処方のもとで作製したなど、一定の条件を満たしているときには公的医療保険が適用される。一度は全額支払い、医療費の自己負担割合が3割の人の場合は7割、2割負担の高齢者は8割、1割負担なら9割が戻ってくる方式だ。インソールは使いまわすことはできず、普段履く靴に合わせて作る必要がある。
涼子さんは、装具療法と運動療法を続けたところ痛みが軽減し、2カ月ほどたった頃には外反母趾角が少し小さくなり親指の変形が改善された。軽度の外反母趾の場合は、親指と人さし指の間に挟んで親指を広げる市販のトースブレッダーや外反母趾用サポーターで悪化を防げる可能性もあるという。
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足の外科学会の認定医のいる医療機関受診を
一方、「外反母趾角が40度以上の重度、あるいは、保存療法では改善せず生活に支障が出ている場合には、手術を検討します」と仁木さん。
外反母趾の手術は「骨切り術」と呼ばれる方法で、親指の付け根にある中足骨の一部を切って骨の位置をずらし、足の親指の変形を修正する。骨切り術のやり方は、患者の骨の状態や整形外科医によっても異なり、200通りくらいの方法があるという。
ただ、骨を切る手術のため、骨がしっかりくっつくのに6~8週間はかかる。その間は、かかとで歩いたり足の先に負担がかからないように特殊な装具をつけたりして歩行する必要がある。切った骨には負荷をかけないようにしながら、足の筋肉や可動性が落ちないようにリハビリをすることも重要だ。
「外反母趾に関しては、科学的ではない情報も氾濫しています。不必要な高額のインソールを作らされたり、足が専門ではない整形外科医や形成外科医の手術が不成功に終わり当院へ相談に来たりする患者さんも少なくありません。特に、手術を検討する場合には、日本足の外科学会の認定医のいる医療機関を受診しましょう。きちんと説明してくれる医師を選び、納得して治療を受けることが大切です」。仁木さんは、そう強調する。
治療が必要な病的な扁平足とは?
ところで、土踏まずがなく足の裏が平べったい状態である扁平足は、治療した方がよいのだろうか。仁木さんは、「単に足の裏が平べったいだけで痛みなどの症状がないのであれば何もする必要はありません」と述べ、次のように続けた。
「治療をした方がよいのは、大人になって急に扁平足になって、足の内側や裏側に強い痛みが生じたり、くるぶしの下が腫れたりしたときです。病的な扁平足は、足首を支え、足のアーチを形作っている距骨(きょこつ)の骨頭を支えているばね靱帯(じんたい)の異常から始まります」
病的な扁平足になる原因の中で最も多いのは、内くるぶしの下の骨に付着する後脛骨筋腱(こうけいこつきんけん)と呼ばれる部分の機能不全だ。加齢や関節リウマチなどの病気によって後脛骨筋腱が摩耗したり断裂したりすることによって起こる。後脛骨筋腱が機能しなくなるとばね靱帯が伸びて扁平足になり、炎症が起こって痛みが生じ、歩きにくくなるのが特徴だ。
「扁平足の治療は、外反母趾と同じように、装具療法、肥満の解消などの保存療法が中心です。装具療法では、かかとを覆うようにして足のアーチを持ち上げるインソールを作って扁平足を矯正します。放っておくと足首が内側に入った形に曲がって矯正できなくなってしまうことがあるので要注意です。痛みが強い場合は、飲み薬か貼るタイプの非ステロイド性抗炎症薬を使うこともあります」と仁木さんは話す。
ある程度痛みが落ち着いたら、足の指でグー、チョキ、パーを繰り返す足指じゃんけん、アキレスけんを伸ばすストレッチ、階段の端でつま先立ちをしてゆっくりかかとを下ろす動作を繰り返して脛の筋肉を鍛える運動療法も、病的な扁平足の改善には有効とされる。運動療法をする際には、手すりや壁につかまり、転倒しないように注意しよう。
仁木久照・聖マリアンナ医大整形外科学講座主任教授=筆者撮影
「足専門の整形外科医として多くの患者さんを診てきて、足に合わない靴は、トラブルのもとだと実感しています。履いてみて痛みが出るような靴は使わないようにしましょう。逆に、緩すぎてもトラブルが生じます。慎重に、履きやすい靴を選ぶようにしてください」と仁木さんは語る。
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ふくしま・あき 1967年生まれ。90年立教大学法学部卒。医療系出版社、サンデー毎日専属記者を経てフリーランスに。医療・介護問題を中心に取材・執筆活動を行う。社会福祉士。著書に「がん、脳卒中、心臓病 三大病死亡 衝撃の地域格差」(中央公論新社、共著)、「病院がまるごとやさしくわかる本」(秀和システム)など。興味のあるテーマは、がん医療、当事者活動、医療費、認知症、心臓病、脳疾患。