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月経前に精神的に不安定になったり、体調が悪くなったりする月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)。月経のある女性の多くがその直前に何らかの症状があるとみられているが、「生理前に具合が悪いのは当たり前」として、我慢している人が少なくない。PMSの対処法を、産婦人科医で臨床心理士のよしの女性診療所院長、吉野一枝さんに聞いた。
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3カ月続けて症状があるならPMSの可能性
会社員の早希さん(仮名、35歳)は、毎月のように激しい頭痛に襲われる。「頭痛が起こるのと同じくらいの時期になんだかとてもイライラして、小学生の息子にわけもなく怒鳴ってしまうことがあります。普段は穏やかなほうだと思うのですが、怒り出すと止まらなくなってしまって……。考えてみたら、そうなってしまうのは決まって月経前です」と早希さんは話す。
「早希さんのような人は、PMSである可能性が高いです。毎月のように月経開始の3~10日前から始まり、開始後に解消する頭痛や胸の痛み、情緒不安定、イライラなどの精神的・身体的症状のことをPMSと言います。なかには月経前にかなり情緒不安定になって包丁で家族を傷つけそうになり、自分でも常軌を逸した行動に驚いて精神科を受診したという患者さんもいます」。吉野さんはそう解説する。
PMSの症状は人によって千差万別だが代表的な症状は、下記の表の通りだ。
「うつ病などの精神疾患ではなく、月経前に限って心身の不調を感じることが続いているようならPMSと診断されます」(吉野さん)
生活に支障をきたすPMSは月経のある女性の5.3%
月経前に「イライラした」「手足がむくんだ」「食べすぎてしまった」といった経験は、女性なら誰でも心当たりがあるのではないだろうか。大阪大学の研究グループが20~49歳の日本人女性1187人を対象にPMSの頻度を調べた研究では、95%が月経に関連する苦痛を経験しており、社会生活に影響がある中等症から重症のPMSがある人は5.3%だった。また、月経前に焦燥感▽不安感▽強迫感▽涙もろさ――など精神的な症状が強く出る「月経前不快気分障害)(PMDD)の人も1.2%いた。そして、中等症と重症のPMSと、PMDDの女性のうち、治療を受けていたのはたった5.3%だったという。
では、月経前にこうした精神的・身体的な症状が出やすいのはなぜなのか。
「PMSがどうして起こるのかははっきり分かっていませんが、月経の直前に体内で卵胞ホルモンと黄体ホルモンの分泌量が急激に低下し、それに伴って、イライラなどを抑える脳内の神経伝達物質『セロトニン』の分泌が減ることが、精神的な症状の原因ではないかという説もあり、セロトニンを増やす薬が処方されることもあります。黄体期には、PMSがひどくない人でも黄体ホルモンの働きで、妊娠に備えて体が水分を蓄えようとして体がむくみ、食欲が増したり、肌荒れや便秘を起こしやすくなったりするので、ダイエットにも不向きな時期といわれます」と吉野さんは語る。
睡眠不足を解消しカフェイン軽減を
PMSの治療にはまず、月経と症状との関係を認識するためにつける症状日記、カウンセリングなど薬を使わない方法がある。
薬を使う場合は、女性ホルモンを安定させ、排卵を休ませる低用量ピル(Oral contraceptive :OC)やエストロゲン・プロゲスチン配合薬(Low dose estrogen-progestin :LEP)が用いられることが多い。これらを服用することでPMSの原因と考えられる女性ホルモンの変動も抑えられるからだ。
「妊娠を希望していて排卵を止めたくない人には、体質や症状に合わせて当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、加味逍遙散(カミショウヨウサン)、抑肝散(ヨクカンサン)などの漢方薬を使ったり、精神的な症状が強い人にはSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors、選択的セロトニン再取り込み阻害薬)といった抗うつ薬を処方したりする場合もあります。ストレスが強かったり、睡眠不足だったりすると症状が強く出やすいので、規則正しい生活を心がけ、睡眠時間は最低でも6時間は確保するようにしましょう。気分転換をしたりリラックスする時間を作ったりしてストレスとうまくつきあうことも大切です。また、PMSの症状が出やすい人は、黄体期にカフェイン、アルコールを控えたほうがよいでしょう」と吉野さん。
黄体期は心身の不調が出やすい時期だと知っていれば、対処もしやすい。PMSと思われる症状で悩んでいたり生活に支障が出ていたりするようなら、迷わず産婦人科を受診してみよう。
福島安紀
医療ライター
ふくしま・あき 1967年生まれ。90年立教大学法学部卒。医療系出版社、サンデー毎日専属記者を経てフリーランスに。医療・介護問題を中心に取材・執筆活動を行う。社会福祉士。著書に「がん、脳卒中、心臓病 三大病死亡 衝撃の地域格差」(中央公論新社、共著)、「病院がまるごとやさしくわかる本」(秀和システム)など。興味のあるテーマは、がん医療、当事者活動、医療費、認知症、心臓病、脳疾患。