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お子さんへの読み聞かせ。何となく大事だと分かっていても、時間がなかったり、お子さんが興味を持たなかったりして、うまくいかない時、ありますよね。
でも、意外なことに、そんな時こそ効果が高まる――といわれています。
読み聞かせに関するさまざまな研究を紹介しながら、お子さんの発達段階に応じて、効果的かつ大人も楽しめるヒントを探っていきましょう。今回は、よくあるご質問に答える形で、読み聞かせの新しい世界へとご案内します。
Q1.読み聞かせをしても、すぐに飽きて、どこかに行ってしまいます
実はとってもよくあるご相談です。せっかく絵本を読み始めたと思ったら、数秒や数分でどこかにトコトコ……。でもこれは、読み聞かせがつまらないからでも、本が嫌いだからでもなく、正常な発達の一段階です。
親子の愛着形成のために「生まれてすぐ」からの読み聞かせを推奨している米国小児科学会の資料でも、生後3カ月ぐらいまでのお子さんは「1〜2分間」、それより月齢が高いお子さんでも「数分間」絵本が楽しめればよいとしています。
特に1歳前後で、たっちしたり、歩いたりといった、さまざまな運動を獲得していく発達段階では「とにかく動きたい!」という意思が強く出るものです。そんな時は、お子さんの気持ちを最優先してあげてください。嫌がっているのに、無理やり座らせて読み聞かせをしたせいで、絵本が嫌いになっては元も子もありません。
お散歩の時に「あ、鳥さんだね! 絵本にも出てきたね!」などと、絵本と実世界をリンクさせてあげるだけでも言語発達には効果的です。典型的な発達段階では、1歳すぎぐらいから、絵本で見たものを、実物の世界と同じものだと認識することができます。たとえば絵本の犬を見て「わんわん」と言ったり、実物の犬を見て「わんわん」と言ったりするのも、この頃です。
また生後10カ月ごろになると、食べる場面を読む時に、親御さんと一緒に食べる動作のまねなどができるようになります。ただ読むだけでなく、動作を取り入れると、より絵本に興味を持ってくれるでしょう。
絵本をたたく、かじる、さかさまにするなど、とにかく「読む」以外の動作ばかりする、というご相談も多いですが、これも正常な発達の一段階です。
生後6カ月ごろから、赤ちゃんは絵本に限らず、さまざまなものを持ったり、動かしたり、口の中に入れたりすることで、外の世界を知ろうとします。これは、赤ちゃんが絵本を探索しようとしている行動の表れです。この場合、赤ちゃんの行動を無理やり止めるのではなく、赤ちゃんがかじったりしても安全な絵本(布やビニール製など)を選ぶとよいとされています。触って遊ぶ絵本、音が出る絵本なども楽しめますね。お子さんだけのお気に入りの絵本を用意してあげて、好きなだけ触ったり、口に入れたりさせてあげてください。
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なお、こうした理由もあり、図書館で絵本を借りて楽しめるのは少なくとも1歳6カ月以後からだろう、と米国小児科学会は提示しています。
Q2.読み聞かせの途中に、子どもが全然違う話をしだして、脱線します
意外にも、これは大チャンス! 読み聞かせの効果をさらに向上させる、よいタイミングです。
絵本に関係ない、脱線した話をすることを「non-immediate talk」といいますが、この「non-immediate talk」こそが、子どもの言語発達によい影響を及ぼすのです。脱線することによって、想像力が高められたり、実世界での経験と結びついたりして、子どもの発達によい刺激を与えるといわれています。
また、母親よりも父親が読み聞かせする方が、子どもの言語発達によい影響を与えうるという研究報告もあります(さまざまな形の家族があることは承知していますが、この記事では便宜的に生物学的な保護者・保育者の総称として「母親」「父親」と記載します)。
具体的には2〜3歳の間に父親による読み聞かせの習慣があると、お子さんの3歳時点での言語能力や認知能力によい影響を与えるというものです。なぜ父親がよいかというと、母親より脱線しやすく、子どもと「non-immediate talk」をしやすい傾向にあるから、と考えられています。
加えて、父親は母親と比べると、もともと専門的な語彙(ごい)や子どもにとって珍しい単語を使う傾向があるという報告もあり、これらも子どもの言語発達によい影響を与えると考えられています。
たとえば「桃太郎」の場合、ただ「川の上から、大きな桃が一つ、流れてきました」と読むのではなく、次のような工夫ができます。
「あれ? この桃さ、この間食べた桃よりも大きいのかな? 小さいのかな?」
「どんな味がするんだろうね? この間と同じぐらい甘いのかな? それとも酸っぱかったりして!」
「ああ、桃が割れる時に、桃太郎がケガをしたらどうしよう!? この間、指をケガした時、血が出て痛かったよねえ」
このようにお子さんが自身の経験と結びつけたり、絵本にはない状況を空想したり推測したりすることが「non-immediate talk」になるのです。
もちろんお子さんによっては「絵本通り忠実に、一字一句読んでほしい!」というケースもあるので、無理に脱線しないといけないわけではありません。でも、お子さんの方から脱線した時や、マンネリを脱したい時には有効な手段です。
Q3.もう文字も読めるし、読み聞かせは卒業していい?
早いお子さんだと小学校に入る前から、ひらがなやカタカナを読めるようになり、一人で絵本を読む場合があります。ただし米国小児科学会は、たとえお子さんが一人で絵本を読めるようになった後でも、読み聞かせを続けることを推奨しています。
たとえば5歳ごろからはページをめくる前に、次に何が起こるかを予測するような読み方が効果的とされています。また6歳以後であっても、物語の登場人物がどんな気持ちなのか、どんなメッセージが込められているかを保護者と一緒に考えることが、一人で読む以上に効果をもたらすとしています。
他にも
「どうしてその本を選んだの?」
「この本には、誰が出てくるの? それは、どんな人?」
「この本の主人公は、どんな人だと思った?」
「他の本と同じようなところは、あったかな?」
といった質問をすることで、子どもがより学びを深め、絵本に親しむことができるとされています。
一人で読めるようになってきたからこそ、積極的に保護者が「脱線」させてあげることで、より効果的な読書になるのですね。
Q4.同じ本ばかり持ってくる! 他の本も読んでほしいのに……
図書館でたくさん借りたり、シリーズもので複数購入したのに、結局読むのは、いつも同じ1冊。親としては、いろんな種類の本を幅広く読んでほしいと思いますよね。
でも、これもお子さんの健常な発達の一段階です。米国小児科学会でも「子どもは、何度も繰り返し、同じ本を読むのが好きだし、繰り返すことで学びます」と明示しています。
実際に1歳6カ月ごろから、お子さんは絵本の好きな箇所を覚えるようになりますし、2歳ごろからは自分で好きな絵本をめくると、お話を思い出せるようになってきます。
大事なのは冊数ではなく、あくまでお子さんが本に興味を持つこと、また興味を持った本を一緒に楽しむことです。推薦図書や、対象年齢の表記にこだわる必要はありません。該当する年齢や学年より下の本を選んで読んでも、お子さんが興味を持っていれば、必ず得られるものがあるでしょう。
また面白い研究として、怖い話は男性が読む方が効果的だという報告もあります。抑揚が大きいことや、声の低さなどが理由とされています。「怪獣やおばけの絵本はパパに読んでもらう!」など、絵本によってママ・パパを選べると、子どももより楽しめるかもしれませんね。
自分の「お気に入りの一冊」があるのは、とてもすてきなこと。読むたびに保護者がいろんな「脱線」をさせてあげれば、同じ本を何度読んでも、そのたびにお子さんは新しい体験をし、得るものも違ってくるはずです。
Q5.正直、読み聞かせが楽しくないです
あまり大っぴらには言えないけれど、実は読み聞かせが苦痛という保護者の声も聞きます。確かに絵本の文面だけを見れば、大人にとっては取り立てて意味のない、同じような言葉の繰り返しだったり、ストーリーの大展開があるわけでもなかったり……。
そんな場合は、まず前述の「non-immediate talk」にトライしてみてください。文字は読まず、イラストから独自に文章を作って、大人も楽しめるような話の展開にしてみましょう。
それでもやっぱり、つまらないと思われる方は――。
その場合は、大人自身が好きな本をお子さんと一緒に読めばよいのではと思います。これは医学的に根拠がある話ではなく、あくまで医師としての私見になりますが、たとえば車の図鑑でも、子ども向けのものではなく、大人向けの購入ガイドのようなものでもよいと思うのです。大人向けは車の購入を前提としているため、国内外のスペックや値段などが掲載されており、実用的ですよね。
場合によっては電子端末で、デジタル絵本を見るという手もあります。紙の絵本に比べると、子どもの思考を促す力、子どもの集中力、保護者との会話量・質という点で劣る可能性は報告されていますが、タッチをすると音が鳴ったり、ページがめくれたりして、親子で楽しめる要素がたくさんあるからです。
また、トイレトレーニング(トイトレ)にも絵本は効果的です。医学的にトイトレ自体は2歳半以後からのスタートが推奨されていますが、トイトレに関する絵本は1歳半ごろから親しむのがよいとされています。トイトレについては、こちらの記事も参照ください。
いかがでしょうか。
せっかくの読み聞かせ、大人も楽しめて、より効果的なものにしたいですよね。ただし絶対のルールはないので、上記はあくまで一つの見解として受け止めてください。お子さんそれぞれの「お気に入りの一冊」から無限の可能性が広がることを願っています。
<参考文献>
・American Academy of Pediatrics, FAMILY RESOURCE: Helping Your Child Learn To Read
・Patricia A. Ganea , et al. Transfer between Picture Books and the Real World by Very Young Children, Journal of Cognition and Development, 9:1, 46-66, 2008
・桃井眞里子ほか,ベッドサイドの小児神経・発達の診かた,南山堂, 2017年
・正常ですで終わらせない! 子どものヘルス・スーパービジョン, 阪下和美,東京医学社,2017年
・Rowe ML. A longitudinal investigation of the role of quantity and quality of child-directed speech in vocabulary development. Child Dev. 2012 Sep-Oct;83(5):1762-74.
・Duursma, E., et al. Reading aloud to children: The evidence. Archives of Disease in Childhood, 93(7), 554-557, 2008.
・Ratner NB. Patterns of parental vocabulary selection in speech to very young children. J Child Lang. 1988 Oct;15(3):481-92.
・ルーシー・カルキンズ, リーディング・ワークショップ-「読む」ことが好きになる教え方・学び方 (シリーズ《ワークショップで学ぶ》), 新評論, 2010
・柴田竹夫,父親語と絵本について,教育専攻科紀要, 2008
・かわこうせい,デジタル絵本の受容に関する研究:読み聞かせと黙読との比較,静岡文化芸術大学研究紀要 19 93-96, 2019.
・Gulsah Ozturk, Mother-child interactions during shared reading with digital and print books, Early Child Development and Care Volume 190, 2020-Issue 9
・デジタルで変わる子どもたち――学習・言語能力の現在と未来,バトラー後藤 裕子,筑摩書房, 2021
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白井沙良子
小児科医/小児科オンライン所属医師
しらい・さよこ 小児科専門医。「小児科オンライン」所属医師。IPHI妊婦と子どもの睡眠コンサルタント(IPHI=International Parenting & Health Insutitute、育児に関するさまざまな資格を認定する米国の民間機関)。慶応大学医学部卒。東京都内のクリニックで感染症やアレルギーの外来診療をはじめ、乳幼児健診や予防接種を担当。2児の母としての経験を生かし、育児相談にも携わる。***小児科オンラインは、オンラインで小児科医に相談ができる事業です。姉妹サービスの「産婦人科オンライン」とともに、自治体や企業への導入を進めています。イオンの子育てアプリより無料で利用できます。詳細はこちら。