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「超加工食品」という言葉をご存じでしょうか。大ざっぱにいうと、大量生産されてさまざまな加工が施され、調理しなくても簡単においしくいただける食べ物のことです。ハンバーガーにチキンナゲット、甘いソフトドリンク、チョコレートやキャンディー……手ごろな価格で、しかも魅力的に包装されて目につきやすく、世界中で大人気です。たとえば2016年に公表された論文によると、平均的な米国人は、超加工食品から摂取するカロリーが、食事の総カロリーの半分以上を占めるそうです。ところが、この超加工食品が、がん、脂質異常症、肥満や高血圧などの病気にかかるリスクを高めるという結果が、最近の研究で出ています。さらに今年2月、「超加工食品が死亡のリスクを高める」というフランスでの調査結果が、米国医師会の医学雑誌「JAMA Internal Medicine」に論文として掲載されました。今回は、超加工食品とはどんな食品か、そして死亡のリスクがどう高まったのかを解説します。
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フランスで超加工食品の摂取が多いほど死亡リスクが高いことを示した論文
超加工食品って何?
まず超加工食品について、カナダ・モントリオール大学の資料などを参考にご説明します。
ほとんどの食品は、何らかの方法で加工されています。つまり、食品は単に「加工されている」というだけでは、健康的とも不健康ともいえません。
そこで、09年にブラジル・サンパウロ大学のカルロス・モンテイロ教授らの研究チームは「NOVA」(ポルトガル語で「新しい」という意味)という分類を提案しました。食品の種類や栄養素ではなく、加工の性質や目的、程度によって、食品を分類する方法です。
この分類の背景には「同じ食材、たとえば鶏肉を食べるとしても『家で料理して食べる』のと『出来合いのチキンナゲットを食べる』のでは、調理法や調味料、食品添加物が違い、従って健康への影響も異なる」という考え方があります。モンテイロ教授は17年の論文で「従来の食品分類法は、(加工方法の違いを無視して)健康への影響が異なる食べ物を同じグループに分類してきた」と指摘しました。
NOVAの分類方法は現在、モンテイロ教授が最初に提案した形から、さらに改良されています。カナダ、米国、ヨーロッパ、南米諸国などで専門家が多くの調査や話し合いを繰り返した結果です。今では世界保健機関(WHO)など国連機関も採用する分類になりました。
今のNOVAは、すべての食品(飲み物も含めます)を以下の四つのグループに分類します。
(1)未加工、または加工が最小限の食品
(2)台所にあるような調味料など
(3)加工食品
(4)超加工食品
(1)の「未加工の食品」は新鮮な野菜、穀物、豆類、果物、ナッツ、肉、シーフード、卵、牛乳などを意味します。「加工が最小限の食品」は、食品の保存や風味をよくするために、未加工の食品にオイル、糖類、塩などを添加したり、何も添加しないまま調理したものです。このグループの食品はヘルシーな食事の基本です。
(2)の「台所にあるような調味料など」は、砂糖や塩、酢、ニンニク、オイル、ハーブ、スパイスなどです。
(3)の「加工食品」は、シンプルなパンやチーズ、豆腐、漬物、塩漬け肉や魚介類、缶詰の野菜、豆類、果物などです。加工食品は、食品の保存性を高め、よりおいしくするために、オイル、糖、塩を食材に添加して作られます。食べ方によっては、これらの食品は健康的な食事の一部になります。
(4)の「超加工食品」。これが今回のテーマですね。工場で高度に加工され、多くの添加物が含まれる食品です。ソフトドリンク、炭酸飲料、ポテトチップ、チョコレート、キャンディー、アイスクリーム、甘い朝食用シリアル、スープ、チキンナゲット、ホットドッグ、フライドポテトなど。安くて便利で、おいしいものが多いですね。通常、積極的にブランド化され、魅力的に包装してあり、大規模に宣伝もされます。栄養価は低いものが多いです。
超加工食品を多く食べると死亡のリスクが高まる
さて話を戻し「超加工食品で死亡リスクが高まった」という論文を紹介します。
論文を出したのは、フランス・パリ大学の研究者たちです。「NutriNet Sante」という大規模な疫学調査に参加した45歳以上の4万4551人のデータを、NOVAの分類を用いて分析しました。
この調査はフランス国民の栄養や健康状態をインターネットを通じて調べるもので、09年5月に始まりました。参加者の平均年齢は57歳で、うち女性が73.1%を占めました。参加者は健康状態、身体活動量などについてアンケートに答え、さらに半年ごとに「過去24時間に食べた食品」の記録を提出しました。
さて研究者たちは、各参加者の全体的な食事摂取量と、超加工食品の消費量を計算しました。平均すると、参加者は食品の総重量の約14%、総カロリーの約29%を超加工食品から摂取していました。超加工食品の摂取量は、若いほど、また収入や教育レベル、身体活動量が低いほど高く、1人暮らしや太り気味の人でも高まっていました。
平均約7年間の追跡調査をした結果、602人(全参加者の1.4%)が死亡しました。そして、食事に占める超加工食品の割合(重量で計算しています)が10%増加するごとに、死亡のリスクは14%増加していました。
この分析結果は、結果に影響を及ぼす可能性があるさまざまな要因を考慮しても変わりませんでした。具体的には、所得▽教育レベル▽体格指数(BMI)▽身体活動レベル▽喫煙状況▽総カロリー摂取量▽性別▽年齢▽配偶者の有無▽居住地(都市部か田舎か)▽アルコール摂取量▽がんや心血管疾患の家族歴、を考慮しても同じだったのです。
なお、この調査では、なぜ超加工食品が死亡のリスクを高めたかという理由まではわかりません。研究者たちは論文で、死亡増の理由として次のようにさまざまな仮説を挙げています。
◆超加工食品は塩分、糖分を多く含み、食物繊維は少ない。このために心臓病やがんのリスクが高まったのではないか。
◆アミノ酸と糖類を高温(120℃以上)で長時間加熱することで生じる物質「アクリルアミド」などの影響で、がんが増えたのではないか=「国際がん研究機関」(IARC)は、アクリルアミドを「人に対しおそらく発がん性がある」物質としています。
◆広く使われている食品添加物の「二酸化チタン」を連日のように摂取したことが、慢性的な腸の炎症や、発がんのリスクを高めたのではないか。
◆食品添加物の乳化剤や人工甘味料を摂取することで、人体の腸内に生息する「腸内細菌」の種類が変わり、腸内で炎症が起きやすくなって、がんやメタボリックシンドローム、2型糖尿病などにかかりやすくなったのではないか。
◆食品の包装に含まれるビスフェノールA(BPA)などの環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)が、体内のホルモンの働きを妨げ、内分泌系のがんや糖尿病、肥満などを発症しやすくしたのではないか。
さらに研究者たちは、「この結果でさえ、超加工食品の影響を過小評価しているかもしれない」と指摘します。
というのは、今回の研究対象は「自発的に研究に参加した人たち」でした。こういう人たちは健康意識が高く、その結果、超加工食品の摂取量も死亡率も、一般の人よりは低かったと推定されます。つまり、一般の人なら死亡率はもっと高かったのかもしれません。
また追跡調査の期間は7年でしたが、数十年にわたって発症する慢性病での死亡をとらえるには、7年でも短か過ぎると考えられます。
今後、超加工食品についての研究はますます発展するでしょう。超加工食品を避けるためのコツは、自宅で調理することです。ぜひ今日から、家庭料理に挑戦してください。
大西睦子
内科医
おおにし・むつこ 内科医師、米国ボストン在住、医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年4月から13年12月末まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員として、日米共同研究を進めている。著書に、「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側」(ダイヤモンド社)、「『カロリーゼロ』はかえって太る!」(講談社+α新書)、「健康でいたければ『それ』は食べるな」(朝日新聞出版)。