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がんの予防に“有効”な食べ物とは?中川 恵一・東大大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授
2024年5月29日
大豆食品の代表格の納豆、豆腐、豆乳=北九州市小倉北区で2020年6月12日午前8時21分、奥田伸一撮影
がん予防、特に、食事についてよく質問を受けます。私は、肉も野菜もバランスよく食べることをお勧めしています。
しかし、がんと診断された途端、一切肉を口にしなくなる患者さんは珍しくありません。「肉を食べるとがんになる」、「野菜はがんを防ぐ」といったイメージが浸透しているようです。
果物と野菜は「◎」
しかし、菜食主義者にがんが少ないわけでも、長生きするわけでもありません。
国立がん研究センターの研究でも、野菜不足が原因とされるがんの割合は、男性で0・3%、女性で0・1%にすぎません。残念ながら、「野菜でがん予防」は幻想に近いと言えるでしょう。
ただ、私自身は野菜や果物が不足しないように努めています。私が好きなお酒でリスクが上がる食道がんを、野菜や果物は「ほぼ確実に減らす」ことが分かっているからです。
日本人男性4万人弱を長期間追跡した「コホート研究」の結果、野菜や果物をたくさん食べるグループでは、少ないグループに比べて、食道がんのリスクがほぼ半減していました。
たばこを吸い、お酒を大量に飲んでいる高リスクの人で効果がとくに大きく、発がん率は約8倍から約3倍へと大幅に低下しました。私のようにたばこを吸わない酒飲みの場合でも、食道がんのリスクは有意に低下していました。
野菜による発がんの予防効果がもっとも顕著なのが、食道がんといえます。
「野菜信仰」とともに、日本人に染みついているのが「肉食=悪人」説かもしれません。
確かに、世界保健機関(WHO)の付属機関である国際がん研究機関(IARC)は2015年、ハムやソーセージといった加工肉や、牛肉、豚肉などの赤身肉によって大腸がんのリスクが増えることを発表しています。
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さらに、加工肉を「グループ1」(人に対して発がん性がある)に、赤身肉を「グループ2A」(人に対して恐らく発がん性がある)に分類することを決定しています。
グループ1には喫煙、アルコール、ピロリ菌、アスベストといった「そうそうたる」メンバーが顔をそろえています。加工肉もそのなかにエントリーされてしまいました。これを受けて、韓国ではスーパーでの加工肉の売り上げが約2割も落ち込んだことがありました。
植物性たんぱく質摂取のススメ
しかし、日本人の場合、赤身肉や加工肉が、がんの原因となる割合は、男女ともほぼゼロと評価されています。これは日本人が食べている赤身肉や加工肉の量が世界的にみると少ない方だからです。
日本人は、欧米人と比べて、動物性たんぱく質の摂取量がはるかに少なく、大豆などによる植物性たんぱく質の量が多いため、特に、中高年の方が肉を減らそうとする必要はないでしょう。
そもそも、たんぱく質は、内臓、筋肉、骨、皮膚など体の組織を作る主成分です。66歳以上の年齢層では、たんぱく質の摂取量が多い人では、少ない人と比べて、全死亡率が約3割低く、がん死亡率も約6割も低かったというデータもあります。
しかし、日本人のたんぱく質摂取量はダイエットブームなどの影響か、ここ20年くらいの間に減少しています。
1日当たりのたんぱく質摂取量は、日本が豊かになった高度成長期に急上昇し、1995年に81・5グラムとピークを迎えましたが、19年は71・4グラムと激減しました。これは戦後間もない50〜60年とほぼ同じ水準で、明らかに不足しています。
たんぱく質のなかでも、植物性のものが最もオススメです。長寿のために最も効果的な食材は豆類で、全粒穀物、ナッツ類が続きます。私も納豆1パックを毎日そのまま食べるようにしています。
動物性たんぱく質のなかでも、魚はがん予防と長寿にプラスですが、日本人の魚の摂取量は88年をピークに減少が続いています。
摂取カロリー自体も終戦後より減少しており、増えているのは、脂肪くらい。特に動物性脂肪の増加が顕著です。
食の欧米化が先行した沖縄では、動物性脂肪の摂取が増えた結果、かつては男女とも平均寿命日本一でしたが、男性は43位、女性でも16位まで順位を下げています。
まさに「医食同源」です。
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1985年東京大医学部卒。スイス Paul Sherrer Instituteへ客員研究員として留学後、同大医学部付属病院放射線科助手などを経て、2021年4月から同大大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。同病院放射線治療部門長も兼任している。がん対策推進協議会の委員や、厚生労働省の委託事業「がん対策推進企業アクション」議長、がん教育検討委員会の委員などを務めた。著書に「ドクター中川の〝がんを知る〟」(毎日新聞出版)、「がん専門医が、がんになって分かった大切なこと」(海竜社)、「知っておきたい『がん講座』 リスクを減らす行動学」(日本経済新聞出版社)などがある。