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健診でも分からない?! ひそかに進む糖尿病のリスク 血管をむしばむ「血糖値スパイク」を回避するには金子至寿佳・日本赤十字社 和歌山医療センター 糖尿病・内分泌内科部長
2024年6月1日
「健康診断で血糖値に問題ないから大丈夫」――。こう思っている人、案外、多いのではないでしょうか。ちょっと待ってください。食事の仕方など生活習慣によっては血糖値が大きく変動し、血管に取り返しのつかないダメージを与えかねません。糖尿病や、心筋梗塞(こうそく)、脳卒中のリスクをも高める「グルコーススパイク(血糖値スパイク)」の怖さを知り、健康で長生きできるすべを身につけていただけたらと思います。
「食後、眠くて、ぐったり」
病院では、糖尿病の患者さんや、そうでない方からこんな話をよく聞きます。
「食後、とても眠くて、ぐったりして起きていられません」
その時、体では一体、どんなメカニズムが働いているのでしょうか。
ヒトは脳や体が活動するために外からブドウ糖を取り込んでいます。食事をすると、小腸から血液中にブドウ糖が吸収されます。この血液中のブドウ糖の濃度のことを「血糖値」といいます。
食べ物を食べるとたいてい血糖値が上昇します。すると、これを体が察知して、膵臓(すいぞう)から「インスリン」というホルモンが分泌されます。すると、ブドウ糖は肝臓や筋肉に送られ、グリコーゲンや脂肪として蓄えられるため、血糖値が下がります。このように、インスリンには血糖値を調整する働きがあるのです。
ちなみに、インスリンの分泌が減ったり、インスリンの効きが悪くなったりして、血糖値がなかなか下がらない状態が慢性的に続く場合があります。これを「糖尿病」といいます。
まるでジェットコースター
通常、食事を取るたび、血糖値はアップダウンを繰り返します。しかし、食事の取り方を間違えると、このアップダウンが急激になります。それはまるで、ジェットコースターのようです。これを「血糖値スパイク」と呼びます。この血糖値の乱高下によって、食後に強い眠気や、だるさが引き起こされるのです。
血糖値スパイクを繰り返すと、しだいに膵臓が疲弊してきます。大事なインスリンを分泌する能力が低下したり、分泌するタイミングが遅くなったりするリスクがあります。すると、血管にダメージを与え、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中のリスクが高くなるのです。さきほども述べましたが、糖尿病になるリスクもあります。
この血糖値スパイク、意外と一般の方は自覚しづらいです。「そんなの、健康診断で測定する血液検査でわかるのでは?」――。そう思う方は多いかもしれませんが、健診の結果には表れません。
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健診で測定するのは「空腹時血糖値」です。正確を期すため10時間以上食事を取らない状態で測りますが、一般には朝食を抜いた状態で測定されるケースが多いです。しかし、食後2~3時間後には空腹時のレベルに戻ってしまいます。そのため、健診の空腹時血糖値をいくら測っても血糖値スパイクが起きているのか分からないのです。食後血糖値が高いにもかかわらず、健診で発見できないケースを「隠れ糖尿病」と言います。
国際糖尿病連合がまとめた「食後高血糖の管理に関するガイドライン」では、食後2時間の血糖値が140mg/dLを超える場合は対処が必要だとしています。
血糖値スパイク、起こしやすい人は?
では、どうやったらこの血糖値スパイクに気づくことができるのでしょうか。
最近、血糖値を24時間モニタリングできる簡便な装置(Continuous Glucose Monitoring、CGM)が登場しました。そのおかげで、糖尿病の患者さんだけでなく、健康意識の高い人も装着して、食べ物によって血糖値にどんな変化が表れるか調べられるようになりました。いわゆる、血糖値の“見える化”です。
臨床の現場では、これを使って調べる方はどんどん増えており、臨床以外の一般の方の間でも広がっているように感じます。実際にCGMで測定していると、食後に血糖値がジェットコースターのように乱高下する場面に出くわすことがあるかと思います。
この血糖値スパイクを起こしやすい人の特徴としては、
・ごはんやパンなど糖質のみの食事(おにぎり、丼物、菓子パンなど)
・食べるスピードが速い
・運動不足
などが挙げられます。
食べる順番も大事
血糖値スパイクを避けるうえで、まず大事なのは「食事」です。
アメリカのスタンフォード大の研究チームが、CGMを利用する30人(25~65歳)に対して、ミルク入りのコーンフレーク、ピーナツバターのサンドイッチ、プロテインバーの三つのタイプの朝食をとってもらい、血糖値の変化を調べたところ、糖質の多いミルク入りコーンフレークを食べた人の80%で血糖値が急上昇したと報告しています。
もちろん、糖質は大事なエネルギー源なので、一定量は必要です。ただし、糖質を多く含むおにぎりや丼物、カップラーメンしか食べない食事は、血糖値スパイクを起こしやすいので控えたいです。
また、炭水化物のうち、食物繊維は重要です。小腸から血管へのブドウ糖の移動を穏やかにしてくれるからです。
たとえば、ごはんやパン、麺類など糖質を多く含む主食を減らし、肉や魚、卵などのたんぱく質、海藻やキノコなど食物繊維をたくさん含む食材を増やしてみましょう。
食べる順番も大事です。野菜、たんぱく質、炭水化物、の順に摂取すると、炭水化物の吸収が緩やかになり、急激な血糖の上昇を抑えられます。
そして、食後は30分ぐらいしてから血糖が筋肉に流れ込んでいくようにするため、15分程度でいいので体を動かしましょう。
一方、砂糖などを直接含む食べ物は、なるべく少なくします。とくに、甘い飲み物は控える方がいいでしょう。
そして、朝食を抜くことはやめてください。食事をとらない時間が長くなるほど、体はブドウ糖を取り込もうとします。そのため、朝食を抜いて昼食を取ると、血糖値が一気に上昇するのです。
ストレスでも起こりうる
ところで、血糖値スパイクを起こすのは、なにも食べ物だけではありません。
最近、糖尿病でない58歳の女性からこんな質問を受けました。
「CGMをつけてみたら、普通の食事をしているのに、急に血糖が上がるんです。先生、どうしてなんでしょうか?」
この女性は、休日には血糖値スパイクが起きません。起こるのは決まって平日でした。その真犯人は仕事の「ストレス」でした。
ストレスは、血糖値を上昇させるホルモンの分泌を促進させ、血糖値の急激な上昇を起こします。ほかにも、睡眠が不足したり、怒ったりしても、血糖値は上昇します。
いかがでしたか。私たちはいつでも血糖値スパイクのリスクにさらされています。これを避け、健康リテラシーを発揮して、血管を大切にする食事や運動など生活習慣に気を配ってください。それこそが、長生きの秘訣(ひけつ)ではないでしょうか。
写真はゲッティ
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かねこ・しずか 三重県出身。医学博士。糖尿病医療に長く携わる。日本糖尿病学会がまとめた「第4次 対糖尿病5カ年計画」の作成委員も務めた。日本内科学会認定医及び内科専門医・指導医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医・指導医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・指導医、日本老年病学会認定老年病専門医・指導医。インスリンやインクレチン治療薬研究に関する論文を多数執筆。2010年ごろから、糖尿病診療のかたわら子どもへの健康教育の充実を目指す活動を始め、2015年からは小中学校で出前授業や大人向けの健康講座を展開している。