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日本人が歯を失う第一の原因となるのが歯周病です。そのリスクは年齢と共に上昇しますが、若い世代でも無縁ではなく、何と15~24歳の2割がかかっているとか。
実は私も、その一人でした。長年、歯科医院に行く機会を逸し、その間、静かに病が進行していたのです。今回はその反省と教訓をもとに歯をケアする大切さをお伝えします。
2週間、歯ブラシに血液が付着して…
私が歯周病と診断されたのは、今から8年ほど前、20代後半の頃でした。
その時のショックといったら! 以来、歯のセルフケアや定期検診を欠かさないようにしていますが、「もっと早くブラッシングの大切さを知り、ちゃんとブラッシングを行っていれば……」という後悔は今もなくなりません。
小学校低学年の頃までは虫歯治療のため、自宅近くの駅前にあった歯科医院を頻繁に訪れていた記憶があります。幼少期に虫歯治療をした時の詰め物が今も残っており、歯磨きをするたびに歯科医院での憂鬱な思い出がよみがえってきます。
それが高学年になると、幸い虫歯にもならなくなり、また矯正をする必要もなかったため、歯科医院を訪れることがなくなりました。親知らずも、レントゲン上では4本確認できますが、生えてきておらず、他の歯を邪魔することもないため放置しています。
そんな私が再び歯科医院を訪れたのは社会人になってからのことです。確か28歳ぐらいだったでしょうか。気がつくと歯磨きをするたびに、歯ぐきから出血するようになっていたのです。止まらなくなるほどの出血ではなく、痛みもありませんでしたが、歯ブラシに血液が付着するようになっていました。
「強く歯を磨きすぎたせいだろう」
当時、電動歯ブラシではなく普通の歯ブラシを使っていた私は、ゴシゴシと強く力を入れて磨きがちでした。そんなわけで出血も磨き方のせいにして、様子を見ることにしました。
しかし、その時ばかりは、いつものように出血が数日で止まることはありませんでした。どんなに優しく磨こうとも、歯ブラシに血液が付着することが2週間ほど続いたのです。普段と違う状況に不安を感じた私は、近所の歯科医院を久々に訪問することにしました。
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「歯周病ですね」
先生は歯や歯ぐきの状況をチェックするなり、そう一言。私の歯ぐきは腫れて炎症を起こしていたため、歯ブラシが歯ぐきに当たる程度の刺激で出血してしまっていたのです。
45歳からは半数以上が歯周病
日本歯周病学会によると歯周病とは、プラーク(歯に付着している細菌と代謝物のかたまり)の中の歯周病原細菌によって引き起こされる感染性炎症性疾患。歯ぐき(歯肉)に炎症が起こり、進行すると歯を支えている骨が溶けてしまうという恐ろしい病気です。
私のように歯のケアが不十分で、歯と歯肉の境目(ポケット)の清掃が十分に行き届かないと、そこにプラークが停滞して炎症を起こし、歯肉が赤くなったり、腫れたりします。残念ながら自覚症状に乏しいため、気がつかないでいるとうみが出たり、歯が大きく動揺したりする上、場合によっては抜歯の必要も出てきてしまいます。
さらに同学会によると、何と日本人の歯を失う原因の第1位が歯周病(37%)だというではないですか。罹患(りかん)率は、15~24歳が20%、25~34歳で30%、35~44歳で40%、45~54歳は50%、そして55歳以上は55~60%と年齢と共に上昇しますが、若い世代でもかかることに驚かされました。20代後半だった私は「30%」に含まれる一人だったのです。
そこで私は、まずたまっていた歯石(プラークが石灰化したもの)を取り除いてもらうことにしました。歯間ブラシを使ったことがなかった私の歯石は、恥ずかしながら相当たまっていたようで、痛みが強い上、時間もかかったことを覚えています。
我慢して、たまりにたまっていた歯石を取り除いた結果、分かったことがありました。長年の歯周病のせいで、すでに私の前歯(中切歯=ちゅうせっし)の歯ぐきは痩せて下がってしまっていたのです。悲しいかな、一度、痩せて下がってしまった歯ぐきは元には戻らないと、先生が言うではありませんか。
本来、ピンク色であるはずの歯ぐきが痩せてしまっているので、その部分は黒ずんで見えてしまいます。「よりによって前歯の歯ぐきが痩せなくても……」とため息をついても、全ては自分のせいです。セルフケアが十分でなかったために歯周病を引き起こし、結果的に歯ぐきが痩せてしまうまで放置していたのですから。
250ドルの高額ディープクリーニング!
それ以来、私は3カ月から4カ月ごとに歯科医院に通うようになりました。自宅では電動歯ブラシを使用し、歯間ブラシも併用して歯間ケアも意識して行っています。たまにサボりたくなりますが、歯ぐきが痩せてしまうのはイヤなので、寝る前にも歯間ケアをします。歯磨きは食後だけでなく、起床時や寝る前も欠かしません。
そのおかげでしょうか。日本を離れてから約8カ月ぶりに行ったアメリカの歯科クリニックでは虫歯も見つからず、歯ぐき深くに歯石が付着しているところも1カ所のみ。
この部分については医師にディープクリーニングを勧められました。日本では聞いたことすらないものでしたが、歯石が歯ぐきの下、つまりポケットに付着している場合に必要な処置で、局所麻酔をする場合があることも知りました。
実際に受けてみると、その優れた技術に感心しましたが、費用にも驚がく! 約250ドルと、日本円にして万単位の出費となってしまったからです。その後、私がさらに歯磨きのセルフケアを徹底するようになったのは言うまでもありません。日本でもディープクリーニングを行っている歯科医院はありますが、1回あたり自費で1万円は下らず、決して安くはないようです。
長年サボっていたからこそ実感するのは、歯は手をかけてあげればあげるほど状態がよくなる――ということ。また3カ月後に定期検診で歯科医院を訪問予定ですが、ディープクリーニングではなく普通のクリーニングで済むよう、地道にセルフケアを続けていこうと思っています。
写真、イラストはゲッティ
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山本佳奈
ナビタスクリニック内科医、医学博士
やまもと・かな 1989年生まれ。滋賀県出身。医師・医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒、2022年東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)卒。南相馬市立総合病院(福島県)での勤務を経て、現在、ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員を務める。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)がある。