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ダニが気になる季節がやってきました。3月には、マダニを媒介とする重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が人から人へ感染したケースが国内で初めて確認され、5月にはダニの一種であるツツガムシにかまれ、80代女性が亡くなるというニュースもありました。
ダニは時として生命に危機を及ぼす天敵。家の中にも生息しているので、ダニ対策は「一年中必要かもしれない」というデータもあります。そこで、医学的に正しいダニ対策や、ダニによるアレルギー性鼻炎の治療法などを徹底解説します。
多くのダニは一年中、ベッドやソファに潜んでいる
日本の子どもの約半数が、ダニやスギなどに感作されているという全国的な調査報告があります。「感作」とはダニやスギなどに対する抗体を持っている、つまりダニなどに触れた時にダニを攻撃する=症状が出る可能性があるということです。
もちろん、感作されているすべてのお子さんに症状が出るわけではないのですが、多くのご家庭でダニ対策が必要な可能性がある、ということです。
室内に出るダニはヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニ。この2種類で室内ダニの約90%を占めるといわれます。これらは人の血を吸うのではなく、人のあかやふけ、ほこりやちりの中に潜む有機物を餌として活動しています。よって、寝具やソファ、ぬいぐるみの中にも生息しています。
また、ダニというと梅雨の時期をイメージしがちですが、こうしたヒョウヒダニは一年中検出されると言われています。湿度60%以上で生存率が高まるとはいえ、気温や湿度が低くなる2〜4月でもいなくなるわけではありません。特に5月〜1月のすべての時期は、ダニによる症状が出やすいと考えてください。
「天日干し」では不十分。掃除機がけ&水洗いがマスト!
ダニ対策として、天気の良い日に布団を外で干す方もいると思います。いわゆる天日干しで、確かに多くのダニは死滅しますが、それでは不十分。ダニの死骸や細かいフンも、症状を引き起こすからです。
ダニの死骸やフンまで除去するとなると、掃除機がけと水洗いが必要になります。後述の通り、ダニはぜんそくにも影響するため、ぜんそくのガイドラインでは「寝具は1週間に1回はシーツを外して、表裏の両面に掃除機をかける」としています。
また布団カバーやシーツをこまめに替えること、防ダニシーツ(高密度繊維でダニを通過させないもの)を使うことも推奨しています。
水洗いについては決まった頻度はないものの、ご家庭で無理のないよう実践できるとよいでしょう。
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畳や床については、できるだけ毎日、少なくとも3日に1回はゆっくり掃除機がけをすることが勧められています。「ゆっくり」というのは、1㎡の面積あたり20秒以上(畳1枚あたりでは1分以上)かけるスピードです。
なお、もともとアトピー性皮膚炎があったり、肌のバリアーが弱かったりするお子さんは、ダニによってさらにお肌の状態が悪くなる場合があります。アトピー性皮膚炎のガイドラインでも、上記のホームケアが推奨されており、特にダニの温床でもあるぬいぐるみは「ベッドに置かないこと」とされています。寝る時にぬいぐるみを手放せないお子さんの場合は、こまめに洗濯をしてあげたいものです。
ダニ刺されで赤み、かゆみが強ければステロイド剤を
さて上記のヒョウヒダニは血を吸わないと書きましたが、一方、イエダニは血を吸うため、人の肌を傷つけることがあります。詳しくは日本皮膚科学会の「虫さされ」を参照ください。
万が一刺されても、必ずしも治療や受診が必要なわけではありませんが、赤みやかゆみが強い時は小児科か皮膚科を受診しましょう。ステロイド剤で、症状が軽くなる可能性が高いです。
またヒゼンダニは「疥癬」(かいせん)といって、非常に強いかゆみを引き起こします。この場合は専用の飲み薬や塗り薬があるので、皮膚科を受診してください。詳しくは日本皮膚科学会の「疥癬」を参照ください。
レジャーなどで外出の際には、あらかじめ虫よけをしておくことで、蚊だけでなくダニによる被害も防げる可能性があります。虫よけ剤のうち、「イカリジン」はお子さんでも年齢や回数の制限が無いため使いやすいのですが、イエダニには効果がありません。年齢や回数に制限のある「ディート」などの虫よけ剤であれば、イエダニにも効果があります。虫よけ剤については小児科オンラインジャーナルやこちらの記事を参照してください。
口呼吸や鼻血も、ダニによるアレルギー性鼻炎かも?
ダニはお肌だけでなく、鼻にも影響を及ぼします。通年性(一年中みられるタイプ)のアレルギー性鼻炎を引き起こすのです。
3歳の子どもの5人に1人が何らかの鼻炎症状があるという報告もあり(この鼻炎の原因はダニだけではなく、スギなどの花粉も含まれます)、お子さんでも鼻炎はありふれたものなのです。
一方で、子どもの鼻炎は、なかなか気づきにくいともいわれています。くしゃみや鼻水だけでなく、鼻をこする、すする、また口呼吸やいびき、鼻血も鼻炎の症状の一つです。その結果、寝入りが悪いとか、夜間に起きてしまうといった睡眠の問題も引き起こします。
お子さんでも安全に使えるアレルギーの薬はたくさんあり、鼻炎の症状を和らげることが可能です。上記の症状があれば、小児科でも耳鼻科でも対応できることが多いので、ぜひ相談してください。
また、ダニによる鼻炎は「舌下治療(ぜっかちりょう)」というアレルゲン免疫療法(アレルギーの原因となるアレルゲンを少量投与することでアレルゲンに慣れさせる治療法)でも症状を緩和することができます。5歳ぐらいから治療でき、スギの舌下治療とも併用可能です。詳しくは、こちらのページを参考にしてください。
ダニ対策がぜんそく治療のスタンダードに
冒頭でダニそのものだけではなく、ダニの死骸やフンも症状を引き起こす原因になると説明しました。特にフンはとても小さいので空間に浮遊して、気管の奥に入り込みます。これにより気管支ぜんそくを発症しやすくなったり、症状がひどくなったりすることも知られています。
実際に、寝具に防ダニカバーをつけるなど何らかのダニ対策を行うことでぜんそくが改善したり、緊急受診の頻度が下がったりした――という報告が複数あります。
これらを受けて、最新の気管支ぜんそくのガイドライン(2023年)でも、すべての重症度のぜんそくにおいて、ダニ対策をすることが基本の治療として位置づけられました。
ただし、現時点(24年6月7日)では日本において、ぜんそくに対するダニ舌下治療の適用はありません。あくまで舌下治療はアレルギー性鼻炎に対して適用される段階にとどまっています。
また海外のガイドラインなどではエビデンスに乏しいという理由から、特にぜんそく治療のためのダニ対策は推奨されていません。
確かにぜんそくはダニ対策だけで治る病気ではなく、しっかりと気道の炎症を抑える薬などを内服、吸入することで治療していくべきものです。
一方で日本は欧米に比べて、ダニの抗原量が非常に多い(10〜20倍)とも言われており、ダニがぜんそくの症状を悪化させることは複数の研究でも明らかになっています。薬の治療と併せて、可能な限りダニ対策に取り組む方が、ぜんそくにも効果的だと考えられるでしょう。
<参考文献>
・Meltzer EO, et al. Burden of allergic rhinitis: results from the Pediatric Allergies in America survey. J Allergy Clin Immunol. 2009 Sep;124(3 Suppl):S43-70.
・Di Rienzo V, et al. Long-lasting effect of sublingual immunotherapy in children with asthma due to house dust mite: a 10-year prospective study. Clin Exp Allergy. 2003 Feb;33(2):206-10.
・Murray CS, et al. Preventing Severe Asthma Exacerbations in Children. A Randomized Trial of Mite-Impermeable Bedcovers. Am J Respir Crit Care Med. 2017 Jul15;196(2):150-158.
写真はゲッティ
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白井沙良子
小児科医/小児科オンライン所属医師
しらい・さよこ 小児科専門医。「小児科オンライン」所属医師。IPHI妊婦と子どもの睡眠コンサルタント(IPHI=International Parenting & Health Insutitute、育児に関するさまざまな資格を認定する米国の民間機関)。慶応大学医学部卒。東京都内のクリニックで感染症やアレルギーの外来診療をはじめ、乳幼児健診や予防接種を担当。2児の母としての経験を生かし、育児相談にも携わる。***小児科オンラインは、オンラインで小児科医に相談ができる事業です。姉妹サービスの「産婦人科オンライン」とともに、自治体や企業への導入を進めています。イオンの子育てアプリより無料で利用できます。詳細はこちら。