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実験段階にある腎臓病の治療薬「BI 690517」によって腎障害により悪化した尿中マーカーが有意に改善することが、米ワシントン大学腎臓病学臨床教授のKatherine Tuttle氏らが実施した同薬の第2相臨床試験で示された。慢性腎臓病(CKD)患者にBI 690517を投与したところ、主に肝臓で作られるタンパク質であるアルブミンの尿中濃度の低下が認められたという。詳細は、「The Lancet」に12月15日掲載された。尿中アルブミン濃度は長年にわたって腎臓病の進行度を評価するための指標として使用されている。Tuttle氏は、現行の診療を変え得る「かなりインパクトがある研究結果だとわれわれは考えている」と話す。
米国腎臓財団(NKF)によると、腎臓には体内から老廃物を排出する、体内のミネラルのバランスを維持する、血圧を正常に保つ、などの重要な機能があるが、これらの機能が失われるとCKDの状態になる。CKDは心臓病や糖尿病などのほかの慢性疾患に関係することも多い。また、CKDが進行して透析が必要となる人も多い。
Tuttle氏らの説明によると、体内ではアルドステロンと呼ばれるホルモンがナトリウムとカリウムの量を調節し、血圧を安定化させる役割を果たしている。しかし、アルドステロンが過剰に分泌されるとこのプロセスに異常が生じ、腎臓病の進行が加速する。
厄介なのは、腎臓病に対する標準的な薬剤であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)を長期投与すると、アルドステロンが増加する傾向がある点だ。Tuttle氏は、「アルドステロンが腎臓や心臓の炎症や線維化の大きな要因の一つであることは、数十年前から分かっている。だが、アルドステロンを治療の標的とすることは極めて難しかった」とワシントン大学のニュースリリースで説明している。
アルドステロンの産生量を抑制
今回報告された臨床試験は、まず、ACE阻害薬またはARBを使用中で、推算糸球体濾過量(eGFR)が30〜90mL/分/1.73m2未満、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が200〜5,000mg/g未満、血清カリウム値が4.8mmol/L未満のCKD患者714人を、新しいクラスの糖尿病治療薬の一つであるエンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)、またはプラセボを8週間投与する群にランダムに割り付けた。次いで、714人中586人(平均年齢63.8歳、男性67%)を、3カ月半にわたってBI 690517を1日当たり3mg、10mg、20mgのいずれかの用量で投与する群とプラセボを投与する群にランダムに割り付けた。
Tuttle氏らの説明によると、アルドステロンの産生量を抑制する作用を持つBI 690517のような薬剤は、高カリウム血症のリスクを高める可能性があるが、エンパグリフロジンはその作用に対抗することができるという。「このことが、腎保護の強化におけるBI 690517の有効性を、このクラスの薬剤の使用の妨げとなっていた重大な副作用を抑えながら検証する機会をもたらしてくれた」と同氏は言う。
その結果、BI 690517の10mgと20mgが投与された患者では臨床的に意義のあるUACRの低下(30%以上の低下)が認められた(10mg:−39%、20mg:−37%)。一方、BI 690517とエンパグリフロジンが投与された患者でも、同様に臨床的に意義のある尿中アルブミン濃度の低下が認められた。高カリウム血症の発生率は、プラセボ群と比べてBI 690517群で高かったが(プラセボ:6%、BI 690517 3mg:10%、10mg:15%、20mg:18%)、そのほとんどは軽度であった。
Tuttle氏は、注意深さを保ちつつも、「透析を必要とする患者の75%が糖尿病または高血圧性腎臓病に罹患している。認知度やアクセス、治療可能な段階での検出といった部分がうまくいけば、同薬によって透析が時代遅れの治療法になる可能性がある。そのような未来は、手の届くところまで来ている」との展望を示している。
(HealthDay News 2023年12月19日)
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