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性感染症の中で最も患者が多いのが「性器クラミジア感染症」だ。若い世代に特に多い性器クラミジア感染症は症状が出ないことが多く、感染に気づかないまま悪化すると、男女ともに不妊につながる恐れがある。「性と感染症」の3回目は最も身近な性器クラミジア感染症について取り上げる。
●多くが症状なし
東京・新宿駅近くのビルに構える性感染症専門の「プライベートケアクリニック東京」。7月上旬、20代の女性が検査のため来院した。パートナーから「クラミジアになった」と報告を受けたという。自覚症状は全くなかったが、結果は「陽性」。性器だけでなく、のどにも感染していたため、抗生物質による治療を始めた。同クリニック院長の尾上泰彦医師は「治ったかどうか確認するために、2週間後に来てね」と女性患者を送り出した。
性器クラミジア感染症は、クラミジア・トラコマチスという微生物によって起きる感染症だ。病原体はとても弱いため、人の細胞から離れると生きていけず、性行為以外ではほぼ感染しない。性器と性器だけでなく、口と性器、性器と肛門が接触しても感染することがある。
尾上医師は「症状が出るのは男性が5割程度、女性にいたっては3割にも満たないので、感染に気づくのが難しい。発見が遅れて悪化したり、知らない間にパートナーに感染させてしまったりする」と解説する。
●炎症広がる危険も
どんな症状が出るのか。女性は、おりものの増加や不正出血、下腹部の痛みが出たりするが症状は軽い。感染に気づかないまま悪化すると、子宮頸管(けいかん)炎や、卵管が狭くなる卵管狭窄(きょうさく)を起こし、不妊や流産などの原因にもなる。さらに、クラミジアが骨盤内に広がると骨盤内腹膜炎を引き起こし、上腹部に波及して肝周囲炎を起こす恐れがある。
一方、男性が感染すると、尿道炎を起こして尿道のかゆみや分泌液が出たりする。さらに、精子の通路である精巣上体に炎症を起こすこともある。炎症の影響で精子の通過障害が起こり、男性も不妊を招く可能性がある。
●コンドームで予防
性器クラミジア感染症は10代後半から増え始め、20代で急激に増加する。全国約1000の性感染症定点医療機関が報告する全患者数は、2002年の約4万4000人をピークに減少しているが、近年は年間2万5000人前後で推移している。
若年では患者報告数は横ばいだが、増加傾向を指摘する報告もある。国立感染症研究所疫学センターによると、人口10万人あたりの患者報告数から算出した「報告率」は20~30代の男性と20代女性で17年まで増加傾向が続いている。
同センターの山岸拓也医師は「性器クラミジア感染症に感染すると、将来の不妊につながるかもしれない。自分を守るということは次の命も守ること。コンドームによる予防を徹底してほしい」と呼びかける。
前述のクリニックを7月に受診した40代の男性は、数カ月前にクラミジアに感染し完治したが、パートナーが治療をしていなかったため、再び感染した。尾上医師は「パートナー同士で治療と感染を繰り返す『ピンポン感染』を防ぐためにも、パートナーと一緒に検査してほしい」と訴える。【金秀蓮】=[4]は21日掲載