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化学の授業で「水兵リーベ……」と語呂合わせで覚えた人も多い周期表。この世界を作っている要素である「元素」のカタログで、科学の発展に欠かせない。今年は、ロシアの化学者メンデレーエフが元素周期表を発表して150周年を迎えた。歴史や意義を振り返る。【斎藤有香】
●原子量・性質で整理
元素とは、身の回りの物質を作る基礎的な成分のことだ。フランスの化学者ラボアジエが1789年、空気中に酸素が含まれていることを発見し、元素を「それ以上分解できない物質」と定義した。その後、1805年にイギリスの化学者ドルトンが、元素にはそれぞれの「重さ」にあたる「原子量」があることを発表。これにより、元素を重さで整理できるようになった。
原子量と元素の性質に規則性があることを1869年に初めて見いだしたのがメンデレーエフだ。当時わかっていた63種類の元素についてメンデレーエフは、白紙のカードに元素の名前と原子量、性質を記し、ゲームのように並べていくことで、性質が似ているものが周期的に現れることに気づいたという。これを基にメンデレーエフは、縦に原子量の小さい順、横に似た性質の元素を記した「元素周期表」を発表した。周期表には空欄や「?」と記された部分があったが、後にそこには新たな元素が書き加えられ、メンデレーエフの発表した周期表の確かさが証明された。
その後、イギリスの物理学者トムソンが、原子を構成しマイナスの電気を持つ「電子」を発見。原子の中心には、プラスの電気を持つ陽子と中性子からなる「原子核」が存在することもわかった。陽子の数が元素の種類を決めるため、この数が原子番号となった。現在の周期表は、横の欄は原子番号順で「周期」、縦の欄は化学的に似た性質の元素が並び「族」と呼ばれる。元素の性質を決めるのは一番外側の軌道にある電子の数で、同じ族の元素はこの数が等しいため、性質も似ている。
●93番から人工的に
これまでに世界で118種類の元素が確認されたが、自然界に安定して存在するのは原子番号92番のウランまでで、93番以降は全て人工的に合成されている。合成方法は、標的となる重い原子核に軽い原子核を衝突させ、核融合反応を起こして二つの元素をくっつけるというものだ。ただ、原子核にはプラスの電気を帯びた陽子があって反発し合うため、強い力で衝突させる必要がある。米科学者ローレンスが1932年、粒子にエネルギーを与える「加速器」という装置を発明して以来、米や露、欧州の研究機関が加速器を使った新元素合成の研究に国を挙げて取り組んだ。
113番元素の「ニホニウム」は、理化学研究所の研究チームが合成し、アジアで初めて命名権を得た元素だ。チームは、亜鉛(原子番号30)のビームを超高速で勢いよくビスマス(同83)に打ち込むため、世界最強の加速器を開発。ごく小さい113番元素だけを検出できる装置も開発し、2004~12年に3個のニホニウムを合成した。
研究チームは新たに119番、120番元素の発見を目指す。リーダーを務める森田浩介・九州大教授(実験核物理学)は「理論上は元素は170以上あると言われており、新しい元素の発見は科学の世界をより広げる」と話す。
●独自の発展形も
世界にはさまざまな周期表がある。例えば中国語の周期表は元素記号を漢字1字で表し、元素の性質を偏、読みをつくりなどで示す。ニホニウムは「〓好(ニーハオ)」(こんにちは)の「〓」を元に、にんべんを金属を示す「かねへん」に替えて表記する。また、欧州化学協会は周期表150周年の節目に、自然界に存在する元素の量をマスの大きさの違いで表した周期表を発表した。
日本でも05年、各元素を身近な物質や現象と結びつけて解説する「一家に1枚周期表」が作られ、ほぼ毎年改訂されている。企画制作を主導する豊田理化学研究所(愛知県)の玉尾皓平(こうへい)所長は、周期表について「人類の知の集積で、大切な宝物。何百年にもわたって元素の発見に取り組み、その特性を生かして文明社会を築いてきた科学者たちのストーリーが詰まっている。物質の根源を知りたいという熱意を感じてほしい」と話す。
「一家に1枚周期表」は文部科学省のウェブサイト(https://stw.mext.go.jp/series.html)から無料でダウンロードできる。