これでいい方向に向かうと考えられていましたが、実際には問題があります。
最大の問題はやはり「重症化する新生児」です。ワクチン開始が生後3カ月に早められたのはいいのですが、「それまでの3カ月」は脆弱(ぜいじゃく)なままです。そして実際に、この時期に感染して命を落とす赤ちゃんもいるのです。
もうひとつの問題は「成人の感染者の増加」です。同研究所によれば、近年の患者増加の特徴として、小学校高学年以上の患者が多くなっています。
百日ぜきの患者数は以前、「小児科定点」の医療機関からだけ、国に報告されていました。この方式だった2016年の報告では15歳以上の患者が全体の25%を占めました。
小児科定点の報告というのは、全国の医療機関のなかから選定された小児科が報告している患者数です。ということは、定点でない小児科からは報告されていません。そして、そもそも15歳以上で小児科を受診する人は多くありません(なお、15歳以上の患者がかなり報告されたのは、「定点」の中に、小児科のほか内科も併設している医療機関があり、そこからの報告が多かったとみられています)。そうなると一般内科、呼吸器内科、(谷口医院のような)総合診療科を受診する患者数も調べるべきだということになります。
そこで法律が改正されました。より正確な百日ぜきの疫学の把握を目的として、18年1月1日からは、小児科定点だけではなく、すべての医療機関に報告が義務付けられたのです。これで正確な感染者数の把握ができるだろう、と一応は考えられます。
成人患者も「全員報告」が義務にはなったが
しかし、実際はそううまくいきません。理由は「成人の診断は難しい」からです。つまり現状でも、かなりの成人患者は報告されていないと思われます。
先述したように百日ぜきは、小児は重症化しますから、たいていは入院となり検査を進めていくことになります。特徴的な甲高いせきが出ますから、すぐに疑えるという点も大きいと言えます。
一方、成人の場合はそこまでひどいせきにはなりません。夜間にせきで目覚めるという人は少なくありませんが、それでも一睡もできなかったという人はめったにおらず、食事もとれていることがほとんどです。
軽症でも検査すればいいではないか、と思われるでしょうが、検査もそう単純な話ではありません。百日ぜきの病原体は「グラム陰性桿菌(かんきん)」に分類される細菌です。このコラムで何度も指摘しているように「グラム染色」というのはとてもすぐれた検査方法で(参照:「その風邪、細菌性? それともウイルス性?」など)、短時間(約5分)で行えて、費用も安く、結果が目で見えるという利点があります。このため風邪(上気道炎)の原因がウイルス性か細菌性かを見分けるのにとても有用です。