ゆるやかな糖質制限のススメ ~健康の常識・非常識~フォロー
「食後にうとうと」「体もだるい」 それ、命を脅かす「糖質疲労」かも…… 予防策はマヨネーズ!?山田悟・北里大学北里研究所病院副院長、糖尿病センター長
2024年6月21日
「血糖値が高くなるのは糖尿病患者だけ。そう考えている人があまりにも多く、残念です」。ゆるやかな糖質制限「ロカボ」を提唱する糖尿病専門医、山田悟医師は危機感をあらわにします。
診療や研究で、日本人は体質的に糖尿病になりやすく、健康な人も血糖値に気をつける必要があることを知り抜いているからこその思いであり、使命感の発露でもあります。
今回のテーマ「糖質疲労」も、山田医師がその危機感を社会全体に共有してもらうために考え抜いた概念です。
しかも、この糖質疲労、放っておくと命に関わります。
糖尿病患者である聞き手の記者も、糖質疲労を見過ごした結果、“地獄”を見ています。糖質疲労とは一体何なのか。その恐ろしさとは。山田医師にじっくりと伺いました。【聞き手・倉岡一樹】
「糖質疲労」とは?
病気でもないのになんとなく体調が悪かったり、昼食の後に睡魔に襲われてうとうととしてしまったり……。そんな経験、ありませんか。「最近、疲れがたまっているから」「寝不足かな」。思い当たる節もあるから、休めば治まるとお思いの方も多いでしょう。
実はその症状、「糖質疲労」である可能性が高いといえます。
「糖質疲労」って何? そう思った方も多いでしょう。それもそのはず。私が多くの方とお話しする中で気付き、温めていた概念なのですから。
糖質疲労は健康診断で問題を指摘されておらず、「私は健康体」と自信を持っている方こそ関係があります。ただ、身近な問題であるのにもかかわらず、自分のこととして捉えている方はほぼいないことが残念でなりません。
糖質疲労は、食後に血糖値が大きく跳ね上がること(食後高血糖)と食後に血糖値が乱高下すること(血糖値スパイク)の二つによって引き起こされます。
関連記事
<満腹なのにダイエットできる! 我慢は禁物! 誰でも健康的な体に近づける「ロカボ」実践法>
<肉と魚と豆腐 たんぱく質を摂取するなら、どれが体にいい? どれだけ食べてもいい?>
<コレステロールを減らすには…… 卵をやめた方がいい? 脂質制限? 運動した方がいい?>
<痩せていても危険 日本人が糖尿病になりやすい訳とは>
<その食べ方、危ないかも…… ロカボ発案医師が伝授 血糖値上昇を防ぐ「賢い食べ方」>
食後高血糖はこれまでにご説明してきた通り、食事後の血糖値が140mg/㎗を超えることです。健康診断で糖尿病の疑いがあるのか否かを判断する指標は、空腹時の血糖値が110mg/㎗を超える「空腹時高血糖」ですが、異常が出る10年ほど前から食後高血糖が起きています。空腹時高血糖が起きた時点で気付くと、食後では既に糖尿病診断基準を満たしている可能性を否定できず、手遅れになりかねません。
また、食後に血糖値が跳ね上がると、その後分泌されるインスリンの影響で急ブレーキをかけた時のように血糖値が下がります。これが血糖値スパイクです。
血糖値が上がるスピードと、血糖値の下降度合いや下降のスピードの双方が、体の不調を引き起こす作用を持っていると考えられます。無論、食後の体調不良が過労や睡眠不足、あるいは睡眠時無呼吸症候群などから起きている可能性もありますから、全てが全て糖質疲労ではないことをご承知おきください。
糖質疲労の症状には、次のようなものがあります。
①眠い
②だるい
③集中力が続かない
④たっぷり食べたのにおなかがすく
⑤イライラする
⑥首の後ろが重くなる
これらの不快な症状が、食後どのくらい経過して生じるのかについては、人それぞれです。血糖値の上昇がピークを迎える食後30分~1時間に体の不調を訴える人がいる一方、食後3時間ほどたって血糖値が下がり、低血糖が起きかけた際に「急に眠くなった」と話す人もいます。人によって感じ方が違うため、いつ起きるか分からないと思っていただく方がいいと思います。
私が糖質疲労に気付いた瞬間
私が糖質疲労の存在を確信したのは、数年前に夫婦でお菓子を食べた時のことでした。
食べて1時間ほどたった後、首の後ろが痛いというか重いというか、「カーッ」と熱くなるような不快感に襲われました。相当、けだるいのです。その後眠気に襲われるようになったため、妻に「なんか調子悪いんだよね」と打ち明けると、妻も「私も……」と言ったのです。
それ以前に、私が診察している糖尿病の患者さんらから同じような症状が起きることを聞いていましたので、「ああ、このことか! これは糖尿病の患者だけではなく、誰にでも起きているのだ」と気付きました。それは、私たち夫婦が普段からゆるやかな糖質制限「ロカボ」に取り組んでいるからこそ感じ得た症状なのだと思います。
糖質疲労でとりわけ、昼食後に午後のパフォーマンスを低下させている人が多いですが、朝食後や夕食後にも同じ現象が起きている可能性があります。ただ、双方とも見過ごされている場合が多いです。
朝食後は血糖値の変動があっても眠気を感じにくいためです。理由は不明ですが、午前中は覚醒作用と血糖上昇作用のあるステロイドホルモンが分泌されている時間帯ゆえ、血糖値が乱高下しにくく、血糖値の変動があっても「低血糖になりそうだ」との感覚にならず、眠気に襲われにくいのかもしれません。一方、夕食後は「もう夜だから、眠くなるのも当然」と考えてしまうのですね。常に注意を払っていただきたいと考えています。
糖質疲労を放置すると……
先ほどお伝えしましたが、食後高血糖と血糖値スパイクは、空腹時高血糖が起きる10年ほど前から生じています。つまり、糖質疲労は健康診断で「血糖異常」を指摘される10年ほど前から起きています。ただ、病気ではないため、薬を飲む必要はありません。いわゆる「未病」の状態といえます。
しかし、そのまま放置すると、悪影響はどんどん広がり、進行します。食後のパフォーマンスを大きく落とすだけにとどまらず、肥満や高血圧、糖尿病、そして脂質異常症とドミノ倒しのように疾病や障害を引き起こします。さらには、認知症や動脈硬化症の発症リスクが上昇し、糖化ストレスで骨も折れやすくなり、腸内で悪玉菌が増え……。免疫機構が正常に働かなくなる可能性すらあります。血糖値が高かったり肥満だったりすると、過剰な免疫反応を抑制する「免疫チェックポイント」が出現するとの仮説があるのです。
そうなると、生体防御の中核である白血球が細菌やウイルスと闘うことをやめてしまいます。新型コロナウイルスパンデミックの際、糖尿病の人が罹患(りかん)する確率こそ一般の人と相違ないものの、重症化する確率が高かったのは、そのメカニズムが働いているのではないかと考えられます。
免疫チェックポイントだけでなく、それ以前の高血糖の積み重ねで起こる「負の遺産効果」も免疫に絡んで起きているのだと思います。常態化した高血糖で生じた「糖化反応産物」や「エピゲノム」と呼ばれる遺伝子への影響で、たんぱく質の生成や構造がおかしくなるなどの問題が生じるためです。高血糖が続くと、体の細胞や臓器に代謝上の記憶が刷り込まれ、元に戻らなくなってしまうのですね。
糖質疲労がある場合、負の連鎖は既に始まっています。健康上大きな問題が生じるまで10年を切っている、と考えていただいても差し支えありません。しかも、糖質疲労から始まる「負の連鎖」は、ある時点から後戻りできなくなります。
しかし、糖質疲労の段階なら、まだ健康を取り戻せます。一刻も早く手を打たなければならないのです。
糖尿病の記者が見た“地獄”
この連載の聞き手を務める倉岡記者もまた、糖尿病の患者ですが、「ただ疲れているだけ。太っていないし大丈夫」と糖質疲労の症状を見過ごした結果、慢性腎不全、神経障害、糖尿病網膜症と三大合併症の全てを発症し、腎機能を喪失して腎臓の移植手術を受けました。手足の壊死(えし)や失明の恐怖とも闘っています。倉岡記者も「糖質疲労を放置すると、想像を絶する苦しみが待っています。死の恐怖におびえる私のようにならないでほしいです」と自戒を込めて訴えます。
糖質疲労が厄介なのは、自覚症状を感じない人がいる点です。特に糖尿病の患者さんで、合併症の神経障害が出てしまった人ですね。
糖尿病性の神経障害で最初に起きる変化は「物を感じられなくなる」(陰性症状)ことです。その次に起きる「ビリビリしびれる」(陽性症状)は、一回途切れてしまった神経細胞同士が変なつながり方をしてしまった時に出る症状とされます。
聞き手を務める記者(倉岡一樹)は糖尿病が悪化して慢性腎不全になり、腎機能が廃絶。実母をドナー(臓器提供者)とした生体腎臓移植手術を受けた=2019年8月8日、家族撮影
私の患者さんに、血糖値が300~400mg/㎗もあって入院し、インスリン注射を100単位ほど打っていた方がいました。かなりの量です。治療で血糖値が正常の水準に戻ったものの、体調の変化は「感じていない」と首をひねりました。知覚が鈍っている可能性が高いのです。
このように、糖質疲労が慢性化すると、体調が悪いことに慣れてしまいます。食事法を変え、その状況を脱して初めて自身に糖質疲労が起きていたことを知る場合もあります。
一方、糖質疲労を感じている段階の方は感覚が鋭敏ですから、食後に眠気やだるさを感じた場合はすぐに対処できます。症状が慢性化する前にいつ気付くかが、カギを握ります。
タイパが招く“悲劇”
現代社会でなぜ糖質疲労が増えているのでしょうか。それを象徴するのが「タイパ」(タイムパフォーマンス)という言葉だと考えています。
私たち現代人は、最少の時間で最大のメリットを求めようとしており、時間的なゆとりを失っているようにみえます。そのしわ寄せが食事にきていると思うのです。
朝食を抜いたり、早食いしたり、おにぎりや菓子パンだけで済ませたり……。こうした食生活は過度の糖質摂取を招くなど、血糖上昇を加速させます。
また、ダイエット目的で食事の量を減らし、その分間食を増やす例も散見されます。この間食が問題です。手軽に食べられる食品の多くは糖質を多く含みます。先に挙げたおにぎりや菓子パンをはじめ、菓子やエナジードリンクもそうですね。知らぬうちに糖質過多になってしまう人が少なくありません。
若い女性で脂肪肝の方がたまにいらっしゃいます。体形は痩せ形なのですが、食生活を尋ねると食事をほぼとらず、果物やお菓子ばかりで済ませているのです。痩せているのはエネルギー不足の低栄養状態だからで、内臓はボロボロ。不健康なダイエットの結果です。
日本人で糖尿病になりやすいのは、痩せ形であるとのデータもあります。しかも、日本人は20歳以上の2人に1人が食後高血糖であるとみられます。40歳以上だと、3人に2人との印象を持っています。そもそも日本人など東アジア系の人種はインスリンの分泌能力が低く、遅いことに起因します。これは、エネルギーの過剰摂取が糖尿病の原因ではないとの裏付けにもなっています。
「タイパ」と「ダイエット」。効率を追求するあまり、健康を失ってしまうのは、本末転倒といえます。
また、多くの人が何の疑いもなく食べている「バランスのよい食事」も実は、糖質過多の最たるものです。普段の食事で不健康になってしまうのは、おかしなことです。これは次回以降に詳しくお話ししましょう。
糖質疲労、どうやって知る?
自身が糖質疲労であるか否か、食後血糖値を測ると分かります。その結果で食生活を見直せば、改善する余地は十分にあります。
血糖測定器を「高度管理医療機器販売」の資格がある薬局やドラッグストアなどで買うか、検体測定室を併設している薬局やドラッグストアで、1回500円ほどで測ってもらえます。
食後血糖を測る日の昼食は、おにぎり2個と野菜ジュース1本にしてください。おにぎりの具は何でもOKですが、梅や昆布、おかかなどたんぱく質と脂質が少ないものの方が、血糖値の変動を把握しやすいです。食後血糖を測るタイミングは、1口目を飲み込んでから1時間後です。
その結果、140mg/㎗以上だった場合には、糖質疲労が起きている可能性が高いです。もし200mg/㎗を超えていたなら、糖尿病の診断基準を満たしていますから、医療機関を受診なさってください。極力早いほうがいいです。もし「まだ治療は不要」と告げられた場合は、薬物療法は不要だけれど、食事を変えなければいけない段階だとお思いください。
糖質疲労から引き返し、健康な状態を維持するために有効な食事法は、無論、ロカボです。具体的な実践法については前回お伝えしましたので、そちらを読んでみてください。
私がロカボを指導した、あるタクシードライバーの方は、糖質疲労による眠気が治まり、昼寝をする時間が不要になったため、働ける時間が1時間以上延びて売り上げも上がったそうです。「給料が増えた。こんなにうれしいことはない」とおっしゃいました。
私はロカボを現時点では「無敵の食事法」だと考えています。
そして、食後血糖測定時の昼食をなぜおにぎり二つと野菜ジュースにしたのか。実は、私自身が20年前に「健康によい」と思っていた食べ方です。「脂は控えて、野菜も摂取した」と思い込んでいました。これで血糖値がガツンと上がったわけです。しかも、昼下がりの午後の外来で、強い眠気に襲われてうつらうつらと舟をこぎかけたこともありました。私自身、血糖値が上がりやすい体質だからこそ、気づけたのかもしれません。
マヨネーズは「健康の源」
糖質疲労を予防する「とっておきの秘策」をお伝えしましょう。
マヨネーズを食事に加えることです。
脂質の塊、コレステロールの塊のように捉えられ、「不健康の象徴」のように見る向きが強い食べ物だけに、驚かれた方もいらっしゃるでしょう。
日本人を対象に、4種類の食事メニューで食後の血糖値の変動を検討した研究があります。
① 白米だけ(300㎉台)
② ①と同量の白米に、豆腐と卵(たんぱく質)を追加(400㎉台)
③ ②にマヨネーズ(脂質)を追加(500㎉台)
④ ③にほうれん草(食物繊維)も追加(500㎉台)
この中で最も血糖値を上げたのは、①でした。以下、②→③→④と下がっていくのですが、マヨネーズを加えた③で、血糖値の上がり方が極めて大きく抑えられていたのです。
以前、たんぱく質と脂質を摂取することで、インスリン分泌を早める「インクレチンホルモン」が腸から出てきて、食後血糖の上昇に歯止めをかけてくれることをご紹介しましたね。
一般的には、たんぱく質を摂取した際に出てくる「GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)」よりも、脂質を摂取したときに出てくる「GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチド)」の方がその効果が強いです。この研究でも、GLP-1(豆腐や卵)ではほぼ差がついていなかったのですが、GIP(マヨネーズ)で大きく下がりました。
かなりの高血糖になってくると、GIPに対する受容体の数がβ細胞(膵臓=すいぞう=にある、インスリンを分泌する細胞)で減ってしまうのですが、糖質疲労を感じられる未病状態の方たちではGIPの受容体は維持されているので、脂質摂取は食後高血糖の改善により効果的です。
しかもそれらはインスリンを分泌させるのに、低血糖を起こしません。これが「グルコース(血糖)依存性」で、血糖値が高いときだけインスリンが出て、出過ぎることもありません。
インスリンを分泌させると、脂肪細胞にカロリーが取り込まれるため肥満が懸念されるのですが、インクレチンホルモンを糖尿病患者用の注射製剤にしたところ、満腹感を高めて肥満治療になることが分かっています。「GIP/GLP-1受容体作動薬」です。
最近、糖尿病や肥満症でない人にこれら注射製剤を処方されたため、不足して本来の目的である糖尿病治療に使えないことが社会問題になりましたので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんね。効き目が極めて強いことの裏返しです。
マヨネーズは健康を維持し、理想的な体に近づくための武器です。健康へのパスポートのようなイメージを持ってもらっても構いません。
コレステロールの摂取量を気にする必要がないことは以前お伝えしました。たっぷりと食べてください。
最近、とてもうれしいことがありました。あるファミリーレストランに入り、唐揚げを注文すると、レモンとケチャップ、マヨネーズがついてきました。「気が利いている!」と興奮し、マヨネーズをたっぷりとつけて食べました。以前なら考えられなかったことです。脂質をとることの重要性が社会に理解されてきていることの一端だと思います。
ゆるやかな糖質制限が…… 糖尿病診断ガイドライン改訂
もう一つ、うれしいことがありました。
先月、日本糖尿病学会の診療ガイドラインが改訂され、食事療法の項目に炭水化物制限、つまり糖質制限の話が初めて入りました。
北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟医師=宮間俊樹撮影
「短期間(6~12カ月)の緩やかな炭水化物制限は2型糖尿病コントロールに有効である可能性がある」との一文が、ようやく加わったのです。6~12カ月との条件付けは科学的根拠のない、古い権威への言い訳にしか見えませんが、診療ガイドラインに載っただけでも大きな進歩だと感じています。
カーボカウント(糖質摂取量の把握と適切な管理)や低GI(グライセミック・インデックス)食、食物繊維摂取が有効とも書いてあります。
時代は明らかに変わりました。
ガイドライン改訂には、私も「システマティックレビューサポートチーム」で関わったのですが、策定チームに「今回こそエビデンスに基づいてシステマティックレビューをしなければなりません」と繰り返し申し上げていました。
カロリー制限へのスタンスも変わってきました。エネルギー制限(カロリー制限)を推奨すべきは「過体重、肥満を伴う」との条件付きになって、「過体重・肥満を伴わない2型糖尿病および1型糖尿病の患者の血糖コントロールに対するエネルギー摂取量の制限の効果については文献が乏しく、ステートメント(声明)にいたらなかった」と記載されたのです。
ようやく「EBM(Evidence―Based―Medicine、「科学的根拠に基づく医療」との考え方)の時代が到来し、緩やかな糖質制限の重要性とカロリー制限の体重管理以外のアウトカム(結果)に対する無効性がガイドラインに明記されるようになったのです。伝統や言い伝えに基づく医療を抜け出て、科学的根拠に基づく医療の入り口に立ったような感じです。
アメリカ糖尿病学会は数年に1度、診療ガイドラインを改訂します。直近は2019年、その前は13年、そして08年です。
アメリカでは、糖質制限は、08年に初めて「体重の減量に対して有効」とOKが出ました。ただ、その時は「1年まで」との条件付きでした。「高脂血症と腎機能には注意しなさい」とも記載されていました。13年版で時間制約がなくなり、地中海食やDASH食(高血圧予防、改善食)、ベジタリアン食と並んで、第1選択肢にできる食事療法となりました。
そして19年版で「血糖値の管理に最も有効だ」とされました。立ち位置を徐々に上げてきたのです。06年まで「エビデンスがないので推奨できない」とされていたのですから、10年ほどで大きく変わりました。
今回の日本のガイドライン改訂も、時間制約こそ付きましたが、近い将来にはそれがなくなって、「血糖コントロールではNo.1」となってくれるものと期待しています。米国の08年の状況にようやく追いついたといえます。その意味でも、画期的な変化だと思っています。
栄養の「常識」が変わる、大きな局面に立っていると感じます。
多くの方たちが、ゆるやかな糖質制限で健康の土台を作り、糖質疲労とは無縁の生活を送っていただけることを願っています。
特記のない写真はゲッティ
<医療プレミア・トップページはこちら>
関連記事
1970年生まれ。94年慶応義塾大医学部卒業。同大内科学教室腎臓内分泌代謝研究室などを経て2002年に北里研究所病院へ転じ、07年から糖尿病センター長、21年から同院副院長を務める。我慢ばかりを強いるカロリー制限中心の食事療法で、向き合う糖尿病患者の生活の質が低下している現実と直面した。そんな中、食事をおいしく、おなかいっぱい楽しみながら血糖値を穏やかに保ち、肥満者の減量効果にも優れる、緩やかな糖質制限食と出合う。治療に積極的に取り入れるとともに、「ロカボ」と名付けて普及に努め、2013年に「食・楽・健康協会」を設立した。日本糖尿病学会糖尿病専門医。日本糖尿病学会指導医など。主な著書に「カロリー制限の大罪」「糖質制限の真実」「奇跡の美食レストラン」など。慶応義塾大医学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、星薬科大学非常勤講師。