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新たな技術による脳刺激療法によって、中枢神経刺激薬を使用した場合に起こり得る副作用を伴うことなく小児の注意欠如・多動症(ADHD)の症状を軽減できる可能性のあることが、初期段階の小規模臨床試験で示された。英サリー大学心理学部学部長のRoi Cohen Kadosh氏らが実施したこの臨床試験の詳細は、「Translational Psychiatry」に8月2日掲載された。
この新たな脳刺激療法は、頭部に置いた2つの電極を通して痛みのない弱い電流を脳に与えるもので、経頭蓋ランダムノイズ刺激(transcranial random noise stimulation;tRNS)と呼ばれる。臨床試験は、症状コントロールのための薬物治療を受けていない6~12歳のADHD児23人を対象に実施された。このうちの11人には2週間にわたって認知トレーニング用のゲームをしている間に右下前頭回と左背外側前頭前野にtRNSを行い、残る12人には同様のゲーム中に疑似的な処置を行う「シャム治療」を行った。使用された認知トレーニング用のゲームは、注意力の向上を促すよう設計されたものだった。
55%が改善 治療終了後3週間持続 副作用極めて少なく
その結果、標準的な評価尺度(ADHD-RS)に基づき親が報告したADHD症状に改善が認められた小児の割合は、tRNS群で55%であったのに対し、シャム治療群では17%にとどまっていた。また、tRNSによるADHD症状の改善は治療終了後も3週間にわたって持続し、さらに、小児の脳の電気活動パターンの変化も維持されていた。一方、tRNSの副作用は極めて少なく、刺激を加えている間の局所的なかゆみやうずきなど軽度の不快感が主なものであった。
こうした結果を受けてCohen Kadosh氏は、「非侵襲的で安全かつ痛みを伴わない新たな形態の脳刺激療法によって、ADHD症状の有意な軽減効果が得られ、その効果は治療終了後も3週間にわたり持続していた」と言う。ただし同氏は、この新たな技術はまだ実用段階には至っていないとし、「有望な結果だが、より大規模な患者集団で検証する必要がある。われわれは、今年中にそれを開始するつもりだ」と付け加えている。
論文の上席著者で、エルサレム・ヘブライ大学(イスラエル)コンピュータライズド・ニューロセラピー研究室長のMor Nahum氏は、「この技術がADHD症状を軽減する機序については明確になっていない」と言う。同氏は、「ADHD児では脳の前頭葉と呼ばれる領域の働きが弱いことが明らかにされている」とした上で、「非侵襲的な脳刺激療法では、こうした働きが弱まっている脳領域の活動性を、スポンジ電極を使った脳刺激により高めることができる」と説明する。
Nahum氏は、「今回の臨床試験の結果が再現されれば、現行の治療法と併用する治療法あるいはその代替療法として、tRNSがADHDの新たな治療選択肢となる可能性がある」と話している。
ADHDの専門家は、このタイプの脳刺激療法が今後のADHD治療で担い得る役割について、慎重ながらも楽観的な見方を示している。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部小児精神医学教授のFrancisco Castellanos氏は、「臨床試験の結果は心強いものであり、その効果も魅力的だ。しかし、この技術がADHDの臨床アウトカムに大きな影響を与えるかどうかが明らかになるまでには長い時間がかかるだろう」との見方を示している。一方、米オハイオ州立大学医学部精神医学および行動健康学の名誉教授であるL. Eugene Arnold氏は、ADHDの人たちに対し、専門家に助言を請い、こうした新しい治療法の研究にボランティアとして参加することを申し出ると良いと助言している。同氏は、「それが、この治療法に効果があるのか、また有用性はどの程度なのかを明らかにするための唯一の方法である」と話している。
(HealthDay News 2023年8月7日)
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