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異常な猛暑が世界中を襲っていますね。私自身、できるだけ外出を控え、出る時は日焼け止めを欠かさないようにしていますが、一方で日光を浴びずにいるとビタミンDが欠乏するのでは……という不安が拭えません。ビタミンDはカルシウムの吸収や骨の成長を促す大事な栄養素で、不足すれば骨折や骨粗しょう症のリスクが高まるからです。皮膚がんや白内障にならないためにも日焼けはしたくない。でも、骨がもろくなるのも困る――。そこで近年の論文などを参考に、酷暑の乗り切り方を探ってみました。
観測史上、最も暑い夏になる可能性は95%
ロイターの報道によると、欧州連合(EU)の気象情報機関である「コペルニクス気候変動サービス」(C3S)のデータから、私たちが記録上、最も暑い6月を経験したことが分かったといいます。その結果、13カ月連続で前例のない高い気温が続いたことになり、1800年代半ばの観測開始以来、今年は最も高温の年となる可能性が95%――と言われるようになりました。
日本も猛暑日が続いています。日本気象協会によると、7月5、6日は全国100地点以上で、最高気温35度以上の猛暑日を記録。7日には何と静岡市で40.0度となり、全国で今年初の40度台を記録しました。
それでも大阪に住む認知症の祖母はクーラーをつけず、何枚もの服を着込み、夜は毛布をかぶって寝ているといいます。熱中症を起こさないか、気が気でなりません。
アメリカも危険な熱波に覆われ、1億人以上の国民に対して猛暑警報が発令される状態が続いています。CNNの気象情報によると、熱帯低気圧が発生して壊滅的な洪水を引き起こす可能性があるほか、カリフォルニア州ではさらなる山火事の発生も懸念されています。
私が暮らすカリフォルニア州のサンディエゴでも猛暑が続いており、連日、内陸部と山岳部には高温注意報が発令されている状況です。とはいえ、6月中旬までは、ほぼ20度を超えない肌寒い日が続き、ずっと曇りがちな天気でした。約7カ月間も冬季が続いたことになりますから、これもまた異常気象の一つなのでしょう。首を長くして待っていた夏がやってきたと思ったら、数日のうちに最高気温が25度を超えるようになったのです。
脳から活性酸素が大量に分泌される「紫外線疲労」
突然夏がやってきて、変化したのは気温だけではありません。日中の紫外線が一段と強くなり、UV(紫外線)インデックスが最高値の11を指すこともあります。UVインデックスとは紫外線が人体に及ぼす影響を指標化した世界共通の指数で、11は「紫外線が極端に強い状態」です。「UVインデックスが8以上の場合、日中の外出はできるだけ控えよう」となっていますから、11ならなおさら外出は控えるべきなのですが、仕事があると、そういうわけにもいきません。
サンディエゴでは移動の基本は車ですから、炎天下、外を歩くわけではないとはいえ、フロントガラスからの照り返しが想像以上に強く、1時間も運転していると、サングラスをかけていてもぐったりと疲労感を感じてしまうほどです。
紫外線が日焼けやしみ、しわの原因になるほか、皮膚がんや白内障を引き起こすことは、みなさんご存じかと思います。しかし、紫外線による影響はこれだけではなく、疲労感にも影響することが指摘されています。
要は紫外線を目から吸収すると、脳から疲労物質である活性酸素が大量に分泌され、神経細胞がそうしたストレスを受けることで、脳疲労を引き起こすのです。紫外線を吸収したことで、結果的に脳がストレスを受けてしまい、全身に疲労感を感じる――という仕組みです。
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日本にいた頃は「暑さと湿度のせいで夏バテでもしたのだろう」と思い込んでいましたが、私の身に起きた夏の体調不良や食欲減退も紫外線疲労が一因だったのかもしれません。
日焼け止めがビタミンD欠乏を引き起こす?
そもそも「日焼けをしたくない」「しみ、しわを予防したい」といった理由で紫外線対策をしている人が多いと思います。私も中学生の頃に「日焼けした肌は似合わない」と思い立ち、それからは日焼け止めのクリームを年中欠かさず使用するようになりました。ほんの少しの外出でも、冬でも、曇り空でも、露出している部分の肌には日焼け止めを怠らないようにしてきました。
かれこれ20年以上、日焼け止めクリームを毎日塗っていた私ですが、最近、日本に住む親友から「ビタミンDのサプリメント、飲んだ方がいいかもしれないよ」と忠告を受けました。
クリニックで詳しい血液検査した親友は、ビタミンDの値が基準値を大幅に下回っていることが判明し、ビタミンDのサプリメントを飲み始めたというのです。
ビタミンDとはカルシウムの吸収や骨の成長を促進し、血中カルシウム濃度を調節する重要な役割のある栄養素。ビタミンDが不足してしまうと骨は細く、もろくなり、結果として、骨折や骨粗しょう症のリスクが高まってしまいます。
通常、ビタミンは体内でほとんど生成することができないため、食品などから摂取する必要があります。ビタミンDの場合、野菜や穀物、豆や芋類にはほとんど含まれておらず、魚類やキノコ類に多く含まれています。また、シイタケなどに含まれるビタミンD2(植物由来)と、鮭などの魚類や卵に含まれるビタミンD3(動物由来)に分けられます。
一方でビタミンDは、食事による摂取以外にUVB(紫外線B波)に当たることによって体内で合成されるという特性があります。
少し難しくなりますが、皮膚に存在する「7―デヒドロコレステロール」がUVBを浴びることによって「プレビタミンD3」に転換された後、体温の影響で「ビタミンD3」に変化します。その後、肝臓で「25―ヒドロキシビタミンD」が生成されると、「ビタミンD結合たんぱく質」と結合し、腎臓で活性型ビタミンDの「1α,25ジヒドロキシビタミンD3」となって全身に送られます。その結果、腎臓や小腸でのカルシウムの吸収を高め、また骨からのカルシウム溶出を促進することで、血中のカルシウム濃度を調整しているのです。
親友の担当医は、彼女のビタミンD欠乏の理由を、偏食などではなく、長年、日焼け止めクリームを塗って対策をした結果、ビタミンDの合成量が減ってしまった可能性がある――としたそうです。そのため、彼女と同じように一年中、徹底した日焼け対策をしている私も、ビタミンDが不足しているかもしれないと心配してくれたわけです。
医学文献が示す「根拠」の有無
「皮膚がんの予防のためには日焼け対策が必要だけれど、ビタミンDの不足も確かによくない。ならば、どうやって日焼け対策をしつつ、ビタミンDを補うことができるのだろう」
そう考えた私は、ビタミンD欠乏症について、最近の医学文献を検索してみることにしました。
すると、日焼け止めの使用は皮膚がんの予防につながる一方で、ビタミンD欠乏症のリスクを高める可能性があるという指摘が長年続いてきたこと、そして日焼け止めの使用とビタミンD欠乏症についての問題は公衆衛生における主要な議論の一つとなっていることが分かりました。ただし、今の医学では、日焼け止めを毎日使用することがビタミンD欠乏症につながる――という根拠はほとんどないようです。
たとえば、米カリフォルニア大サンフランシスコ校のバイクレ氏は「日焼け止めはビタミンD生成に関する利点を制限することなく、太陽光への露出による皮膚へのダメージに対する予防に有効である。しかし、文化的または医学的な理由で太陽光への露出を避けている人々は、ビタミンDが欠乏しているかどうかの検査を受け、サプリメントで適切に治療する必要があるだろう」と医学論文で述べています。
ロンドン大キングスカレッジのヤング氏らも「UVBはビタミンDの合成に不可欠だが、日焼けや皮膚がんの主な原因となっている。紫外線による悪影響を軽減するために日焼け止めの使用が推奨されている一方で、ビタミンDの状態が悪化する可能性があり、理論的には、日焼けを抑制する日焼け止めは体内でのビタミンD合成も抑制するはずだ。ビタミンD合成に対する日焼け止めの阻害効果に関する研究で、『ビタミンDの合成を阻害する』『ビタミンDの合成を阻害しない』という相反する結果が得られている理由の一つとして、恐らく日焼け止めを最適ではない方法で使用していることが挙げられるだろう」と医学論文の中で指摘しています。
「太陽は皮膚がんの原因ではない」「海で冷やす」…相次ぐ危険な発信
しかしながら聞き捨てならないのは、誤った情報の氾濫です。CNNによると、ソーシャルメディアのインフルエンサーが、太陽と日焼け止めについて危険なメッセージを発信しているといいます。
たとえば、多くの「いいね」を獲得している発信として「日焼け止めを塗るのは、やめましょう」「外で過ごす時間が長ければ長いほど、日焼けする可能性は低くなります」「太陽は皮膚がんの原因ではない」「肌を冷やすことで日焼けを防ぐことができます」「太陽の下で肌が熱くなってきたと感じたら、海やプールに行って体を冷やします」といったものがあります。
専門家は、こうした主張が日光ばく露の危険性と日焼け止めの保護的役割に関する数十年にわたる科学的研究に反するものであり、危険なメッセージとして拡散されていることを危惧しているのです。
CNNの記事の中で、環境ワーキンググループ(EWG)の上級科学者であるデビッド・アンドリュース氏はこのように話しています。
「ビタミンDに関しては、毎日15分間、肌に日光を当てるだけで十分であり、そのために日焼け止めをやめる必要はない。日焼け止めを塗っていてもビタミンDは生成されるため、日焼けのリスクを減らしたり、日光への過剰な露出を防いだりするだけでなく、有益な日光浴ができるのです」
日焼けをしたくないという一心で、長年にわたり徹底した日焼け対策を行ってきた私ですが、それが決して間違いではなかったことが分かり、少し肩の荷が下りたような気がします。
昨年の夏は紫外線疲労で寝込みがちだったので、今年は熱中症対策はもちろん、紫外線の強さに応じて不要な外出を避けるなどしながら、初めて経験する「最も暑い夏」を乗り切りたいと思っています。
写真はゲッティ
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山本佳奈
ナビタスクリニック内科医、医学博士
やまもと・かな 1989年生まれ。滋賀県出身。医師・医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒、2022年東京大学大学院医学系研究科(内科学専攻)卒。南相馬市立総合病院(福島県)での勤務を経て、現在、ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員を務める。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)がある。