|
みなさん、こんにちは。
光武です。
日差しが一段と強くなり、出勤するだけでぐったり。
僕はそんな日々を送っておりますが、みなさんはいかがお過ごしですか。
夏の暑さは20代の頃を思い出させます。というのも、僕にとっての夏は、仕事に全振りをして過ごしてきた時間であり、夏に汗をかきながら予備校の教壇でひたすら授業をやりきったいい思い出だからです。働きすぎて、意識をもうろうとさせながら、それでも電車に乗って。肉体的にも精神的にも追い詰められていたなあと振り返ることもあるわけです。
今でこそ当時と違ってある程度ゆとりをもってお仕事を任せてもらえるようになり、こうして文章を書いて暮らすこともできるようになりましたが、20代の頃は自分の特性も全く理解できておらず、本当に苦労したなあと思います。
そんな思いにふけっていると、働きすぎてしまうという相談がありました。今回の相談者は綿貫さん(仮名)。注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断を受けた30代前半の男性です。現在はフリーのエンジニアとして活動していらっしゃるものの、働き方にどうしてもムラが出てしまい、苦労しているとのこと。そこで、今日は彼の話をベースに、ADHDの「多動性(hyperactivity)」と「過剰適応」について話をしたいと思います。
一日の大半を仕事に……
「光武さん、はじめまして。現在フリーのエンジニアとして働いているものの、もともとプログラミングが好きだったこともあり、どうしても仕事のやめどきが分からなくなります。好きなことであれば集中力も続いてしまうので、気づいたら深夜3時ごろまで作業をしているなど、バランスの取れた生活ができなかったりすることが悩みです。少し相談に乗ってくれませんか」
代表的な発達障害の一つであるADHDは「注意欠如(Attention deficit)」と「多動・衝動(Hyperactive)」という二つの症状を特徴に持ちます。後者の「多動・衝動」は、たとえば短期離職をする、つい感情的に言い返してしまうなど、マイナスに働くことも多いのですが、ケースによっては異常な体力で無限に活動し続けられるというとんでもないチートスキルにもなりえます。今回の綿貫さんのケースは、特定の物事に対して集中し過ぎてしまう「過集中」と「多動性」が重なり、気付いたら一日の大半を仕事に費やしてしまっていたということでしょう。
「なるほど。ただ僕の場合ですが、お仕事がうまく回っているのであれば、それはそれとしていいのかなと思ってしまう部分もあるのですが、綿貫さんのおっしゃる【バランスの取れた生活】って具体的にどんなものを指すんですか?」
関連記事
<朝、起きられない「繊細さん」 まるで「脳が強制シャットダウンしちゃう感じで…」 キャリアカウンセラーが導き出した答えは>
<「『クローズ就労』でいいのでは」 発達障害で就活中の女子大生に贈った、社会で成功するためのアドバイス>
<「普通の生き方をするのが難しい」と確信 発達障害の男性が年収減を承知の上で「障害者雇用」を選んだのにはワケがあった>
<「1ミリも共感できないが…」 発達障害の塾講師がいかに「特性」を生かし、生徒を理解していったのか>
<「こんな簡単なミスをするのか!」 心が折れ退職を決意した高学歴の発達障害者 職場にうまく溶け込むには…>
「そうですね、決まった時間に寝て、朝早く起きて運動するとか。丁寧な生活に憧れはあったりします」
「たしかに憧れますよね。僕もやろうと思って頑張るんですが、何度も挫折しているので。ここは自分には無理な部分だろうと、あきらめていますね。ただ、ちょっと気になるんですが、綿貫さんってそれなりに特性を理解している印象なんで、特性上厳しいことに対してあきらめきれないって感覚はちょっと違和感を覚えました。本質的な悩みって別のところにあるような気がするんですけど……」
多動性は「もろ刃の剣」
「光武さん、よくわかりましたね。えっと、いま一緒に暮らしているパートナーがいまして。えっと、籍は入れてないんですけど、どうしても僕の生活リズムがめちゃくちゃになりやすいので、彼女に負担をかけてしまうんです」
「たしかにそうですよね」
「彼女も働いているんですけど、僕が夜中まで作業を続けてしまうので、寝不足になっている。睡眠の質が悪いからイライラしやすくて、けんかをしちゃうんですよね」
「なるほど、それはつらい状況ですね」
多動性を武器にして戦うADHDの人は多くいます。一方でこの特性はもろ刃の剣みたいなものなので、綿貫さんの場合、仕事においてはうまく機能しており、フリーのエンジニアとして一定の評価を得られていますが、日常生活ではパートナーとの関係を悪くする要因にもなっており、ここがボトルネックになっていることが分かります。
「特性をうまく使いこなす方法としてなんですが、僕が推奨しているのは仕事をする場所やデバイスを使って調整する方法です。いま僕は22時で完全に退出しなければいけないオフィスで働いており、この場合、どんなに継続したいと思っても22時で電気が落ちてしまうので、強制終了となってしまいます。また、家や外で作業するときはアラームをかけ、必ず出なければいけない時間に退出するというルールを作ることで、仕事をする時間を調整していますね」
「仕事そのものをデザインするのではなく、仕組みから考えることが大事ってことですか?」
「おっしゃる通りです。僕たちのような特性持ちがサバイブしていくには、自分の特性のコントロール方法を気合と根性以外の手段でいかにデザインするかにかかっていますからね」
最悪、うつ病で長期離職も
「ただ、ちょっと注意しないといけないこともあるんですよ」
「えっ、光武さん。なんですか?」
「えっと、過剰適応っていいまして……」
「なんですか? それ」
「端的にいえば、ある環境に合わせて無理やり行動や考え方を変えた結果、その程度が閾値(しきいち)を超えてしまい、ずっと緊張状態が続くことです。単体では問題は大きくないのですが、ストレスフルな状況が継続することで、気付いたら自分の限界を超えてしまっていて……。たとえばパニック障害や適応障害になったり、最悪のケースだと、うつ病の診断を受け長期離職を経験したりします」
ADHDの多動性は仕事において大きな成果を生み出す原動力になるものの、気付かぬうちに頑張りすぎて、ストレスの閾値を超えていて、病気になったというケースは多いものです。というよりも、病気になって結果としてストレスの閾値を超えていたことに気付くことになる。そんな過程で、医師と話をするうちに、「そもそもなんでそんなに働いてしまうのか?」「勤めている会社がブラックなのか?」「それとも……」といった感じで、有力な仮説の一つとして発達障害(ADHD)の可能性が疑われ、診断に至る。事実、診断を受けたときの僕はまさにこんな感じでした。
「特性を持ちながらも、誰かと一緒に暮らすのってやっぱりしんどいですけど、パートナーのためにも頑張りたくて……」
「気持ちわかりますけど、その働き方って多分、パートナーさんからも止められたりしてませんか?」
「そうなんです。やっぱり迷惑なんですかね。頑張っているんだけどな」
「もちろん、一緒に暮らしている以上、パートナーさんもしんどい部分ってたくさんあると思うんですけど。それより、体調を心配してくれているんじゃないですかね。やっぱり一緒に暮らしているパートナーの睡眠が不規則だと、普通に心配しますよ」
「もう自分の身体一つではないよ。結婚した以上はユニット単位で行動するんだから。勝手に自己判断で行動しないでね」
心身ともに一度壊してしまったとき、当時のパートナーから言われた言葉です。ボロボロになりながら、失敗を繰り返していた当時は、自分の特性に対する解像度も低く、周囲を俯瞰(ふかん)して行動することもできなかったと思います。結果、目の前のタスクと数字だけに固執し、周囲に迷惑をかける。ただ、この失敗がなければ、自分の特性について真剣に考えることもなく、周囲への影響も考えられないままだっただろうと思います。
自分を追い込みすぎないで
「綿貫さんは、今後どうしたいんですか?」
「えっと、やっぱりパートナーとうまく付き合っていきたいですね」
「だったら、綿貫さんの行動の影響と彼女の感情の優先度を少しだけあげてみてもいいと思うんです。少しだけ自分を振り返ってみるだけでも十分効果はあると思うので、一緒に頑張ってみましょうか」
キョトンとした顔つきで、こちらを見つめる綿貫さん。
ゆっくりとですが表情が柔らかくなり、最後にこう言ってくれました。
「光武さん、ありがとうございます。確かにちょっと自分で自分を追い込みすぎていたかもしれません。帰ってパートナーと腹を割って話してみます」
関係性構築の基本は「対話」。すべてはここから始まると僕は思います。
それでは今日はこれくらいで。
ありがとうございました。
写真はゲッティ
関連記事
※投稿は利用規約に同意したものとみなします。
光武克
発達障害キャリアカウンセラー
1985年、佐賀県出身。上智大学文学部中退後、フリーの予備校講師として活動し、学習参考書や発達障害関連の記事を執筆。障害者雇用を基軸とする人的資本経営の人事・組織コンサルタントを経て、株式会社Speeeにて中途採用リクルーティング業務に従事。2017年に発達障害者のためのバー「The BRATs(ブラッツ)」を東京・渋谷でオープン(現在は東京都内のイベントバーで随時開催中)。店舗のホームページ 光武さんのX(旧ツイッター)アカウント