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がん治療にかかる医療費などについて説明するがん相談支援センターの相談員=岡山市北区で2019年12月、益川量平撮影
「まさか自分ががんになるなんて」
「いきなりがんと告知され、治療法や生存率を並べられて混乱しています。どうやって納得できる治療法を見つければよいでしょうか」
がんは、2人に1人は罹患(りかん)するという時代になりましたが、多くの人は自分ががんになるとは想定しておらず、いきなり告知されると、あわてふためいてしまうと思います。医師主導ウェブサイト「Lumedia(ルメディア)」のスーパーバイザーを務める勝俣範之・日本医科大武蔵小杉病院教授が「がん」と言われた際に、気を付けるべき点、納得できる治療法の見つけ方についてお話しします。(この記事は佐々木治一郎・北里大医学部付属新世紀医療開発センター教授がレビューしました)
誰もがショックを受けるがん告知
現代では「がんの病名告知」は一般的になり、外来での告知も普通になりました。しかしいきなり告知されると、誰しもショックを受け不安になるでしょう。がんと診断された後2週間くらいは、精神的に落ち込む状況になるといわれます(注1)(図1)。約2週間を過ぎると、日常生活に支障がないくらいに戻りますが、中には、日常生活に支障をきたし、適応障害やうつ病になってしまう方がいます。最近の研究では、がんと診断された患者さんの16.5%がうつ病、15.4%が適応障害、9.8%が不安障害になるとの報告があります(注2)。
図1
このようにがんと言われれば、程度の差はあれ、誰もがショックを受け、心理的に不安定な状況になります。そんな時に、これまで多くのがん患者さんを診てきた私の経験から、医師の話を聞き逃さないために気をつけるべきポイントをいくつかお伝えします。
①1人で聞かない。メモをとったり、録音させてもらったりすること
できれば、医師の話を1人ではなく、家族や信頼できる友人などと一緒に聞いてほしいです。家族や友人が一緒だと、不安が和らぎます。また難しい医師の話を客観的に聞いて代わりに質問してくれたりするからです。また、後で医師の話がどういう内容だったか、一緒に確認できます。医師の話をメモしたり、ボイスレコーダーなどで録音させてもらったりすることもよいでしょう。録音させてもらう際には「聞き逃したくない。あとで確認したいから」と理由を説明して、医師に録音の許可を得てほしいと思います。
②もらえる資料は全部もらうこと
できれば、さまざまな検査結果、血液検査(腫瘍マーカーなどを含む)の結果や画像診断のリポート(画像診断医が診断した記録)、病理診断のリポート(病理医が診断した記録)など、ご自身の診断に関する記録はできる限りもらっておくとよいです。どのような記録があるかは病院や医師によって異なるかもしれませんが、これらは後から、自分の病状や状況を振り返るのに役立ちます。
③がんの種類や進行度を聞くこと
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がんの診断に関しては、できるだけ正確に聞きましょう。どんなタイプのがんで、進行度はどれくらいで、治療法の選択肢は何があるのか。できるだけ詳細に聞いてほしいです。できれば、説明を紙などに書いてもらいましょう。
「どんながん」とは、がんの種類は何で、どこにできているか、ということです。がんは発生部位によって、肺がん、食道がん、大腸がんなどに分類されます。血液から発生するがんには、白血病や悪性リンパ腫などがありますし、筋肉や骨から発生する肉腫などもあります。
また「どこにがんができているか」とは、大もとのがんができた場所です。肺にがんが見つかったとしても肺にできた(肺原発)がんの場合もあれば、もとは大腸にできたがん(大腸原発)から肺に転移した場合もあります。大腸がんの肺転移と言って、肺がんになったわけではないのです。
また進行度も重要です。がんの進行度(ステージ)は1から4まであります。がんのステージは、がんの大きさや浸潤の程度(T分類)、リンパ節転移の程度(N分類)、遠隔臓器への転移の有無(M分類)の三つの要素(TNM分類)によって決まります。大まかに言うと、がんが発生した臓器にとどまっている場合はステージ1、リンパ節転移があるとステージ2や3、ステージ4とは遠隔臓器に転移がある場合です。ここで誤解してほしくないのは、「ステージ4=末期がん」ではないということです。末期がんとは、通常は積極的な治療が難しく、がんが非常に進行した状況ですが、現代医学の進歩により、ステージ4でも治療をうまくすれば長く共存できるのです。
複雑化する治療の選択肢
治療に関しては、標準治療(注3)を受けることが大切(がんの「標準治療」って、何?)とお話ししました。標準治療には、手術や放射線治療、薬物療法などがあります(注4)。最近では、緩和ケアも標準治療の一つとして認識されています(注5)。
さらにこれらの治療の中にも図2に示すようにいろいろあります。放射線治療ならリニアック(直線加速器)、小線源治療、強度変調放射線治療(IMRT)、体幹部定位放射線治療(SBRT)、重粒子線や陽子線の照射。手術なら内視鏡手術、リンパ節郭清、センチネル生検、腹腔(ふくくう)鏡手術、胸腔鏡手術、ロボット支援手術など。薬物療法(抗がん剤)でも、化学療法、ホルモン療法、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤などがあり、薬物療法の種類は150種類を超えています。投与方法も静脈内、腹腔内投与、動脈投与などあります。
図2
このようにがんの標準治療は種類が豊富ですが、さらにこれらのいくつかを組み合わせたり、同時並行で行ったりもします。手術の前後に抗がん剤を組み合わせることもあります。同じがんでも進行度や患者さんの年齢、全身状態、臓器の機能、合併症の有無などを総合して治療法が決められます。
また、標準治療は必ずしも一つとは限らず、複数の選択肢がある場合が多いです。ステージ2の子宮頸(けい)がんであれば、手術以外に放射線治療と化学療法を併用する治療法も選択肢の一つです。どちらの治療成績もほぼ同等(注6)であり、現時点では治療法の優劣はついていません。
治療選択に迷ったら誰に相談する?
がんの標準治療が複雑化しているため、その選択に迷うこともあります。その際、誰に相談すればよいのでしょうか。まずは、最も大切なのは、ご自身の主治医にしっかりと意見を聞くこと(ファーストオピニオン)です。がんと言われると、あわててしまい、主治医の話もろくに聞かずに他の病院を探したり、別の医師にセカンドオピニオンを受けたりします。
しかしご自身のがんの情報を最も詳細に知っているのは主治医です。まずは主治医の意見を聞きましょう。その際は、前述のようにメモをとったり、録音させてもらったりすることが大事です。
主治医の意見をしっかり聞いて、それでも納得できない際は、主治医以外の専門家にセカンドオピニオンを受けることも良いでしょう。実際、セカンドオピニオンで主治医と意見が異なるケースは2~51%あるという報告があります(注7)。
セカンドオピニオンを受ける際は、主治医がこれまでの診断、経過、治療計画を記載した診療情報提供書(紹介状)が必要になります。セカンドオピニオンを希望すると、「主治医の機嫌を損ねるのでは」と躊躇(ちゅうちょ)してしまうかもしれませんが、セカンドオピニオンは、納得して治療を受けるための患者さんの大切な権利です。躊躇せず受けることをお勧めします。
その他に相談できるのは、全国に約400カ所あるがん診療連携拠点病院(注8)に設置されたがん相談支援センターです(注9)。かかっている病院ががん診療連携拠点病院でなくても、がん相談支援センターは利用できます。がん相談支援センターには、看護師やソーシャルワーカーが相談員として配置され、本人や家族、誰でも無料で相談できます。
がん相談支援センターには、各種の「がん」などの病気について解説した冊子が置かれている=岡山市北区で2019年12月、益川量平撮影
また「ピアサポート」という、がん体験者ががん患者さんを支援する取り組みがあります。体験者の話は、がん患者さんにとっての大きな励みや安心になります。ピアサポートの活動は、病院内や地域活動として行われています(注10)。またがんの患者会(注11)や支援団体もあります。こうしたところに相談するのもよいでしょう。
「協同的意思決定(SDM)」とは?
がんの治療法を考える際、患者さんが最も悩むのが主治医とのコミュニケーションの取り方と聞きます。
「主治医が忙しすぎて、質問できる雰囲気にない」
「主治医が親身になって話してくれない」
「治療について、わかりやすく説明してほしい」
患者さんへの説明に関しては、インフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)が定着しています。これは主治医が治療法の選択肢を、メリット、デメリット含めて説明し、患者さんが決めるというスタイルです。しかし単に治療法を羅列されて「自分で決めてくれ」と言われても、患者さんはどうしたらよいか戸惑うのでしょう。
最近、医療界ではインフォームド・コンセントからさらに進んで、Shared decision making (SDM:シェアード・ディシジョン・メーキング:協同的意思決定)に基づくインフォームド・コンセントの重要性が認識されています(注7)。SDMとは、医師と患者が話し合い、協同して行う意思決定プロセスで、医師と患者との適切なコミュニケーションの上に成り立つ、とされています(注12)。すなわち、SDMでは医師の客観的な説明だけでなく、患者さんの価値観や意向を尊重し、患者と一緒に意思決定をすることを重視しています(注12)。したがって患者さんは、ご自身の置かれた立場や日常、仕事、生活・人生で大切にしたいことなどを主治医に伝え、共有することで、自分に最もふさわしい治療方針が決められるのです。
治療の選択に迷うようなら、「先生の家族が私のような病状だったら、どのような治療を勧めますか?」という質問も有効であると思います。
おわりに
「がん」と告げられると、誰でもショックです。戸惑うことも多いでしょう。また、冷静さを失い、聞きたい情報も逃してしまうことも多いと思います。現代医療は進歩して、がんとうまく共存できる時代になってきています。がんと言われても、あわてず、あせらず、あきらめずに、がんとうまく付き合っていってほしいと思います。
参考文献
1.内富庸介編集. サイコオンコロジー : がん医療における心の医学. 1997.
2.Mitchell AJ, Chan M, Bhatti H, Halton M, Grassi L, Johansen C, et al. Prevalence of depression, anxiety, and adjustment disorder in oncological, haematological, and palliative-care settings: a meta-analysis of 94 interview-based studies. Lancet Oncol. 2011;12(2):160-74
3.標準治療. がん情報サービス用語集.
4.主ながんの治療法. がん情報サービス.
5.緩和ケア. がん情報サービス.
6.Kenter. G, Greggi. S, Vergote I ea. Results from neoadjuvant chemotherapy followed by surgery compared to chemoradiation for stage Ib2-IIb cervical cancer, EORTC 55994. J Clin Oncol 2019;37S:ASCO #5503
7.Barry MJ, Edgman-Levitan S. Shared decision making--pinnacle of patient-centered care. N Engl J Med. 2012;366(9):780-1
8.お住いの地域から病院を探す 病院一覧(全国)
がん情報サービス.
9.がん相談支援センターって、どんなところ?. がん情報サービス.
10.がん患者団体支援機構. がんのピアサポートとは.
12.Approach AfHRaQTS. A Model for Shared Decisionmaking - Fact Sheet
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勝俣範之
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授
1963年生まれ。88年富山医科薬科大学医学部卒業。92年から国立がんセンター中央病院内科レジデント。2004年1月米ハーバード大生物統計学教室に短期留学。ダナファーバーがん研究所、ECOGデータセンターで研修後、国立がんセンター医長を経て、11年10月から現職。専門は内科腫瘍学、抗がん剤の支持療法、乳がん・婦人科がんの化学療法など。22年、医師主導ウェブメディア「Lumedia(ルメディア)」を設立、スーパーバイザーを務める。