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かゆみのある赤い発疹が突然あらわれるじんましん。アレルギーが関係すると思われる方も多いと思いますが、多くは原因が特定されないタイプだといいます。また、子どもよりも大人に多くみられることもイメージと異なるのではないでしょうか。じんましんの対処の仕方、すぐに受診すべきじんましんなど、横浜市立大学附属病院 皮膚科アレルギー外来 准教授、猪又 直子先生にお話を伺いました 。
7割は原因がわからない「特発性」
__じんましんというと、子どもの病気のように思えますが、大人でもかかるのですか?
●じんましんの患者数の正確なデータはないのですが、むしろ大人のほうが多いです。小児が卵を食べた後に、じんましんがあらわれるということが多いので、子どもに多いイメージがあるようですが、実際は30~40代によくみられます。
__アレルギーが関与しているのですか?
●アレルギーが原因となるじんましんは、全体の約5%に過ぎません。
じんましんは、原因が特定できない「特発性じんましん」と原因物質などが判明している「刺激誘発型じんましん」に分けられます。アレルギーが関与するものは、刺激誘発型じんましんに分類されます。約7割は特発性じんましんとされており、問診で患者さんに何かいつもと違うことがあったかを聞いてみても、思い当たらないという答えが返ってくることが多いです。
__どのような症状が出るのでしょうか?
●赤い、蚊に刺されたときのような発疹があらわれます。表面は滑らかなことが多く、かゆみを伴います。特徴的なのは一過性であることで、24時間以内に消退します。痕を残すこともありません。くちびるやまぶたが腫れる「血管性浮腫」が起こる場合もあります。血管性浮腫も数日で消えていきます。
ほかに、症状が6週間以上続いたり、何度も繰り返す「慢性じんましん」があります。慢性じんましんは女性に多い傾向で、女性ホルモンの関与が考えられています。甲状腺の機能異常があると、起こりやすいことがわかっています。
__なぜ、発疹やかゆみが出るのでしょうか?
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●皮膚の毛細血管の近くにあるマスト細胞という細胞が何らかの刺激を受けて、かゆみの原因となるヒスタミンなどの物質を放出します。また、毛細血管がヒスタミンの刺激を受けて異常にふくらむことで、血液成分の血漿がもれ出し皮膚を赤く腫らします。これがかゆみと発疹の起こる仕組みです。
__刺激誘発型じんましんは、どのようなものが原因になりますか?
●食べ物(小麦類やエビなど)や薬剤(アスピリン、非ステロイド系消炎鎮痛薬など)が多いです。病気では、上気道感染症や尿路感染症などの感染症が引き金になることがあります。また、皮膚への繰り返される刺激や、寒冷にさらされること、日光、温熱なども原因となり得ます。
刺激誘発型じんましんには、「コリン性じんましん」という、30代前くらいの人に起こりやすいじんましんもあります。
__コリン性じんましんは、どのようなものですか?
●汗をかいたり、体の温度が上がったときに出やすく、入浴、運動、緊張、怒ったとき、辛い物を食べたときなどに起こりやすいです。発疹は粟粒くらいの小さな(1~2ミリ)点々がぱらぱらとあらわれます。これも数時間で消退します。同じ刺激があれば毎回発疹が出てしまうため、部活ができない、緊張する場が耐えられないなど、生活に支障をきたすことが多く、患者さんの悩みは深刻です。
治療の第一選択は抗ヒスタミン薬
__じんましんの診断は、どのようにつけられますか?
●皮膚の症状と問診で、おおよその診断はつけられます。アレルギー性のじんましんが疑われる場合は、皮膚テスト(プリックテスト、スクラッチテストなど)などを行って、原因物質を特定する検査も行われます。
前述したように、1日程度で消退してしまうので、受診時には発疹が消えていることもあります。発疹に気づいたら、スマートフォンなどで写真をとっておくと役立ちます。重症度や色、腫れ具合、形などを画像で確認できれば、一目でわかり診断がつきやすいです。
__どのような治療が行われますか?
●薬物治療が中心となります。刺激誘発型じんましんの場合は、まず原因となる物質などを遠ざけたうえで、薬物治療を行います。
第一選択となるのは、花粉症の治療薬としても用いられている抗ヒスタミン薬です。かゆみの原因となるヒスタミンの作用を抑える働きをします。抗ヒスタミン薬は多くの種類があるので、ライフスタイルなどに合わせて選択します。抗ヒスタミン薬で効果があまり見られない場合は、H2ブロッカーや抗ロイコトリエン薬を併用することもあります。
__H2ブロッカーは胃の薬でしょうか?
●胃炎や胃潰瘍の治療に用いられています。じんましんに対しては、H2(ヒスタミン2番)受容体にヒスタミンが結合するのを防ぐことで、かゆみを抑える効果が期待できます。抗ロイコトリエン薬は、鼻炎や喘息の治療にも使われている薬です。
それでも効果が得られない場合は、ステロイドの内服や、オマリズマブという生物学的製剤の皮下注射、免疫を調整する作用のあるシクロスポリンの内服を併用します。多くは抗ヒスタミン薬の内服で症状の改善がみられます。
__薬は発疹が消えたら中断していいでしょうか?
●急性じんましんの場合は、発疹が消えたら服薬をやめてもいいでしょう。しかし何度も症状をくり返すケースでは、薬を飲んだりやめたりすると、効果が出にくいとされます。慢性化している場合は、継続して服薬することがすすめられます。
__コリン性じんましんの治療も同様でしょうか?
●コリン性じんましんの場合は、抗ヒスタミン薬による薬物療法を続けながら、できるだけ普通の生活を送るようにします。汗をかくと症状が出るので、汗をかかないようにしてしまいがちますが、それでは改善されません。汗をかくこと、体温を上げることに徐々に慣れていくための治療も行います。
__特発性じんましんは早く消えてしまうとのことですが、受診の必要はあるのでしょうか?
●重症のアレルギーであるアナフィラキシーショックの一症状として、じんましんがあらわれる場合もあります。アナフィラキシーショックの約8割に皮膚症状があり、しかも最初の症状として出てきます。皮膚症状に加えて、息苦しさ、腹痛、意識障害などのほかの症状を伴うようなら、すぐに受診してください。
前述した食物が誘発する刺激誘発型じんましんの中で、「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」と呼ばれるものがあります。これは特定の食物を摂取後、2~3時間以内に運動負荷が加わることで発症するもので10代に好発します。食物依存性運動誘発アナフィラキシーが疑われる場合もすぐに受診してください。
「特発性」は体力の低下を防いで予防
__刺激誘発型じんましんは、原因になるものを避けることで予防できるとわかりました。特発性じんましんの予防法についてはいかがでしょうか?
●特発性じんましんは体力の低下が引き金になることが多いので、バランスの良い食事、睡眠、休養、規則正しい生活、ストレスの解消などで、少しでも体調のよい状態を保つことが大切です。同じような状況でも、じんましんが出るときと出ないときがあるので、コントロールするのが難しい面もありますが、ストレスの管理も大切です。
__慢性じんましんでは、治療の目標をどのように考えればいいでしょうか?
●慢性じんましんでは、症状が出たり消えたりを繰り返し、また、今日は腕、今日は顔、というように出る場所も変わるため、患者さんが抑うつ感を感じてしまうことが少なくありません。重症化させないようにコントロールしていくことが、治療の目標になります。
最近は患者さんに、かゆみや発疹の状態を客観的に評価するスコアをつけることをおすすめしています。UAS(Urticaria activity score)と呼ばれるじんましん活動性スコアは、発疹の様子とかゆみを0~3点の4段階に評価します。3点が最も重度で、発疹が50個以上なら3などと個数で評価します。これを7日間、毎日つけてもらって、受診時に合計点をみて、重症度をはかります。
そのほかUCT(Urticaria Control Test)という、1カ月を振り返って4つの項目でじんましんをコントロールできたか評価するテストもあります。これらのスコアやテストは治療効果の判定にも有用ですし、自身の症状を客観的に評価することで病気だけにとらわれない姿勢を得られるきっかけにもなります。
__急にじんましんがあらわれたときは、市販のかゆみ止めを使ってもよいものですか?
●市販のかゆみ止めを使って頂いてかまいません。かゆみを軽くするために、冷やすのもよいでしょう。しかし、効果が感じられない場合は、必ず受診してくだざい。
じんましんの多くは突然あらわれて、すぐに消退しますが、何度も繰り返すなど慢性化することがあります。症状を十分にコントロールできない場合は、じんましんの専門医を紹介してもらい、治療を受けることをおすすめします。
イラスト/今井有美
「みんなの健康ライブラリー」2020年掲載
(C)保健同人社
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