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ロンドンのエルサム地区に住むPhilip Dayさん(35歳)は、ピックアップ・ゲーム(寄せ集めのチームで対戦する試合)の参加者をつなげるウェブサイト「FootballMatcher.com」を運営するほどサッカー好きだったが、関節の痛みが原因でサッカーを楽しめなくなってしまった。Dayさんはニュースリリースの中で、「私はひどい痛みのためにサッカーに行かなくなり、次第に怠惰に過ごすようになった。心身ともに、どんどん悪化していくのを感じていた」と話す。また、「痛みの出方は予測不可能で、ある日は膝、翌日には肘、また別の日には手首や首が痛くなったりしていた」と当時を振り返る。
しかしDayさんはその後、生物学的製剤のアバタセプト(商品名オレンシア)のおかげで本格的な関節リウマチの発症を防ぐことができ、再びサッカーを楽しめるようになった。彼は、関節リウマチの治療薬として使用されている同薬剤が、関節リウマチへの進行も防ぐ可能性を検討する臨床試験に参加していた。「The Lancet」に2月13日掲載されたこの試験結果によると、アバタセプトは関節リウマチの発症予防にも有効であることが示されたという。
関節リウマチは、身体の免疫系が関節の組織を攻撃し、炎症、痛み、腫れを引き起こす自己免疫疾患である。リウマトイド因子陽性、抗環状シトルリン化ペプチド抗体(anti-cyclic citrullinated peptide antibody;ACPA)陽性、および関節痛などの症状が現れている場合には、関節リウマチの発症リスクが高いと見なされる。アバタセプトは免疫系を減弱させることで関節リウマチ患者の症状を軽減し、関節の損傷を防ぐ。
今回の臨床試験には、ACPAとリウマトイド因子が陽性で炎症性関節炎を呈する18歳以上の患者213人が登録された。対象者のうち、110人はアバタセプトを投与される群に、残る103人はプラセボを投与される群にランダムに割り付けられ、いずれの群も、1週間ごとに1年にわたって自宅での注射または病院での点滴静注によるアバタセプトまたはプラセボの投与を受けた。治療終了後には1年間の経過観察が行われ、関節リウマチを発症した人の数が確認された。
問題は高額な費用
その結果、治療期間中に関節リウマチを発症したのは、アバタセプト群で7人(6%)、プラセボ群で30人(29%)であり、治療開始から2年後の時点で関節リウマチを発症していたのは、アバタセプト群で27人(25%)、プラセボ群で38人(37%)であることが明らかになった。そのほか、アバタセプトが疼痛、機能、QOLのスコアを改善し、超音波で検出可能な関節の炎症を抑制することも示された。
論文の筆頭著者である英キングス・カレッジ・ロンドン、リウマチ性疾患センター長のAndrew Cope氏は、「この試験は、関節リウマチの予防効果について検討した試験としてはこれまでで最大規模のものであり、関節リウマチの治療薬として承認済みの治療薬が発症リスクを有する人の発症予防にも有効であることを初めて示したものだ」と説明する。また、「この初期段階の臨床試験の結果は、関節炎リスクを有する人にとって朗報といえるかもしれない。それは、この薬が発症を予防するだけでなく、痛みや疲労などの症状を軽減することも示されたからだ」と話している。
ただ、研究グループによると、アバタセプトは安価な薬ではない。英国での1年間の同薬による治療費は約1万ポンド(1ポンド190円換算で190万円)に上る。また、副作用として、上気道感染、めまい、吐き気、下痢などが生じ得るが、これらの症状は通常軽度だという。
Cope氏は、「われわれの次のステップは、関節リウマチの発症リスクが最も高い人に確実に薬を投与できるように、リスクを有する人について、より詳細に理解することだ」と述べている。なお、この臨床試験はアバタセプトを製造するBristol Myers Squibb社の資金提供を受けて実施された。
(HealthDay News 2024年2月15日)
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