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未就学児に思い出話をすることは、言語能力の向上に役立つ可能性があるようだ。過去の出来事についての思い出話をする際には質の高い話し言葉で語りかけることになるため、親子でおもちゃを使って遊んだり本を楽しんだりすることと同程度か、それ以上の効果を子どもにもたらす可能性のあることが、新たな研究で示された。米フロリダ・アトランティック大学心理学教授のErika Hoff氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Applied Developmental Psychology」3/4月号に掲載された。
Hoff氏は、「過去の出来事についての会話は、他の多くの状況での会話と比べて長くて複雑な文で構成されるという点が特徴として挙げられる」と説明。また、「思い出話をすることは、本を読むことと比べて、あらゆる文化で社会経済的地位の高低にかかわらず、多くの人々が自然に行っている行為であると指摘されている」と同大学のニュースリリースの中で付け加えている。
この研究でHoff氏らは、デンマーク人の親(155人、平均年齢36.1歳、女性73.5%)が3~5歳の子ども(155人、平均年齢4.11歳、女児49.0%)と、1)思い出話をする、2)文字のない絵本を一緒に見る、3)レゴブロックで何かを作る、のいずれかの方法で相互交流する様子を観察した。また、これらの活動中の会話の記録を分析し、それぞれの活動における親の言葉にどのような違いがあるか、また、それに対して子どもがどの程度言葉で反応しているかを調べた。
親の教育レベルによって発する言葉に違い
155件の親子の会話を分析した結果、過去の出来事について思い出話をすることは、絵本を一緒に見るときと同程度に親から質の高い言葉を引き出すことが明らかになった。また、思い出話をしているときは、おもちゃで一緒に遊んでいるときよりも親の発話で使われる文法が複雑で、子どもからの発話量も多いことが示された。さらに、父親と母親の間で、子どもに向けた発話の質に違いはないことも示された。
こうした結果について研究グループは、「この研究は、親子で一緒に行う活動が子どもの言語スキルに大きな影響を与えることを示したものだ」と説明する。またHoff氏は、「私は親に、大切なのは子どもと一緒に過ごすことだけではない。子どもと一緒に何をするのかも重要なのだと伝えたい」と話す。
さらにHoff氏は、「ただ会話をするだけのために時間を作るのは良いことだ」と付け加え、「本を読むのが好きなら一緒に本を読めばいいし、それよりも将来の計画や過去の出来事について話したいならそうすればいい。とにかく子どもと会話をする時間を作ってほしい」と話している。
ただしこの研究では、思い出話は親に豊かで複雑な言葉を使うことを促すものの、親の教育レベルによって発する言葉に違いがあることも明らかになった。具体的には、学歴の高い親ほど、物や出来事を言葉で明確に示す頻度が高く、文法的に複雑な話し方をする傾向があり、子どもの返事を繰り返したり、そこから話を広げたりする頻度が高いことが示されたという。
Hoff氏は、「親子で思い出話をすることは良いことだが、それによって社会格差や教育格差がただちに解消されるわけではない」と言う。その上で、今後の研究では、「恵まれた家庭の子どもと、そうでない家庭の子どもの言語経験の差を縮める方法に焦点を当てる必要がある」と主張する。また、「当然ではあるが、子どもの言語経験を豊かにする活動を明らかにするのは良いことであり、そのような活動は、全ての子どもに恩恵をもたらすだろう。しかし、その活動により子どもの間での経験の差が完全に解消されることは期待できない」と話している。
(HealthDay News 2024年2月21日)