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毎日新聞 2022/10/25 06:00(最終更新 10/25 06:00) 有料記事 1401文字
反創価学会・公明党の自民党議員らでつくる「四月会」の集会。右端に安倍晋三元首相の姿があった=1994年11月1日、東京・憲政記念館講堂で
今日(25日)は、衆院本会議で安倍晋三さんの追悼演説が立憲民主党の野田佳彦元首相によって行われます。悼むのはよいとして、ムードに流され、安倍さんへの銃撃事件で浮き彫りになった宗教と政治を巡るあれこれまでも流してはいけません。そもそも安倍さんは宗教をどう見ていたのか。過去の発言や新興宗教団体の資料から考えてみました。【東京学芸部・吉井理記】
古い毎日新聞を眺めていて、こんな記事を見つけた。
1994年11月6日付朝刊だ。この5日前に自民党を中心にした反創価学会・公明党の立場をとる議員らでつくる「四月会」が東京・永田町の憲政記念館で開いた集会の模様を伝えている。
ひな壇に並んだ国会議員団の隅に、1年生議員だった若き安倍さんの姿がある。記事によると、この集会で安倍さんはこんな発言をした。「選挙区で創価学会から支援を受けてきたが、最近、学会幹部から慎重に行動するように言われ、恐ろしい団体だと思った」
いうまでもなく創価学会は公明党の支持母体だ。こうした発言を行った人物が後に、その公明党とともに通算で9年8カ月あまり政権を率いることになるとは、だれが予想しただろう。
「崇教真光」2009年12月号より。安倍さんは「初級研修」を受講し、「神組み手の末席に名を連ねさせていただきました」などと述べている
その安倍さん、2009年11月に、新興宗教・崇教真光(岐阜県高山市)の「立教50周年」を祝う式典に祝辞を寄せていた。
同団体の機関誌の09年12月号を読む。安倍さんは「主の大御神様、救い主様、聖珠様、教え主様……」と呼びかけ、自身も10年ほど前、石原伸晃衆院議員(当時)らに誘われ、「初級研修」を受けて信徒になったことを明かしていた。安倍さんは第1次政権時代の06年に教育基本法を改正したことに触れ、「子供たちに人知を超えるものに対する畏敬(いけい)の念を教えていくことができるようになった」と誇ってもいた。
教育基本法改正と宗教を絡めるような語り口に首をかしげてしまうが、崇教真光は新日本宗教団体連合会(新宗連)の一員であることを考えると、安倍さんの言葉と歩みには大きな疑問符が付く。
というのは、新宗連は「戦後、勢力を拡大する創価学会に脅威を感じた新興宗教が『反創価学会』で団結して作った組織」(専門誌「宗教問題」編集長、小川寛大氏)だ。創価学会が支える公明党と手を組んで政権を運営した安倍さんが、その創価学会の「ライバル」団体の信徒になったことを意味する。
思えば安倍さん、浄土宗の檀信徒の国会議員でつくる「浄光会」の代表世話人を務め、かと思えば臨済宗の寺院「全生庵」(東京・谷中)で折に触れて座禅を組み、のみならず靖国神社参拝に執念を燃やした。それにとどまらず、昨年9月には世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関連イベントで韓鶴子総裁を名指しでたたえるビデオメッセージを寄せたことはご存じの通りだ。そして、崇教真光である。
政治家なんてそんなもの、票になるならどんな宗教団体にもつながろうとする、という見方もあるかもしれない。でも、政治と宗教の関係性は選挙の利益・不利益などで測っていいことなのか。もっと慎重であるべき間柄ではないのだろうか。
以前取材した京都・嵯峨野の正覚寺住職、鵜飼秀徳さんはこう言って、安倍さんの銃撃事件を嘆いた。「事件の遠因に、社会や政治の、宗教に対する無関心、無節操さもあるように思えてなりません」。読者のみなさんはどうお考えだろう。
<※10月26日のコラムは外信部の八田浩輔記者が執筆します>