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急性弛緩(しかん)性麻痺(まひ)は、ウイルスなどの病原体の感染により、急に筋力が衰え、筋萎縮などが起こり、手足がだらんと脱力する弛緩性のまひを起こす病気の総称です。まひは後遺症として残る場合もあるので深刻です。現在では、15歳未満の症例はすべて届け出ることが義務づけられています。
ポリオに似たまひを起こす原因不明の病気
かつては、子どもの手足にまひが残る病気として「ポリオ(急性灰白髄炎)」が恐れられていました。ポリオも急性弛緩性麻痺の一つですが、ポリオワクチンの普及により、日本ではすでに根絶され、世界でもほとんど見られない病気になっています。ところが近年、ポリオに似たまひを起こす、原因不明の病気が流行しているのです。
急性弛緩性麻痺が注目される発端となったのは、2014年、アメリカでの大流行です。このとき、ぜんそくのような激しい咳を伴うかぜが流行した一方で、まひを発症した子どもの患者が多数報告されました。このまひは脊髄炎によるものだったため、急性弛緩性麻痺の一つとして「急性弛緩性脊髄炎(AFM)」と名づけられました。
米国に続き2015年に流行
続いて日本でも2015年秋に、普通のかぜやぜんそくのような症状の後で手足にまひが起こったという報告が急増し、AFMの流行となりました。
急性弛緩性麻痺の原因としては、エンテロウイルスD68型の感染が疑われています。AFMが多発したのと同時期に、D68型の感染も大流行しているためです。
エンテロウイルスは呼吸器の感染症を起こすウイルス。種類が多く、ポリオウイルスもその一種です。手足口病のほか、大人がかかるかぜの原因の3~5割を占めるという、ごくありふれたウイルスでもあります。
しかし、原因として疑われていても、確定にまでは至っていません。D68型は他の型のエンテロウイルスとは異なり、腸ではなく呼吸器に感染し増殖期間が短いので、まひがあらわれた後に検査をしても検出されにくいためです。
また、脊髄に異常が見られた例でも、エンテロウイルスD68型ばかりでなくエコーウイルスなどの他のウイルスも検出されているため、特定ができません。そこで、急性弛緩性麻痺全体の実態を把握し、治療や予防に生かすため、届け出が義務づけられたのです。
かぜ症状の後にまひがあればすぐ受診を
急性弛緩性麻痺では、微熱があり、軽い咳をしているのでかぜかなと思っていたら翌日には手足がまひしていた、といったことがあり得ます。エンテロウイルスD68型に感染したら必ず急性弛緩性麻痺を発症するとは限りませんが、油断大敵と思いましょう。
エンテロウイルスD68型は、他のかぜの原因ウイルスと同じように、唾液や鼻水からの飛沫感染や接触感染でうつります。ワクチンはまだないため、感染予防にはマスクの着用やこまめな手洗い・うがいをするという基本を守ることが大事です。また、子どもの様子に気をつけて、かぜ症状の後にまひが見られたらすぐに受診をしてください。
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監修:松平隆光(医療法人社団秀志会 松平小児科院長)
「ケータイ家庭の医学」2019年掲載
(C)保健同人社
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